律「どこいったぁ、梓ぁ!」

澪「ケツの穴に銃口ぶっさして引き金引いてやるっ!」

梓(ハァハァ……。とりあえず大樹の陰に隠れたのはいいけど)

梓「このままじゃ時間の問題だ……。手を打たないとっ!」

ゴロン

梓(大きな石……? そうだ、これを投げつけて攻撃するっ!)

梓(そう、やらなきゃやられるんだ!)

梓「――うおぉー!」ブンッ

律「ちょっ、石ぃ?」

澪「――律、危なーい!」

ゴンッ


律「澪っ! 腕がっ!」

澪「……くそう、不覚をとった!」

律「ああ、澪。私をかばって……」

澪「――当たり前だろう。マイ・スイートハート」

律「ああ、ハニー。不甲斐ない私を許してっ!」

澪「この程度の傷、猫一匹始末するにはなんともないさ」

律「……澪!」

澪「……律!」

ダキッ

梓(ようし、今のうちに逃げよう……)


梓(洞穴?)ダッ

梓(……ここで一時凌ぎができるかも。入ってみよう)イソイソ

モワモワ

梓(くさっ! ガスが充満してるじゃないの! これは危ない。早く抜け出さないと――)イソイソ

律「こるぁー、梓ぁ! 蜂の巣にしてやっかんなぁ!」

澪「桜高のイーストウッドの実力、思い知らせてくれるっ!」

ダーン
ダーン
ダーン

梓(だ、駄目だ! しばらくの間はこの洞穴に篭るしかない!)


梓(なんだかクラクラする……。やっぱりガスの所為だろうか?)

梓(き、気をしっかり持たないと! このままじゃ本当にやられちゃう)

モワモワ

梓(なんだかフワフワしてきたぁ。『君を見てると』なんとやらって歌があったようななかったような……)

モワモワ

梓(あはは、今度はハッピーになってきたぁ。私、なんとかなるんじゃない、多分?)

モワモワ

梓(うげげ、やっぱり気持ち悪いや! あの狂人どもから逃げ出す術を――)

律「――あーら、梓ちゅわん。こんな所にいたんだぁ」ヒョイ

澪「ふはは、探したぞぉ」ヒョイ

梓「!」

梓「――っ!」ダッ

澪「無駄無駄。この洞穴は袋小路になっているんだ」

律「袋の鼠ならぬ袋の猫ねぇ」

梓「あ、あああ……」

律「安心して? 一発で仕留めてあげるから」

澪「後輩のよしみでな」

梓「た、助け――」

律「……んっ?」

澪「どうした、律」

律「唯の匂いがしない?」

澪「まさか。唯はとっくに魚の餌にでもなっているだろう。いや、蟹かな」

律「あはは、ムギみたくねぇ」


梓「ムギ先輩が、蟹の餌……?」

律「そーよ。ムギッたらこの島に流れていてねぇ。ボロ雑巾みたいなナリで」

澪「蟹にはモテモテだったけどな、あははっ」

梓(なんという)

律「それにしても唯臭いわねぇ。どこからかしらんっ?」クンクン

澪「どれどれ」クンカクンカ

梓(ふ、二人が近づいてくる!)

律「――梓、口開きなよ」

澪「ほほう」

梓「く、口ですか?」


律「いいから開けっての!」グイッ

梓「あがが……」

律「――ふぅん。そういうことかぁ」クンクン

澪「どうした、律?」

律「どうやら平沢唯ちゃんはあずにゃんの半身と化したみたいでーす」

澪「合点がいかないが」

律「だからさ、梓が唯を食べちゃったの」

澪「あ、なるほど」ポンッ

梓(……)

澪「そういえば救命ボートがあったよな、ムギのクルーザー」

律「あれに乗って二人だけで逃げ出そうって寸法だったんじゃん」

澪「ずるいなぁ、ずるすぎるよなぁ」

律「で、道中で食べ物が尽きて――」

澪「腹をすかせた梓が、唯を食ったってわけか」

律「そそっ」

梓「――早くやってください」

律・澪「?」


梓「こうなった限り、もう助かりたくありません。早く」

律「ふぅん」

梓「ガスも苦しいですし」

澪「おっと、このガスは燃えないから、私たち諸共って浅はかな考えは通用しないぞ」

梓「だって、フワフワしてきますし……」

律「!」

梓「だって、モヤモヤしてきますし……」

律「!」


律・澪「この世界は私たちだけのものだ。手前は消え去れよ」

梓「?」

律「よっし、それじゃそろそろお終いにしますか?」

澪「だね。梓、どこがいい?」

梓「み、眉間でお願いします」

律「よしきた。澪――」

澪「エゼキエル書25章17節!」

律「心正しき者の歩む道は心悪しき者の利己と暴虐によって行く手を阻まれる」

澪「愛と善意の名によりて、暗黒の谷より弱き者を導きたるかの者よ神の祝福あれ」

律「主なる神はこう言われる。我が兄弟を滅ぼそうとする悪しき者達に 私は怒りに充ちた懲罰を持って――」

梓「あ、それ殆どが監督のそうさ――」

ダーン


律「……ふう、平和になったねぇ」

澪「これで私らを阻むものはいなくなったわけだ」

律「あ、ほら、澪! みて、夕日が沈んでく――」

澪「いや、私の太陽は沈まないよ」

律「?」

澪「だって、律が傍にいてくれるから――」

律「澪……」





?「縁結び島?」

?「ああ、そうだぜ。聡!」

聡「うさんくさいなぁ。オカルト的で。鈴木、おまえ、また変な雑誌ばっか読んでいるんだろう?」

鈴木「いんや、これははるか昔から伝わる――」

聡「くだらねぇ事いってんなよ」

鈴木「まあ聞けって」

鈴木「なんでもよ、その島には『ラブオーラ』とかいうモヤモヤしたガスみたいなこう……」

聡「アホか」

鈴木「アホじゃねぇったら。でよ、そのオーラにあてられた二人は自然と引っ付いちゃうって」

聡「ねーよ」

鈴木「でもよ、結構制限があるみたいなんだぜ」

聡「ふぅん」

鈴木「ある程度お互いを意識してなきゃダメなんだ」

聡「くだらねぇ」

鈴木「ま、要するに。最初っからラブラブな二人じゃないと効果がねぇって事よ」

聡「はは。意味ねぇじゃん」

鈴木「でもよ、そのオーラに強く当たられすぎたらよ。頭がイカレちまうらしいんだ」

聡「……本気で信じているのか、鈴木?」

鈴木「ねーよ」

鈴木「お前の姉ちゃん、何年も前に海難事故で亡くなったじゃん?」

聡「……」

鈴木「案外、そういうところに流れ着いていたりして、あははっ」

聡「冗談でもそんな事いってんなよ」ブンッ

鈴木「あだっ!」ゴンッ




澪「律、私の太陽……」

律「ああ、澪、見てっ! 妖精さんたちがっ!」

妖精「シャランラシャランラ」

澪「綺麗……。今なら空も飛べそう」

律「飛べるよぉ……今なら絶対!」

澪「律、おまえ――」

律「ほら、澪。あっちに崖があるよ。あそこからどこまでもでこまでも飛んでいこうっ!」

澪「――うん!」


ザザーン

律「ここよ、ここ」

澪「すごぉい……。地平線の彼方まで見える」

律「さ、飛ぼうっ! 妖精さんたちが行っちゃう!」

妖精「シャランラシャンランラ」

澪「……じゃん、見てよ、律」

律「手紙?」

妖精「シャランラシャランラ」

澪「妖精さんの国に行く前に、最後のメッセージってわけ」

律「へぇ、見せてよ」サッ

澪「あ、律!」

妖精「シャランラシャランラ」

律「皆さまお元気ですか。私は律と一緒で幸せです」

澪「ふふっ」

妖精「シャランラシャランラ」

律「律と一緒ならなんだってできちゃいます。向かうところ敵なしです敵なしです敵なしです」

澪「……」

妖精「シャランラシャランラ」

律「律が死ねというなら私は死にます。律だって同じ事を考えているに違いありません」

澪「でしょ、律」

律「もちろんさ!」

妖精「シャランラシャランラシャランラ」


妖精「シャランラシャランラ」

律「りつのからだはすべらかで、なめらかで、きもちいいです」

妖精「シャランラシャランラ」

澪「本当の気持ちだよ?」

妖精「シャランラシャランラ」

律「へぇ。嬉しいねぇ」

妖精「シャランラシャランラ」

澪「あはは」

妖精「シャランラシャランラ」

律「でも、わたしたちのからだにはげんかいがあります。おいです」

澪「老醜」

律「わたしにはそれががまんできません。いっそわかいまましねればいいのになんておもいます」

澪「はぁ」

律「――ようし、私が書き足したげる! ペン出して、ペン!」

澪「うん」サッ

律「準備がいいな」

妖精「シャランラシャランラ」

律「ふむ、『でも、妖精さんの国なら老いなんてないよ』っと」

澪「本当なの、律!」

律「わっはっは、事実なのだよ、澪」

澪「うわぁ、早く行きたい妖精さんの国に!」

妖精「シャランラシャランラ」

律「手紙を入れる瓶は?」

澪「うん」サッ

律「準備がいいな」

妖精「シャランラシャランラ」

ボチャン


律「これでよしだねぇ」

澪「いつでも妖精さんの国にいけるな」

律「ようし、助走つけようぜ、助走!」

澪「うん!」

妖精「シャランラシャランラ」

律「澪、私、澪に会えて幸せ」ギュ

澪「いつまでもいつまで二人で――」ギュ

妖精「シャランラシャランラ」

律「全力疾走だぁ! とりゃー!」

澪「――っ! 落ち……」

ヒューン
ボチャン

妖精「シャランラシャラ……」



~おしまい~



最終更新:2010年01月28日 22:22