律「澪!なんで怒ってるんだよ!」
澪「…律がわからないならいい。私の問題だから」
唯「わ、私かなぁ?私がなんかしちゃった?」
澪「唯のせいじゃないよ、私の問題だよ」

律に誘われて買い物に来ていた私達の空気は最悪だった。

朝、駅前で待ち合わせをして…先に唯が来てたから二人で話をしながら待っていた。…ムギは午後から違う場所で落ち合う事になってたけど。
…律もすぐに来たけど、律が不機嫌そうで…。私は必死に空気を良くしようと頑張った。

服を見に行ったけど、今日はバーゲンだからか…凄い人。
はぐれそうだなぁ…と思って気をつけようと思った矢先、律は唯と腕を組んで楽しそうに人混みに紛れていった。

…なんだよ、どうして今日…私も呼んだんだよ…

悲しいような悔しいような…寂しい気持ちに押し潰されそうになって、泣きそうになった。

私、なにかした?律に悪いことした?

そんな風に感じて入り口から動けなかった。

律「澪はもういいのか?」
澪「あ…う…うん」

戻ってきた律は機嫌が良くなっていて、私は逆に気分が重くなる。

店を出て、私の態度の変化に気付いたのか律が声をかけてきて現在に至る。

どうして、わからないんだろう…。
ちょっと無神経なんじゃないか、と私もつい意地になる。

律「言ってくれなきゃわかんないだろ!」
澪「…私、居なくても良かったなら無理に声掛けなくても良かったのに」
唯「えぇっ!?やだよ、澪ちゃんがいなきゃっ」
澪「…空気悪くしてごめん…私…今日は帰るから」

それよりも自分自身がこの空気に耐えられなくて…帰ろうと背を向けると、律に抱きつかれて動けなくなる。

律「待ってよ澪!私が悪かったよ…ごめん…最初…私がちょっと機嫌悪かったし…二人で先に行っちゃったのは謝るよ!…ほんとごめんっ…だから帰るなよ!澪が帰っちゃうのやだよ!」
澪「いいよ、私がこんな空気悪くしちゃったんだし…悪いから帰る」

律は離さなかった…律が謝ってくれたから許して良かったのに。それだけで充分なのに。
すぐに言えない私のばか。

律「わかった…それじゃあ…誰も悪くない、お互いに擦れ違っちゃった、これでいいだろ?」

その律の一言で涙が零れた。

律「な…?ごめん、澪」
澪「う…んっ…ごめん…律。唯も…ごめんねっ…」
唯「私は大丈夫!ほら二人ともご飯いこ!ムギちゃんが待ってるよっ」

律にぎゅっと握られた手に安心する私は単純だ。

…私は…こうして喧嘩をしても大好きなんだ。
律が冷たいと不安だし、他の人とばかり仲良くしていると嫌。

…そんな再確認をした1日だった。


end+



軽音部を結成して初めてのライブ。

さわちゃんの作った衣装は正直どうなんだろうとは思ったけど、澪に凄く似合ってたから…ちょっとだけグッジョブ!とか思ったりしていた。

けど…いい感じに演奏が終わって、もう完璧っ!って思った直後に起きた事が…ちょっとだけ私を不満にさせた。

律「澪ー、もう泣くなよー」

帰り道、恥ずかしくて立ち直れないと泣く澪の隣で励ましながら歩く。
こういう時の澪は中々立ち直らないから少しだけ厄介なんだよなぁ。

…でも、澪も悪い!

あんな姿晒して…写真とか撮られてたらどうするんだよ!

縞パンだったのは百歩譲っていいとする…寧ろいいんだけど…

…澪は私のなんだから。…気をつけて欲しい。

律「…ライブ自体は成功なんだから、そっちの方思い出してたらいいじゃん?」
澪「うぅ…っ」
律「ほーらっ!うじうじすんな!」

ばしっと澪の肩を叩くと、澪は漸く私を見た。
涙が滲んでいる目尻に唇を当てて優しく拭ってやる。

…澪は泣き虫だから。
私が傍にいなきゃいけないんだ。
…私がいつでも一番近くで…澪を見てるって、決めたんだ。

澪「律…」
律「…ほら。元気だせ?」

優しく髪を撫でてやる。
澪の髪は…サラサラで綺麗だ。小さな頃から何一つ変わってない。
…撫でると、少し嬉しそうにはにかむ姿も…変わらない。

漸く泣き止んだ澪の手をぎゅっと握ってやると足並みを揃えて歩く。

何分もたたない内に澪の家の前まで着いてしまうとゆっくり手を離す。
…けど、澪が嫌がって一度離した手の指先を掴んだ。

律「みーお。帰れないだろー?」
澪「だって…」

ゆっくり澪の指を解くと、唇を重ねた。
…澪も静かに目を閉じていた。
まだ澪が目を閉じている間に静かに離れる。

律「じゃあな、澪!」
澪「律…うん」

何か言いたげな澪に挨拶を告げると、私も帰宅した。


次の日。学祭の片付けに学校へ向かう。
…今日は澪に先に行くからと伝えていたから、一人で早めに。

学校へ着くと案の定写真が出回っていた。出どころを突き詰めると、何やら写真部らしい。

律「…出回りすぎだろー…疲れたぁ」

一応回収して回って、最終的には写真部に乗り込んでネガを没収してきたのはいいけど…。

律「もうさすがに出回ってないはず…だよなぁ」
さ「あ、律ちゃん!見てコレ!」
律「さわちゃん?…うわ!」
さ「ばっちり撮っちゃったー!…あっ!こ…これ没収したら私顧問やめちゃうわよっ」

得意げな表情のさわちゃんに悔しいながらも手が出せない。

律「…やめたらムギの持ってくるお菓子、食べられないからな?」
さ「はうっ!」
律「ネガを渡すかデジカメならデータの消去を私の前で見せたら許してやろう。出回らせないなら持ってていいから」
さ「う…うぅ…わかったわよ」

なんとかさわちゃんのデータも全部消去して教室へ戻ると澪がいた。
しかも片付けがだいぶ終わっていて、私が手伝わなかったからか少し不機嫌そうにしていた。

澪「…どこ行ってたんだよ、律」
律「どこって別にー?遅れてごめんって!怒るなよー」
澪「…別に怒ってないけど…」

唇を尖らせて不満げに視線を逸らす澪。
あー、怒ってるだろうなこりゃ…
でも…澪の為に一応した事だし…私は悪い事はしてない…はず。

クラスの片付けが終わればみんなバラバラに帰り始める。

私と澪は互いに無言になって少し重い空気のまま…でもなんだかんだで二人で並んで音楽室へ向かって居た。

昨日はアンプとかただ置いただけだったし、軽く打ち上げ…なんだけど。

二人の間に会話はなくて…ただ階段を登る足音が静かに響く。

唯かムギがいますように!と念じながら音楽室の扉を開けると、私の希望も虚しくそこには昨日のままの音楽室があった。

なんとなく気まずいままで鞄を並べて置く。
ドラムやアンプをいつもの場所に直していると澪が漸く口を開いた。

澪「なんで…今日先に行ったんだ?」
律「んー…ちょっとなぁ」
澪「…私、ちょっとクラスで恥ずかしかったんだからな…律もいないし…」
律「…」

漸く口を開いたと思えば…あんまり話したくない話題だから少し苦笑する。

澪「律がいたら…良かったのに…」

ぐすっと涙を啜る音が聞こえると、私は弱い。
ぎゅっと抱き締めてやると長くて綺麗な髪を撫でる。

律「悪かったって。忘れ物したから取りに行ってたんだよ」
澪「あんなに長い時間?」
律「途中でさわちゃんに捕まったんだよ。ごめんな?」

…ほんとの事は聞かせない方、いいよな。
つい嘘をついてしまいながらも撫でる手を止めない。

…あーあ…なんで私、澪より身長小さいんだろう。
澪より大きかったら包んであげられるのに…
もっと守ってあげられるのに。
…私が、男だったら……なんて考えても仕方ないよな…
私は私なんだから。

律「澪、でもお前気をつけろよー?」
澪「…?」
律「…ったく…次からはステージで足引っ掛けて転んだりすんなよって言ってんの!」
澪「うっ…」

ぴしっと額にチョップを食らわすと小さくため息をつく。

片付けが終わってすぐに唯とムギが音楽室に入って来た。
…こいつら、まさか片付ける気がなかった?!
とかついつい思ってしまう。

4人揃ってお茶をしながらライブの話をする。…当然例の澪の事は誰も口にしないけど。

唯「あれー?りっちゃんこれなに?」
律「えっ?うわ!ちょ、ま…っ!」

ポケットからはみ出していた写真を、私が止める前に唯が引っ張り出す。
…ああ、もう…
せっかく隠し通せると思ってたのに!私のばかー!いや、唯のばかやろーっ!

唯「あー」
紬「あら」
澪「なっ…!」

反応はバラバラ。
勿論、みんな予想通りの反応だけど…
澪はその中でも完全に予想通りで、みるみる内にゆでだこの様に赤くなる。

澪「なななな…っ!律!なんだよこれ!」
律「あー…いや…ほら、ね?」

さっき嘘をついてしまったから、なかなか言い出せない。
それに、言った所で澪が納得するだなんて思わないし…

紬「あ、やだ。そろそろ帰らないと…唯ちゃんも用事があるのよね?」
唯「ふぇ?私はべつ…」
紬「じゃあ二人とも、鍵よろしくね?」

寧ろ、居てくれた方が良かったのに…
とか思いながらも澪の方を向けないから対策を考える。
…どうしよ。

正直に話すと、一度でも写真が出回った事に澪がショックを受けるかもしれないし…嘘ついたの、いいたくない…
でもこうなった以上話さないわけにいかないし…

澪「…その写真、律が撮ったの?」
律「は…はぁ?私もステージにいたのに撮れるわけないだろ?」
澪「…そうだけどっ…じゃあ…誰が撮ったんだよ…」

…なんか、浮気を問い詰められてる男ってこんな気分なのかな…
いや!私は浮気なんかしてない!澪一筋だしっ…
って、そういうハナシでもないんだよ…

律「…わかったよ…話せばいいんだろ、話せばっ!話聞いてショックとかうけるなよな!」

盛大にため息をつくと向き直る。

律「…写真部から、その写真出回ってたんだよ」
澪「え…?」
律「心配だったから先に学校に来て、澪が来る前に全部没収したりしてたんだよっ」
澪「えっ…ええっ…うぅ…」

案の定、澪はショックと羞恥心に板挟みになっているのか、挙動不審だった。
そんな澪にため息が出る。

澪「り…律ぅ…」
律「はぁ…ほんとにしっかりしてくれよな…」
澪「うぅ…」
律「…好きなやつの恥ずかしい姿、他のやつに見せたい訳無いし、良い気分するわけ無いだろ!だから気をつけろって言ってんの!」

……あー…言っちゃった。
自分の中に閉じ込めておこうと思っていた言葉を…全部口に出してしまった。
…澪のことになると、少し感情的になりすぎるのかも。

チラリと横目で澪を見るとどこか申し訳無さそうに私を見ていた。

澪「ごめん…」
律「い…いや、謝らなくていいって!私もごめんな…最初から本当のこと言わないで…」
澪「ううん…律は…私の為に黙っててくれたんだろ?ありがと…」
律「澪…」

あぁ…

そのはにかんだ顔に私は弱いから…

ぎゅっと抱き締めて

嫌な気持ちは全部忘れてしまおう

律「澪は…私のだからな…」
澪「ん。律こそ…私のものなんだからな…」


そう言ってキスを一つ。


独占欲なんて、ない方がおかしい。
だから澪は…ずっと私のもの。
離したりするもんか。

だから、ずっと一番傍で澪を見ているよ。


…今回の写真は、こっそり額にでも飾って置こう。…なんてな。




end+



4 ※唯憂
最終更新:2012年05月09日 21:56