そして、今年もまた――
「みおー、何書いてんの?」
「ちょっと、手紙をさ」
「へー、どんな?」
「私と律のこと」
「えっ、私のこともか?」
「そうだよ」
「何を書いたんだ、見せなさい」
「だーめ」
「ぐぬぬ……私には肖像権がある」
「ないから」
「ちぇーっ、昨日いっぱいお祝いしてやったろっ」
「そのことは感謝してるけど、それとこれとは話が別」
――16日がやってくる。
「ねぇ、変な手紙書いてないでさー」
「変なとは何だ。てか、特に用もないだろ」
「あるし!」
「へぇ、どんな?」
「それはだな……」
「んー?」
「は、早くそれ書き終えろよ!」
「あともう少しだから」
「うー……」
律は何を焦っているのだろう。
「はい、終わりっと」
「ほんとかっ?」
「お待たせ。それで、何の用事?」
「じ、実は澪にプレゼントがありまして……」
「それとは別に!」
「だったら昨日くれればよかっただろ。大体私が恐いの苦手なこと知って……」
「み、みんなの前で渡せるわけないだろっ!」
「なんで?」
「そういうプレゼントなの!」
「へぇ……?」
律は不機嫌そうに口を突き出した。
「それより、そろそろ出かけないとレストランの予約が……」
「その前に!」
「プレゼントとやらは、レストランじゃダメなのか?」
「今じゃないとダメなの!」
ここは寮の私の部屋、律と二人きりだ。
今年もまた、もう一つの誕生日を律と過ごす。
「……これ」
手渡された物は、手のひらにすっぽり収まってしまうほど小さかった。
「あ、ありがと……中、開けていい?」
律は無言で頷いた。
包装を開けると、また小さな箱があった。
この箱は、どこかで見たことがある。
あれは確か、律のいたずらで化粧のまねごとをするために、ママの鏡台の前に座って……
「開けてみて」
いじってみようと手を触れたら、ママに見つかって、律ともども大目玉をもらったんだっけ。
きっとママにとっては、それぐらい大事な物だったんだろうな。
「へへ、安物で申し訳ないけど」
そういえば、律にも以前もらったことがある。
あの時はおもちゃだったけど、これは立派なシルバーの……
「その、女同士なんておかしいかもしれないけど」
いつか誰かにもらえるかなと、夢に見た贈り物。
律からもらえるなんて思わなかったけど。
でもずっと、律から欲しいなって思ってた。
「好きだよ、澪」
手紙に書けばよかったな。
私の想いが通じたって。
「あれ……? もしかして外した?」
うるさい。
「えっと、みおしゃん?」
うるさいってば。ずっと片想いだった相手の気持ちが初めて分かったんだ。
今返事をしたら、感情が抑えられなく……
「な、泣くなよ~っ、気に入らなかったのか?」
そんな訳ないだろ、バカ律。
お前は昔から本当にバカなんだから。
ずっとずっと、十年以上昔から。
デリカシーがなくて、鈍感で、いつも私をからかって振り回してばっかりで。
無邪気でうっとうしいぐらい元気なくせに、繊細で、人一倍寂しやがりで。
いつも私を守ってくれて、辛いときや悲しいときは一緒にいてくれて。
そんな律が……ずっと好きだった!
「ひゃっ……み、みお?」
私は律に抱きついて、十年間たまりにたまった感情を思う存分流し出す。
「好き! 私も大好き!」
「みお、苦しい……ちと離れろ」
「やだ! やっと律と両想いになれたのに!」
「はいはい、別に離れたら私が消える訳じゃないんだから」
「何年待ったと思ってるんだよぉ……」
「よしよし」
「ぐすっ……ひっぐ……」
「……ごめんな、待たせちゃって」
律の腕の中であやされて、私は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「ええっと、それじゃ澪」
「……」
「私たち、付き合うってことで……」
「それって、恋人同士になるってこと?」
「そうだよ」
「誰と誰が?」
「はぁ? 私と澪に決まってんじゃん」
「澪って誰よぉ」
「お前だよっ」
付き合う……恋人同士……? 私と律が?
なななななんと!? わわ、あわわわわっ!
そそ、そ、そんなことがあっていいのですか!?
いやこれは夢かもしれない。
頬をつねってみる。うん、夢じゃない。
いやったあああ~~!!
あーあーかーみさーまおねーがいー
「澪さん?」
「ふたりーだーけーのー」
「気がどーてんしてる」
私と律は、両想いだ。
両想いなら付き合って、恋人同士になる。
なるほど、自然の摂理だ。
「おーい、みおー」
「律!」
「は、はい」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
「……うん、よろしく」
私は深々と頭を下げた。
「おい、それじゃ土下座だぞ」
「はっ」
二人の穏やかな時間は流れる。
「りつー」
「なんだ?」
「キスしていい?」
「いいよ」
「んっ……」
甘くて酸っぱいイチゴの味。
今なら、いい歌詞が書けそうだ。
「ファーストキス、あげちゃった」
「初めてだったんだ」
「律は違うの……?」
「そ、そんな訳ないじゃん! 私に甲斐性ないの知ってるだろ」
「うん、とてもよく」
「さいですか」
私に想いを伝えてくれたのだって、今が初めてだもんな。
ずっとずっと好きだったのに、全然気がつかないでいて。
「律、もう一回」
「んっ……」
「もう一回」
「ちょ、何回する気だ」
「今まで我慢してきた分」
「マジですか?」
「マジです……嫌?」
「別にいいけど、時間は大丈夫?」
律が時計を指さす。
午後六時前、ええっと予約の時間は……
「……わわ、予約の時間が!!」
「そ、そんなにやばいの?」
「速く仕度して! できれば五分で!」
「そんな無茶な」
「速く!」
「わ、分かったよ!」
律があわただしく部屋を出て行く。
仕方ないけど、残りはおあずけだ。
今夜は律とディナーだ。
恋人になった最初の日を、思う存分楽しもう。
外出着に着替えると、私はマフラーを首に巻いた。
扉の前で律が待っている。
「行こっか、律」
「ほいほい」
律と手をつないで、寮の廊下を歩いていく。
唯やムギ達にからかわれるだろうか。
それでもいい。これからずっと、律と同じ道を歩んでいくのだから。
今日は1月16日、十年越しの想いが実った日。
私にとって、誕生日と同じぐらい特別な日。
End
とにかく幸せな澪ちゃんを書きたかった作品です
センター試験は?とか荒削りな所がありますが、見逃してください
一日どころか二日も遅れてしまったけど、澪ちゃん改めて誕生日おめでとう!
そして、ここまでお読みいただきありがとうございました。
最終更新:2012年01月17日 21:05