純「ブロッコリー」


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梓「もう! そんな大事なことどうして言ってくれなかったんですか!」プンスカ

さわ子「だってりっちゃん達から聞いてると思ったんだもーん!」

梓「もーんとか言ってもダメです!」

さわ子「だから謝ったじゃない……」メソメソ

憂「まあまあ。ほら梓ちゃん、あの子が淹れてくれた紅茶美味しいよ?」

梓「あ、うん。…………ん! ホント美味しい」

憂「ね。新入部員のことも、焦らずやってこ?」ニコッ

梓「ん……、そうだね。ありがと、憂」

さわ子「じゃ、じゃあ私は明日の授業の準備とかしてるから!
    もし何か相談したいこととかあったら声掛けてね!」ガタン スタスタスタ

梓「逃げた」

憂「逃げたね」

梓「……はぁ。ちゃんと新入生も勧誘するつもりではいたけどさー」グデッ

憂「大丈夫だよ梓ちゃん。ひとりでも入ってくれればいいんだから」

梓「そうだけど……。絶対入れなきゃ廃部ってなるとプレッシャーがね」ハァ…

  純「……ゴホン、ウホン」

憂「部長が難しい顔してると、入る子も入らなくなっちゃうよ?」

梓「う……」

  純「オホン、ゴホン」チラッ

憂「何か楽しいこと考えてみようよ。……あっ、バンド名とか!」

梓「……ふふっ。うん、そうだね」

  純「ゴホン! ウェッホン!!」チラッチラッ

梓「なに。純、風邪?」

憂「大丈夫? のど痛い?」

純「キミたち……。バンド名もいいけど、何か大切なこと忘れてない?」

梓「え?」

憂「大切なこと?」

純「そう、大切なこと。これを忘れちゃあ今日は帰れないっしょ!ってやつを」

梓「……?」キョトン

憂「……?」キョトン

純「ぴったり同じ角度で首かしげられるとちょっと傷つくわ」

梓「だって……ねえ?」

憂「うん……」

純「……ヒント! 今日は何の日?」

梓「今日? えーと、4月8日?」

憂「あっ!」ピコ-ン

純「はいっ、憂!」

憂「忠犬ハチ公の日!」

純「メィニアック!!」

梓「いい発音だ」

憂「あ、あれ? 違った?」

純「違ったっていうか知らなかった」

憂「そっかあ」

梓「んー……。よ、し、や……し、わ……。あっ! シワの日?!」

純「ゴロ合わせか!」

憂「さわ子先生の前で言わない方がいいよ」

梓「そうだね」

さわ子「呼んだ?」ヒョイ

梓「呼んでませーん」

さわ子「あらそう」スッ

純「……もう、ふたりとも本気でわかんないの?」

梓「もったいぶらずに教えてくれればいいじゃん」

純「自分の口から言うのってなんか情けないじゃん」

憂「そうなの?」

純「そうなの!!」

梓「言いたいなら言いなよ、聞くからさ」

純「…………。年に一度の記念日を親友に忘れられるってショックだよ」

梓「あ」

憂「あっ」

純「ふたりはちゃんと覚えててくれてると思ったのに」ムスッ

梓「……」チラッ

憂「……」チラッ

純「そりゃ新学期すぐってあんまり友達から祝って貰えないけどさ……」ブツブツ

梓「……」コソコソ

憂「……」コソコソ

純「憂と梓にまで忘れられるとは思わなかったよ……」ブツブツ

梓「じゅーんっ」ガバッ

憂「じゅーんちゃんっ」ガバッ

純「はっ! いつの間に背後に……っ?!」ガタッ

梓「ああほら、動かないの」ホドキホドキ

純「えっ? あ、ちょっ、なんで髪ほどいてんの?!」

憂「ほら、前向いてて?」ホドキホドキ

純「憂まで?! てか何やってんのふたりとも!」

梓「いいからいいから」サッサッ

憂「いいからいいから」スッスッ

純「なんなのよもう……」

梓「純の髪って柔らかいよねー」サッサッ

憂「ふわふわモフモフだねー」スッスッ

純「ふたりして私の髪いじってどうしようっての」

梓「いいからいいから」サッサッ

憂「お客様、おかゆいところはございませんか?」スッスッ

梓「それシャンプーの時」

憂「あ、そっか」

純「よくわかんないけど、おかしなことしないでよ?」

梓「よし、と。憂、左右に分けるのこの辺でいいかな」スイ-

憂「うん、じゃあここからこっちは私が……っと」スイ-

純「うぅっ、くすぐったいよ!」ブルッ

梓「ほら動かない」スイ-

純「ていうか、結局いつもの髪型に戻してるだけじゃないの?」

憂「いいからいいから」スイ-

純「もう……なんなの」

梓「あれ? そっちのほうがちょっと大きくない?」

憂「そうかな」

梓「やっぱり大きいよ。それに高さもちょっとずれてる気がする」

憂「そうかなあ。あ、でもたまにはアシンメトリーな感じも可愛いかもだよ?」

梓「駄目だよ、左だけずるい!」

憂「ええー。じゃあ……こぢんまりした右も可愛くてズルい!」

梓「……」

憂「……」

純「……?」

梓「くそーっ左ボンバーめ、お前のモフモフをよこせ!」サッサッ

憂「なにおう、右ボンバーに渡してなるものかっ!」スッスッ

梓「抵抗するか! 生意気な!」サッサッ

憂「返り討ちにしてくれる!」スッスッ

梓「ていっ! このっ!」プシュゥ-

憂「なんのっ! ふんすっ!」クルクルッ キュッ

梓「……!!」

憂「……!!」


  梓憂「合体! ビッグボンバー!!」ジュジュ~ン!!


純「人の髪で遊ぶな!!」ポカッ ペシッ

梓「あでっ」

憂「たっ」


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梓「いっつー……本気で殴らなくてもいいじゃん」ヒリヒリ

純「あんたたちがおかしなことするからでしょ!」

憂「まあまあ、紅茶、新しいの淹れたから飲も?」スッ

純「他人事みたいに微笑みながら差し出されてなんか悔しいけどいただきます」

憂「ふふっ。さわ子先生も呼んでくるね」トコトコ

純「……で、私の髪をひとつに結んでどうしようっての?」

梓「え? ……なんとなく?」

純「今日から梓のこと右ボンバーって呼んでいいよね」

梓「嫌に決まってるじゃん」

純「……」

憂「先生きたよー」トコトコ

さわ子「紅茶、紅茶♪ あら純ちゃん、頭のてっぺんにブロッコリー生えたの?」スタスタ

純「先生じゃなかったら口の中に生のブロッコリーをねじ込んでるところですよ」

さわ子「インパクトあっていいじゃない」モフッ

純「ナチュラルに触っていかないで下さい」

憂「あはは」

ゴソゴソ……

純「ん? 憂、何やってんの?」

憂「はいこれ、みんなで食べよ?」コトン パカッ

純「え? これ……ドーナツ? 憂が作ったの?」

憂「うん。今日は多分部室で純ちゃんのお祝いもすると思ったから」

純「えっ……」

憂「さっきの子もいる時に出せたら良かったんだけど……」

梓「……」スッ

純「えっ、梓も? ……ってこれ」

梓「わっ、私は憂みたいにうまく手作りできないし、純が好きなものだしいいかなって!」

純「ポッキー詰め合わせって……。あはっ、さすがポッキーの日に生まれた女」

梓「嫌なら持って帰るけど」

純「美味しくいただきます!」

憂「ふふっ。お皿用意するね」カタン トコトコ…

純「なによぅ、ふたりとも覚えてくれてたんじゃん」

梓「ちょっとからかっただけだよ。純の誕生日を忘れるわけないじゃん」

憂「ねー」ニコニコ

純「もう……」

さわ子「……」クスッ

カチャカチャ……

憂「はい、どうぞ」コトン

梓「コホン、じゃあ改めて」

純「……」

梓「誕生日おめでと、純」

憂「純ちゃんおめでとう」

さわ子「おめでとう。18歳かぁ……まだまだ若いわね」フフ…

純「えへへ、ありがと……。先生も、ありがとうございます」テレテレ

さわ子「憂ちゃんの手作りお菓子が食べられるなら毎日純ちゃんの誕生日でもいいわね」モグモグ

純「前言撤回していいですか」

梓「美味しいよ、ドーナツ。純も食べなよ」モグモグ

純「なんか釈然としない……」


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純「ふ~、おなかいっぱい! ごちそうさまでした!」

憂「おそまつさまでした」

梓「あっ、もう下校時間だね」

純「わ、ホントだ」

さわ子「食器は片付けておくから、あなたたちはもう帰りなさい」

憂「え、でも……」

さわ子「美味しいドーナツを食べさせてもらったお礼よ」ニコッ

憂「……じゃあ、お願いします、先生」ニコ

純「よっし、じゃあ帰りますかっ!」ガタッ

梓「なんでそんな張り切ってんの」

純「ふふふ、今夜は家でごちそうが待っておるのだよ」ワクワク

梓「おなかいっぱいって言ったばっかりじゃん」

純「友達のお菓子と家のごちそうは別腹!」

梓「はいはい」

憂「あはっ」


キーンコーンカーンコーン……

トコトコ トコトコ

純「……ねえ」

憂「うん?」

梓「なに?」

純「なんか、すれ違う人にやたら見られてる気がするんだけど」

憂「えー? 気のせいじゃないかなあ」

梓「多分あれだよ、誕生日オーラが出てるんだよ純から」

純「なによ誕生日オーラって」

梓「なんかこう……特別な感じがこう……ふわーっと」

純「中途半端なボケは結構イラッとくるよ?」

憂「ふふっ」

トコトコ トコトコ

梓「じゃあね18歳の鈴木さん」バイバイ

憂「また明日ね、18歳の純ちゃん」バイバイ

純「……えっと、また明日、17歳の中野さんと平沢さん」バイバイ


トコトコ トコトコ


純「……うまい返しが思いつかなかった」


トコトコ トコトコ……キィ、ガチャン ガチャ バタン

純「ただいまー」

淳司「おう、おかえり」

純「あれ、あっちゃん帰ってたんだ?」

淳司「まあ、お前の誕生日だし……って」

純「うん? なに?」

淳司「純、お前……頭のてっぺんからブロッコリー生えたのか?」

純「は?」

淳司「なにそれ、流行ってんの?」

純「はぁ?! ……あっ、ふたりにいじられたままだった」バッ

淳司「ブロッコリーヘアとか、今時の女子高生はなかなか斬新だな」フフッ

純「~~~っ!! あっちゃんのばか!」ドタドタドタ

淳司「あ、おい! ……なんなんだよもう」

ドタドタドタ ガチャバタン!

純「もう! いくら兄貴でも言っていいことと悪いことがあるよ!」プンスカ

純「私が癖毛気にしてるの知ってるくせに! ああもう髪ほどくし!!」バッ


  [  鏡  ]


純「……うん?」ピタッ


  [  鏡  ]


純「……???!!!」

純「……わ……」

純「私の頭から……ブロッコリー生えてるッ………!!!!!」ガビーン

純「……」

純「……ふむ」ジーッ

純「……緑のリボンで根元を固く結んで茎を表現し、緑のカラースプレーで髪を染め……」サワサワ

純「私の癖毛をうまく活かしてブロッコリーのふんわりとしたイメージを再現……」モフモフ

純「この形……この触り心地……。彼奴らめ……なかなかどうして、やりおるわい……」フフッ

純「ってバカ!!!!!」ガターン!!


  母「ただいまー。あら、純はまだ?」

  淳司「帰ってはきたんだけど……なんかよくわかんないけどブロッコリーに激怒してた」

  母「え? ブロッコリー?」


純「あいつら覚えてなさいよ……明日絶対仕返ししてやる……!」シュルシュル

ポロッ カツン

純「ん? なんか落ちた」

純「……なんだろう、プラスチックケース?」ヒョイ パカッ

純「ピック? …… J U N ……? あっ、私の名前が入ってる!」

純「…………。これ仕込む為に……?」

純「……手が込み過ぎでしょうよ」

純「ん、底になんかメモが……」ガサガサ




  純へ
  誕生日おめでとう。
  それから、軽音部に入ってくれてホントにありがとう。
  憂と相談して純専用のピックを作ってみました。
  進路とかも色々大変だけど、楽しい1年にしようね。    梓


  純ちゃんへ
  誕生日おめでとう!ピック気に入ってくれたかな?
  これでいっぱいベース弾いてね。
  早くみんなで演奏したいな♪               憂



純「……」

純「……なによもう、これじゃ怒れないじゃん」クスッ

純「ふふ……。ありがとね、ふたりとも」


  \ 純ー? ごはんよー /


純「はーい! すぐ行くー!」

純「ふふっ……」

純「……」

純「…………あっ」

純「このピック……ブロッコリー色だ……!」

純「……ッ」ワナワナ

純「やっぱり許さーーーーーーん!!」ガターン!!





おしまい


終わりました
次の方どうぞ



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最終更新:2012年04月18日 20:09