唯「うわー空が真っ暗」

梓「今にも雨降ってきそうですね」

唯「うん。りっちゃんが部活切り上げてくれてよかった」

梓「そうですね」

唯「おわーあっちの空はまだ明るいのに私達の帰り道の方向は真っ暗だぁ」

梓「予報だと夜に降るって言ってたのに」

唯「そうなの?」

梓「唯先輩も天気予報見てなかったんですか?」

唯「そういえば憂がそんな事言ってたかも」

ぴかぴかっ。

唯「うわあっ!?」

雲が青白く光る。
唯は素早く耳をふさいで肩をすくめた。
5秒たって遠くの方でごろごろごろ。

唯「鳴った?」

梓「鳴りました」

唯「ふぅ……」

梓「雷苦手なんですか?」

唯「だって怖いもん」

梓「遠くの方ですから大丈夫ですよ」

唯「そうかなぁ」

しと。
しとしと。

唯「雨降ってきちゃった」

梓「でも小ぶりみたいですね」

しとしとしとしと。
さああああああ。
ざああああああ。

唯「そうでもないみたい。急いで帰ろ?」

梓「はい」

ピカッ。

唯「きゃあ!?」

梓「大丈夫ですよ――」

ゴロゴロゴロゴロドーーーン!

唯梓「わあーーーー!?」

ざあざあざあざあ。

唯「あずにゃん急ぐよ!」

梓「はっはい!」

ピカッごろごろごろ。

梓「ひいっ!」

あっという間にざあざあと雨が降ってきて、風もびゅうびゅう吹いて来た。
唯が走って、梓も唯の後ろにぴったりくっついていく。
耳を塞いでとにかく急いで。
そうして家に辿り着く頃には二人ともびしょ濡れになっていた。

唯「はあー怖かったぁ。それにびしょびしょだよ」

梓「そうですね……」

唯「あずにゃんも雷怖いんじゃん」

梓「それはっ……あんなに大きい音の雷初めてだったし」

家についてほっと一息。
家の中ならざあざあもごろごろも小さな音。

憂「お姉ちゃんお帰りー。梓ちゃんも」

梓「あっ」

唯「ん?」

憂「?」

梓「気付いたら唯先輩の家まで走ってきちゃってました……」

唯「おお、そういえばそうだね。でもしょうがないよー雷怖かったもん」

梓「はい……怖かったです」

唯「まあ雨宿りしていきなよ~」

梓「じゃあお言葉に甘えて」

憂「タオル持ってくるからちょっと待ってて」

唯「ありがとー憂」

梓「あ、ありがと」

身体を拭いてリビングに上がる。
もうすぐ夏とはいえずぶ濡れになってしまうと流石に身体が冷える。

唯「うー、何かあったかい物飲みたいかも。そだ! ホットミルク飲もう」

憂「私が入れるよ。梓ちゃんもホットミルクでいい? お吸い物もあるけど」

梓「えっと、私もホットミルクで」

唯「お吸い物か~昔CMでやってたよね。雨に濡れて帰ってきたらテーブルにお吸い物が置いてあって」

梓「ありましたねそんなCM」

唯「む、お吸い物も捨てがたいな……」

しばらくして憂ちゃんがホットミルクを用意してくれて、梓はそれにそっと口をつけた。

梓「……はあ」

めったに飲まないから新鮮で、どこか懐かしい。
何だか落ち着くな、と梓は思った。

唯「見て見て、湯葉だよほら。ホットミルクの湯葉」

梓「これって湯葉って言うんですか?」

唯「湯葉でしょー」

牛乳や豆乳を温める事で表面に膜が張る事をラムスデン現象と呼ぶ。
でも湯葉って呼ぶのは豆乳で出来た膜の事だけなんだ。

ホットミルクを飲み干した頃、暗い雲は去って日が差し込んでいた。

梓「よかった晴れたみたい」

唯「ほんとだ。晴れるの早かったなぁ」

梓「それじゃあ私帰りますね。ホットミルクごちそうさまでした」

憂「いえいえ」

唯「バイバイあずにゃ~ん」

梓「おじゃましました」


外に出るとさっきの大雨が嘘みたいに明るい。
アスファルトも乾き始めている。
残念だけど虹は見つからなかった。

梓「虹が見えた所もあるのかな?」

あるかもしれないな。

梓「ただいま」

梓が家に帰ると梓のお母さんがタオルを持って玄関までやってきた。
既視感を覚えつつも友達の家で雨宿りさせてもらったから大丈夫と伝える。
そしたら今度は何かあたたかい物でも飲む? と聞かれた。
梓は何だか可笑しくなってくすくすと笑う。

梓「それも大丈夫。もう飲んできたから」

言いながら梓は思った。
玄関を開けてからのこのほっとする感じ、さっきと同じかも。
家のにおいが似ているのか、それともあの二人がお母さんぽいのか。

”自宅を感じる”って言えばいいのかな?
梓は平沢家と唯と憂ちゃんに自分の家とかママとかそういうものを感じたんだと思う。
本人は気付いてないみたいだけど。

夕方の6時を過ぎた。
薄くなった雲に薄いオレンジの光が広がって、それも段々暗くなってきた。
キミのいる場所はどう?



END



最終更新:2012年05月28日 20:08