「こういう危険な低確率って みんなが祈れば祈る程当たりやすくなるものです」

マーフィーの法則ってやつかしら

「えぇ~ じゃあ当たるようにってお祈りしないとねっ」

「それはそれでどうかと思うぞ・・」

律は呆れながら答える

でも世の中そう祈る人もいるのよね

「ムギちゃんは当たると思う?」

唯が目をキラキラさせて尋ねる

なんでこんな楽しそうなのかしら・・・


「大丈夫だと思うけど・・・」

「もし、当たることになったら 最後までお祈りしてると思うなぁ」

「そうしたら、きっと助かる気がするの」

ロマンチストね

「でも祈ったら当たりますよ」

「手厳しいなオイ・・」


そんな彼女らの姿を見ていたら

何故か心の底から笑みがこぼれてた

「どうしたの和ちゃん?」

「うぅん、何でもないの」

ただ隕石の話してるだけなのに

こんなに楽しいって

素敵ね 軽音部は


気が付けば日も沈み

帰り道はすっかり暗くなっている

星が綺麗だなぁ って空を見ていたら

流れ星を1つ見つけた

当たりませんように

なんて願い事はしなかった






家の玄関に置いてある

蟻の駆除装置

餌に毒が入っていて 巣に持ち帰ると仲間もまとめて殺す

結構残酷な仕組みだと思う

餌を見付けた時点で

殺してあげるだけじゃ

ダメなのよね・・

何時の間にやら年が明け

桜の舞い散る季節がやってくる

決して高くもなくあり得なくもない

500分の1という数字は

地味に世の中を変えていた

沸いて出たような宗教団体が終末論をばら撒き

仕事や社会活動をやめようと勧誘する者達も現れる

犯罪率だって上がるかもしれない

けれど、所詮は0,2%

真偽も定かじゃない情報

大きな変化は見られなかった




突然の続報

衝突確率100%が知らされるまでは


「学校、行かなくてよくなるんだってね・・」

春の暖かい空気と

草の香りが気持ちいい通学路で

唯が暗い顔で話し出す

「ホントに降ってくるんだよね・・」

「そうみたいね」

「降ってきたら、みんな死んじゃうんだよね・・」

「うん」

気が付けば泣きながら話している唯に

1年前の元気は感じられない

「今日が最後の登校日だから、思いっきり練習してらっしゃい」

「うん・・」

小鳥の可愛いさえずりを聞きながら

私は残り僅かの人生をどう過ごすか考える



学校に着いても

生徒も教師も殆どいない

律儀に来たのが馬鹿馬鹿しいわね


机に教科書を出していても

授業が始まるとも思えず

音楽室へ行ってみる


いつも活気に満ちていた音楽室も

いまや絶望の香りに満ちている

軽音部員は全員集合して

お馴染みのティータイムを嗜んでいるが

そこに笑顔は無い

「随分静かな音楽室ね」

「和ちゃん・・・・」

唯は今朝の顔のまま

机の上のケーキに手を付けていない

あなたらしくもないじゃない

「和、なんだか大変なことになってるなぁ!」

律が明るく話しかけてきた

けれど、目は笑っていない

「当たるわけないよな・・死んだりなんて・・・」

「・・世界中の科学者がみんな計算ミスしてて、外れるかもしれないわね」


無理してるけど

あくまで信じたくないみたい

「ほら、澪も!元気出せって!」

「・・・・・」

泣き疲れてぐったりしてる澪がいた

もう出せる涙は出しつくした様子で

窓から外を眺めている

「隕石なんてミサイルでぶっ壊せるんだぞ!大丈夫だって・・!」

「大丈夫だって・・・」

そんな規模じゃないのは

あなたもわかっているのよね

「うん・・」

「ありがとうな、律・・」

紬はずっと空にお祈りしてる

「助かるわよね・・・お祈りしてれば・・?」

そんな姿を横目に

梓は無表情でギターをいじっていた




みんなの有り様

それぞれ信じたいものを信じて

諦めるものは諦めている



私がいても何も変わらないので

今日は帰ることにしたわ

もう会わないかもしれない


しばらく経った

何も特別なことはせず

家で家事手伝いをしながら過ごしてた

少し気分転換に散歩をしたり

唯とどうでもいい雑談をしたり




ぶつかる日時はとっくの前から

秒単位ではっきりわかってる

日本時間で明日の午後4時24分55秒


突然我が家のチャイムが鳴らされ

扉を開けてみると

唯がいた

「どうしたの?明日まで、後悔無いように過ごしてる?」

「うぅ・・後悔だらけだよぉ・・」

「まぁ 思い通りにはいかないでしょうね・・・」

涙は流れていない

以前よりか少しは目が明るくなっていた

「お父さんとお母さんがね・・帰ってきたよ・・」

「よかったじゃない」

何度も聞いた話

「憂がね・・いっぱい・・・」

「持ち切れないくらいのアイス買ってきてくれて・・・」

「優しいもんね、憂ちゃんは」

最近唯はいつも同じ話をしてくれる

「今日は、和ちゃんにお礼をしにきたんだよ・・」

「お礼?」

「今まで迷惑ばっかりかけてきたから お礼をしなきゃって・・・」


唯が私に手渡したのは

綺麗な貝殻の飾り物だった

生命の輝きと言わんばかりに

ピカピカ輝いている

「いいのに そんな気を使わなくても・・」

そうは言っても嬉しいわ



唯が少し強い目になって

今度は私に尋ねてくる

「なんで和ちゃんは、そんな平気でいられるの?」

「私は・・」

なんでだろう

まともに考えたこともなかった


「澪ちゃんも、ムギちゃんも、みんなすっごい哀しいのに」

「和ちゃんはいつもおなじ顔でいられて・・・」

「なんでだろうね・・」

少し考えてみると

あっさり答えが出てくる

「多分、今の人生に満足してるもの」


「えぇ、じゃあ哀しいよ?終わっちゃうんだよ?」

唯は本気で理解不能という顔で

私を心配そうに見つめる

「終わらせたいのよ」

「ほぇ?」

「一番幸せな時にあっさり死ねるなんて、それこそ世界一の幸せ者だと思わない?」

「・・・・」


唯の言ってた

最期に悔いの無いようにするっていうのと

近い部分があると思うんだけどね


あ、そうそうこれだけは

これだけは何があっても言っておかないと

「それより唯、軽音部の最後のライヴはしてないの?」


「え・・?」

ポカンと口をあける唯

魚みたいね

「どうせいざこざあってから一度も合わせてないんでしょ?」

「いい、唯?」

「悔い無く死にたいなら・・」



最後の朝

まだ日の昇る前から

誰もいない通学路を歩く

校門には立ち入り禁止の看板が張り付いていて

遠慮なく乗り越えていく

生徒会長が見たらなんて言うだろう


屋上に上がって

空を見る為寝転がりながら

人生を終えようと決めた

地球最後の朝焼けは

これまで見てきたどの空よりも美しかった

ひたすら幸せだった


唯から貰った貝殻を

太陽にかざしてみる

素敵だから 夕方までずっとこうしてよう



この光

抜け殻なのに こんなに綺麗

握っても壊れない

セミじゃあこうはいかないだろう

やっぱりセミよりも

貝の方が素敵かもね、澪







日も暮れてきて

携帯電話の時計を見る

午後4時ちょうど

いつもなら授業が終わる頃合ね


音楽が聴こえる

いつも放課後 音楽室から流れてきた曲だ

演奏者が ホントに楽しんでるのがわかる

そんな素敵なメロディー

上手になったよね、唯


これを聴きながらなんて

幸せ意外の何物でもないじゃない




時計が24分を示す

私は空を眺めながら

光に包まれる


おわり



最終更新:2010年01月29日 00:03