「お返し」



 唯先輩が卒業して一週間が過ぎたぐらいの3月14日。
 来週にはこの町を出て行き、
 新しい生活の拠点へと旅立つ唯先輩と二人、
 お出かけからの帰り道を歩く。



唯「あー、楽しかったね」

梓「そうですね、ちょっとはしゃぎ過ぎたような気がしますけど」

唯「意外とあずにゃんは子供っぽいんだよね」

梓「私が子供なら唯先輩は赤ちゃんですね」

唯「だとすれば、憂は胎児だよ」

梓「憂の方がお姉さんじゃないんですか?」

唯「ああ、うん、まあそうだね」

梓「何で自分の胸を見ながら言ってんですか」

唯「まあまあ」

梓「私の胸を見ながら尚更納得しないでください、悲しいです」

唯「ゴメンゴメン、あまりにも子供っぽいから」

梓「ハッキリ言わないでください!!」

唯「大丈夫だよ、私も負けてるから」

梓「胸を張らないでください、それはただの追い討ちです」

唯「そんなことよりあずにゃん」

梓「はい」

唯「お出かけ中ずっと持っていた、それは何だい?」

梓「紙袋です」

唯「知ってるよ」

梓「冷やかしですか?」

唯「中身を聞いてるんだよ」

梓「なるほど」

唯「それで、中身は?」

梓「その前に唯先輩、一つ私の話に付き合ってください」

唯「何でしょう?」

梓「今から丁度一ヶ月前、私は唯先輩にある物をもらいました」

唯「一ヶ月前?」

梓「ちなみに今日は3月14日です」

唯「つまり2月14日……。
 あっ、バレンタインのプレゼントかな?」

梓「はい、それです」

梓「チョコありがとうございました、美味しかったです」

唯「憂が、割と手伝ってくれたからね」

梓「何割ですか?」

唯「8割ぐらい」

梓「10割じゃないんですね、驚きました」

唯「流石に私を馬鹿にしすぎだよ、あずにゃん」

梓「それは失礼しました」

梓「まあ、チョコは良かったんですが、もう一つ」

梓「同じ袋の中に、花が入っていたんですが……あれはバラですか?」

唯「いえす」

梓「赤くて綺麗なバラでした。
 ただ、何でまたバラなんてくれたんですか?」

唯「私からの熱烈な愛をプレゼントしたんだよ、あずにゃん」

梓「もう枯れてますけどね」

唯「それは仕方ないよ」

梓「愛はいつか枯れますからね」

唯「そっちじゃないよ!!」

梓「ああ、どっちも枯れるってことですか?」

唯「この小猫ちゃんは意地悪だねえ。
 花は枯れても、私の愛は枯れないよ」

梓「本当ですか?」

唯「未来永劫、枯れることの無い大輪の愛なんだよ」

梓「……まあ、そういうことならいいですよ。
 これをあげます」

唯「あっ、紙袋くれるの?
 まさか持つの面倒になったからって、私に押し付けてない?」

梓「殴りますよ」

唯「猫パンチで?」

梓「鳩尾を」

唯「割と痛そうだね」

梓「3割ぐらいですか?」

唯「10割だよ」

唯「まあ冗談は置いといて、ありがとうねあずにゃん」

梓「いえ、殴れなくて残念でした」

梓「あっ、間違えました」

梓「どうぞ」

唯「その三文字をどうやって間違えたんだい」

唯「おっ、これは……ホワイトチョコ?」

梓「今日は3月14日、ホワイトデーですからね。お返しです」

唯「わざわざ悪いねえ」

梓「いえ」

唯「あれ、まだ何か入ってるね」

唯「これは……白いバラ?」

梓「言ったはずですよ、お返しだと」

梓「ホワイトデーに因んで、白いバラにしてみたんですけど、気に入ってくれました?」

唯「今すぐあずにゃんを持ち帰りたいぐらい、気に入ったよ」

梓「ありがとうございます、丁重にお断りします」

唯「冗談だよ、私はもうすぐこの町を出て行っちゃうし」

梓「そうでしたね」

唯「うん」

梓「……」

唯「……」

梓「……でも」

唯「ん?」

梓「未来永劫なんですよね」

唯「何が?」

梓「いえ」

唯「ふーん」

梓「……」

唯「……」

梓「あっ、あとですね」

唯「うん」

梓「私も未来永劫ですから」

唯「だから何がー?」

梓「何でも無いです」

唯「教えてくれてもいいのに」

梓「教えてあげますよ、10年ぐらい経ったら」

唯「長いね」

梓「あっという間ですよ」

唯「そうなの?」

梓「はい」

唯「うーん……」

梓「……」

唯「……」

梓「……」

唯「あっ……」

梓「どうしました?」

唯「いや……わかったんだよ、あずにゃん」

梓「わかりましたか」

唯「あっという間だね、きっと」

唯「未来永劫と比べたら、あっという間なんだよね」

梓「はい、その通りです」

唯「……」

梓「……」

唯「……」

梓「唯先輩は」

唯「うん」

梓「花言葉には興味ありますか」

唯「んー、あんまりわからないや」

梓「それなら、帰ってから調べてください」

唯「わかったよー」

梓「必ずですよ」

唯「……」

梓「……」

梓「……」

唯「……」

梓「あっ……」

唯「この道でお別れだね」

梓「そうみたいですね」

唯「じゃあね、あずにゃん」

梓「さようなら、唯先輩」



 赤いバラ。
 花言葉は「熱烈な愛」。

 白いバラ。
 花言葉は「尊敬」。
 そして……



梓(私はあなたにふさわしい)



 ‐完‐


終わりです。
次の方、どうぞ。



3
最終更新:2012年03月28日 20:47