直「平沢先輩って、毎日何時頃に起きてるんですか?」
憂「うん? 5時半くらいかなあ」
直「早起きですね」
憂「ごはんの用意とかしないといけないからね」
直「早起きのコツみたいなものってありますか?」
憂「うーん、どうだろ……毎日自然とそのくらいに目が覚めちゃうし」
直「羨ましい話です」
純「え、奥田さんって、朝起きるの遅いんだ?」
直「ええ。最近、『寝坊癖』がついてしまったようで」
純「寝坊癖?」
直「まあ寝坊と言うほどではないかもしれませんが……ここ5日ほど連続で、8時起きなんですよ」
梓「8時って……それ遅刻するんじゃないの?」
直「最初の4日は何とか間に合ったのですが、とうとう今日遅刻してしまいました」
純「あちゃー」
直「本当は今日も間に合うはずだったんですけどね……」
憂「どういうこと?」
直「ちょっと予定外のことがありまして」
────
──
キーンコーンカーンコーン
ガララッ
直「はぁ……はぁ……なんとか今日も間に合った……」
シーン
直「あれ、皆は?」
黒板『 1限目 体育に変更 』
直「」
────
──
直「と、まあこんな感じです」
純「あらら」
菫「しかもそのあと……」プルプル
梓「何かあったの?」
直「持ち前のうっかりが発動ですよ」
────
──
教師「遅いぞー! もっと余裕を持って来んか」
直「すみません」
<クスクス クスクス
直(嘲笑の嵐が心に刺さる)
教師「ん? 奥田お前……」
教師「体操服、前後ろ逆だぞw」
直「え?」チラ
直「」
<どっ
────
──
直「赤っ恥ですよ、本当」
純「あっはっはっはっは」バンバン
梓「じゅ、純笑いすぎ」プルプル
憂「そ、それは大変だったね……」
直「ええ。それで、何としてもこの『8時起き癖』から脱却したいのです」
純「目覚まし時計は使ってないの?」
直「使ってます。でも、いつの間にかオフになってるんですよ」
純「どゆこと?」
梓「無意識のうちに止めちゃってるんだろうね、多分……」
直「ええ、恐らく」
菫「あのさ、もしかして寝るのが遅いんじゃない?」
梓「確かに、夜更かししてそうなイメージが……」
直「うーん……」
直「そういえば、近頃は2時過ぎまで起きてるかも」
純「それだ」
菫「それを2時間ほど前にずらせばいいんだよ」
直「でも、夜の方が勉強も作曲もはかどるんだよね」
憂「けど、健康にはあんまり良くないんじゃないかな」
憂「夜の10時から2時までが、一番疲労回復できる『睡眠のゴールデンタイム』だって聞いたよ」
純「完全に外してるじゃん、奥田さん」
直「そうですね……」
直「じゃあ、今日は10時に就寝しようと思います」
菫「うん」
憂「寝る3時間前は、なるべく何も食べないようにね」
直「ええ、気をつけます」
純「早起きして、身支度を完璧にしてこそ、いいオンナへの扉は開けるんだよ」
直「肝に銘じておきます」
純「うん、じゃあ悩みも解決したことだし、今日は解散!」ガタッ
梓「 練 習 ! 」
純「……はい」
***
その夜 PM10:00
直「……」
チクタク チクタク
直「……」
チクタク チクタク
直「……」
チクタク チクタク
直(……眠れない)
直(羊でも数えようか)
直(羊が1匹、羊が2匹、羊が……)
直(あ、中野先輩……なんで猫耳?)
直(羊が3匹、羊が……いや、中野先輩が2匹……ちょ、混ざる混ざる)
直(いっそ羊を抜きにして──)
直(────)
直(────)
直(────)
次の日
直「……はっ」
直「現在時刻は……」
直「……8時、だと?」
***
純「で、今日もダメだったと」
直「ええ、残念ながら」
菫「そっか……」
直「6日連続食パン加えてランニング登校……」
純「そろそろ曲がり角で転校生とぶつかるんじゃない?」
梓「何それ」
直「何と言いますか、一度身に付いた生活習慣を変えるのって、なかなか難しいんですよね」
純「うーん……憂の早起きも、生活習慣の賜物なんだろうね」
梓「あのさ、思ったんだけど」
梓「家族に起こしてもらえばいいじゃん。5人姉弟なんだから」
梓「ほら、唯先輩だって、毎日憂に起こしてもらってるからあんまり遅刻はしなかったみたいだし」
純「確かに、一番確実で手っ取り早いかも」
憂「うーん、でも……」
────
──
憂「お姉ちゃん、朝だよ起きてー」
唯「……うーん」
憂「遅刻しちゃうよー?」ユサユサ
唯「……すー……すー……」
憂「もう……」
憂(でも、お姉ちゃんの寝顔かわいいな)
憂(なんだか起こすのがもったいないよ……)
憂「♪」ジー
唯「……すー……すー……」
────
──
憂「で、結局遅刻ギリギリになったことが……」
純「どんだけ唯先輩LOVEなの」
憂「えへへ」
純「褒めてない褒めてない」
直「あー。うちの場合はその逆ですね」
梓「逆?」
直「起こし方が荒過ぎるんです。人が寝てる所にダイブしてきたり」
梓「弟とか妹が?」
直「ええ。とてもじゃないですが起こすのは頼みたくありません」
憂「かわいい起こし方だと思うけど」
直「いえ、一回肋骨にひび入りましたから」
純「うわ……」
直「やっぱり家族って、甘すぎたり厳しすぎたりでなかなか上手く行きませんよね」
梓「いや、二人の場合は両極端なだけだと思うけど」
純「その点スミーレの所はいいんじゃない?」
菫「はい?」
純「限りなく家族に近いけど礼儀は忘れない距離感って感じ?」
憂「やっぱり、『お姉ちゃん起きてー!』ってやったりするの?」ズイッ
菫「い、いえ……お嬢様はご自分でもきちんと起きられる方でしたし」
菫「あ、でもたまには私が起こしに行くこともありましたね」
憂「やっぱり!?」ズイッ
梓「食いつきすぎ……」
菫「これは私の失敗談なのですが……」
────
──
菫「お嬢様朝ですよ、起きてください」
紬「……むにゃむにゃ」
菫「学校に遅れてしまいますよー」ユサユサ
紬「……すー……すー……」
菫「もう……お姉ちゃん!!」ユッサユッサ
紬「……ふあ」
紬「菫……今日土曜日よ」
菫「えっ」
────
──
純「あははは」
憂「姉妹愛っていいなあ……」
梓「そういう話だっけ? というか話題がずれてきてるよ」
直「私の家にもメイドが欲しいですね。優しく起こしてくれるメイドが」
純「スミーレに来てもらったら?」
菫「え……//」
直「でも菫は琴吹家専属ですし」
菫「う、うん……そうだね」
梓「別にさ、メイドじゃなくてもいいんじゃない?」
直「と言うと?」
梓「去年の話なんだけど……」
────
──
唯「そういえば、りっちゃんってほとんど遅刻しないよね」
律「へん、当然だ」
梓「そうなんですか? 週に一度は遅刻してそうなイメージがありますけど」
律「中野ぉ!」グリグリ
梓「い、痛たた! すいませんすいません! 冗談です!」
紬「あらあら」
澪「でも、中学生の時はひどかったぞ?」
澪「登校する時、待ち合わせ場所になかなか来ないから迎えに行ったら」
澪「『今起きたところだ』とか。そんなんがしょっちゅうだった」
律「そうだなー。澪に何回も怒られるうちに寝坊癖が直っていったんだよな」
紬「いいわねー、幼馴染って」ポワポワ
────
──
直「なるほど。友達に起こしに来てもらう、と」
純「いいなー、私も澪先輩に家まで迎えに来てもらいたいよ」
直「でも私、近所に桜高生の友人がいませんよ」
菫「わ、私行ってもいいけど」
直「いや、流石に家が離れ過ぎてるよ。悪いって」
菫「そ、そっか……」
純「待った」
直「はい?」
純「名案を思いついたよ」
憂「名案?」
純「そうとも」
梓「何よ」
純「……」
純「モーニングコールだ!!」ビシッ
直「モーニングコール?」
***
次の日
直「……」グーグー
<ハーナニナロー♪ カーゼニナロー♪
直「……」グーグー
<キーミノメニ♪ ウツルケシキ♪
直「……!」ピッ
直「……もしもし」
菫『お、おはよう直。その、約束通りモーニングコールを……』
直「……うん、この電話で起きたよ」
直「ありがと」
菫『ど、どういたしまして……』
菫『えと、じゃあまた教室で』
直「ん、またね」ピッ
直「……」
直「……」
直「……」
直「……」ウトウト
直「……Zzz」
<ハーナニナロー♪ カーゼニナロー♪
直「……はっ」ピッ
菫『大丈夫? 二度寝してない?』
直「……鋭いね」
菫『もう……今すぐ布団から出て。電話切らずに』
直「後30秒」
菫『だ、ダメだよ。ほら早く』
直「……はい」モゾモゾ
菫『起きたらそのまま洗面所に行って顔を……』
直「え、そこまでやる?」
菫『また二度寝するかもしれないし』
直「流石にもうしないよ」
菫『い、いいから』
直「はあ」
直(……でも、確かにちゃんと起きられたし、こういうのも悪くないかも)
直(……鈴木先輩にお礼言わないと)
菫『……直』
直「……うん?」
菫『それが終わったら、で、電話切らずに着替えを……』ハァハァ
ピッ
直「……」
直「やっぱり、ちゃんと自力で起きよう」
おわり
最終更新:2012年02月29日 22:02