ーー夕方、音楽室前
律「ちゃんと戸締りしたなー? よっしゃ、じゃあ帰るかー」
唯「今日はいっぱい練習しちゃったよー。 何時間やってたっけ?」
澪「二時間だ。 そんなにいっぱいってほどでもないな」
梓「そーですよ! 本当は毎日これくらいやるんです!」
紬「あら、でも私は皆でお茶を飲んでいる時間も大好きよ?」
唯「私も大好きだよー! ムギちゃんが淹れてくれるお茶は美味しいし、お菓子も美味しいし!」
律「じゃあこれから澪ちゃんはお菓子を食べなくてもいいんだなー?」
澪「うっ……、それとこれとは話が別だろ!」
梓「お茶をするのはいいですけど、練習は毎日キッチリやりますからね! 練習しないでお茶だけの日もあるんですから」
紬「まあまあ梓ちゃん」
ーーガシャン!!
唯律澪紬梓「」ビクッ
澪「……い、今のって」
律「何かの割れる音、だよな……」
紬「……それも陶器っぽい音ね」
梓「……どこから聞こえましたか?」
律澪紬「……音楽室」
唯「?」
紬「りっちゃん、カギって閉めたわよね?」
律「閉めてなくても、音楽室に行くにはこの階段を登んなきゃいけないじゃん? 流石にここを通ったらみんな気づくだろ。 それに、カギは皆が見てる前で閉めたぜ?」
梓「窓はどうですか? 開けっ放しではなくても、カギは」
澪「そこは確かに曖昧だよな」
律「おい、ここ、三階だぞ……」
澪紬梓「……ッ!?」
澪「な、なあ。 私たちは何も聞いてないよな?」
唯「じゃあ調べようよ!」
梓「え」
唯「だってこのまま放って置いたほうが怖いもん。 カギを開けて入るだけだし」
梓「それはまあ、そうですけど」
紬「それじゃありっちゃん、カギ」
律「おお」
ーーガチャ、ギイイイイィィ……
律(あれ、ウチってこんなに立て付け悪かったっけ……?)
澪「あっ、あれって」
梓「ムギ先輩のティーカップ、ですよね」
澪「すっかり割れちゃってるけど」
律「戸棚の扉が開いてる。 要は誰かが落とすべくして落とした訳だな」
梓「誰が、何のためにですか?」
律「そんなもん私は知らん。 窓は、全部閉まってるし、正面の扉も私が開けるまではカギがかかっていた訳だから、」
紬「完全なる密室ってやつね! 推理小説の舞台みたい!」
梓「のんきなこと言ってる場合じゃないですよ! ムギ先輩のティーカップを割った犯人は、私たちの目を掻い潜って外に出られる様な人かも知れないんですよ!?」
律「そんなステルスみたいな人って考えるよりは、私たちの目を掻い潜って、今もこの部屋に隠れてるんじゃないk……ッ!」
澪「じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃあ、まだ犯人はここの音楽室にいるってことか!?」
紬「最悪、私たちが部活中にもここに潜んでいた可能性もある訳よね……」
澪「ヒッ」
梓「でもこの音楽室で隠れられそうな場所と言ったら」
唯「物置くらいだよねー」
梓(唯先輩、いたんですね。 セリフがないからてっきりいなくなったのかと)
唯(うう、あずにゃんから失礼な念を感じるよう。 皆の話が難しいのが悪いんだー!)
紬「微妙にスキマが空いてるわね……」
梓「まあさっきから閉まっていた保証も無いですから、何かがいると決まった訳じゃ……」
澪「で、でももし何かいたら……」
唯「とりあえず開けてみようよ。 開けないとわかんないもん」
紬「それもそうね」
律「じゃあ、開けるぞ……」
澪(何も出ないでくれ何も出ないでくれ何も出ないでくれ何も出ないでくれ!)
ーーガチャ
紬「中には何も、……いないわね」
梓「そう、ですね」
ーーヒョコ
律澪紬梓「あ?」「え?」「あら?」「ん?」
唯「あああああああああああああ!」
??「」ビクッ
唯「か、可愛いっ!」
??「?」
唯「結局この子は何なのかなー? 普通の動物っぽくはないよね」
紬「そうねぇ」
律「頭はサルっぽい」
澪「足はトラっぽい」
唯「しっぽはヘビっぽい」
紬「胴は、タヌキ、かしら?」
梓「ひょっとして鵺ってやつでしょうか?」
唯「ぬえ?」
梓「ええ、確か妖怪の一種なんですけど、なんでもたまs」
澪「よ、よよよ妖怪!?」バタッ
紬「ああっ、澪ちゃんが」
梓「多分、ですけど」
律「しっかし妖怪ねぇ。 鵺って名前は聞いたことあるけどさ、胡散臭いっていうか、イマイチ信じられんよなー。 夢でも見てる気分だ」
梓「私だって信じられませんよ。 でも全員が同じ夢を見てるとは考えにくいですし。 ムギ先輩の知り合いに妖怪に詳しい人とかいませんか?」
紬「うーん、詳しい人ってなるとちょっといないんじゃないかしら。 ごめんなさいね梓ちゃん……」
梓「いえいえ! 駄目元で聞いただけなので、そんなにしょげなくてもいいですって!」
澪「う、ううん……」
律「お、起きた起きた。 澪ちゃーん、良く眠れましたかー?」
澪「あれ、鵺って夢じゃなかったのか……?」
律「残念ながら現実らしいぜ? 私もイマイチ信じられんが」
鵺「ヒョー」
紬「あ、鳴いたわ」
律「バルログ?」
澪「分かりづらいことを言うな」
唯「ますます可愛いよぬえちゃん!」
ーーガチャ
和「あなたたち、夏とは言えそろそろ日も落ちるから、早く帰りなさい。 部活の時間はもう終わってるでしょう?」
唯「あ、和ちゃん! ねーねー、和ちゃんって妖怪っていると思う?」
和「妖怪? さあ、どうかしら。 ……そういえば前に知り合いが妖怪退治に付き合わされたって言ってたけど、」
唯「じゃじゃーん、この子が妖怪のぬえちゃんです!」
和「正直嘘なんじゃないかって思って……」
鵺「」
和「」
鵺「?」
律「ものは相談なんだが、和の知り合いで妖怪に詳しい人っていないのか?」
和「詳しいかどうかは分からないけど、一応心当たりは有るわ」
ーー夜
??『それで、私に電話してきた訳ね』
和「ええ、前に妖怪退治に付き合ったって言ってたので、どうにかできるんじゃないかと」
??『うーん、私自身は詳しくないのよねー。 ……和ちゃんが通ってる学校って、確か桜ヶ丘高校よね?』
和「はい」
??『明日は休みだし、こっちから出向くことにするわ。 一時ごろでいいかしら?』
和「はい、大丈夫です。 すいません輝さん」
輝『いいのいいの。 私が好きでやってることなんだから。 じゃあまた明日ね、和ちゃん」
和「はい、お休みなさい」
真一「それで、僕たちにお鉢が回ってきた訳ですか」
輝『ええ、明日なんて急で悪いんだけど、お願いできるかしら?』
真一「構いませんよ、特に何を描く予定もありませんでしたし」
輝『悪いわね。 クズリちゃんにも伝えといてくれる?』
真一「分かりました、一緒の家だと楽でいいです」
輝『そっか、白塚君はクズリちゃんと一緒に住んでるのよね』
真一「ええ、毎日イタチさんの姿を見れるなんて幸せですよ僕は」
輝『あーあ、私も一緒に住もうかしらね』
真一「新井さんの家って神社ですよね? 奈良山が入っても大丈夫なんですか? 大祓の時は入ってましたけど」
輝『やっぱり辛いんじゃないかしら。 そうなると、一緒に住もうと思ったら奈良山君の家よね』
真一「そういえば奈良山ってどこに住んでるんですかね?」
輝『……そう言われると知らないわね。 まあ今度聞いておこうかしら。 じゃあ経島にも連絡入れとくから、明日桜ヶ丘高校、忘れない様にね』
真一「大丈夫ですよ。 じゃあ、おやすみなさい」
輝『はい、おやすみなさい』プツッ
クズリ「輝からの電話だったの? 何だって?」
真一「別の高校でも妖怪が出たから退治に付き合ってくれ、だってさ。 イタチさんも来る?」
クズリ「うん、行くよ。 学校の人も気になるし。 ……それに、真一と一緒だし」
真一「うわああイタチさん大好きだああ!」ガバッ
クズリ「うひゃあ、し、真一危ないから! 今お鍋抱えてるから!」
真一「え、ああ、ごめんイタチさん」パッ
クズリ「もう……、じゃあ、夕飯が終わったらゆっくり、ね?」
真一「」
ーー翌日、桜ヶ丘高校行きバス内
真一「まあ大体いつもの面々ですよね。 別に僕としてはイタチさんがいれば後の面々はあんまり気にならないんですが」
クズリ「え、あ、うん。 う、嬉しいけど、皆いるから、ね?」
輝「相変わらずラブラブよね、二人とも。 クズリちゃんの背中を押した身としては幸せよ」
真一「いやいやラブラブだなんてそんな。 新井さんだって奈良山と仲いいじゃないですか」
クズリ「善人、輝の話する時本当に嬉しそうだもんね」
輝「え、そ、そうかしら?」
御崎「昼間からまあお熱い物を見せてもらっちゃいましてまあほんと申し訳ありませんけどまあそろそろ黙っていただけないかしら。 隣近所でカレシだのカノジョだのとのろのろ惚気やがって全く全く。 困ってしまいますわ、すわすわ」
輝「べつにのろけてはない、かな?」
御崎「じゅーうぶん惚気てるわよ。 ええ、それはもう濃厚に。 ……んで? 奈良山君が大好きな輝さんはどんな妖怪が出るかとかは聞いてないの?」
輝「なによそれ……。 ちゃんと聞いてあるわよ。 確かぬえって言ってたかしら」
御崎「ほーん、鵺か。 それはまた面白い妖怪が出たものね。 略して面妖ね」
真一「あんまり上手くないですよ。 それで、鵺っていうのはどういう妖怪なんですか? 名前を聞いたことはありますけど」
御崎「白の字って私に対して結構辛辣よね。 まあ鵺って言ったら割と有名どころだから、聞いたことくらいあってもおかしくないわね」
輝「そうなの?」
クズリ「そうなんじゃないかな? 私は聞いたことないけど」
御崎「何しろ妖怪自体がドマイナーなジャンルだし、そこで有名どころなんつってもたかが知れてるわよね。 鵺っていうのは、古くは帝と対決したともされる妖怪なのよ。 頭は猿、脚は虎、胴は狸、尾は蛇になっていて、その姿からバラバラとかまとまっていないことを鵺的とも言ったりするのは流石に知ってるでしょ白の字。 鵺自身のポテンシャルは魂を吸い取ったり人を病気にしたりするって言われてる」
真一「結構危険な妖怪なんじゃないですか、それ。 あとその言葉も初めて聞きました」
御崎「でもまあ伝承によってはなんにもしないでぼーっとしてる妖怪だとも言われてるし、一概に危険だとは言えないんだにゃー、これが。 まあ一概に安全だとも言えないんだけど」
真一「見事に不安を煽ることを言ってくれますね」
クズリ「……みんなが被害があってなければいいんだけど」
御崎「これこれイタチちゃん、そうフラグを建てるもんじゃないよ」
クズリ「え?」
御崎「んにゃ、分かんないなら気にするな」
ーー午後一時半、桜ヶ丘高校校門前
御崎「桜が舞い散るこの季節に、私は母校たる桜ヶ丘高校に帰ってきた。 思えば長く辛い道程であったけど、高校時代の思い出があったからこそ、私はここまで来ることができたのだと思う。 ……高校生活は本当に楽しかった。 卒業式や入学式でさえつい昨日のように思い出せる。 机の落書きも、廊下の傷も、窓際の風景も。 そしてこの高校は、すっかり変わってしまった私を受け入れてくれるのだろうか。 校庭の桜は、恩師は、かつての級友は、私を受け入れてくれるのだろうか。 ジャミラになってしまった、この私を」
真一「先輩はこの学校の出身じゃないし今は夏でしょうに。 ……それで、今のはなんだったんですか?」
御崎「よくぞ聞いてくれた! これぞ、経島六十六擬態の一つ、『故郷を想うジャミラ(円谷プロ)』弱点は水!」
真一「先輩、遂にウルトラ怪獣にまで擬態できるようになったんですね。 ていうか前より擬態の数が増えてませんか? 前は五十前後だった気が」
御崎「人はいつだって成長していくのさセリヌンティウス、男子三日会わざれば刮目せよとはよく言ったものだよアギュウスト」
真一「僕はメロスの友人でも与謝野晶子の息子でもないですし、先輩が男だったことには驚きです。 大体、他校にまできてるんだからもう少し大人しくしてましょうよ」
輝「そうよ経島。 いくら休日とは言っても人がいない訳じゃないんだから。 注目を集めちゃったら嫌じゃない」
御崎「いやーメンゴメンゴ。 なんつーか、他校ってテンション上げる何かがある気がするのよね。 他校への遠征が少ない弱小美術部だからしょうがないことでしょうけど。 そこのところどう思うかな、美術部部長の白の字」
真一「それを僕に聞きますか。 弱小美術部で悪かったですね。 というか、美術部に弱小も強豪も無いでしょうに」
御崎「まあそうともいう」
輝「そうとしか言いません」
御崎「んで? ワタクシたちをお招き下さった桜校の生徒さんは一体いつになれば現れてくれるのかしら?」
輝「やめなさいよそういうの。 ……でも確かに遅いわね。 一時集合なのに、もう一時半」
真一「時間にルーズな人なんですか?」
輝「そんなことないわよ。 しっかりとしたコだったし」
クズリ「なにかあったのかな?」
真一「妖怪関連でってこと? まあ無くはないだろうけど、」
御崎「それどころか大本命でしょ。 なんせ鵺だし」
クズリ「どういうこと?」
御崎「んにゃ、鵺にイタズラなんかされてるんじゃないかなー、って」
真一「?」
ーー午後一時前、音楽室
和「じゃあ私はそろそろ行くから、大人しくしててね」
唯「いってらっしゃい和ちゃん!」
鵺「ヒョー」
和「……鵺って鳴くのね」
梓「まさか唯先輩が鵺を連れて帰るとは思いませんでしたよ」
律「よっぽど懐いてる様子だしな」
紬「まあ邪険に扱うよりはいいんじゃないかしら?」
澪「うう、あんなに可愛らしい外見なのに妖怪なんだよな……。 触りたいのに触れない……」
律「全く、澪はビビりすぎだって。 私が澪ならそこまではビビらない自信があるなー」
梓「律先輩の神経はごん太そうですもんね」
律「中野ォ!」
澪(私が律でもそこまで明るくはなれなかったろうな)
紬「でも誰かと入れ替わったり出来たら面白そうよね、私があなたであなたが私、みたいな!」
鵺「!」
和「そうかしら、一周回って面倒そうだけど」
律「あれ、和まだいたのか。 喋ってないからてっきり行ったもんかと」
梓(和先輩、いたんですね。 もういないものかと思ってました)
和「律、後で少しお話しましょうか」
律「」
梓「そうですよ先輩、失礼です」
和「あなたもね、中野さん」
梓「」
澪「まあ私がアイツだったら、みたいなのはあるな」
梓「でも律先輩とだけは入れ替わりたくないです」
律「なんなの? 中野マジなんなの? 泣くよ? 流石の私も涙を隠せないよ?」
紬「まあまありっちゃん。 梓ちゃんも心の底からそう思ってる訳じゃないでしょう?」
鵺「ヒョー!」
ーーカッ
唯律澪紬梓和「わっ」「のわっ」「うひゃっ」「きゃっ」「うわっ」「ひゃっ」
ーーシュウゥゥ……
最終更新:2012年01月25日 21:15