りつ「あーなんか今日はたいくつー。たいくつたいくつっ。」

紬「そうかしら?わたしは楽しいけど」

りつ「ムギはいつも楽しそうだよなあ。部活に入ってからは特に。やっぱわたしの言うことはいつも正しい」

紬「りっちゃんはいつも一言余計ね」

りつ「なあにー。ムギめー」

紬「きゃあー」

紬「いいこと教えてあげる」

りつ「なーに」

紬「そういうときはね誰かといるって思うと楽しくなるのよ」

りつ「誰かといる?」

紬「そう。
今、わたしはりっちゃんといるんだ。
今、わたしはりっちゃんといるんだって
強く意識すると楽しくなるの」

りつ「うーむ。わたしはムギといるわたしはムギといる……
ホントだこれは楽しいなあ
うぇっへっへ……ってなわけあるかー」

紬「きゃあー」

わたしたちは笑い声を上げました。
ほらっ、ね。


わたしは二年生になって
梓ちゃんが新しく部員に入って
何度かステージも経験しました。
日頃から練習を怠ってるわたしたちはそんなに演奏もうまいわけではありませんでした。
きっとテレビに出たら恥かくんだろうなあ。
ってりっちゃんに言ったら、まず出られないってバカにされました。
でも、なんだかんだでわたしたちはへらへらと笑って日々を歩いていきました。


唯「わたしねー小さい頃は物語を書く人になろうと思ってたんだよー」

律「もしかしてだけどそれって作家のことか?」

唯「うん。さっかー」

梓「ぷっ」

唯「どうかしたの?」

梓「いや、作家って頭とかいいんですよ。あ、どうぞ続けてください」

唯「あずにゃんめー」

梓「ひゃいいたい。ほっぺたひねらないでくらはい」

紬「今は違うの?」

唯「うん。小学2年生のとき和ちゃんに書いたお話を見せたらね、幼稚園の頃の作文?って言われちゃったんだ。それで諦めたよ。世の中は才能だね」

律「なーにが世の中は才能だよ」

澪「でも気持ちはわかるよ唯」

唯「さっすが澪ちゃん!」

澪「わたしは中1のときだったなあ。小説を書いて律に見せたらさ、思いっきし笑われたんだ。それでやっぱり世の中は才能だなって。な、律?」

律「うん。わたしのおかげで澪もりっぱな軽音部員に」

澪「いやみだよっ」

律「いたいっ」

梓「なんだか二人は才能以前の問題の気もしますが」

唯澪「むっ」

梓「い、いい意味ですよもちろん」

唯「澪ちゃんは左だ」

澪「うん」

梓「ひたあいいたいですすいません」

唯「わたしたちの夢はあずにゃんになんか負けないんだー」

澪「だー」

律「だからそういう問題じゃないだろっ」

澪「ムギは小さい頃の夢とかあった?」

紬「わたしは、今もだけど宇宙関連の仕事をしたいとはちょっと思うかしら」

律「あ、それって宇宙飛行士とか?」

紬「うん。でもなんでもいいのよ。宇宙ぽいっ仕事なら」

梓「なんかすごいですね。唯先輩とは大違いですよ」

唯「なんか今日はあずにゃんがかわいくてしょうがないよー」

梓「えへへ。右手はひっこめてくださいね」

紬「ふふっ」

律「でもなんで宇宙ぽいっ仕事なんだ?」

紬「笑わないでほしいんだけどわたし、その、宇宙人はいるって思ってるタイプなの」

澪「はい、ダウト」

律「どうかした?」

澪「幽霊と宇宙人なんていないからな。これは絶対的真理だからな。異論は認めないぞ」

律「気にしないでやってくれ」

唯「でもすごいよー」

紬「そうかな」

唯「うん。なんていうか夢があるよっ」

律「ばかっ。夢があるから夢なんだろ」

唯「そうなの?」

律「なあ、梓?」

梓「さあ」

澪「ちょっと待ってよ。唯は宇宙人とかいないと思うよな?」

唯「えーいるよっ。火星人はクラゲなんだよー。
コンニチハミオチャンナカヨクシヨウネ」

澪「うわっ。やめろやめろ」

唯「ミオチャンガボクヲイジメルヨ。
アズニャンタスケテ」

梓「えーいやです」

唯「ア、コンナジカンダ。
ムギチャンイツカマタウチュウデアイマショウ」

紬「えへへ。うん」

唯「澪ちゃん。クラゲ型火星人は帰っていったよ」

澪「ばかっ。こんな部やめてやるー」

紬「澪ちゃんダメよ。
軽音部をやめると妖怪ぶかつやめちゃだめが現れるわ」

律「そうだぞーみお。ぶ
かつやめちゃだめは夜お前のベッドの下で……」

澪「ひっ。じょうだん。じょうだんだってっ」

律「いぇい」紬「いぇい」

澪「もうやだ」

唯「ねえ、あずにゃん妖怪ぶかつやめちゃだめはベッドの下でどうするの?」

梓「さあ。自慰行為にでもふけるんじゃないですか」

唯「えっちだ」

唯「あ、そだ。今日アイス食べいこうよ」

紬「わたしはごめんなさい。今日は大切なお客さんが来るの」

唯「えーだれだれ」

紬「ひみつよ」

律「あやしいぞー」

紬「ふふっ。そういうんじゃないわ」

唯「えー、そういうのって何かなあムギちゃん?」

律「ふふふっ墓穴を掘ったなあ」

紬「あ。でもでもほんとにそういうのじゃないから」

律「だからそーいうのって何だよー」

唯「ムギちゃん顔赤いー」

紬「もうっ」

唯「いぇい」律「いぇい」

澪「気持ちはわかるけど同情はしないからなー」

唯「で、あとのみんなは?」

律「わたしは聡とデートだわ」

澪「今日は和に勉強教えてもらうからな。また今度で」

唯「あずにゃんは?」

梓「わ、わたしは宗教上の理由で夜6時以降は唯先輩と外を出歩かないようにしてます」

唯「そっか」

梓「あ、うそです。うそです、てばっ」

律「あ、そうだムギ貸す予定だったビデオ。はい」

紬「ありがとっ」

唯「何ー」

律「感動ノンフィクションだぜ」

澪「あ、わたしそういうの好きだよ。
動物の話とか泣けるよな」

律「そうそう」

梓「それで何借りたんですか?」

紬「宇宙戦争」

澪「それはフィクションだっ」

律「いたいっ」


家に帰ったあとアナログテレビで借りたビデオを見ました。
律っちゃんから借りたのは三本で、
宇宙戦争とザ・フーのライブ映像、
あと学園祭のDVDを特別にビデオに移したものでした。

最初に宇宙戦争を見ました。
見てる間、唯ちゃんのクラゲ宇宙人と怖がる澪ちゃんのことを思い出しちゃって
映画に集中できませんでした。
二本目を見終えたところでノックの音がしました。

こん。こん。こぉぉん。

わたしはあらかじめ作っておいたケーキを準備してから、
玄関のドアを開きました。

二人で学園祭の演奏を見ました。
やっぱりそれはあの頃テレビで見ていたあの映像よりは
ずっとへたくそでかっこわるかった。

でも、わたしは好きです。
誰か別の記憶じゃなくて、
わたしがちゃんといるこの場所が。
テレビの向こうにいたあの人たちじゃなくて、
自分が立ってる横で笑ってるみんなが。

紬「どうかしら?」

りつ「だっせえよ」

紬「そうかなあ」

りつ「でも、私が先にこれを見てたらさきっと憧れてたよ。
あ、ムギが笑った」

りっちゃんは画面を指差しました。
たしかにわたしは笑っていて
それを見るのはなんだか恥ずかしい。

りつ「なんかさ私もう来ないほうがいい気がする」

紬「なんで?」

りつ「だってなあ。
ムギはあのときみたいにひとりぼっちってわけじゃないし。
だからあれだよ、わたしはさ、
もうムギに必要ないんじゃないの」

紬「違う。それは違うよ。
わたしね、はじめあのテレビで見たあの景色に憧れてたの。
ああいう風になりたいなあって。
だから軽音部に入ったときもみんながまるで
あのテレビの登場人物みたいに見えた。
でもそうじゃない。
みんなぜんぜん違ってた。
実はね最初はテレビのほうがよかったって思ってたわ。」

そう。
みんなには悪いけどわたしはそう思っていたのです。

紬「でも、ほら、笑っちゃうの。
何をしたって、
誰かが何かしてそしたら
わたしは笑っちゃうもの。
テレビにはつまんないときなんてちょっともないんだけど
わたしたちはすごくつまんないこともあるわ。
でもつまんないのに笑っちゃう。
変でしょ?」

じぃじじじぃぃ。
ってビデオを流し終わったテレビが音をたてました。

紬「ねえ、つまんないのに笑うって何でかわかる?」

りつ「いやわかんない」

紬「わたしも。でも、たぶんだからわたしはみんなといるのが好きなの」

りつ「そっかあ」

紬「それでね。
これが言いたかったんだけど
前にやったじゃない。
つまんないときに、
誰かといると思うと楽しいってやつ」

りつ「うん」

紬「あれは前にやっぱりつまんないときに律っちゃんが考えたんだけど」

りつ「律っちゃんっていうのはさっきのドラムだよな?」

紬「そう。
それで前つまんないときりっちゃん」

わたしは目の前のりっちゃんを指差しました。

紬「とやったじゃないさっきのを。
で、笑えたからりっちゃんはここにいてもいいのよ」

りつ「なんだよソレっ。おかしーし」

紬「ふふっ」

りつ「笑わないからな」

紬「むー」

りつ「そっか。
じゃあまた夢見ていいんだ」

紬「待ってるわ」

りっちゃんは目の前のケーキを食べようとして、
ふと動きをとめた。

りつ「そうだ。いつもケーキおいしいって言えないからさ。
先に言っておくよ。
いつもすっごくおいしいっ」

紬「わたし、実はケーキ作るのすっごいへたくそなのー」

りつ「え、マジで?」

紬「じょうだんでしたー」

りつ「なんだよっ」

わたしたちは笑いました。
りっちゃんはケーキを食べようとして、
そして消えてしまう。

わたしはその間、宇宙を寝ながら漂っているりっちゃんたちのことを想像していました。
それを宇宙船に乗ったわたしたちが見つけて、
彼女たちを起こして、大騒ぎして。
そんな幼稚な妄想。
わたしは笑いました。

結局りっちゃんが食べることのできなかったケーキをわたしは食べました。
甘くておいしい。

もしかしたらわたしも夢を見てるのかもなんて。
じょーだん。じょーだん。



終わり。
なんだか長くなってしまいすいません。
あと、設定を故意に変更してしまったので不快に思った人がいたらそれもすいませんでした。



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最終更新:2012年02月28日 21:42