167 :>>39より分岐 2012/02/04(土) 17:43:18.78 ID:+BVtJ5c7O
透さんの言葉に従い、部屋の中を隅々まで調べてみたが、ムギ先輩の姿はなかった。そもそも鍵をかけていたのだから当たり前だとも思いつつ、外に出ようとしたときだった。
ガダッガダゴダガダッゴトガタバンッ
部屋の外、階段の方向から聞こえた音に、心臓が飛び出る思いがした。私は慌ててドアを開け、外へ出た。
梓「あっ、み……」
澪先輩が部屋に入るのが一瞬見えた。今の物音で私のように出てくるのならわかるが、逆に入っていったのが気になり、澪さんの部屋へ歩み寄る。
その途中で階段の下に目をやった瞬間、体が固まってしまった。みんなで捜したムギ先輩が、手足を妙な方向に曲げたまま、ぴくりとも動かずそこにいたのだ。
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:44:05.57 ID:+BVtJ5c7O
憂「ひっ……」
気付かないうちに、憂が隣で同じように階段下を覗き込んでいた。
その後、唯先輩や律先輩、和さんも部屋から現れ、私達の異変の原因に目をやり、同じように凍り付いた。階段下の向こうで、真理さんも同じである様子が見える。
律「み……澪っ!澪は大丈夫か!」
突然叫びだした律先輩は、後方の澪先輩の部屋のドアを叩き、ノブを握った。ノブはあっさりと回り、勢いよく開けられたドアから、律先輩は駆け足で部屋に飛び込んだ。
律「澪、大丈夫なんだな。部屋の外に出れるか?大きな音がしてびっくりしたよな。ちょっと外には見るのが辛いものがあるけど、みんなと一緒にいよう。な?」
独り言のように律先輩の声ばかりが聞こえたあと、律先輩の肩を借りるようにして、澪先輩が泣きながら部屋から出てきた。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
大きな音がしただけであんなに泣くだろうか。音の原因が、ムギ先輩の転落する音だと知っていたんじゃないだろうか。
174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:45:02.52 ID:+BVtJ5c7O
透「なんてことだ……」
真理さんの後ろに透さんが現れていた。透さんはそのままムギ先輩に近付くと、その手首を取り、指を当て、……首を振った。
唯「そんなの嘘だよっ!」
今度は唯先輩が叫ぶ。
唯「ムギちゃんが死んじゃうわけないじゃん!透さん早く救急車呼んでよっ!」
言いながらムギ先輩のもとへ駆け降りていく。そして透さんが掴んでいるのと逆の手を両手で包むと、静かに泣きだした。
唯「ムギちゃんが死ぬわけないじゃんかぁ……」
憂が唯先輩のもとへと階段を降り始めると、それに続いて和さんも、律先輩と澪先輩も降りていく。なんとなく澪先輩の前を歩きたくなかった私は、最後に降りていった。
175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:46:01.82 ID:+BVtJ5c7O
透さんは道を空けるように立ち上がり、受付カウンターのほうへ歩いていく。電話をかけるのだろう。
律「澪、あんまり見ないほうがいい、そこのソファーに座っとこう」
澪先輩は談話室のソファーに導かれ、和さんもそれに続く。憂は唯先輩の肩を抱き、ソファーへ連れていった。私は澪先輩と距離を保っていたくて、真理さんと一緒に階段脇に立っている。
透「もしもし、警察ですか――」
透さんが電話している声が聞こえた。救急車ではなく警察を呼んでいるらしい。
真理「シーツ、取ってくるわね。このままじゃかわいそうだから。」
そう言って奥へ消えていく真理さん。透さん共々なんだか落ち着いているようにも見える。
唯先輩と澪先輩が啜り泣く音と、外の強風が吹きすさぶ音が建物を支配した。
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:47:02.13 ID:+BVtJ5c7O
透「だめだった」
真理さんが持ってきたシーツをムギ先輩にかけているその横に立ち、透さんが言う。
透「吹雪で電話線が切れたみたいだ。うんともすんとも言わない」
電話をかける声がぱったりと聞こえなくなったのはそういうことだったのか。
透さんは続けて妙なことを言い出す。
透「ねぇ真理、昨日泊まった男の人はほんとに帰ったんだよね?」
真理「田中さんのこと?チェックアウトの手続きしたのは透じゃない」
透「そうなんだけど、そのとき荷物を持ってなくて、手続きしてから荷物まとめて帰りますとか言ってたからさ」
真理「田中さんの部屋の清掃はちゃんとしたわよ。そりゃあ確かに、帰るところは見てないけれど」
178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:48:02.07 ID:+BVtJ5c7O
律「ちょ、ちょっと待って」
二人の会話に律先輩が割って入る。
律「その口ぶりだと透さん、その田中って人が実はまだここにいて、私の部屋に手紙を残したり、ムギを……殺したって言うんですか?」
透さんは冷静に返事する。
透「そんな可能性もあるなと思っただけさ。ちょうど律ちゃんの部屋に泊まってたのが田中さんだし」
律「嫌だ聞きたくない!勘弁してください!」
律先輩は目を力一杯つぶり、澪先輩と体を寄せ合いながらぶるぶると震えている。あの手紙は本当に律先輩の仕業ではないようだ。強がってはいたが、相当怖かっただろう。
179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:49:01.52 ID:+BVtJ5c7O
唯「ね、ねぇ、携帯で警察に電話したらいいんじゃない?」
せっかくの唯先輩の提案だが、採用されることはない。
透「残念だけど、ここは圏外なんだ。だから外と連絡をとるには、吹雪がやんでから車を出すしかない」
雪はスキーをやめる頃に激しくなり始めていたが、窓からちらりと外を見ると、風の轟音にも納得できる勢いで舞い狂っていた。
180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:50:01.80 ID:+BVtJ5c7O
透「でも、もし不審者がいたとしても、このままみんなで一緒にいたら手出しはできないさ。だからそんな悲観的にならずに――」
梓「悲観的になるな?無茶言わないでください!」
思わず声を荒げてしまう。
梓「人が一人死んでるんですよ!?しかも、大好きな先輩が……」
大好きな澪先輩が、ムギ先輩を突き落としたのかもしれないのだ。
梓「いいです、私は部屋に篭ります」
少し冷静になって考えてみたかった。
真理「え、ちょ、ちょっと!」
唯「あずにゃん、危ないよー」
真理さんや唯先輩の静止も聞かず、私は階段を登った。
181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:51:01.69 ID:+BVtJ5c7O
階段を登った私は、自分の部屋には戻らず、澪先輩の部屋の前にいた。真実を確かめるべく、二人きりで話をするためだ。
だが、いつ澪先輩が部屋に戻ってくるかもわからないし、そもそも一人で戻ってくることはないんじゃないか。そんなことを考えていると、階下から話し声が聞こえてきた。
憂「あの、みなさん聞いてください――」
憂の声だった。
憂「階段のほうから聞こえた大きな音は死体の位置からしても、紬さんが階段を転げ落ちた音だと思うんです。だったら、紬さんはうっかり足を滑らせたか、誰かに突き落とされたことになりますよね」
まさか憂は、澪先輩がムギ先輩を突き落としたと、みんなの前で言うつもりなのだろうか。止めに入るべきか悩んでいると、信じられない言葉が続いた。
憂「音がしてわりとすぐにドアを開けたら、梓ちゃんが階段前にいたんです。だから梓ちゃんが……なんて思っちゃったんですけど、ま、まさかそんなわけないですよね」
憂は、何を言っているのだろう。私が犯人……?
和「もしそうなら、犯人が一人で部屋に篭ってるわけだから安心できるわね」
和さんまでもが同意してしまった。そして同意の輪は広がっていく。
182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:52:12.47 ID:+BVtJ5c7O
唯「そんな、あずにゃんが、そんなまさか……」
律「なんで梓がムギを……」
真理「音がしてすぐにドアを開けて梓ちゃんしかいなかったなら、田中さんなんてやっぱりいないのかも……」
みんなが憂の発言に同意する中、しかし一人だけ異を唱える人がいた。
透「今ここに梓ちゃんがいないわけだけど、梓ちゃんと憂ちゃんが実は逆だったとしたらどうだろう?」
しばらくこの発言の意味を理解することができなかった。そんな様子が下でも繰り広げられたのか、透さんが言葉が続ける。
透「本当は憂ちゃんが紬ちゃんを突き落とし、その音に驚いた梓ちゃんがドアを開けて、階段前の憂ちゃんを発見したのかもしれない」
183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:53:01.80 ID:+BVtJ5c7O
憂「な、なんてことを言うんですか!」
そんなわけがないことは私が一番よくわかっている。だが逆に言えば、私しかわかりえないのだ。
律「私がドアを開けたときは、既に梓と憂ちゃんが階段前に揃ってたな。ちなみに、唯が出てきてドアを閉めたところだった」
和「私は律よりあとに出てきたけれど……唯が憂達の次にドアを開けたのよね?」
唯「そ、そんなこと言われても、私も憂とあずにゃんが揃ってるとこしか見てないから――」
澪「もうやめてくれっ!」
澪先輩が叫ぶ。
184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:54:01.87 ID:+BVtJ5c7O
澪「みんなが疑い合うなんて、もう嫌だ!……私も部屋に帰る」
律「澪、待て!二階には梓がいるし、ここでみんな一緒にいれば――」
澪「こないでくれっ!」
澪先輩はそのまま階段を駆け上がってきた。
澪「え……梓?」
梓「澪先輩、部屋で少しお話しませんか?」
私の提案に、澪先輩はおどおどしながらもドアを開け、自分の部屋に招き入れてくれた。私に容疑がかかってしまった以上、もし真犯人が澪先輩であれば、本人の口からそうであることを言ってほしい。
185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:55:02.92 ID:+BVtJ5c7O
澪「梓、お茶でも飲むか?」
梓「わざわざありがとうございます、いただきますね」
部屋に入るなり澪先輩が煎れてくれた(備え付けのティーバッグだが)お茶を受け取り、ベッドに腰かけてからふーふーと冷まして飲みながら話し始める。
梓「あの、澪先輩……ムギ先輩が落ちた音がしたあと、普通なら部屋から飛び出すと思うんですが、どうして部屋に入っていったんですか?」
澪先輩は、手を震わせながらお茶を飲み、目線を合わせずに答えた。
澪「やっぱり見られてたんだな……。梓は、なんでだと思う?」
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:55:59.37 ID:+BVtJ5c7O
梓「それは……澪先輩が、ムギ先輩を突き落として逃げたんだと思いました」
迷った末、正直に答えた。
澪先輩はその答えを想像していた様子で続ける。
澪「そうだよな。その考えは……合ってるんだ」
ティーカップに落としていた目線を上げ、澪先輩を見る。まさか、本当に……?
澪「ただ、信じてもらえないかもしれないけど、ムギに対する明確な殺意があったわけじゃないんだ」
私はお茶を飲んで頷き、話を促す。
澪「あの紙を見て正体不明の人物に恐怖するあまり、部屋の前で後ろから階段を登る人の気配を感じたとき、その姿も確認せずに突き飛ばしてしまったんだ」
189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:57:01.17 ID:+BVtJ5c7O
私はその光景を想像した。怖がりの澪先輩が、ドアの前に立ち後方の気配に身を震わす様子。目を固く閉じたまま、振り向きざまに手を伸ばしてムギ先輩を突き飛ばす様子。
そこまではうまく想像できたのだが、部屋に入る様子がうまく想像できない。いやそれだけではない、今目の前にいる澪先輩の顔もよく視認できず、あ……意識が……。
澪「私より睡眠薬は効きやすいみたいだな……いや、私が常用してるから耐性ついただけ、かな。」
薄れていく意識の中、澪さんの声が頭に響く。
澪「ごめんな梓、お前が疑われるようになっちゃって。ちゃんと自白の手紙は遺すから許してくれ。……はは、手が震えてうまく書けな――」
私は、その後の澪先輩の行動を止める術を持たなかった。
191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:58:01.88 ID:+BVtJ5c7O
――頭が重い。目を覚ました最初の感想だった。澪先輩の言葉からして、睡眠薬を飲まされたらしい。
そうだ澪先輩は、と思って顔をあげた途端、恐怖で顔が引き攣った。
キャアァーーーッ
反射的に叫ぶ。澪先輩が、部屋の中央で首を吊っているのだ。下ろしてあげようと思うが、体がすくんで動かない。
外からは、どたばたと複数人が階段を登る音が聞こえる。そしてドアが、ノックもなく開かれた。
律「澪っ!大丈……夫、か……?」
勢いよく律先輩が入ってきた、かと思うと澪先輩を見た瞬間その勢いは消え去り、虚ろな足取りで澪先輩のもとへ近寄る。そしてそのまま、泣き崩れた。
あとから和さんと透さんも現れ、透さんは一旦部屋を出ると唯先輩や憂、そして真理さんを連れて戻ってきた。
192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 17:59:01.81 ID:+BVtJ5c7O
唯「あずにゃん……の無事を喜びたいんだけど、どういうこと?」
唯先輩の言葉に思わずびくり、と体を竦み上がらせる。
梓「わ、わわ私にも何がなんだか――」
律「とぼけるなっ!」
律先輩の怒声に、余計縮こまってしまう。
律「澪が首を吊ってる横にお前がいたんだ、何も知らないわけないだろうが!どうせムギを殺したのもお前なんだろ!」
梓「し……知りませんっ!」
一刻も早くこの場から逃げたかった。ベッドから飛び降りると、座り込んで反応の遅れた律先輩の横を抜け、あっけに取られている唯先輩達の間をすり抜け、部屋の外へ飛び出し、追跡されまいとドアを叩き閉めた。
195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:00:01.75 ID:+BVtJ5c7O
その場に立ち尽くしたまま、先の行動を振り返って反省をする。あれでは完全に犯人ではないか。さっきは頭がぼーっとしていたが、今なら澪先輩が遺書を書いていることも思い出している。それを見つけてみんなに説明すれば解決ではないか。
律「嘘だっ!」
律先輩の怒声が響く。いったい何が嘘なんだろう。
律「……それみろ、こんな字、澪の筆跡じゃない!みんな、出ていくんならさっさと出てけ!」
唖然とした。律先輩は、澪先輩の直筆を判断することができていないのだ。何故か。きっと澪先輩の手が震え過ぎて、普段の筆跡と掛け離れてしまったのだろう。それに加え、律先輩が冷静な判断力を欠いているせいもある。
透「仕方ない、出ようか。律ちゃんも気をつけて、あと変な気を起こさないように」
この言葉を聞き、私は逃げるように自分の部屋へ戻った。今、みんなの中では、私が二人ともを殺したことになっているのだ。
196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:01:03.18 ID:+BVtJ5c7O
一人部屋の中で座り込む。これからいったいどうすればいいのだろう。正直に真相を話したところで、信じてもらえるとは思いがたい。
そんなことを考えていると、がらがら、と窓の開かれる音がした。驚いて窓のほうを見たが、どうやらこの部屋からした音ではないらしい。
隣の澪先輩の部屋で、律先輩が窓を開けたのだろうか。吹雪の中で何故、という思いで外を覗くと、雪の上にどさり、とスキーウェアが落とされた。
梓「あれって……」
見覚えがあるそれは、澪先輩のものだった。澪先輩のスキーウェアはむくりと起き上がると、裏口のほうへ歩いていく。中に入っているのは律先輩に見えた。
こんこん、ノックの音が聞こえる。しかしそれもこの部屋ではなく、隣の澪先輩の部屋のようだ。
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:02:16.40 ID:+BVtJ5c7O
真理「――ちゃん、――いるの?――」
律先輩が部屋にいないことへの反応が気になり、壁に耳を当てて会話を聞くことにする。
透「だからもしよかったら開けてくれないかな」
しばしの沈黙。
律「……悪いんですけど、もう少しだけこのままいさせてください」
何故か律先輩の声が聞こえた。だがおかしい、妙に声が歪んでいるのだ。まるで、トランシーバーか何かを通したように。
VOXタイプという、音声を認識してONになるトランシーバーがあると聞いたことがある。
律「……そこに和もいますか?」
和「えぇいるわ。どうしたの?」
ドアの向こうにいるみんなは、まさか律先輩が部屋にいないとは知らないせいか、歪んだ声を気にも止めず会話する。
律「……さっきはごめん」
和「いいわよ、取り乱しても仕方なかったもの」
律先輩は、怖いほどに落ち着いている。私には、何かを決意したようにも聞こえた。
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:03:01.96 ID:+BVtJ5c7O
律「……梓はいないのか?」
唯「あずにゃんはあれからどこ行ったかわかんないままだよ」
律「……悪いけどみんなで手分けして探してきてくれないか?あ、くれませんか?梓にも謝りたいんです」
謝ってもらえるなら嬉しい。が、この落ち着き払った様子がどうにも不安を煽る。私はもう少し部屋に篭ることに決めた。
唯「合点だよりっちゃん隊長!……あずにゃんのことも心配だしね」
憂「手分けして、といっても一人では行動しないほうがいいですよね」
透「僕は一人でいいよ。だから、唯ちゃんと憂ちゃん、真理と和ちゃんの組み合わせで動こうか」
憂「わかりました」
201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:04:01.95 ID:+BVtJ5c7O
透「真理、マスターキーを渡してくれないか?犯人がいそうな二階の各部屋は僕が受け持つ。唯ちゃん達の部屋にも入るけど……いいかな?」
真理「一人で大丈夫?」
透「大丈夫、あそこの掃除用具入れからモップをとってきてから捜索開始するさ」
ぱたぱたと廊下を歩く音がする。透さんが掃除用具入れへ向かったらしい。続いてどたばたと階段をみんなが降りる音がした。
さっき窓の外から見たのが律さんだとしたら、一階で鉢合わせるんじゃないだろうか。
202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:05:01.04 ID:+BVtJ5c7O
こんこん、私の部屋がノックされる。返事をせずにいるとがちゃがちゃと鍵の差し込まれる音がして、ドアが開けられた。
透「梓……ちゃん……?」
透さんが無意識のうちにモップを構えたのがわかってしまう。やはり、犯人だと思われているのだ。
梓「信じてもらえるかわかりませんが、少し話を聞いてもらえますか?」
迷うそぶりを見せたあと、モップを下ろしながら透さんが答える。
透「わかった、聞くよ」
私は、澪先輩がしてくれた話を透さんにした。
203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:06:04.41 ID:+BVtJ5c7O
透「君の言うとおりだとすると、澪ちゃんの死は本当に自殺だったのか」
梓「そうです。犯人扱いされてる私の言うことを、どこまで信じてもらえてるかわかりませんが」
透「充分ありえる話だと思って聞いてるよ」
この言い方からすると、まだあくまで一つの仮説程度にしか信用されていないらしい。
梓「その程度でもいいです。あとそれから、私が澪先輩の部屋を出てここに戻ってからなんですが――」
イヤアァァァッ
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:07:08.49 ID:+BVtJ5c7O
突如響いた悲鳴。私には唯先輩の声に聞こえた。
透「ごめん続きはあとで!見に行ってくる!」
梓「あっ、なら私も……」
透さんは私を置いて行ってしまった。多分、私以外にも疑ってる人がいて、その人が事件を起こしたと思って焦っているのだろう。
考えてみれば、最初の妙な紙については、私も何の説明もつけれていない。あの紙を書いたのが誰で、何が目的なのか、透さんが戻るまで考えることにした。
キャアァーーッ!
再び聞こえた悲鳴。今度は憂のような気がする。私はこのままじっとしていていいのだろうか。
この問いの答えより、先の紙についての答えを探すことに決めた。
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:08:02.91 ID:+BVtJ5c7O
あの紙がムギ先輩のイタズラだったのだと確信したとき、部屋のドアが開けられた。透さんだ。
梓「どうでし……っ!きっ、キャアァーーーッ」
私が叫んだのは、透さんの抱える真理さんが、喉から血を流しているからだけではない。その透さんが、不気味な笑みを携えているせいもあった。
透「どうしたんだい?真理を殺したのは君なのかい?」
そんなわけはない、私はずっとここにいたのだ。だが、今の透さんは、どう見ても話が通じるようには見えない。
206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:09:02.13 ID:+BVtJ5c7O
唯「あずにゃんっ!」
唯先輩は、部屋に入ってくるなり透さんに睨まれ、少し怖じけづく。しかしそれは一瞬で、再び気合いを入れて言う。
唯「あずにゃんに手を出さないで!」
もしかして、唯先輩は私のことを疑っていないのだろうか。そう思うと、こんな状況なのに少し安堵してしまう。
透「やっぱり唯ちゃんかい?なら、死んで償ってほしいんだけど」
透さんが振り下ろしたモップを、唯先輩はなんとか避ける。真理さんを抱えているせいでふらつく透さんの隙を見て、唯先輩は洗面所のコップを投げつけた。コップは透さんの額に命中し、破片で切れたのか、血が流れだした。
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:10:02.42 ID:+BVtJ5c7O
律「唯っ!大丈夫かっ!」
次は律先輩が現れた。律先輩は部屋の奥に私の姿を見ると、唯先輩と透さんをすり抜けてきて、私の手を取り走り出した。こんなとこにいたら危ない、ということだろうか。
部屋を出ると、律先輩が呟いた。
律「疑わしきは、罰せよ」
なんのことかわからず律先輩を見ようとしたとき、私は腹部が熱くなるのを感じた。見ると、私のお腹から、包丁の柄が生えていた。
209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:11:01.88 ID:+BVtJ5c7O
梓「律……先輩……?」
律「澪を殺した犯人は、私が必ず殺すって決めたんだ。人違いがあったとしても、な」
包丁が抜かれたと思えば、私の体は宙に浮いていた。階段のほうへ突き飛ばされていたのだ。
体のあちこちを打ち付ける。もはやどこが痛いのか、わからなかった。
律「安心しろ、唯は私が助ける」
階段下で、ムギ先輩の上に被さった。もう、動くこともできない。
数分経ったであろうとき、私の耳に、最期の言葉が届いた。
唯「大切な人への復讐が許されるなら、私もしていいよね、りっちゃん?」
終 ~大切な人のため~
210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:12:28.72 ID:+BVtJ5c7O
以上で本編は終わりです
あとはサブシナリオをつらつらと