古代サクラガオカ帝国 裏路地にて

唯「はあ、はあ……」タッタッタッ

唯「兵隊さんは……ここならいないよね」

梓「あ、唯先輩! こっちです! ここの物陰に……」

唯「あずにゃん! 会いたかったよ~……」ギュウウ

梓「唯先輩……私もです」ギュウウ

唯「えへへ……いつぶり、だろう」

梓「わかりません……唯先輩のことをずっと想って、まるで永遠のようでした」

唯「あずにゃん……もっと、ぎゅー、しよ。たまにしか会えないから、その分たくさん」ギュウウ

梓「あ、先輩……っ」ギュウウ


兵士「お前たち! そこで何をしている!?」

唯梓「「ひっ!?」」サッ

兵士「まさか貴様ら……女同士での不純行為を」

唯「ち、違います! あはは、私おっちょこちょいだからつまずいちゃって、あずにゃんにぶつかっちゃって」

梓「そ、そうなんです! まったく唯先輩ったら、痛かったんですからね! 気をつけてください!」

兵士「ふむ……まあいい。くれぐれも百合禁止令を忘れるなよ?」

兵士「我らが神聖サクラガオカ帝国にて女同士の恋愛などという不純な行為は万死に値する」

唯「わ、わかってます!」

梓「そ、そんなことするはずないじゃないですか……あはは」

兵士「わかっているのならばよい。さっさと別れて家に帰りたまえ」


兵士「どうした、用事は済んだのだろう?」

梓「は、はい……じゃあ、さようなら、唯先輩」サッ

唯「……うん、じゃあね、あずにゃん」サッ


兵士「さて、他の見回りに行くか」サッ


唯(……あずにゃん、こっちこっち!)テマネキ

梓(……! 兵士はもう遠くに行った……今なら)サッ

梓「……唯先輩っ!」ダキッ

唯「あずにゃーん!!」ダキッ

梓「もう……見つかったらどうするんですか……危ないですよ」

唯「だって……もうお別れなんていやだもん……あずにゃんもそうだから来てくれたんでしょ?」

梓「……はい」

兵士「……貴様らああああっ!! もう言い逃れはできんぞ!!」

唯梓「「!?」」

梓「そんな……! もう行ったはずじゃ!」

唯「逃げよう、あずにゃん!」ダッ

梓「は、はいっ!」ダッ

兵士「待てい! 不純行為は例外なく死刑だああ!!」ダッ


唯「……はあ、はあ……あうっ!」ドテッ

梓「唯先輩!?」


兵士「ぜえ、ぜえ……さあ、大人しく捕まるんだな」

?「こっちよ!」

梓「!? 先輩、こっちに!」ダッ

唯「う、うん!」ダッ

兵士「待てい!」ダッ

?「来ないで!」ポイッ……パーン!!!

兵士「ぬわあああっ!? 目があああ!?」

?「さ、今のうちに逃げましょう。私の家にかくまうわ」

唯梓「「は、はい!」」

……

貴族の屋敷・客室

梓「……ここは?」

唯「……すごーい! おっきな部屋だ!」

紬「紹介が遅れたけど、はじめまして。私はコトブキ・ツムギよ」

梓「こ、コトブキって……貴族じゃないですか!? まさか、私たちのことを……」

紬「待って! ……私は確かに貴族の生まれだけど、あなたたちを捕まえようとしているわけじゃないわ」

唯「あの兵士とは違うの……?」

紬「ええ。私は百合禁止令には反対よ」

梓「よかった……」

唯「でも、どうして? ……女の子同士って、いけないことなのに」

紬「どうして、いけないことだと思うの?」

唯「……!」

紬「好きな人どうしが、一緒にいたい人同士が、一緒にいる。それの何が悪いのかしら」

梓「……私たちも、最初はそう思ってました。でも、法律で禁止されて、びくびくしながらこっそり唯先輩と会ってるうちに、何か悪いことをしてる気分になってきて……」

紬「そう思わせるようにした、帝国がいけないの。あなたたちは、何も悪くない」

紬「自信を持って。あなたたちは、心から愛し合える人に出会えたのでしょ? それは、すばらしいことよ」

唯梓「「……」」チラッ

唯「……うん。そうだね。私、あずにゃんに出会えたから。あずにゃんがいるから、辛くても生きていける」

梓「私もです。唯先輩がいるから、こんな逃げてばかりの生活でも彩りがあるんです」

紬「……ふふ。すばらしいパートナーがいて幸せね」

紬「しばらく、落ち着くまではここにいて? 私、あなたたちのことサポートするから」

唯「……うん! ありがとう、えーと……つむぎちゃん?」

紬「ムギ、でいいわ♪ ……じゃあ、私はまた表に見回りに行ってくるから」

梓「見回りって、もしかして……」

紬「ええ。あなたたちのような人が捕まって処刑されるのを黙って見過ごせないわ。できるかぎり守りたいの」

唯「ムギちゃん……気をつけてね!」

紬「ふふ、ありがとう♪ それじゃ――」


ガンガン!! ガンガン!!


兵士「扉を開けろおお!! ここに隠しているのはわかっているぞ、コトブキ嬢!!」

紬「……そんな、どうして」

兵士「貴様が今まで再三にわたり不純行為を幇助してきたのは知っているぞ!! 貴族だから黙認してきたが、もはや容赦はせん!!」

ガシャーン!!


兵士「さあ、おとなしく犯罪者を引き渡し、投降しろ!」


紬「……ここまでね」

紬「さあ、そこの隠し扉から逃げて!! 地下道を通って街の外に出られるわ!!」

唯「ムギちゃんも逃げようよ!」

紬「……先に逃げて。扉を締めて隠せば見つかるまでに時間が稼げるから」

梓「そんな、それじゃあ……」

兵士「ちっ、無駄に広い屋敷だ……どこだ! 隠れてないで出てこい!!」


紬「さあ、早く!!」

唯「ムギちゃん……絶対、後で来てね! また会おうね?」ダッ

梓「約束、ですよ……!?」ダッ

紬「……。ええ。お幸せにね。私はいつもあなたたちの味方よ」

兵士「ここかあ!」ガシャーン!

兵士「いたな、コトブキ嬢。さあ、犯罪者を引き渡せ」

紬「犯罪者? なんのことかしら」

兵士「とぼけるな! 百合禁止令を犯した罪人がここにいるのだろう!?」

紬「彼女たちが罪人ですって? ふざけないで! あの子たちは、純粋に、人を愛する心を持っているの。それを罪人呼ばわりなんて、許さないわ!」

兵士「貴様……本性を現したな。貴様のような貴族の名折れは公開処刑だ、覚悟しろ!!」ダッ

紬(……約束、守れそうにないかな。でも安心して。ずっと見守っているから。あなたたちなら、きっと――)

……

数日後 人里離れた森にて

梓「……唯先輩、唯先輩! これ、見てください」

唯「新聞の切れ端? 街から風で飛んできたのかな。……!」

梓「百合禁止令を犯した罪で、処刑って……!」

唯「うそ……ムギちゃん……っ!!」

唯「……あずにゃん」

梓「はい」

唯「ずっと、語り継いでいこう」

梓「……」

唯「今日は、私たちの……ううん、恋人たちの記念日にしようよ」

唯「私たちに自信を持ってって教えてくれた人のこと、忘れないように」

唯「これからも胸をはって、恥ずかしがらずに、一緒に生きてこの記念日を広めよう? ムギちゃんの想いを、伝えよう?」

梓「……はい!」

唯「今日、2月14日は」


おわり



最終更新:2012年02月15日 19:58