梓「ここに惚れ薬があります」


律「…は?」

梓「これを飲むと最初に見た人を好きになってしまいます」

律「待て待て。どこでそんな胡散臭いもの手に入れたんだ」

梓「ムギ先輩に貰いました」

律(………微妙に信憑性あって嫌だな)

梓「ということで…」

律「うん?」

梓「飲んでください!」ガシッ

律「はい!?」

梓「口開けてください!」ググッ

律「ちょっ…待て待て待て待て!」グググッ

律(なに考えててんだこいつ!?)

梓「待・ち・ま・せ・ん!」グググッ

律(す、すげー力!ちっこい体してどっからこんな力が…)ググググ…

梓「にゃああああああああ!!!!」グイッ

律「むぐっ!?」ゴクン

梓「やった!」

律(の、飲んじゃった…)

梓「どうですか…?」ドキドキ

律「………なんともない」

梓「え…」

律(ま、そりゃそうか…いくらムギでも惚れ薬なんてアホなもん作れるわけないよな)

梓「そ…そんな…」

律「ていうかお前は私に惚れ薬なんて飲ませてどうするつもりだったんだよ」

梓「………」

律「んー?」

律(……あぁそうか。人のことおもちゃにして遊ぼうって魂胆だったんだな。ったく…梓は先輩への態度がなってないな。特に私に。っていうか私だけに)

律(そっちがそのつもりなら…)

律「うっ…!」

梓「律先輩!?」

律「むっ…胸が…」

梓「胸!?胸がどうかしたんですか!?いつも通りの胸板ですよ!?」

律(こいつ…)イラッ

律「……く…苦しい…胸が…苦しい…」ウウッ…

梓「苦しいんですか…?…もしかして、私が変な薬飲ませたから…」

律「そうだよ…梓のせいだ…」

梓「ごっ…ごめんなさ…!」

律「梓を思うだけで、胸がこんなに苦しいんだ」

梓「………え?」

律「悪い子だな梓は…私をこんなに苦しめて」

梓「り、律先輩…?」

律「好きだ、梓…」

梓「!?」カァッ

律(ぷっ!照れてるやがる!)

梓「ああああああの、その…!」

律(先輩をおもちゃにしようとしたバツだ。もう少しからかってやる)

律「梓…」サラッ

梓「ひゃっ!?」

律「(ひゃって!)梓の髪、サラサラだな…すごく綺麗だよ」

梓「しょっ!しょんにゃことにゃなあいです!」

律(ぶーーーー!!!噛みまくりじゃん!ダメだもう少し耐えろ私!)ブルブル

梓「り、律先輩…?」

律「あ、あぁごめん…梓の可愛い顔を見てると気持ちがあふれ出してきてどうしたらいいのか分からないんだ…」

梓「………」

律(あれ?無反応?ちょっとクサかったか…?)

梓「…」カァァァァァァァッ

律(めっちゃ耳赤くしてるーーーー!!!!)

律(やばいこれ面白いどうしよう)ブルブル

律「梓…」ギュッ

梓「…!」ドキッ

律「ずっとこうして抱きしめていたい…」

梓「律…先輩」

律(………あ、しまった。これじゃ顔が見えない)

律(今ずっとこうしていたいって言ったのにすぐ離すのは変だよな…とりあえず続けよ)

律「梓は、私のこと好きか?」

梓「………はい」

律(……………え?)

梓「律先輩がずっと好きでした…」ギュウッ…

律(……あ、あれ?)

梓「薬なんか使ってごめんなさい。でも好きなんです…律先輩が…。誰にも渡したくない…」

律(………………マジで…?)

梓「薬は一時間ほどで効果が切れるって言ってました。その時の記憶もなくなるって…」

律(記憶がなくなるって…おいおい、随分危ないもの飲ませようとしたな…)

梓「今こうして私のことを好きだって言ってくれて、髪を撫でて抱きしめてくれる律先輩は一時間したら消えちゃうんです。律先輩の中でそんなことは初めからなかったことになるんです」

律(これ…本気…だよな…。惚れ薬でおもちゃにしようとしたんじゃなくて…私のことを…)

梓「だから…」

梓「キス、してください」

律「……!?」

梓「勝手なこと言ってるって分かってるんです。それと…今の律先輩が私に逆らえないことも…」

梓「でも…私も知らないフリしますから…。私は忘れられないし、忘れたくないけど…律先輩と同じように無かったことのように振舞いますから…」

梓「だから、お願いします。キスしてください」

律(………梓)


翌日 放課後 部室

唯「やっほー!」

梓「あ、お疲れ様です」

唯「あずにゃああああああん!!!」ガバッ

梓「にゃあ!!?」

澪「おい、飛びついたら危ないぞ」

紬「こんにちは、梓ちゃん」

律「……おっす」

梓「お疲れ様です」

唯「ムギちゃんお茶ー」

紬「はいはい、今淹れるね」ニコッ

梓「ちょっと!ムギ先輩はお茶くみ係じゃないんですよ!?」

紬「私はお茶くみ係よ?」

梓「えー!?」

澪「練習…」

律(………なんだよ梓のやつ)

律(本当に覚えてないような素振りしやがって…)ムスッ

律(そういえばムギはどういうつもりで…いやそれ聞いたら記憶があるのバレちゃうか…)

紬「りっちゃん」

律「んえ?」

紬「ちょっとお茶淹れるの手伝って?」

唯「えぇ!?りっちゃんにそんなことやらせたらダメだよ!」

律「お前にだけは言われたくないわ!」バシッ

唯「あぁん!」

律「全く…」テクテク

律「それで?なにすればいい?」

紬「適当に手伝ってるフリしててくれればいいわ」

律「え?」

紬「昨日、どうだった?」コソッ

律「………確信犯か」

紬「なにが?」ニコニコ

律「梓本気で信じてたぞ」

紬「信じてくれるような行動を取ってくれたってことでいいのかしら?」

律「…さぁね」

紬「もう、意地悪。教えてくれてもいいのに…」

律「意地が悪いのはお前だ。あんなもん用意して…」

紬「だって梓ちゃん悩んでたみたいだったから」

律「もう少しマシなやり方があるだろう?」

紬「じれったいんですもの」

律「とんでもないお嬢様だな…」

紬「うふふ」

紬「あ、そうそう。あれちょっと苦かったかもしれないけどただのお水ににがりを混ぜたもので害はないから、安心してね?」

律「そういえばちょっと苦かったな…。なんでわざわざにがりなんか?」

紬「ふつうのお水じゃもし梓ちゃんが味見とかしちゃったら怪しまれるかなーっと思って」

律「細かいところ拘りやがって」

紬「ふふっ。それにもしかしたらりっちゃんが本気であの惚れ薬を信じてプラシーボ効果が発動するかもしれないと思って」

律「プラシーボか…」

律「……………」

紬「………りっちゃん?もしかして怒ってる…?」

律「…ムギ」

紬「……はい」シュン

律「あれは、紛れもなく惚れ薬だったよ」

紬「………え?」

律「梓」

梓「は、はい?」ビクッ

律「話あるからちょっとこい」

梓「え…?」

律「いいから」グイッ

梓「きゃっ」

澪「おい律!?」

唯「ど…どうしたんだろ?」

紬「きっ…」

唯澪「?」

紬「きたああああああああああああ!!!!!!!!」ブシュゥッ!

澪「ひぃっ!?血!!!!!」

唯「ム、ムギちゃん!?」

澪「うああああああ!律ー!血が!血があああああああ!!!!!」ブルブルブルブルブル

唯「澪ちゃん落ち着いてりっちゃんは今いな…」

紬「うふ…うふふ…」ドップドップ

唯「あぁムギちゃん!は、鼻血ってどうやって止めたらいいんだっけ…」オロオロ

澪「うあああああああ!!血いいいいいいい!!!!」ブルブルブルブル

唯「澪ちゃん!」

紬「………」ドップドップ

唯「ムギちゃん!」

唯「う…うわああああああぁぁぁん!突っ込み(りっちゃん)不在だと収拾つかないよー!!!!!」


空き教室

梓「あ、あの…」

律「………梓」

梓「…はい」ビクビク

律「ここに惚れ薬がある」

梓「………はい?」

律「これを飲むと最初に見た人を好きになって、胸が苦しくなる。そのあと髪を撫でて、震えるほど相手への気持ちがあふれ出して抱きしめたくなる」

梓「お、覚えてるんですか!?昨日のこと!?」

律「いや?一時間したら記憶が消えるんだろ?」

梓「覚えてるんじゃないですか…」

梓「………それで、なにが言いたいんですか?」

律「おいおい…随分な言い草だな子猫ちゃん?」

梓「謝ればいいですか?惚れ薬なんか使ってごめんなさいって。それとも抱きしめさせてごめんなさいって言えばいいですか?キスさせてごめんなさいですか?それとも!好きになってごめんなさい、気持ち悪いでしょうって言えばいいですかっ!?」

律「お、落ち着けよ」

梓「っ…」ブルブル

律「あー…泣くな。な?落ち着け」ヨシヨシ

梓「触らないでください!」パシッ

律「てっ…」

梓「なんですか。なんなんですか!こういう時だけ優しくしないでください!普段は優しくなんかしてくれないくせに!」

律「…じゃあなんでその優しくない奴を好きになったんだよ」

梓「知りませんよ…優しくないし、ふざけてばっかだし、頭撫でてくるときもグリグリするから痛いし、唯先輩みたいに休みの日に連絡くれたり遊びに誘ってくれるわけでもないし…」

律(この子私のこと嫌いなんじゃないかしら)

梓「でも…たまに撫で方が優しかったり、落ち込んでるときに気付いてくれたり、生意気な口きいても笑って許してくれたり…」

梓「そうやって…そうやってたまに優しくするから騙されちゃったんですよ!詐欺です!!律先輩はそんな気なくても、無意識に種まいて相手を傷つけるんです!最低です!!!」

律「照れればいいのか怒ればいいのか迷うわぁー」

梓「………」グスッ

律「あー…ごめん」

梓「知りませんよ…こんな時もふざけて…」

律「………あのな」

梓「…はい」

律「謝る必要も、泣く必要もないよ」

梓「っ!またそうやって優しく…!」

律「むしろ私の方に謝らなくちゃいけないことがあるんだ」

梓「え?」

律「さっきちゃんと言わなかったけど、梓がムギからもらったのはただの水ににがりを混ぜたものだよ」

梓「………………は…?」

梓「えっ…え、だって昨日…」

律「梓をからかってやろうと思ってつい☆」

梓「」

梓「さっ…最っ低です!本当に最低です!最悪です!人の気持ち知っててからかうなんて!!!」

律「ば、バカ違う!梓が私に惚れ薬飲ませて遊んでやろうと思ってるのかと思ったからおしおきしてやろうと思ったんだよ!」

梓「なんですかそれぇ…」ヘナッ

律「ごめんつい…」

梓「最低です…」

律「すいません…」

梓「………うそですよ。最低なのは私の方です。惚れ薬なんか使って人の気持ちを操作しようとして…」

律「謝んなくていいって言ってんだろ」

梓「でも…」

律「…お前気付いてないの?」

梓「え?なにがですか?」

律「昨日のことよく思い出してみろよ」

梓「………?」

律「だ、だからぁ…」

梓「はい…?」

律「背中が痒くなるようなくさい台詞言ったり、抱きしめたりまではおふざけでできるけど」

律「…いくらなんでもキスはふざけてなんかしないよ」

梓「………!」

梓「え!?え!?そ、そういえばキス…え!?どういうことですか!?」

律「えっとまぁ…そういうことだ」

梓「どういうことですか!?」ガシッ

律「ちょ、ちょっと苦しい…」

梓「説明してください!!!」グイーッ

律「ちょ、ゲホッ…!」

梓「あ、ご、ごめんなさい…」パッ

律「…けほっ…うぇ」

梓「だ、大丈夫ですか…?」

律「…お前昨日もそうだったけどすごい力だな」

梓「だ…だって…必死で…」

律「ムードのないやつ」

梓「は、はぁ!?律先輩にムードうんぬん言われたくありません!」

律「バッカお前、私はムード作る天才だぞ!」

梓「みっともないうそはやめてください!」

律「うそじゃねーって!現に昨日子猫が私の芝居にメロメロに…」

梓「っ!?」カァッ

梓「~~~!!!」バシバシバシ

律「痛い!痛いっす中野さん!」

梓「こ、こんなことやってふざけてる場合じゃないんです!ちゃんと説明してください!」

律「………だからさ」

律「昨日のあれはもしかしたら本物だったのかもな、って話」

梓「……………」

律「………」ドキドキ

梓「どういう意味ですか?」

律「あれぇ!?理解できてないの!?」

梓「え?」キョトン

律「…お前やっぱムードないわ」

梓「はい!?」


お わ り



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最終更新:2012年04月13日 08:30