梓「一生懸命作りました」

梓「見栄えは悪いけど……受け取ってください!」

律「梓……」

律「梓が作ってくれたんだ」

梓「は、はい」

律「これ、私の顔か?」クスッ

梓「あ、あの、下手くそで、その、ごめんなさいっ」

律「ううん、嬉しい」

梓「本当は、みんなの分もつくるつもり、だったんですけど、」

梓「私、元が不器用で、律先輩のだけでも、満足に作れなくて……結局憂に頼っちゃって」

律「……」

梓「私は、こんなことぐらいしか、できないのに、それすらも満足にできなくてっ」

律「……」

梓「ごめんなさい……余計な話に時間とらせちゃいました」

律「……」

梓「それじゃ、がんばって……」

律「梓」

梓「!」ビクッ

律「あーずさ」

梓「な、何ですか?」

律「……」ギュッ

梓「っ!?」

律「しばらくこうさせて」

梓「は、はい」

律「……」

梓「……」ドキドキ

律「ありがとな、こんな私のために」

梓「そんな、私は別に」

律「実はさ、結構……ってか、すごく不安だった」

律「成績とか全然足りてないしさ。私一人だけ落ちたらどうしようって」

律「てか、そうなるんじゃないかって」

梓「……」

律「でも、梓のおかげで勇気出た」

律「ありがと」

梓「……はい」

律「……」

梓「……」

律「そろそろ、か」ポンッ

梓「……」

律「梓」

梓「はい」

律「私、絶対合格するから」

梓「はい」

律「梓に真っ先に連絡するから」

梓「はいっ」

律「絶対梓に、いい報告するから」

梓「……待ってます」


律「じゃ、ちょっくら頑張ってきますか」

梓「……」


梓「律先輩!」

律「ん?」

梓「行ってらっしゃい!」

律「……うん、行ってきます」


梓「……」

憂「渡せた?」

梓「うん、ちゃんと」

憂「そっか。よかった」

梓「憂には色々してもらったね。ありがと」

憂「私は何もしてないよ。頑張ったのは梓ちゃん」

梓「……ううん、憂には本当に感謝してるから」

憂「えへへ、どういたしまして」

梓「ねえ憂」

憂「うん?」

梓「私、決めた」

梓「受験が終わって、律先輩が落ち着いたら……言ってみる」

憂「そっか」

梓「断られちゃうかもしれないけど、伝えるだけ伝えてみる」

憂「きっと上手くいくよ」

憂「だって梓ちゃん、ずっと律さんのこと見てきたんだから」

梓「そう言ってもらえると安心する」

憂「頑張ってね」

梓「……うん」


-----



梓「懐かしいなあ」

梓「そっか律先輩ずっと持っててくれたんだ」

梓「……えへへ」


梓「って、物思いに耽っていたらもうこんな時間!?」

梓「早いところ大掃除終わらせなきゃっ」

「ただいまーっ」

梓「わわ、律先輩帰ってきちゃった」アタフタ

「あずさー?」

梓「はーい、お帰りなさーい!」

律「あれ、部屋がきれいになってるような」

梓「ちょっと年末の大掃除を」

律「そっか、もうそんな季節か」

梓「……」ニコニコ

律「何でにやけてんの?」

梓「時間が経つのは早いですね」

律「今年もあと少しだもんな」

梓「りーつせーんぱいっ」ギュッ

律「おわっ!?」


ご存じの通り、この後私の想いはちゃんと実を結ぶことになるのですが。

それはまた、別のお話。




「ねんまつ!」


梓「もーいーくつねーるーとー おーしょーおーがーつー♪」

律「つっても明日だけどな」

梓「大晦日の恒例、紅白を見ましょう!」

律「えーガキ使見ようぜ」

梓「やですよ、紅白見ないと明日の話題についていけなくなるんだから」

律「ガキ使見ないと年越した気分になんないの」

梓「紅白!」

律「ガキ使!」

律梓「う~~~」

律梓「じゃーんけーん」

律梓「ぽん!」

律「……」ブスー

梓「大晦日はコタツで紅白に限ります」

律「歌番組なんざ毎週見れるだろうに」

梓「じゃんけん弱い人の負け惜しみが聞こえるなー」

律「なんで私はあそこでグーを……」ブツブツ

梓「顔に出てるんですよ」

律「ちくしょう、ちくしょう……」

梓「CMの間は変えてあげますから」

律「うるへー!」




梓「おそば美味しかったです」ポンポン

律「お粗末さん」

ボーン ボーン

梓「今年もあと数分かぁ」

律「色々あったな」

梓「律先輩と一緒に暮らし始めて、もう大分経つんですね」

律「だな」

梓「はぁ、高校を卒業したのがずっと前だなんて」

律「……」

梓「……何だかこの時間ってしんみりします」

律「寂しい感じがするよな」

梓「そっち行っていいですか?」

律「ん、おいで」

梓「……」ゴソゴソ

梓「……」ギュッ

律「よしよし」

梓「ずっとこうしていたいです」

律「今夜はこのまま寝ちゃうか」

梓「はい」

律「……」

梓「……」

梓「律先輩」

律「んー」

梓「……どこにも行かないでくださいね」

律「なんだよ急に」

梓「時々、思うんです。律先輩と離ればなれになっちゃったらどうしようって」

律「……」

梓「もう独りぼっちは嫌だもん」キュウ

律「梓」

梓「……」

律「どこにも行かないって」

梓「……」

律「私はお前が大事なんだから」

梓「……」

律「こんな可愛い後輩、独りぼっちにさせるもんか」

梓「……」

律「約束する」


ポーン

律「ほら、年明けたぞ……って」

梓「……」スースー

律「寝てるしっ……せっかく人が真面目な話をしたってのに」

律(つか、なんか既視感)

梓「……」スヤスヤ

律「……」

律「まいっか、私も寝よ」

律「おやすみ」ギュッ




「しんねん!」


梓「律先輩、律先輩」ユッサユッサ

律「……んぁ」

梓「朝ですよー」

律「ふあぁ……おはよ」

梓「新年明けましておめでとうございます!」

律「ん、おめでと」

律「いつも寝坊助なのに今日は早起きだな」

梓「今年からは早寝早起きを心がけることにしました」

律(持って三が日までだな)

律「お、年賀状来てる」

梓「澪先輩、唯先輩、ムギ先輩、憂と純……」

律「さわちゃんに、和からも」

梓「ふふっ……えへへー」ニヘラ

律「ご機嫌だな。年明けだからか?」

梓「違いますよ、ここ」

律「宛名欄がどうかした?」

梓「私と律先輩の名前がセットで書かれてるのが嬉しくて」ニコニコ

律(新年早々幸せな奴)

律「じゃ選別すっぞ」

梓「はーい」

律「これは私宛てで、こっちは梓宛て……」

律(お、梓のお母さんから……)

律(梓を今年もお願いします、か)

律(了解しましたっと)

梓「どうかしました?」

律「んにゃ、ちょっとな」

梓「ふぅん……?」

梓「ふー、こっちの選別は終わりましたよ」

律「お疲れさん。終わったらお雑煮作るか」

梓「わぁ、楽しみです」

律「もう少しだからちょっと待ってろ」

梓「はーい」

律「これは私宛て……」

律「……っておい」

梓「誰からですか?」ヒョコッ

律「お前だよ」

梓「あ、私の年賀状!」

律「いやいや一緒に住んでるのに」

梓「えへへ、この写真いい笑顔で写ってますね」

律「自分で言うな」

律「それで、梓さん」

梓「はい」

律「宛名が『中野律』ってどういうことだよ」

梓「律先輩は中野家の婿になるんですから」

律「まだそのネタ引きずってたのね」



律梓「今年もよろしく!」






最終更新:2012年02月25日 20:46