「ふんまつ!」


テレビ「……寒気が流れ込み、しばらく厳しい冷え込みが続くでしょう」

梓「ねー、お茶入れて」

律「自分で入れろ」

梓「けち」

律「コタツから出るのやだし」

梓「朝からずっと篭もりっぱなしじゃないですか」

律「休みなんだからいいじゃん」

梓「怠け者」

律「お前こそ」


梓「うぅ~寒さむ」ゴソゴソ

律「お茶っぱはそっちの棚な。あと私の分も」

梓「あっずるい」

律「こういうのは先に出た奴が負けなの」

梓「むー」


グリグリ

梓「あれ?」

律「どした」

梓「蓋が開かな……」

ボフンッ 

梓「」

律「あーあ、何してんだよ」

梓「」

律「たくっ」ヨッコイショ


モワモワ

梓「」

律「おい、大丈夫か?」

梓「……」ムズムズ

律「梓?」

梓「へっくしゅんっ!!」

律「」


梓「うー、鼻がかゆい……あれ、律先輩?」

律「」ベチョ…

梓「何してんの、汚いなぁ」

律「おいコラ」


律梓「はじまり!」



「せいめい!」


律「ひまー」ゴローン

梓「……」カタカタ

律「あーずさー」

梓「はいはい後でね」

律「さっきからパソコンで何してんの」

梓「占いです」

律「くだらん」

梓「これが結構当たるんですよ。この姓名判断とか」

律「親にもらった名前にあれこれ言うとは烏滸がましい」

梓「えっと、田井中律っと」カタカタ

律「人の名前を勝手に使うなっ」

梓「結果が出ました」

律「どれどれ」ズイッ

梓「結局気になってるじゃないですか」

律「うっせ」


姓:田井中 名:律
画数:22  総格:大凶
講評:不運がつきまとう凶数。苦労するでしょう。


梓「……」

律「……」

梓「……」プッ

律「笑うな!」

梓「なるほど、やっぱり不運なんだ」

律「やっぱりって何だよ」

梓「いえいえ、別に」

律「ちっ……そういうお前はどうなんだ」

梓「あ、やって見ますね」カタカタ


姓:中野 名:梓
画数:26 総格:大吉
講評:すばらしく天運に恵まれた大吉数。幸多き人生を送るでしょう。


梓「わーい、やったぁ」

律「……」

梓「どうですか、律先輩」ドヤッ

律「納得いかない」

梓「これが現実ですよ」キリッ

律「占いで現実語るな」

梓「!」ピコーン

律(碌でもないこと思いついてそう)

梓「ふんふん♪」カタカタ

律「……」コソ


姓:中野 名:律
画数:24 総格:中吉
講評:吉数。努力次第で道は開けるでしょう。


律「おい」

梓「さっきよりマシになりましたよ」

律「余計なお世話だ」

梓「これは律先輩が嫁に来るべきという天啓です」

律「やだ。名前変えたくないし」

梓「えー」

律「おめーが田井中になればいいじゃん」

梓「私だって中野のままがいいです」

律「じゃあ間をとって、田井中の田井と中野の中で田井中梓ってのはどうだ?」

梓「それなら田井中の中と中野の野で中野律でどうですか?」

律「田井中梓!」

梓「中野律!」

律「お前が嫁に来ればいいだろ!」

梓「ウチで嫁っぽいことしてるのは律先輩の方じゃないですか! 炊事に掃除に洗濯に……」

律「お前がやらんからだろ!」

律「だいたいお前私のお嫁さんになりたいって言ってたじゃん!」

梓「律先輩が婿に来ればいいんです!」

律「私は女だ!」

梓「女婿です!」

律梓「む~~~~」

律梓「ふんっ!!!」




梓「てことがあってね、ひどいんだよ律先輩」

憂「仲良しさんだね」ニコニコ

純(とっとと結婚しろバカップル)




「ゆたんぽ!」


けんか中!

梓「……」ムスッ

律「だーかーらー、悪かったって言ってるじゃん」

梓「誠意が感じられないです」

律「楽器店は明日でも行けるだろ」

梓「私は約束を忘れられたことを怒ってるんです」

律「ぬぐっ」

梓「誰かさんがあったか~~い部室で、ほっかほか~なムギ先輩の紅茶を頂いてる間」

律「うぅ……」

梓「私は正門で一人寂しく待ち続けていたんですから」

律「ご、ごめん」

梓「はぁ~、今日は特に寒かったなぁ」

律「……」

梓「風が冷たくて、手と頬が痛いぐらいに冷えて」

律「……」

梓「それでも田井中先輩が来ないから、何度も何度も時計見て、事故でもあったんじゃないかと心配までして」

梓「あげくのはてに『忘れてた』だもんなぁ」

律「……悪かったよ」

梓「私は田井中先輩との約束を、ぜったい、ぜぇ~~ったい破らないのになぁ」

律「返す言葉もない」

梓「三回まわってワン」

律「クルクル……ワン!」

梓「でも許してやんない」

律「てめぇ!」

梓「逆ギレするんですか?」ギロッ

律「っ……」タジタジ

梓「今日は別の布団で寝ます」

律「あっそ」

梓「……」


律「じゃ、電気消すぞ」

梓「……」

カチッ

律「おやすみ」

梓「……」

律(返事なし、か。こりゃ相当怒ってんなぁ)

律(また明日にでも謝るしかないか)


ヒュー ガタガタ

律(ひぃ~、今夜はやけに寒いなぁ)ブルブル

律(……湯たんぽがいないからか)

律(こりゃ早いとこ仲直りしないと体が持たん……)

ゴソゴソ

律「……ん?」

梓「……」キュッ

律「あっちの布団で寝るんじゃないのか?」

梓「……」

律「この布団で二人は狭いぞ」

梓「うるさいです。ほっとけです」

律「へいへい」

梓「……」


律「私も抱きしめていい?」

梓「……」

律「……」ギュッ

梓「……」

律「苦しくないか?」

梓「……」フルフル

律「……許してくれたんだ」

梓「許しません」

律「あ、まだ」

梓「ただ、寒いのが嫌なだけです」

律「そうかよ」

律(素直じゃないなあ)クスッ

梓「……おやすみなさい」

律「ん、おやすみ」




梓「zzz」

律(うぅ……寒い、寒いよ)

梓「……」ゴロン

律(こ、こいつまだ布団持ってく気か!?)

律(そうはさせるかっ)ギュッ

梓「ん~……」ゴロン

律「」


カッチコッチ カッチコッチ

梓「♪」ホカホカ

律「」ブルブル



よくあさ!

律「くしゅんっ」

梓「風邪ですか?」

律「ん、ちょっとな」ズズ

梓「だらしないなぁ、普段から鍛えてないからですよ」

律「」ムカッ




「くっきー!」


梓「クッキーを作ってみました!」

律「へぇ、どれどれ」

梓「これです」スッ

律「」

律(これってクッキーか? 私の知ってるものと大分違うんだけど……)

律「な、何かすごく個性的な形だなあ」

梓「型がなかったんで生地はちぎって焼きました」

律「へ、へぇ~……てか、色がやけに黒いな。ココアパウダーでも入れたのか?」

梓「いえ、焦げちゃいました」テヘッ

律「……」


梓「ね、ね、食べてみてください」

律「あ、えっと……」

梓「……律先輩のために作ったんです」

律「」キュン

律(何という卑怯者。そんなこと言われたら食べない訳にはいかない)

律(しかしこのクッキー、何をどう見ても美味しそうには見えない)

律(下手すれば、腹を壊す可能性もある)

律「う~~~ん」

梓「……」

律「……」


梓「食べてくれないんですか……?」

律「へっ」

梓「……」ウルウル←何かを訴える梓の眼差し。律は萌え死ぬ。

律(うぅ~~~わぁーったよ!)

律(……こうなったらやるっきゃない)

律(田井中律、覚悟を決めて食べさせていただきます!)


その時の私は、戦場に向かう兵士そのものだった。

愛する者のために、命すら捨てる覚悟でいた……!


律「」ヒョイ

梓「あっ」

パクッ

律「むぐぅ!?」

梓「り、律先輩っ?」

律「……」

梓「……」

律「く、くくっ……」

梓「?」



    パッサパサ!
        パッサパサ!
            口のなかパッサパサ!

     ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩
     ( ・x・) ・x・) ・x・) ・x・)  口の中
    /    \  \  \  \    パッサパサだよ!
  ((⊂  )   ノ\つノ\つノ\つノ\つ))   パッサパサだよ!
     (_⌒ヽ ⌒ヽ ⌒ヽ ⌒ヽ       パッサパサだよどーしてくれんだアズサちゃん!
      ヽ ヘ } ヘ }  ヘ } ヘ }
  ε≡Ξ ノノ `Jノ `J ノ `J ノ `J


  \\                                         //
   \\ 口 の 中 パ ッ サ パ サ だ よ パ ッ サ パ サ//
     \\                                  //

       ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩ ∩∩
       (・x・) (・x・) (・x・) (・x・) (・x・) (・x・) (・x・) (・x・) (・x・) (・x・)
       ⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂⊂ ⊂
       し-つし-つ し-つし-つ し-つし-つ し-つし-つ し-つし-つ


この日以来、私は梓に少なくとも料理の出来については正直に言おうと決意した。




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最終更新:2012年02月25日 20:42