ありがとうございましたー



コンビニで夕飯を買った後、私はまた寒い夜道を歩く。
まだそんなに遅い時間じゃないのにもうだいぶ暗い。
日が落ちるのもはやくなったんだなあ…


ぶるるる…


おっと唯先輩かな?

ポケットから携帯を取り出すと、それを確認する。
そして交差点の信号が赤なのを見て立ち止まると電話に出る。

梓「もしもし?」

唯「あ、あずにゃん!さっきはごめんね、ご飯食べてたんだ~」

梓「やっぱりそうですか。いや、そうかなとは思ってたんですけどね。すみません」

唯「いいよいいよ~。ところでどうしたのかな、あずにゃん?」

梓「いや…」

そういえば電話を掛けた理由が見当たらない。
しいて言うなら…

唯「さみしかった?」

梓「なっ…そんなことないですっ」

唯「だってあずにゃん今外にいるんでしょ?車の音聞こえるよ?だからさみしかったのかなあって」

う…そこまで読んでくるとは……

梓「そ、そうですよ!もう!」

唯「なーんだ、あずにゃんにも可愛いところあるんだね~。じゃあ明日会ってあげるよ。あずにゃんの家行くね」

なーんだってなんなんですか!?
…と言おうとしてやめた。
その後の言葉が嬉しかったんだ。

梓「あ、はい!まってます」

唯「あずにゃん今素直だね~」

梓「ほっといてください!じゃあ切りますよ?失礼します」

唯「うん分かったよ。じゃあね~」

私は唯先輩が電話を切るのを確認すると携帯をポケットにしまい、また夜道を歩き出す。

梓「おっと…」

信号が点滅している、いそがないと。
私は小走りで横断歩道を渡る。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

ぼふっ

私は携帯を閉じるとベッドに寝転がる。

明日はあずにゃんとデートかあ。
こんなこと言ったらあずにゃんにまた怒られちゃうのかな?

今日はいろいろあったなあ…
楽しかったけど、疲れたや………

がちゃ

憂「お姉ちゃんお風呂沸いてる…よ…」

憂「…明日でもいっか」

憂「おやすみ、お姉ちゃん」

ぱたん



翌日

唯「あーずにゃんっ、来たよ~」

翌日、私はあずにゃんに会いに行った。

梓「あ、唯先輩。あがってください」

唯「ごめんね突然お邪魔して」

梓「いえいえ、こちらこそ昨日電話なんてしちゃってすいません」

唯「あずにゃんなら毎日でも掛けて欲しいけどなあ」

梓「そ、そんなこと…」

唯「えー、いーじゃんあずにゃんはケチだな~」

梓「分かりましたよ!時々掛けます、時々ね」

唯「…わかったよぅ」

梓「とりあえずあがってください、いつまでも玄関っていうのもなんなんで」

唯「あっ、ごめんごめん」

こうして私達の初デート?は始まった。

…とはいっても、やっぱりあずにゃんの家にいるだけじゃ何もない。

あ、あずにゃんの家に何もないって言ってるんじゃないよ?ほんよだよ?

でもやっぱりなにかないとひまだなあ。

ふとあずにゃんの方を見る。
うつむいてなにか考えているように見える。
何を考えているんだろう?
私はそれを考えることにした。

……あれ?布団…
何時の間にか私は寝ていたみたいだ。

梓「やっと起きましたか、おはようございます」

そうだ、あずにゃんの家に遊びに来たんだっけ。
なのに私は…

唯「ごめんね、あずにゃん」

梓「いいんですよ。それに…」

あずにゃんはどこかすっきりとした表情だ。
まるで悩み事がなくなったみたいに。

…ん?
忘れてた……結局あずにゃんは何を考えてたんだろう?

唯「それに…?」

梓「あ、いや何でもないです」

唯「なーんだ」

梓「ただ…」

なんだろう?

梓「あの、今年はクリスマス会やるのかなあって」

唯「なんだ~、もっと重要なことがあるんだと思ったよ~」

梓「いや、でも私…去年は私中学生でしたし話しか聞いてなくて…」

唯「あ、そっか~。今年ね…分からないけど、あるといいな~」

梓「ところでそれってあるとしたら24日なんですか?」

なにか聞かれたことのあるような質問だよ。

唯「うん、たぶんね」

梓「そうですか…あの…」

あずにゃんの顔が赤く見えるのは夕焼けのせいかな?
窓の外を見る。すこし暗いみたい。

梓「あの…その次の日ってあいてますか?」

思わぬお誘いだよ!
あ…でも私その日は…

そんなことを考えていた私は、変な返事をしてしまった。

唯「うん!もちろん!あ…でも…そn

梓「そ、そーですよね、すいません…無理なお誘いしちゃって」

唯「あ…うん…」

どうしよう…
あずにゃんからのお誘いも嬉しいけど、憂は…

梓「ほら、外ももう暗いですし憂も心配してますよ」

唯「…」

外はもう真っ暗だった。
すぐ暗くなっちゃうんだな。

梓「じゃあ私唯先輩送りますよ」

唯「いいよいいよ、気にしないで」

梓「いえ、私が勝手に会いたいって思ってたから悪いんです…唯先輩はそれでわざわざ来てくださったんですから」

唯「そっか、ありがとあずにゃん。でも私も会いたいって思ってたよ?」

梓「そうですか、よかったです…」

それ以降私達の会話はないまま、私の家に着いてしまった。

唯「じゃあ…ばいばいあずにゃん」

梓「はい、失礼します」

あずにゃんの背中がいつもより小さく見える。
あずにゃんが角を曲がったのを確認すると、私はドアの方へ歩いて行った。

…ん?ちょっとまって。
あずにゃんが曲がったのって…

私は今来た道を引き返す。

唯「はあ…はあ…」

あずにゃんの家には誰もいないみたいだ。

やっぱりさっきはどこかに…
私のせいで…私の…


最後の望みだった公園にもいない。
走り回ってへとへとになった私はベンチに腰掛けた。

どこにもいない…どこいったんだろうあずにゃん…
憂に連絡したほうがいいかな?

梓「なにしてるんですか?こんなところで」

唯「…!あずにゃん…」

目の前にいたのはあずにゃんだった。

梓「ほら、風邪ひいちゃいますよ、立ってください」

唯「あずにゃん、どこ行ってたの?」

梓「私ですか?ここ数日間親がいないので買い物行ってました。今はその帰りです。毎日買うのも面倒ですし…。って言っても即席のものが多いんですけどね」

唯「あ…なんだ…よかった…」

梓「さあ帰りましょう。私もう一回送りますよ」

私達はもう一度さっきとおなじように歩き出す。

唯「あずにゃん、私片方もつよ」

梓「いいですよ、悪いです」

唯「遠慮しないであずにゃん、ほら」

梓「じゃあ…お願いします」

あずにゃんはそう言って左手の荷物を私に渡す。
私は右手でそれを貰うと左手で持つ。

空いた右手、そしてあずにゃんの左手。


突然あたたかい感触がした。
右を見るとこっちを見て微笑むあずにゃん。
私も微笑み返す。


ふと買い物袋の中を見る。
中にはまだ飲みかけのレモンティーが入っていた。


梓「あっ」

唯「どうしたの?あずにゃん」

梓「今流れ星が見えたんですよ」

唯「私もみたかったな~。あずにゃん何かお願いした?」

梓「いきなりすぎてそんなことできませんよ」

唯「そっか~、そうだよね」


私も空を見上げる。
月…
月が綺麗だね、あずにゃん。

そうだ。


唯「あずにゃんほらあそこみて!」

梓「どこですか?」

唯「違うよあずにゃん、あっちだよ」

梓「えー、何が見えるんですか?私には分かりません」

唯「そっか~…それは残念…」

梓「んっ…」

2人の影が重なる。
……甘酸っぱい味がした。




…ごめんね、憂。
約束、守れそうにないや。



おしまい



最終更新:2012年05月28日 22:31