澪ママの回想


澪ちゃんが生まれ、5年が経った頃。
昔から子供は二人欲しいと思っていた私は焦っていた。
なかなか妊娠しないのだ。

ある日。
産婦人科にて。


医師「検査の結果なんですが、子宮の中に腫瘍が見つかりました。」

医師「腫瘍が悪性なのか良性なのか調べますので、検査室へどうぞ」


目の前が真っ暗になった。
腫瘍って何?
私、死ぬの?

不安なまま時は過ぎ、検査結果を聞きに再度来院した私は、
今までで一番衝撃的な事実を突き付けられることになる。


医師「残念ながら腫瘍は悪性でした。」

医師「しかし早期発見できたので、」

医師「子宮を摘出してしまえば命にかかわることはまず無いでしょう」

医師「これからの治療計画をお話します」


その後の話は一つも頭に入ってこなかった。

手術は成功した。
私は助かったのだ。
二人の子供という昔からの夢と引き換えに……。

絶望。
そんな言葉じゃ言い表せない感情が体を支配する。
手術は成功したというのに体はなかなか元気にならなかった。
その為入院は伸び、毎日点滴を受ける日々がダラダラと続いていた。


ある日。

母がお見舞いに来てくれた。
病院の方針で子供は面会に来られないため、
澪ちゃんを預けていた母から近況を聞く。


母「昼間は私と遊ぶんだけど、あの子、」

母「夜になると毎日布団をかぶって泣いてるんだよ。」

母「私にバレないように声を押し殺してね」

胸が締め付けらる。
ごめんね、澪ちゃん。
お母さん、早く元気にならなきゃね。


母「これ、澪ちゃんがママにって」


丸めた画用紙を手渡された。
画用紙を広げると、私と、夫と、その間には澪ちゃんが描かれている。
絵の中の三人は、笑っていた。


回想終わり



澪ママ「りっちゃん。私ね、その時に誓ったの。」

澪ママ「澪ちゃんの笑顔を守ろうって。」

澪ママ「この先どんなことがあっても、この子の味方でいようって」


知らなかった。
おばさん、そんな苦労があったんだ。
私は何も言えずにいた。

澪ママ「澪ちゃんが初めて出来たお友達はりっちゃんだったわね」

澪ママ「それからよく遊びに来てくれて、私、本当に嬉しいの」

澪ママ「だって、子供が増えたみたいでしょ?」


澪ママは笑った。
その笑顔が澪に似てて、余計に胸が締め付けられた。


澪ママ「だからね、私はりっちゃんの味方でもあるのよ?」

澪ママ「私、何があっても、二人の味方だから」


私は泣いた。
いろんな感情がごちゃまぜになって、涙は止まらなかった。
それを見ておばさんも泣きだした。
そしたら笑えてきて、二人で泣きながら笑った。
泣きながら笑って、泣きながらクッキーを食べた。
おばさん。涙でしょっぱいけど、クッキー美味しいね。
私が言うとおばさんは、あら、じゃあ今度塩クッキー作ってみようかしら。
次は三人で作りましょうね。
なんて言うから、私はまた泣いた。

澪「律? え? ママ? なんで二人とも泣いてるの?」

後ろを振り返ると、澪が目を真ん丸くして立っていた。

律「みいいいいいいいいおおおおおおおおおお!!! うえーーーーーん!!」


愛おしいぜ、コンチクショー!!
私は立ち上がり、澪をギュッと抱きしめた。


澪「え? ちょっ!? 律? 何? なんなの?」


それを見ていたおばさんも立ち上がって、澪を私ごと抱きしめた。
ちょっと痛いけど、すっごくあったかい。


澪ママ「澪ちゃーーーん!!! りっちゃーーーん!!! うえーーーーーん!!」

澪「は? なんで二人とも泣いてるんだよ!」

澪「なんか分かんないけど、私まで悲しくなっちゃうだろ……うえーーーーーん!!」


澪にも涙が移ったwwwwww
そんでやっぱり、泣きながら笑った。

おばさん、
唯、
ムギ、
梓、
聡、
いちご……?
とにかく、みんなに迷惑いっぱい掛けちゃったな。

澪ママ「じゃ、お夕飯の支度するから、ちょっと待っててね」

澪「うん。じゃあ私、律と部屋に居るね」


澪の部屋に入り荷物を隅に置くと、いつもの定位置にそれぞれ座った。
私はベッドの上。
澪はベッドの下。


澪「それで、なんで泣いてたんだ?」

律「私も、おばさんも、澪が大好きってことだよ」

澪「え? りりりりりつううう?」

律「私、みんなに迷惑掛けたくないって、みんなに心配させたくないって思ってた。」

律「そんで澪を守るんだって、澪の幸せ見守るんだって思ってた。」

律「でも、私は何から澪を守れたのかな?」

律「たくさん傷つけて、たくさん泣かせて。」

律「守るどころか、私が一番澪を傷つけてたんだ。」

律「澪。もう一回。もう一回だけチャンスをくれないか?」

律「明日ってお休みだけどさ、何か用事ある?」

澪「えっと、11時から用事が……」

律「そっか……。もしかして彼氏?」

澪「え? いや、その、かかか彼氏……」

律「まぁいいや、それまで一緒にいられるなら」

律「今日さ、泊まってってもいい?」

澪「うん、いいけど。あの、展開が早くて頭が追いつかないんだけど……」

律「あのさ、今から明日の11時まで、一緒にいてくれないか?」

律「澪には彼氏がいるから、恋人お試し期間ってのはできないけど、」

律「明日、彼氏の所に行く前に私が改めて告白するから、」

律「その時に返事を聞かせてほしい」

澪「あの、かかか彼氏は……」

律「大丈夫だって! ちゅうしたりしないからさ!!」



澪ママ「お夕飯できたわよぉ! りっちゃんもおいでぇ!」

律「はあ~い!! 行こうぜ、澪!」


私は戸惑う澪の手を引いて、階下へ降りて行った。

食事と入浴を済ませ、澪の部屋でテレビを観ながらまったり過ごす。


澪「あ! 律! 律! これ、この間一緒に行った水族館じゃないか?」

テレビでは先日行った水族館の特集が流れている。

律「本当だ。あの水族館だな」

澪「あ! 律! 律! このイルカのショー、見たよな!」

律「そうだな、相変わらず丸々して美味そうなイルカだな」

澪「りいいいつううう!?」

律「冗談だってばwwwwww」


今まで当たり前だと思ってたこと。
それが出来る幸せ。
うん。今、私、間違いなく幸せだ!


澪「楽しかったよなぁ。また行きたいなぁ……」


澪。今さ、誰と行きたいって思ってる?
やっぱ彼氏かな?
望みは薄いだろうけどさ、
一緒に行きたいって思ってる相手が私だったらいいな。
なんて、さんざん傷つけた私が言う資格なんて無いかもしんないけど。
それでもズルイ私は願ってしまうんだ。
私と一緒に行きたいって、そう思ってくれって。

澪「そうだ。ベースと荷物、持ってきてくれて、ありがとな」

ベースをケースから出そうとしている澪の背中に話す。

律「いや。その荷物、持ってきてくれたのは唯とムギと梓なんだ」

澪「え!?」

律「三人がさ、私の家まで持ってきてくれたんだよ。」

律「ここからはりっちゃんが持って行けってさ」

澪「そうか……あれ?」

律「どした? どっか濡れてたか?」

ベースの弦の間に手紙が挟んであった。
中を開くと、似顔絵や落書きがたくさんしてあって、
メッセージが書かれていた。

唯『ごぶうんを!!』

ムギ『澪ちゃん! ファイト!!』

梓『律先輩のことなんで、ベースに傷がついていないか後で確認してください。』


澪は手紙を抱きしめて、嬉しそうに笑った。
そんな澪が愛おしくて、後ろから抱きしめた。

澪「りりりりりり……つ……」


彼氏がいるんだもんな、こんなことしちゃいけないよな。
でも、彼氏君、すまん。
たくさん我慢したんだから、一つだけワガママ言わせてくれ。


澪「コラ!! 胸を揉むな!!!」


ゲンコツ喰らったwwwwwwww痛いwwwwwwでも幸せwwwwww


その後もまったり過ごし、就寝時間に。
いつものようにベッドには澪が。
その下に布団を敷いて私が寝ていた。


律「みぃおー? 起きてる?」

澪「起きてるよ」

律「あのさ、そっちに行ってもいい?」

澪「律、寝ぞう悪いからヤダ」

律「大丈夫大丈夫! 私、もう子供じゃないんだぜ!」


無理矢理澪のベッドに入る。

澪「ちょっ! 律! 狭いって! おーりーろー」

律「いーやーだー」

澪にしがみつき、なんとかベッドから落とされそうになるのを堪える。


澪「本当に律は自分勝手だな」

律「ごめんな?」

澪「そんなこと言って、直す気無いんだろ?」

律「バレたwwwwww」

律「でもさ、好きな子にはワガママ言いたくなるんだよ」


澪、大人しくなったwwwwww
絶対照れてるwwwwww


澪を抱きしめてると、ほどなくして眠気がやってきた。
ずっと寝不足だったから、久しぶりにぐっすり眠れそうなきがs……zzzzZZZ


翌朝。


澪「律。律。りーつー。……。律!! コラ!! 起きろ!!」

目を覚ますと、目の前に澪しゃんのお顔があった。

律「ちゅうううう」

澪「やーめーろー!!」

澪「私、そろそろ準備しないと間に合わなくなっちゃうから、律、そろそろ離して?」


あれ、澪しゃんを抱っこしたまま寝ちゃったのか。
私は澪を抱きしめる手に力を入れ、さらにギュッと抱きしめた。


律「ヤダ。離したくない」

澪「でも、遅刻しちゃうから。また、今度な?」

律「……」

澪「……律?」

律「行くな。彼氏の所になんか行くなよ」

律「一緒に居よう。ずーっとこうしてさ、今までと変わらない生活を」

律「恋人として、私と一緒に過ごしてくれませんか?」


あれ? 反応が無いな。
恐る恐る澪を抱きしめる力を抜き、私の肩に埋めている澪の顔を肩から離した。
澪は、大粒の涙をボロボロとこぼしていた。

澪「私、律の隣りに居ていいの?」

律「居てくれなきゃ困る」

澪「私、私なんかでいいの?」

律「澪じゃなきゃダメだ」

澪「本当に?」

律「澪」

澪「騙してない?」


澪「からかってない?」

律「澪!」

澪「だって、だって、律、私のこと、好きじゃないんでしょ?」

律「好きだよ」

澪「え? 聞き間違いかな? 今何て言ったの?」

律「愛してるYO!」

澪「チャラい!!」

律「冗談だってwwwwww」

澪「え? 冗談? やっぱり騙してたの?」

律「違う違う! そっちが冗談じゃない!」

律「ふざけてごめん。ホラ、私も照れくさかったからさ。」

律「もう一回、今度はちゃんと言うから聞いててね」

澪「うん」

律「澪」

澪「は、はい///」

律「澪が笑ってると、私まで楽しくなっちゃうんだ。」

律「私がいつでも笑わせてあげる。」

律「だからさ、ずっと私の隣りで笑っててよ。」


澪のお母さんが澪の笑顔を守るなら、
私が澪を笑顔にするから。


律「澪、大好きだっ!」

澪「律……。ごめん、録音するからもう一回言って?」

律「ムリムリムリ!!」

澪は笑った。
そして、

澪「律、愛してるよ」

律「んなっ!? なあああああああああ!!!///」


悔しい。
恥ずかしくて愛って言葉使わなかったけど、先に使われてしまった。
でも嬉しいからいっかwwwwww

澪「じゃ、私、でかけてくるな」

律「えええええええ!? さっそく浮気!?」

律「いや、まだ彼氏と別れてないからこっちが浮気なのか!?」

澪「いや、歯医者さんに行くんだけど?」

律「へ?」

澪「あの……昨日言おうと思ってたんだけど、律が話を遮るから言えなくて。」

澪「えっと、私、彼氏、いないんだ」

律「えーと。うん。うん? え?」

澪「だから、彼氏はいないんだってば。あれは嘘だったの!」

澪「だって、そうでもしないと律の隣りにいさせてもらえなかったでしょ?」

律「わあああああああああああ!!!!」

律「騙されたああああああああ!!!!」

律「でも嬉しいいいいいいいい!!!!」

澪「うるさいっ!!」


朝っぱらからゲンコツ喰らったwwwwww
痛いwwwwwwでも幸せすぎるwwwwww

あ、澪が笑った。
ホラね。
この笑顔を見ると、私も楽しくなっちゃうんだ。

澪「あ、そうだ、律。前に告白できなかったから、私からも告白していい?」

律「どーんと受けるから、言ってみるがいい!」

ベッドから降りると、机の引き出しから手紙のようなものを持ってきた。

澪「律のために詩を書いたんだ。聞いてくれ!」


出たーーー!!! 痒くなるポエムーーー!!!
りっちゃん当たったwwwwww
澪のことなら何でもわかるんだぜ!


終わり



7 ※おまけ(映画のネタバレが少々含まれています)
最終更新:2012年04月12日 13:42