――2011年

うい「ひっ・・・ぐすっ・・・・」

憂「うぅ……のどかちゃん……ぐすっ」

唯「あずにゃん、だいじょうぶかな……うぅ」


和「どうするのよこの状況……」

唯「はい、げんきの出るゆず湯!」

うい「ひっく……ごくごく」

和「唯、やっぱり昔のこと、思い出せない?」

唯「うん……なんかね、思いだそうとしても曇ってるみたいに浮かばないの……ごめんね」

憂「お姉ちゃんのせいじゃないよ、きっと……六年前のある一日なんて、だれも思い出せないよ」

和「そうよ。それに唯が過去を思い出せないのも、時間移動が関係してるのかもしれないし」

憂「どういうこと?」

和「ほら、細かいことだけど歴史が変わっちゃったでしょう? もしかしたら、それで思い出せないのかも」

唯「そんな……そしたら、あずにゃんはずっと六年前にいたままってこと?! だめだよ、そんなの!」

和「落ち着いて、唯」

唯「あ……」


うい「……ごめんなさい、わたしがころんだから……ごめんなさい……」

唯「ごめんね、うい……こっちにおいで」

うい「ぐすっ……えうぅっ……」

唯「……よしよし、だいじょうぶだいじょうぶ」ぎゅうっ

憂「お姉ちゃん……」

うい「ういが、ういおねえちゃんにぶつからなければ……」

和「憂が憂に……複雑な家庭事情よね」

唯「和ちゃん、家庭事情の話はしてないと思うよ……」


憂「……あははっ」

うい「ぷふっ、ふふふっ……」ぎゅうっ

和「へえ、ゆず湯って気持ちをやわらげるのにも効くのね。私も買おうかしら」

唯「ういー、お姉ちゃんなんかなっとくいかない……」

憂「まぁまぁ」くすっ

和「とにかく、憂が帰ってこれたことは進歩じゃない。前向きに考えましょう」

唯「そうだね……よし、お姉ちゃんがぜったいにういを元の世界につれてくからね!」

うい「はい、ありがとうございます・・・!」

憂「でも、私が帰れたのは和ちゃんのおかげなんだよね……タイムカプセルのこと覚えてたから」

唯「そうそう! 憂が書いた手紙が……あれ?」

和「変ね。さっきまで置いといたのに」

うい「ういお姉ちゃんの手紙、なくなっちゃったんですか?」

唯「そんなはずないんだけどなあ……おてがみさーん、どこですかー?」がさごそ

憂「どこかに落としたんじゃ…………あっ」

和「どうしたの?」

憂「お姉ちゃん。もう一度、タイムカプセル探してみよう?」

唯「え、どういうこと……ああっ、あずにゃんも手紙書いてるかも!」


――2005年

ゆい「……うぅう……ういー……」グスッ

梓「ほらほらよしよし、いい子いい子」なでなで

梓(……唯先輩にもこんなころがあったんだな)

ゆい「うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい……」

梓(……でも、今では部活であんなに輝いてて、やるときはやって……)なでなで

梓(……うん。大丈夫、あの二人なら、きっと助けにきてくれるはず)

ゆい「……あずにゃん、わたし、どうしたらいいのかな……」

梓「……」

ゆい「がっこうでも、ぐずで、そそっかしくて、いつもまちがえちゃって、未来でもわたしっ……ううっ」

梓「……そうですね。未来でも、あなたはあんまり変わってないです」

ゆい「ええっ?! そんなぁ……」

梓「でもね、ゆい……ちゃん。未来のあなたは、ずーっとおっきくなってるんだよ?」

ゆい「え……?」

梓(それから唯先輩の六年後の活動を語って聞かせること数十分)

梓(目の前のゆいちゃんは、目を輝かせて聞いてくれた)

梓(ギター、今から教えちゃおっかな……そしたらもっともっとうまくなるかも)

梓(……って、あんまり下手なこと言ったら歴史が変わっちゃうかも?!)

ゆい「ねえっ、ギターってたのしいの? わたしもやってみたい!」

梓「……だめです。それは、未来までのおあずけです」

ゆい「そっかあ……じゃあ、未来までがんばって行かなくちゃだね」

梓「そうだよ。でも、ゆいちゃんはいけるよ」

ゆい「でも……ういが、いないよ?」

梓「ううん、そういうことじゃなくて。ジャンプしないでも、未来には歩いていけるんだよ」

ゆい「?」

梓「六年間、前を向いて歩いていけば、ゆいちゃんはきっとたどり着くってこと!」

ゆい「……そっかあ!」ぱあっ

梓(って、なんか今の私、澪先輩みたいだった……今さら恥ずかしくなってきた……うぅ)

ゆい「ねえねえ、未来のこと、もっと教えて? ういは? ういは元気なの?」

梓「そうだね……じゃあ、未来の自分と未来のういちゃんに向けて、一緒に手紙でも書こっか?」

梓(……念のため、小5憂が自力で帰ってこれるような予防線も張っときたいもんね)

ゆい「――うん!」


  唯先輩、憂、無事に過去に戻れそうですか?

  今は2005年の同じ日です。小6の唯ちゃんと一緒です。

  もし、戻って来れなかったら、小5の憂ちゃんにこう伝えてください。

  「タイムカプセル埋めた場所で、きょうの日が落ちて、月が見えてる時に、

   お姉ちゃんと二人でいるところを思いうかべて!」

  ……危ないので、気は進まないですけど。

  それでは、二人を信じてます。

     中野梓


梓「……じゃあ、六年後のういちゃんと一緒に、タイムカプセルのこと考えながら待とっか」

ゆい「うん。……できるかなあ?」

梓「大丈夫だよ。遠くたって、思いを一つにすれば、時間だって越えられちゃう……はずだから」

ゆい「ほんと?」

梓「うん。ゆいちゃんのよく知ってる人に、教えてもらったから」にこっ

ゆい「……そっかあ。それなら、だいじょうぶだね」にこっ


  ばしゅん!


ゆい「……わあ……わあっ!」

梓「ほら、ね?」


――2011年

憂「そろそろ寝る?」

唯「うん……きょうは疲れたもん、あはは」

憂「そうだねー、でも、なつかしかったかな」

唯「二人とも帰ってこれてよかったよ……」

憂「うん、ひやひやしちゃった」

唯「でも、ちっちゃいういのおかげであずにゃんも帰ってこれたもんね」

憂「うん。それも、ちっちゃいお姉ちゃんのおかげだもんね」

唯「……思い出せないけど」

憂「……私も。でも、あんまりはっきり思い出せたら、また過去に戻されちゃうかもね」

唯「そうだね。じゃあ、私はいまのわたしでいいってことだね! えへへっ」

憂「おやすみ、お姉ちゃん。きょうはありがとうね」

唯「おやすみー、憂。私も、ありがとう」


憂「……あ、もうひとつ、ありがとう。うれしかったよ」

唯「えっ?」

憂「……なんでもない。もう、会えたから」

唯「なあに、ういー?」

憂「ふふっ、ひみつー! それじゃあ、おやすみお姉ちゃん」

唯「へんなのー。おやすみ、うい!」


  ◆  ◆  ◆

 6年ごの 平沢憂さんへ

  ねえねえ、あずにゃんから聞いたの!

  みらいのわたしって、ぎたーひいて歌も歌って、とにかくすっごいかっこいいんだって!

  すごいよね、体いくかんで、小学校よりもいっぱい人がいるところで、

  楽器をえんそうして、みんなもりあがるんだって!

  わたしもみてみたいけど、まだからだが小さいからだめなんだって。

  いいなあ。わたしも、大きくなったら、ギターって楽器をひいてみたいのに。


  でも、わたしもいつか、6年たったら、かっこよくなれるって、あずにゃんがいってくれたよ。

  だから、わたし、未来までがんばる!

  ういにたよってばかりじゃなくて、ういをひっぱっていけるように、

  ういに、いつもありがとうって、胸をはってつたえられるように、

  とにかくずぎゅーんってかっこいいわたしになるよ!

  だから、6年ごのわたしに、待っててねって、いっておいてね。

  ぜったいに、自分の足で歩いて、会いに行くからね。

    ゆい


おわり。



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最終更新:2012年01月23日 23:09