この提案に、特に異論は出なかった。真理さんならシュプールの勝手をよく知っていて、捜索活動も捗るだろう。
透「真理、マスターキーを渡してくれないか?犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」
こんな事態になってまで、部屋の散らかり具合を恥ずかしがるはずもなかった。
真理「一人で大丈夫?」
透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」
そう言ってマスターキーを受け取ると、透さんは私達の部屋があるのとは逆方向へ廊下を進む。空き部屋からチェックするらしい。
私達女四人もそれぞれの捜索範囲を決め、階段を降り、梓ちゃん捜しを始めた。
私と真理さんに割り当てられたのは、案の定管理人室など、客だけでは勝手がわからない範囲になった。あとの二人が受付や食堂、それに隣接する厨房などを担当している。
真理「私、あっちのキッチンとかバスルームを見てくるから、そこのベッドルームや物置を調べてもらっていい?」
そう言って鍵を渡してくる真理さん。言いなりになってよいものか一瞬悩んだが、結局すんなり受け入れた。
部屋が並ぶ廊下を進む真理さんを尻目に、私は一つ目の部屋に鍵を挿し、ドアを開けた。
憂「梓ちゃーん、いるのー……?」
返事はない。電気をつけ、部屋の中を一通り見る。やはりいない。
私はその部屋を後にし、次の部屋に取り掛かった。
どさっ
二番目の部屋から出てきたとき、キッチンのほうから妙な音が聞こえた。真理さんが何かを落としただけかもしれないとも思ったが、なんだか胸騒ぎがした。
私はキッチンへと足を向けた。
憂「真理さーん、どうかしまし――」
キッチンのドアを開けた私の目に飛び込んできたには、喉から血を噴き出して倒れる真理さんの姿だった。
悲鳴をあげそうになった。紬さんのときは事故のようにも見えたし、澪さんは自殺に見えた。だが、今回は違う。明らかな殺意のもとに、人が殺されているのだ。
それでも悲鳴をあげなかったのは、キッチンに隣接するバスルームで、水を使っているらしき音を聞いたからだ。誰かが――おそらく真理さんを殺した人物が――そこにいる。
幸か不幸か、ここはキッチンだ。私は自らの身を守るべく、包丁を探した。だが、見つかったのは果物ナイフくらいなもので、包丁はなかなか見つからない。
――不意に気配を感じ、恐る恐る振り向いた。
「探し物はなんですか?」
そこには、澪さんのスキーウェアを着込んだ人物がいた。スキーウェアには、真理さんのものであろう鮮血がところどころに散っていた。
「見つけにくいものですか?」
憂「あ……あ……」
さらには、私の探していた包丁、それを右手に握り締めていた。考えてみれば、真理さんは首を切られていたのだ、包丁は犯人が持っていて当然だった。
「見られたからには、仕方ないかな」
その人物がこちらに近寄る。せめてさっき見つけた果物ナイフを確保していれば、少しは応戦できたかも……いや、腰が抜けてろくに動けないんじゃあ結果は同じだっただろう。それほど、その人の普段からは想像もつかない威圧感を受けていた。
「じゃあ、ばいばい」
右手に握られた包丁は、私の顔へ急速に接近し、顔より少し下、喉へと深く突き刺さった。
お姉ちゃんには手を出さないで――言葉にならず、喉から血がごぼごぼと溢れるだけだった。
それから少しだけ、私の意識はあった。犯人が顔についた血をバスルームで洗い流す様子、そして……。
終 血まみれのスキーウェア
最終更新:2012年02月04日 22:13