平沢家ベランダ


唯「戸はそーっとね」カラカラ……

唯「風にあたったら落ち着くと思ったんだけど、どうかな、澪ちゃん?」

澪「ふふふ……」

澪「私は明日からどんな顔して軽音部に行けばいいのやら」ドンヨリ

唯「そのままでだいじょうぶだよ~」

唯「みんな、すごく心配してるんだよ?」

澪「そりゃあ、心配だろうさ……」

澪「だからこそ、恥ずかしくて死にそうだよ……」

唯「………………」

唯「澪ちゃん、私、毛布もってきてるんだ。寒いからいっしょに入ろう」ガバッ

澪「唯……」

澪「ありがとう……私、色々思い出してきたんだけど、唯には特に世話になったみたいだ」

唯「子どもの時って、どんな感じだったの?」

澪「ん? ああ、その時は正直私もよくわからないな。自分だけど自分じゃないというか」

澪「気付いたら唯と寝てて……後になってワッと自分のしたことを思い出してきたよ」

澪「クッ……思い出したらまた……」ワナワナ……

唯「………………」ギュッ

澪「わっ、わっ、唯!?」ジタバタ

唯「逃げたら、ダメ」ギュゥゥ

澪「うっ……うう」

唯「………………」

澪「………………」

澪「……なんか変だ。唯にこうされると、不思議なくらい落ち着く」

澪「子どもの時の記憶のせいなのかな」

唯「私は、うれしいよ……?」

澪「えっ?」

唯「澪ちゃんが帰ってきてくれて……」

唯「澪ちゃんもかわいかったけど、澪ちゃんにもどらなかったら、どうしようって思った」

唯「みんなも、ぎっとおんなじなんだよ。だがら……」

唯「ほんどうに……良がっだよ゛!」ポロポロ

澪「ゆっ、唯……!」

澪「お前っ、なにも、泣かなくても……」

唯「うう、な゛んが、なんが、でぢゃって……」ズビッ

唯「安心じだら、気がぬけじゃったの゛がな……」

澪「ごめん。ごめんね。唯。もう大丈夫だから……心配かけて、ごめん」

唯「う゛……うん……うん……」

澪「ほら……涙拭いてやるから」コシコシ

唯「ん……ん……」

澪「ああ、鼻水まで出てるよ」コシコシ

唯「ふがが……」

澪「あっ!」

澪「……ゴメン、よく考えたらこれ唯のパジャマだった……」

唯「…………ふっ」

澪「…………ふふっ」

唯「ふふふ、あはははっ!」

澪「ははははっ……っと静かに静かに、唯」

唯「う、うん、ふっくっくっく……」

唯「あのね、あのね……思えばさっきまで、私が澪ちゃんにいろいろしてあげてたのに」

唯「もう逆になっちゃってるの。それが、おかしくって……くっく」

澪「唯……」

 ・
 ・
 ・

澪「しかし今日は恥ずかしいところ唯にいっぱい見られてしまった」

唯「おあいこだよ。私も、泣いちゃったし」

澪「……そうかな」

唯「あんまり、つりあってないかな……?」

澪「唯は結構、人前で泣くからな」

澪「その点、私の方は大恥だ。1年の学園祭以来さ」

唯「ええー……なんども言うけど、かわいかったんだよ?」

唯「澪ちゃんは、自分を過小評価してるよ」

澪「え? うーん。どっちかと言うと、ただ目立ちたくないだけなんだけどね」

唯「もったいないよ。ファンクラブまであるのに」

澪「む~……」

唯「でもね」

澪「?」

唯「それでも、まだ澪ちゃんがはずかしいって言うんなら……」

唯「澪ちゃんを、ひとりにさせないよ」

唯「私もいっしょに澪ちゃんとおんなじくらい、はずかしくなるよ!」フンスッ

澪「? おかしなこと言うんだな唯。どうやってなるって言うんだ?」

唯「それはね……」

唯「澪ちゃん!」ギュウッ

澪「わっ! ま、またか、唯!?」ビクッ

澪「ず、ずるいよ、唯……私、なんだか唯に逆らえなくなってるんだぞ……」

唯「………………」ギュゥゥ

澪「そ、それにっ……これじゃあ恥ずかしいのはむしろ私の方なんじゃっ……」

唯「……やっぱり、そうだ」

澪「えっ?」

唯「澪ちゃんって、あったかくて、やわらかいんだけどね」

唯「なんかね、私のおなかの奥も、あったかいんだ……」

澪「え? え?」

唯「胸がきゅーって、くるしくって」

唯「こんなことはじめてで……どうしたらいいか、わからないよ……」

澪「う……あ」カアァ

唯「どうかな……澪ちゃん」

澪「なっ、何が……!?」

唯「私、今、すごくはずかしいよ……」

唯「顔があつい」

唯「こ、これで、澪ちゃんと……おんなじくらいかな?」

澪「……あ! うっ、うん。お……同じくらいだと、思う」ワタワタ

唯「ほんと? ……よかった」

唯「これで澪ちゃんは、ひとりじゃないよね……」

唯「がんばった甲斐があったよ」

唯「……だから澪ちゃん、ごほうび、ほしいな」

澪「うぇっ!? ……な、なに?」

唯「もうすこし、このままでいい?」

澪「う、うん。うん……」コクコク

唯「やったぁ。澪ちゃんって、やさしいから大好き」

澪「ゆ……唯」

唯「あったか~い。あ、見て見て、月がきれいだね~」

澪(冗談……なんかじゃないよな)

澪(だって唯の鼓動……すごく伝わってくるよ……)

澪(じゃあ、じゃあ、唯が私のことを?)

澪「………………」

 ・
 ・
 ・

澪「唯、唯……」

唯「…………はっ!」クワッ

唯「寝ちゃってたよ、私!」

澪「だと思ったよ。なんせどんどん力が抜けていってたもんな」

唯「ご、ごめんね澪ちゃん。そろそろもどろっか? 冷えちゃいけないし」アセアセ

澪「………………」

澪「……唯はさ」

唯「うん?」

澪「唯はさ、軽音部の夢とかってみるか?」

唯「え? 夢? うん、たまにみるよ~」

唯「夢の中でも、みんなとしゃべれて、お菓子たべて、得した感じだよね!」ニコッ

澪「夢の中でも練習より食べ物か……唯らしいな」クスッ

唯「へへへ、もうしわけない……」

澪「私もたまにみるよ」

澪「まぁ、もっとも私だってそんな練習の夢なんてみるわけじゃないんだけどな」

唯「澪ちゃんは、どんな夢?」

澪「多分、唯とそんな変わらないよ。のんびりした場面だったり、ふざけあってたり」

唯「澪ちゃんもかぁ~……じゃあ、みんなもそんな感じなのかな」

澪「ふふっ、そうかもしれないな」

澪「でもな、中でも印象に残っている夢があるんだ」

唯「へぇ」

澪「唯の夢」

唯「………………」

唯「えっ? わ、私?」

澪「うん。そう」

唯「そ……ソロで?」

澪「うん。ソロで」

唯「ど、どんな内容? まさか、夢の私、なんか変なことしでかすんじゃ……」

澪「あはは、夢だろ? どうして現実の唯が怖がるんだよ」

唯「だって、澪ちゃんの夢の私だよ~。とんでもない子だったら、ちょっとショックだよ」

澪「安心しろ。至って普通だよ。むしろ私の方が少し変だったかな」

唯「ムム、それで、どんな夢だったの? 興味ある」

澪「部室でな、私と唯と、二人だけでいるんだ」

唯「ふたりだけ……」

澪「曲の内容は思い出せないけど、唯は何か歌いながら演奏してたよ」

澪「私はベースを忘れでもしたのか、何も持ってなくて、ただイスに座って唯を眺めてるだけ」

唯「………………」

澪「窓からの陽にあたってキラキラしてすごく楽しそうで、羨ましい、みたいなことを思ってた気がする」

澪「ああ、そう言えば今思ったけど、初めて行った合宿の時の唯みたいな感じだったかな」

唯「合宿? 私、なにしたっけ……?」

澪「花火をバックにして、ステージに見立てたろ? あれだよ」

唯「あー、あー、懐かしいね~。あれは楽しかったよ」

澪「それでな、唯を見てるうちに、何もできない自分が無性に悲しくなってきて……」

澪「でも、目をそらすこともできなくて」

澪「私は泣いてしまうんだ」

唯「………………」

澪「そしたら、唯はふと演奏を止めて、私に笑いかけてくれて」

澪「右手を差し伸べてくれたんだ……」

澪「そこで夢は終わってしまったよ」

唯「………………」

澪「あっ、す、スマン、唯。夢の話なんてされても、困るよな……!」

澪「つっ、つまり……なんていうかっ」

澪「私のために、は、恥ずかしい思いしてくれただろ? だから私も絶対誰にも話さない秘密を話したというか……!」

澪「そ……それだけだから、あはは。さぁ、もう寝よう寝よう!」

唯「澪ちゃんっ!」ギュウッ

澪「ひゃっ!」

澪「ま、またか、唯……」

唯「……私でも、きっとおんなじことやるよ」

澪「えっ?」

唯「さっきのお話……楽器がなかったら、ふたりでいっしょに歌おうよ」

澪「ただ一緒に歌うだけか……それは思いつかなかったな……」

唯「そこに澪ちゃんがいるっていうことが大事なんだよ」

澪「唯……」

唯「ああ、なんかすっごい演奏したいって気になってきたよ!」

澪「……そうだな。私も早く部活したい気分だ」

澪「寝ようか、唯。明日が待ち遠しくなってきた」

唯「うん、寝ちゃおう!」


唯の部屋


澪「はー、今日はなんだか、すごい1日だったよ……」ゴロン

唯「………………」

澪「……唯?」

澪「!! ご、ゴメン、唯! よく考えたらなにももう一緒に寝なくてもいいよな……!」

澪「な、なに私、当たり前みたいに唯のベッドに寝転んでんだろ……」

澪「ゴメンな、唯。予備の布団か何かあるかな? なんなら毛布だけでもいいんだけど」

唯「ち、ちがうの、澪ちゃん……」

唯「私はいっしょに寝るの、ぜんぜん構わないよ。むしろいっしょに寝たいんだけど」

唯「お、おかしいな……なんか、き、緊張してきちゃって……」カァァ

澪「きんちょう? 緊張って……」

澪「………………」

澪「!!」ボッ

澪「えっ、あっ、だって、緊張って……あれだけ抱きついてきたりしたのに……」

唯「じ、実は、あれもけっこう勇気だしてました……」

唯「えへへ……」

澪「唯……」

澪(唯でもこんな風に緊張すること、あるんだな……)

澪(しかも私に、だ)

澪(私は、唯に……唯に……)

澪「……唯。一緒に寝よう」

唯「あっ……う」

澪「ほら……こっちに」

唯「……いいの? 澪ちゃん?」

澪「いいよ」

澪「唯が恥ずかしそうだから、私だって唯を一人にさせない」

唯「ほんとう?」

澪「ああ」

唯「てっ、手をつないでもっ?」

澪「……いっ、いいよ」

唯「抱きついて寝てもっ?」

澪「う、うん。いい……かな」

唯「む、胸にさわってみても……」

澪「ゆーいー! 緊張してたんじゃなかったのか、お前は!」

唯「あははははっ! 澪ちゃーん!」ゴロン

澪「やれやれ……」

唯「……いまさっき、聞いたことないくらいやさしい声してた、澪ちゃん」

澪「え? そ、そうだったか?」

唯「こわいの、どっか行っちゃったよぉ」ギュッ

澪「ん……」ギュッ

唯「………………」

唯「………………」ムラムラ

唯「………………」プニッ

澪「いっ!?」ビクッ

唯「ぷにぷに~♪」

澪「ほっ、ホントに触るな、バカぁ……」

唯「ふふ、おやすみ澪ちゃん」

澪「うう……おやすみ唯……」

唯「………………」

澪「………………」

唯「ふわふわたぁいむ♪ ふわふわたぁいむ♪ ふわふわ……」

澪「早く寝ろ……」


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最終更新:2012年03月27日 04:04