題:梓「憂と私と22日」


「誕生日おめでとう、憂」
「ありがと。梓ちゃんもおめでとう!」
「…え?」

憂の誕生日を祝ったら、憂も私を祝ってくれた。


ーーーーーどうして?

面食らって、憂のために一生懸命選んだプレゼントを渡すタイミングを逃してしまった私は、
なんとなく、ラッピングされた小さな箱を持った手を、ごまかすように後ろに回した。

「なんで私がおめでとうなの?今日は憂の誕生日でしょ」
「私の誕生日だけど、梓ちゃんの日でもあるし」
「全然身に覚えがないよ」

首を傾げると、憂は小悪魔に笑った。

「ほら、その首を傾げる感じとか、そっくり」

ますます訳が分からなくなっている私を見て、憂は酷くご機嫌だ。
いたずらをした子供みたいな表情。
憂っぽくないな、悔しいな、と思ったけれど、ほんのちょっぴり。
ほんの少しだけ、憂の新しい表情を知ることができて嬉しかった。

最近の私は憂に弱い。

いや、最近?
もしかしたら最初からかもしれないけれど。

「梓ちゃんと記念日が同じで、嬉しいよ」
「だから、私の記念日って何?」
「えへへ」

しかし、いつまで経っても憂は教えてくれそうになかった。

憂だけ知ってて、私だけ全然分かってないなんて、悔しい。

そろそろ「憂に弱い」なんて言ってる余裕がなくなってきた。
私は知りたいことは知りたいし、悔しいことは悔しいのだ。
例えば憂や唯先輩みたいにおおらかじゃない。

そういう感情を、知りたいという気持ちを、悔しいという気持ちを抑えられない。
ひたすらに子供っぽい私は、憂に問い詰めた。

「だから、何の日なの?いい加減教えてよ」
「な、なんで怒ってるの?」
「憂が教えてくれないんだもん。怒るよ」
「尻尾が膨らんでるよ、梓ちゃん」

「は?何言ってーーー」
「あと、毛が逆立ってるよ」
「…?」
「梓ちゃん猫さんだもん。だから梓ちゃんの日」

そう言って憂は私の頭を撫でた。
爆発しそうになった感情はなんとか抑えられた。
頭を撫でられる感触で、熱された感情が冷まされていく。

「梓ちゃん。猫さんはなんて鳴く?」
「…にゃー?」
「三回鳴いて」
「にゃーにゃーにゃー」
「2月22日だよ。だから梓ちゃんの日」

「ああ、」
思わず声を漏らした私に、憂は「わかった?」って言って笑った。

「…私は猫じゃない」
「え?梓ちゃんはあずにゃんでしょ。えへへ、あずにゃーん」
「うう…」

憂は、あずにゃん、あずにゃん、と楽しそうに繰り返す。
いつもだったら全力で止めてるけれど、今日はもうそんな気も起こらなかった。

…憂と記念日が一緒。
猫扱いされるのは気に入らないけれど、憂と一緒なのはとても光栄だった。

後ろ手に持った箱を憂に差し出した。

「憂、プレゼント」
「わぁ、ありがとう!」

嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる憂が可愛い。
もし尻尾がついてたら、ぱたぱたって忙しなく動いてるに違いない。

…ああ、私が猫なら憂は犬か。

それなら一緒じゃないか。

「憂は犬みたいだよね」
「えー?そんなことないよ」
「あるよ」
「そうかな?」
「ねえ憂、私の誕生日はいつか知ってる?」
「11月11日」
「ワンワンワンワンだから、憂も一緒だよ」

言うと憂はくすくすと笑った。

「犬の日は11月1日だよ。残念だったね、梓ちゃん」


…やってしまった。
顔が熱くなるのを感じる。

憂はそんな私を見てもっと嬉しそうな笑顔を作る。
私もどうでもよくなってしまって、つられて頬が緩む。

「私、梓ちゃんの夢をみたよ」
「そうなの?」
「うん、それで猫の日だったーって思って、お祝い」
「へえ…」

私は憂に弱い。
多分きっと、これからもずっと。
何回誕生日を迎えても、これだけは変わらないだろう。


誕生日おめでとう、憂。



おしまい!



最終更新:2012年02月22日 23:42