その夜、和は部屋でiPodを耳に当てた。

和(そういえば、折角会ったのに唯と将来のことについて何も話さなかったわね)

iPodをカチカチやりながら、楽しかったランチを思い出す。

あれだけ悩んだのに、会ってみればなんということもなく、

ただいつも通りの会話を交わしただけだ。

その時間もあっという間に過ぎていった。

だが、今日という日は、いつまでも覚えていて、

いつでも鮮やかに思い出せるような日になるような気がした。

和(まあ、また今度聞けばいいし、別に聞かなくてもいいか)

和はふと気になって、一旦iPodを置き、床に投げ出した工学のテキストを袋から出した。

気分の赴くままにテキストの一ページ目を開き、前書きに目を通し、ノートに問題を解き始める。

和は真剣な瞳でテキストを読んでいく。

問題を解く和のシャーペンはすらすらと進む。


いくらかテキストを進めた後、ふっと息をついて、

白い天井を見上げる。

なんだ、私ちゃんとK大に進めるじゃない。

そしてiPodを手に取り、何度目になるか分からない程聞き込んだあの曲を再生する。




唯もまた部屋で、ランチを思い出していた。

唯(全く、眼鏡を忘れるなんて眼鏡っ子として有り得ないよね~www和ちゃん面白すぎ)

唯(楽しかったから明日もランチしたいな)

唯(ああでも、今日は皆が来るの断っちゃったからな。明日はまた軽音部の皆で集まろうかな)

唯(こんなに楽しい友達に囲まれて、私幸せだなー)

唯は気分が高翌揚して、ギー太を手に取ってあの曲を奏でる。

唯(この曲が完成したら、絶対和ちゃんに聴いてもらおう。

歌詞も和ちゃんに向けてつくっちゃおうかな、あずにゃんにしたみたいに)

唯(次のランチはいつにしようかなー)

唯(次のランチ、次のランチ・・・)

唯(次のランチ)

唯(ランチランチランチ・・・あはは)


唯は涙していた。水滴がギー太のボディに落ちて、弦を弾いていた指も止まっていた。

やがて水滴はギー太のボディだけじゃなく、弦にも、カーペットにも、

もうどこに落ちたか分からないほどにいくつもいくつも落ちていって、

視界が霞んで水滴の跡も見えなくなった。


唯(えへへ、和ちゃん)

唯(私、和ちゃんがいてくれてよかったよ)

唯(和ちゃんがいてくれるのが嬉しくて、こんなに泣いてるんだよ)

唯(和ちゃんが面白すぎて、笑いすぎて泣いてるんだよ)

唯(ありがとうね、和ちゃん、こんな私に・・・)

その後、唯はギー太を抱えたまま枕に突っ伏して声をあげずに泣いた。

憂にも気づかれないくらい密かに唯は泣いた。

本当はわかっていた。

和とはもう長く一緒にいれないことを。

和とランチするのも、何の意味もない会話を交わすことも、

なくなっていくのだと分かっていた。

それでも唯は嬉しくて泣いた。

和の存在の全てに感謝しながら、和と過ごした日々を思い浮かべながら、

その笑顔の一つ一つを思い返して、それでも何故か胸は引き裂かれて、

涙は止め処無く流れた。


分かっているけど、今はまだ。


どれくらい経ったか分からくなった頃、押し殺した涙も止まった。

ぼやーっとする視界を腕でこすり、

霞みがかった頭の中に浮かぶメロディを求めて、

唯は昨日のCDをラックから引き出した。


♪ 君のこと以外は何も見えない なんて嘘だけど 


和(昨日はやたら唯のことばかり考えてたけど、
  やっぱり勉強も嫌いじゃないのよね。考えるの好きだし)
唯(昨日はなんか和ちゃんのことでもやもやしたりしたけど、やっぱ音楽って楽しいよね~)


♪ 離れたくないよ


和(離れるわけないじゃない)
唯(離れないよ)


♪どこに行くのニコニコして


和(唯が軽音部にはまり始めた時もちょっと寂しかったな・・・)
唯(和ちゃんって結構天然入ってるから
  ちょっと目を離すとニコニコしながらどっかいっちゃいそう)


♪ 君の隣に座っていい


和(高校に入ってから唯の隣に座ることは少なくなったけど・・・)
唯(和ちゃんが車の免許とったら隣に座って色んなとこに連れてってもらおう)


♪何もないがニコニコして 君の笑顔が見れればいい


和(唯が笑ってると私も幸せになる)
唯(和ちゃんを笑わせられたら最高の気分になるよ)


♪ところでマジに話をするけど 僕ってただのお調子者にみえるかい


和(唯がいきなりこんな話してきたら驚くわね)
唯(私がいきなりこんな話したら驚くだろうな)


♪自分でもさっぱり分かってないんだ


和(唯が自分のことなんか分かるわけないわよね・・・クスッ)
唯(いやそこはわかっとこうよ!やっぱ変な歌詞www)


♪馬車はとても遅く だってロバが引いてるんだもの


和(私達の今日の帰り道みたいね)
唯(和ちゃんって帰り道歩くのすごく遅いんだよね)


♪何もないが ニコニコして 君の笑顔が見れればいい
 馬車は走る 星の下を 二人毛布 被りながら 
 夜は冷える 肩組もうぜ 町の明かりが遠くに見え
 僕にとってこの寒さは 神聖さをましてくれるんだ


和(唯・・・)
唯(和ちゃん・・・)




和&唯(私は大丈夫だよ)





以上です。
感想・批判・ダメ出し・こき下ろし・罵倒お待ちしてます。
ではノシ



最終更新:2012年05月09日 01:36