律「おーっす!」
私はいつものように元気よく部室のドアを開ける。
中には私達の後輩がいた。
梓「こんにちは。他のみなさんはどうされたんですか?」
律「ああもうすぐくるよ。ちょっとあたしが早くでてきたからな」
梓「そうですか」
あたし達はもうすこしで卒業だ。
それまではこうして梓との時間を大切にしたいために早く来ている。
律「さあ久々にドラム叩くかなっ」
梓「あ、じゃあ私もギターで合わせます!」
律「おう、じゃあやるぞ!」
律「ふぅっ。なかなかうまくできた気がするな」
梓「そうですね。というかみなさんまだですかね?休憩しましょうか」
律「ん。そーすっか!」
律「梓、最近どう?」
梓「どうって…」
律「楽しいか?」
梓「ええまあ、そこそこですよ」
律「そっか。ならいいんだ。」
梓「…」
がちゃ
紬「おまたせ~」
澪「遅くなった。わるいな」
唯「あずにゃ~ん!」だきっ
梓「ちょっ!唯先輩!?」
紬「あらあら。今お茶いれるわね」
澪「ごめん、よろしく」
いつもの光景。
いつもなら微笑ましいと思うんだけどな。
今日はそう思えない。
律「おう、ムギよろしく!」
とりあえず気を紛らわせるために声を出してみた。
梓と一緒にいれる時間を大切にするってみんなで決めたんだ。
みんなにまで迷惑はかけたくない。
明るく、元気よく…
紬「お茶できましたよ~。今日はケーキだから好きなのとっていってね」
律「ムギありがとう!」
澪「ありがとうな」
唯「ムギちゃんこのケーキおいしいよ!」
梓「唯先輩食べるのはやいですってば!」
紬「ふふっ。いいじゃないの梓ちゃん」
それでも私の中の違和感は消えない。
澪「どうしたんだよ律?」
紬「あら?お口に合わなかったかしら?」
唯「りっちゃん私が食べてもいいんだよ?」
律「いやいやこのケーキおいしいよ」
そういいながら笑ってみる。
澪がこっちに注目しているのが目の端にうつる。
…笑顔ひきつってたかな?
唯「あれ?りっちゃん私の話は?」
律「あ、ごめん聞いてなかった」
唯「りっちゃんひどいっ」
律「嘘だよ。ほら、ちょっとやるよ」
唯「わーい!りっちゃんありがとう!」
私の違和感は消えないまま時が過ぎ、下校時間になる。
律「さっ、そろそろ帰るか!」
帰り道、ムギ、唯、梓と別れたあたしと澪はいつものよう2人で帰っている。
澪「なに悩んでんだ?」
律「なんでもないよ」
澪「嘘つくなよ。元気なかったぞ?」
律「嘘じゃないって。悩みなら澪には相談するからな」
澪「そ、そうか。ならいいんだけど…」
悩んでるんではないんだ。
嘘はついていない。
澪「ほら律、ついたぞ」
律「へ?……ああ、ありがと」
澪「うん。じゃあな。なにかあったら言うんだぞ?」
律「わかってるって、じゃあな」
家に帰っても落ち着かない。
ちょっと外でるか。
河原が一番落ち着くかなって思ってきたんだけど……
律「どうしたんだよ梓」
梓「…」すやすや
律「寝てるのか」
あたしは梓の横に座りそっと抱き寄せる。
頬に触れた時に少し濡れた気がした。
梓「……あれ?律先輩?」
律「おう、おはよ」
梓「こんなとこでなにしてるんですか?」
律「梓もなにしてたんだ?」
梓「私は別に…ちょっとぼーっとしてただけで…」
律「そうか?その割に目赤いぞ?」
梓「こ、これは……」
梓「ほっといてくださいよ!」
律「ほっとける訳無いだろ?」
梓「なんでですか!」
律「ばか、お前今日ほとんどしゃべってねえだろ?最初の方で唯とちょっと話したくらいでさ」
梓「…」
律「寂しいのはわかるよ。あたし達も一緒だ」
梓「でもっ…」
律「梓は1人になっちゃうしもっとさみしいっていいたいのか?」
梓「うっ…」
律「お前は1人なんかじゃない。憂ちゃんや純ちゃんがいるじゃないか」
律「あたし達だって会おうとおもえばいつでも会えるし、いつだって梓と繋がってるんだぞ?」
梓「…」
梓「…そう……ですよね」
梓「でも…」
律「どうした?」
梓「私、自信がないんです。部長になって上手くやっていけるか」
梓「私は律先輩みたいに決めるところで頼りになれないし、澪先輩のように厳しさの中の優しさがない」
梓「ムギ先輩みたいにみんなを包み込む力はないし、唯先輩のようにみんなから好かれて雰囲気をよくしたりできない」
梓「そんな私に部長ができるのか、みなさんを超えるようなバンドをつくれるかどうか……」
律「………だよ梓は」
梓「はい?」
律「梓はばかだなあって」
梓「なっ…」
律「梓は梓だろ?梓は澪や唯やムギじゃなければあたしでもない」
律「梓には梓のいいところがあるじゃないか!あたしだってみんなに支えられてきたからこそ部長ができたんだよ」
律「それにあたし達を超えるとか超えないとかは違う。梓が作りたいバンドを作って行けばいいんだよ」
律「自分たちのペースで頑張れよ。な?」
梓「…」
梓「そうですね。私ちょっと考え過ぎてましたね……」
律「そうやって1人で抱え込むなよ?梓のことを心配してくれる人はたくさんいるんだ。もちろんあたしも含めてな」
梓「はい。ありがとうございます」
律「じゃ、帰るか!」
梓「はい!」
律「あっ、そだ。講堂の使用届はさっさと出せよ?」
梓「私は律先輩じゃないんですから大丈夫ですよ♪」
律「そうか。それは安心だな。じゃあ頑張れよ部長さん!」
梓「はいっ!」
梓に言ったつもりだったけど、
自分に向けて言ってたのかもな。
律「ありがとう、梓」
帰り道、あたしは梓と2人で歩いている。
ふと振り返ると日はもう沈みかけている。
そっと梓の頭を撫でる
梓は安心したような表情でこっちを見ている。
けれどまだその瞳からは不安が感じられる。
ブロロロロ……
前方から車が猛スピードで突っ込んでくる。
反射的にあたしは車道側にいた梓の肩を寄せる。
二つの影が重なる。
梓「あ、ありがとうございます……」
律「…」
無言で梓を抱きしめる。
律「先輩の前だからってがまんしなくていいんだぞ?」
あたしはそう言う。
あたしって素直じゃないな……
律「…」ぎゅっ
自分が泣きそうだからってさ…
梓「ほんとに……何から何まで…すみません」ぐすっ
いいんだよ梓。
律「あたしは部長だからな」
梓「…」
いつのまにか影は姿を消していた。
翌日。
律「おーっす!」
今日もあたしは元気よく部室のドアを開ける。
梓「律先輩こんにちは!今日も早く来てくださったんですね!」
律「おう、わるいか」
後輩との時間をできる限り長くするため、あたしは今日も早く部室に来た。
梓「いやいや、今日も昨日みたいにれんs」
律「あーはやくお菓子が食べたいなぁ~」
あたしはほんとに感謝している。
この感謝の気持ちを届けたい。
がちゃ
紬「おまたせ~」
澪「遅くなったな」
唯「おいーっす!」
律「おう!」
澪へ、唯へ、ムギへ、
梓「…もうっ!今日だけですからね!」ぼそっ
律「わーかってるって」ぼそっ
梓へ。
唯「あーりっちゃん今あずにゃんと内緒話したでしょ!?」
律「してないよ」
澪「そのぶんだと解決できたみたいだな」ぼそっ
律「ああ、ありがとな」ぼそっ
唯「澪ちゃんまで!?」がーん
紬「あらあら♪」
そして……
律「よーしじゃあティータイムにするかっ!」
大切なあの日々へ。
おしまい
最終更新:2012年04月14日 20:00