唯「あっ、あずにゃん来たよ」

梓「お待たせしました」

律「随分長いトイレだったな。便秘か?」

梓「違います!///」

唯「キレが悪かっただけだよね?」

梓「それも違います!///」

紬「間違えて男子トイレに入って、出るに出られなくなったのよね?」

梓「ムギ先輩も!」

澪「実は、紙が無かったんだ」

梓「澪先輩まで!」

ふふふ、分かってますよ。

私の緊張をほぐすために、こうやって冗談言ってくれてるんだ。

紬「はい、梓ちゃんの分のお茶。ジャスミンティーよ」

梓「ありがとうございます」

ごくごく

このお茶良い香りで、気分が落ち着くな。

律「じゃあ曲目確認しておくぞ」

律「まず、唯ボーカルで、ご飯はおかずと、かれーのちライス」

律「続いて澪ボーカルで、五月雨20ラブと、ときめきシュガー」

律「最後に、梓ボーカルで、筆ペンボールペンと、ふわふわ時間だ」

律「MCは唯がやってくれるから、梓は歌うだけで良い」

律「梓が歌う頃には、客席も温まってるから大丈夫だ」

梓「はい」

唯「そう言えば、ライブが成功した時のご褒美は決まった?」

紬「あ、そう言えば」

梓「ええ、一応決まりましたけど」

澪「何々?」

梓「そう言う話は、ライブが成功してからにしましょうよ///」

律「ああ、そうだな」

唯「そうだね」

私が望むライブが成功した時のご褒美、それは…

澪先輩と、もう一回デート。

皆の前では、大きなケーキが食べたいって言う事にしておいて、後でこっそり澪先輩にお願いするんだ。

そして、デートの終わりにもう一度告白する。

今度こそ。

「そろそろスタンバイして下さい」

唯澪梓律紬「はい!」

……

ステージ上から客席を見渡す。

うわー、客席一杯だ。

憂に純、和先輩にさわ子先生も居る。

ここで歌うのか。

唯「放課後ティータイムです」

唯先輩のMCを挟み、いよいよライブが始まる。

唯「1・2・3・4・ご飯!!」

唯先輩の煽りで客席が盛り上がる。

既に客席は十分すぎるほどに温まっている。

これだけ、堂々と歌いこなせる度胸が私にもあれば。

続いて、澪先輩のボーカル。

客席の一部で黄色い歓声が上がる。

チラホラと見た事有る顔が、ファンクラブの人達だ。

やっぱり澪先輩の人気は凄い。

澪「虹を描く筆は この胸にあるよ♪」

澪先輩は唯先輩と違い、動いたり煽ったりのパフォーマンスはない。

淡々と歌い聞かせる。

正に静と動のボーカル。

唯「続いては、後輩のあずにゃんボーカルで、筆ペンボールペンです」

いよいよ、私の番だ。

ドキドキ、ドキドキ

あれ?心臓の音って、こんなにうるさかったっけ?

ぶるぶる

止まったはずの震えがまた…

唯「あずにゃんは、これが初めてのボーカルなんですよ」

唯「今日のために澪ちゃんと色々特訓して」

唯「あ、澪ちゃんって言うのは、さっき歌ったベースの」

律「唯、MCさっさと終わらせろ」

唯「すいません」

客席からドッと笑いが起きたみたいだけど、今の私はそれどころじゃない。

唯「では改めまして、筆ペンボールペン」

律「1・2・3」

梓「……」

声が……出ない!

律(おい梓!)

紬(梓ちゃん!)

唯(あずにゃん!)

澪「!」

澪「ふるえる FUFU♪」

澪先輩がとっさにフォローしてくれる。

何とか途中から歌う事が出来たが、練習の時とは程遠いボロボロの内容だった。

私のボーカルデビューは、ほろ苦い物となった。

筆ペンが終わり、MCは挟まずにラストのふわふわが始まる予定だけど

今の状態じゃ、とてもじゃないがまともに歌えない。

頭の中が真っ白だ。

澪「~~~♪」

梓律唯紬「?」

律「澪のベースソロなんて予定にないぞ?」

予定には無いベースソロを突然弾き始めた澪先輩に、私達は困惑する。

澪先輩が、眼で何か合図を出している。

律「!」

澪先輩の意図に気付いた律先輩が私達をステージから降りる様に誘導する。

梓「?」

事態が飲み込めないまま、私はステージを降りた。

ただ一人、ベースソロを弾く澪先輩を残して。

梓「あの、何で澪先輩がベースソロを?」

律「澪がベースソロで時間稼ぎしてる間に決めてくれって事だろ」

梓「え?」

律「今の内に気分を落ち着けて、梓がふわふわを歌うのか」

律「それとも澪か唯に変わってもらうのか」

梓「あ!」

律「澪のベースソロも、そんなにもたないぜ」

律「そろそろ、あいつ沸騰するぞ」

あの恥ずかしがり屋の澪先輩が一人、ステージでベースソロを弾いてくれてるんだ。

重圧は相当なものだろう。

梓「……」

梓「私に歌わせて下さい!」

この歌だけは、ふわふわだけは絶対に歌いたかった。

澪先輩に告白するきっかけになった、この歌。

梓「もう大丈夫です。戻りましょう」


ステージに戻り、澪先輩と眼が合う。

ペコリと頭を下げる。

澪先輩は、ホッとしたような顔で私に微笑みかけてくれた。

唯「澪ちゃんのベースソロでした」

唯「では最後に、ふわふわ時間」

澪先輩、聴いてて下さい。

貴女の事を想って一生懸命歌いますから。

律「1・2」

梓「キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI♪」

澪(梓…これなら大丈夫だな)

梓「揺れる思いは マシュマロみたいにふわ☆ふわ♪」

律(心配かけやがって)

梓「いつもがんばる キミの横顔 ずっと見てても気づかないよね♪」

唯(あずにゃん頑張れ)

梓「夢の中なら 二人の距離縮められるのにな♪」

紬(愛の力ね)

梓「ふわふわ時間♪」

澪「ふわふわ時間♪」

梓「ふわふわ時間♪」

澪「ふわふわ時間♪」

やった、歌いきった。

客席から拍手が起こる。

何とも言えない、心地良さ。

梓「ありがとうございました」

盛大な拍手に包まれ、私達はステージを降りた。


楽屋

澪「あそこから良く頑張ったな梓」

律「大したもんだぜ」

梓「ありがとうございます」

梓「あれれっ」がくがくっ

澪「おっと大丈夫か?」

梓「何か緊張の糸が解けたのか、急に脚の力が抜けちゃって」

律「脚が生まれたての鹿みたいになってるぞ。そこのソファー座って休んでろ」

紬「澪ちゃん、付き添って上げて」

澪「うん」

唯「私達、他のバンドのライブ観てるからゆっくりしてて良いよ」

バタン

澪「しばらく私に寄り添ってて良いぞ」

梓「はい///」

梓「フォローしてくれてありがとうございました」

澪「良いんだよ。梓のピンチなら何時でも私が助けてやる」

梓 ///

澪「そうだ、ライブが成功した時のご褒美は何が良いんだ?」

梓「でも、半分は失敗しちゃったから」

澪「頑張ったんだ。特別だ」

梓「じゃ、じゃあ。あの…」

梓「もう一回私とデートして下さい」

梓「一回だけで良いんで」

澪「…駄目だ。そのお願いは聞けないな」

梓「そう、ですか……」

澪「一回じゃ嫌だから」

梓「え?」

澪「私は、もっともっと梓とデートしたいから一回じゃ嫌なんだ」

梓「それって…」

澪「ずっと返事、保留にしちゃってて。本当は、もっと早く伝えたかった」

澪「梓がライブ頑張ったから、私も頑張って気持ちを伝えるから」

澪「良く聞いててくれ」

梓「はい」

澪「……私が見てるとハートドキドキするのは梓だったみたいだ」

澪先輩、何という気持ちの伝え方。

梓「澪先輩らしい告白ですね」くすくす

澪「そ、そうか?これでも色々考えたんだぞ///」

梓「でも嬉しいですよ」

澪「そう言う訳で、ご褒美は他のにしてくれ」

梓「…えーとじゃ、甘えさせて下さい///」

澪「そんなので良いのか?」

梓「はい」

澪「甘えるってどうしたい?」

梓「膝枕して欲しいです」

澪「良いよ」

膝をポンポンと叩き、私を招く。

梓「いざ、してもらうとなると結構照れくさいですね///」ごろん

梓「澪先輩の膝枕、気持ち良い」

澪「そうか?」

梓「ねえ澪先輩?」

澪「なんだ?」

梓「私、素直じゃないって良く言われるんですよ」

澪「そうなのか?そんな風に感じないけどな?」

梓「それは、澪先輩の前だと素直になれるからなんです」

梓「本当の自分がさらけ出せるんです」

梓「こんな風に、素直に自分の気持ちを言えたり、甘えられるのは澪先輩だけです」

梓「ずっと、こうやって澪先輩に甘えたかった」

澪「ごめんな、気持ちに気付かなくって」

梓「良いんですよ。願いが叶ったんだから」

澪「今までの分を取り返すくらい、これから愛し合おう」

梓「澪先輩、恥ずかしい台詞ストレートに言いますね///」

澪「恥ずかしいか?」

私は膝枕の体勢からずりずりと身体を上方に動かす。

梓「んしょんしょ」ずりずり

澪「?」

澪先輩の膝まで自分の腰が来たら、上体だけ起こす。

いわゆる膝上抱っこの体勢。

梓「ギューッてして下さい」

澪「うん」

ギューッ

梓「澪先輩の身体、温かい」

澪「梓の身体も」

澪「あの、私からも梓に甘えてみたいんだけど良いかな?///」

梓「え?良いですよ」

澪「普段は皆に頼られる事の方が多いけど、私も誰かに甘えたかったんだ」

梓「今は、存分に甘えて下さい」

澪「うん」

澪「梓っ」

澪先輩は、私のほっぺたにほっぺたをすり寄せてくる。

すりすり

澪「梓~」

すりすり

無邪気な子供みたいに甘えてくる澪先輩は可愛い。

髪からシャンプーの仄かな香りが漂ってくる。

ほっぺたは、ぷにぷにだ。

しばらくして、顔が離れる。

澪「今のことは、絶対みんなには言わない様に///」

梓「言っても信じてもらえないでしょうけどね」

澪「そうかもな///」

しばし、お互い見つめ合う。

この雰囲気なら、おねだりしたらしてくれるかな?

梓「キスして下さい///」

澪「キス///」

梓「駄目ですか?」

澪「駄目じゃないけど、心の準備が///」

梓「ほっぺたでも良いです」

澪「あ、ほっぺたなら」

梓「じゃあ」

澪「見つめられると照れるから眼つぶってくれ」

梓「はい」ぎゅっ

ちゅっ

ほっぺたに温かくて柔らかい感触。

梓「えへへ」

澪「ふふふ」

梓「今度はお返しに私がします」

澪「え?あ、うん」

梓「あの、眼つぶって下さい///」

澪「う、うん///」ぎゅっ

澪先輩の肩に手をかけ、顔を近づける。

でも私が目指すのは、ほっぺたじゃなく…

ちゅっ

澪「ふぇっ?」ぱちくり

驚いて眼を開けた澪先輩と眼が合う。

澪「ええ?ほっぺたじゃなかったのか?」

梓「私は、ほっぺたなんて言ってませんよ///」

澪「もう///」

澪先輩は、真剣な顔で私をジッと見てくる。

あれ?怒っちゃったかな?

突然、私のほっぺたを両手で挟み込んだかと思うと

澪「イタズラ子猫にお仕置きだ」

ちゅっ

梓「んんっ」

温かくて柔らかい舌が、私の口内に入ってきた。

初めてのベロチューに少し戸惑ったけど、私も舌を絡ませた。

澪梓「んん、ちゅっ、ちゅぱっ」

澪梓「ん……ちゅ…ちゅっ……はふ……ちゅむ」

ゆっくりと唇が離れる。

梓「お仕置き、もっとして欲しいです///」

澪「その台詞だけ聞くと変態みたいだぞ」

梓「あはは、そうですね」

梓「もう一回ギューッてして下さい」

澪「何回でもして上げる」

ギューッ

梓「私、今凄く幸せです」

澪「私もだよ」

この日は、私のボーカルデビュー、そして澪先輩と恋人になった忘れられない日となった。


おしまい



おまけ


その頃、律は

律「あ、あのさ唯。私とHしない?///」

唯「へ?///」





最終更新:2012年05月03日 20:27