‐休憩室‐

唯「さて、純ちゃん。帰る時間ではあるけど、ちょっと待ってくれる?」

純「わー、楽しみですねー、お別れ会」

唯「梓ちゃんのおかげでこの有様だね」

純「でも、まあ。有難いことには変わりありませんよ」

唯「それなら良かった。じゃあ、付いて来て」


 ‐ホール‐


 「せーの……」

 「純ちゃん、今までお疲れ様でした!」


純「わーお……」

律「へへ、今日はこのメニューにあるやつ、何でも食べていいからな?」

純「本当ですか!?」

澪「唯が全部何とかしてくれるって言ってたよ?
 大切にされてるじゃないか、純ちゃん!」

純「唯先輩……!」

律「あんま働いてなかったけど、お疲れ様。高校受験、頑張ってくれよな」

純「ありがとうございます!」

澪「引っ越しもするんだよね?
 受験に引っ越しで、凄い忙しくなる時期だと思うけど、挫けずに頑張って」

純「はい、頑張ります!」

梓「まあ、私は純の代理だからね。
 純がいなかったら、ここにいなかったわけだし、一応感謝してるよ」

純「素直じゃないなあ、梓ー!」

梓「うるさい」

紬「純ちゃん。次に会う時には、純ちゃんがちゃんとした
 働き者になってることを私は願ってるからね」

純「はい、任せてください!」

さわ子「あなたの頭の形、次回KSTの参考にさせてもらうわ」

純「止めてください、あとCSTです」

さわ子「まあまあ、いつでも遊びにいらっしゃい!」

純「……はい!」

姫子「純ちゃんがいたこのお店の雰囲気は、すごい楽しそうなものだったよ」

姫子「それも純ちゃんのおかげかもね。楽しい時間を、ありがと!」

純「いえいえ、私の方も楽しませていただきました、ありがとうございます!」

憂「私はお店の人じゃないから、ちょっと違う言葉を送るね」

憂「……純ちゃんといたお姉ちゃんは、とっても楽しそうだったんだ」

憂「だから、お姉ちゃんと一緒にいてくれたこと、本当に感謝してるからね!」

純「私も唯先輩といて楽しかったよ、ありがと!」

唯「……」

純「ほらほら、唯先輩の番ですよ?」

唯「……純ちゃん」

唯「純ちゃんは本当、何もしないでグータラ過ごして」

唯「働きもしないで」

唯「お喋りばかりして」

唯「本当ロクでも無かったよ」

純「そんなですか……」

唯「本当に」

唯「毎日、純ちゃんを働くように仕向けることが当たり前になっちゃって」

唯「働きもしないような純ちゃんに、こんなお別れ会なんか開いちゃって」

唯「楽しい楽しいお喋りしかしないで」

唯「どうして、どうして純ちゃんはそんなに私を幸せにしちゃうの?」

純「唯先輩……」

唯「どうして、もっと早く会わなかったんだろうね」

唯「そしたらさ、もっと長い間、一緒にいれたんだろうけど」

唯「行かないで、なんて言わないよ。仕方のないことだもん」

唯「だけど純ちゃん」

唯「また会おうね」

純「……はい、約束します!」

唯「うん、約束。破ったら針千本飲ますから」

純「飲むはずがないじゃないですか」

純「私は自分には嘘をつかない、正真正銘の正直者ですよ?」

唯「ふふ、そうだったね」

さわ子「……はい、それじゃあ純ちゃんのお別れパーティー、盛大に始めるわよ!」



 「おーっ!」


――
――――
――――――



 こんばんは、平沢憂です。
 今、私達は純ちゃんのお別れパーティーをやっています。
 すごい盛り上がり様で、しんみりムードなんてまるでありません。

 これが今までお姉ちゃんと一緒に過ごしてきた方達と、
 その空間だと思うと、私は自分のしたことを誇らしく思ってしまいます。



梓「タダとはいえ、あんまり食べられそうにないです……」

律「梓は少食だなあ。そんなだから伸びないんだぞ?」



 年の差なんて関係無しに。



澪「さわ子店長、酔ってません?」

さわ子「んなことは無いわよ~」

姫子「これが普段通りだとしたら、逆にタチ悪いですよ」



 立場も関係無しに。



憂「紬さん、あの」

紬「お礼なんてしなくてもいいのよ?
 お役に立つことが出来たなら、一緒にそれを喜びましょ!」

憂「……そうですね!」



 喜びを分かち合える。



純「本当に食べ放題なんですよね?」

唯「足りない分は純ちゃんに払ってもらうからね」

純「えー、唯先輩、今は私が主役なんですよー?」

唯「主役は純ちゃんでも、主催は私だからね」

純「相変わらず手厳しいですね」

唯「純ちゃん相手だからね」

純「私に優しい唯先輩も、たまには見てみたいものですけどね」

唯「……見たい?」

純「えっ?」


 「ぎゅう」


純「唯、先輩……?」

唯「こうやって純ちゃんを抱きしめるなんて、初めてじゃないかな」

純「そうですね……とても温かいです」



 こんな素敵な場所。

 和ちゃんが言っていました。お姉ちゃんはもう、立派に成長した。
 少し寂しいけど、とても安心した、と。

 今なら“安心した”という和ちゃんの言葉がよくわかります。
 これなら、お姉ちゃんがどんな場所に行っても、楽しく過ごせる気がするからです。
 いつまでも可愛くて、カッコいい、私の大好きなお姉ちゃんでいてくれる気がするからです。

 こんな幸せな場所に出会えて、良かったねお姉ちゃん!



第一八〇話「最後のパートタイム」‐完‐



 ‐外‐

純「ふう、食べ過ぎましたかね」

唯「間違いなく食べ過ぎだよ」

純「唯先輩の財布、泣いてません?」

唯「誰のせいだと思ってるの」

純「ははっ、確かにそうですね」

純「……じゃあ、私はこれで帰ります」

唯「そっか」

純「明日からは此処にも来ませんし、引っ越しもしてしまいます」

唯「うん」

純「でも寂しがらないでください。必ず、また会えますから」

唯「……純ちゃあああん!」

純「うわっ!?」

梓「あー、純が唯先輩を泣かせた」

純「違わないけど違う!」

律「あーあ、女の子泣かせるなよー」

純「私だって女の子ですよ!」

澪「……純ちゃん、頑張って」

純「そのエールが心に刺さります」

純「ともかく!もう、行きますからね!」

唯「うぅぅ……」

憂「お姉ちゃん、ちゃんと純ちゃんを見送ってあげよう?」

姫子「顔上げなよ、唯」

唯「ありがとう、二人とも……」

紬「……じゃあ、行ってらっしゃい純ちゃん」

純「はい」

純「それでは……」



純「皆さん、お疲れ様でした!」



第一八一話「旅立ちの日に」‐完‐



    ・

    ・

    ・

    ・


   「あっ、そうそう」


    ・

    ・

    ・

    ・


純「四月からまたよろしくお願いします」

唯「えっ」

梓「えっ」

律「えっ」

姫子「えっ」

澪「ああ、よろしくな」

紬「楽しみに待ってるわね」

憂「高校でもよろしくね」

唯「えっ」


 「えっ……?」


唯「ちょっと純ちゃん」

純「はい?」

唯「それはどういう意味なの?」

純「ですから」

純「四月からまたここで働かせてもらうってことですよ」

唯「はい?」

純「あと予定通り、高校は唯先輩と同じところに通う予定です」

唯「……どういうことなの」

純「そもそも、違う高校に行くなんて一度も言ってませんよ?」

純「ましてや“遠くに”引っ越すなんて言ってませんし」

唯「えー……」

憂「お姉ちゃん、引っ越すことだけ聞いたら、お店に行っちゃうから……」

唯「早く言ってよ!」

澪「だから中途半端な情報は人に誤った認識を与えかねないって、“柳に小野道風”を例に挙げたのにな」

唯「何の話!?」

紬「てっきり知ってるかと思ってたのに」

唯「知ってたら、こんなパーティーは開かないよ!」

梓「えーと、なんで早い段階で純から言わなかったの?」

純「最初は近場に引っ越すだけだから、伝えなくてもいいと思って」

純「まあ話の中でポロッと言ったことはあるんだけどね。
 おかげで澪さんと憂にはバレちゃうし」

純「まあ、結局、唯先輩にはバレることなく今日になったんだけど」

純「あっ、今日を最後の日に選んだのにも理由があって」

純「どうせ四月には戻るし、何かさせるのも悪いから、
 唯先輩のいない日を最後の日にしようとしたんだ」

律「せめて四月に戻るってことは伝えられなかったのか……?」

純「なんの前触れもなく、いきなり私が職場復帰したらカッコイイじゃないですか!」

唯「まあ、大きな誤算が生じてしまうんですけど」

純「まさか今日、唯先輩が来てしまうとは想定外でした。
 引っ越しのこともバレてるみたいでしたね」

純「見事に勘違いしてるんですけど」

純「そんな唯先輩を、初めは“勘違いしてる唯先輩も面白いなあ”と思いながら見てたんですけど」

純「梓のネタばれのおかげで、こっちが申し訳なくなってきて、
 ネタばれをするタイミングを失っちゃって……」

純「今にずれ込んだって感じですかね!」

梓「……」

律「……」

唯「……」

唯「…………」

純「いやあ、本当にすみませんでした」

純「まさかこんなことになるとは思ってもいなくて……」

純「まあ、そんな訳ですので。お疲れ様です!」

律「じゃあなー」
梓「さっさと行っちゃいなよ」
唯「ばいばい」

純「いきなり素っ気なくないですか!?」

唯「そりゃあ、そうもなるよ」

唯「どうせまた会えるんだもん」

純「そうですけどー……」

唯「……また会えるんだもん」

純「ん、何か言いました?」

唯「……ほら、さっさと家に帰る!」

純「ちょちょちょっ、押さないでくださいよ!
 さっきまで別れを惜しんでたくせに、いきなりどうしたんですか」

唯「うるさいよ、純ちゃんのくせに!」

純「何ですか、その理屈は……」

唯「大体勉強しないと、同じ高校に行けるかもわからないんだよ」

純「ですね」

唯「だったら早く帰って勉強だよ!」

純「そんなに私に同じ高校に行って欲しいんですか」

唯「同じ高校に進まなかったら、一緒に仕事してあげないからね」

純「それはまずいですね」

唯「そうでしょ?だったら、早く家に帰る!」

純「うー……」

唯「どうするの!?」

純「……わかりました。この鈴木純、私の大好きな先輩との約束を果たすために、
 一生懸命の勉強することを誓いましょう!」

唯「……うん。その意気だよ」

純「では、また四月に会いましょう」

唯「じゃあね」

純「はい!」


――
――――
――――――


唯「……ふー……」

唯「……」

唯(行っちゃったか……)

唯「……」



唯「私も大好きだからね、純ちゃん」



第一八二話「四月へ告げる、始まりの約束」‐完‐



 ‐四月某日・お店‐

 「……」

 「それでですね」

 「その話、何回目?」

 「だって夢のマイホームですよ?
  広いんですよ?」

 「それはわかるけどさ」

 「親には感謝しなくてはいけません。
  あんな素晴らしいホームをありがとう!」

 「はいはい。それよりも、お客様がお帰りのようだよ」

 「本当ですね、行ってきてください」

 「人に行かせないで、自分から行くんだよ」

 「でも、この格好ですよ?店員と思われませんよ」

 「まさかCSTで自分の高校の制服着るとは思わなかったけどさ、
  なっちゃったもんは仕方ないよ」

 「仕方ありませんか。それなら、一緒に行きましょうよ」

 「……仕方ないなあ」



 「……」


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      | ト :.ヾ!〃心     .ん::::}\ トr ,: : | : :|.    ' ¨'勹乂ハ  :::::::  ′  ''''''  } ノ
      || ', : :| ヽ弋.!     弋ソ / \.| }: :| ハi         ヾ '.     , 、    ,ー '´
      | |.: : ',    ,       .|: : : :|/: : | | .|         `ヽ    `ー′   .′
       i .| : : :|           .|: : : :|: : : :.| |.       _  `丶、 _   イ
      . ,|: : : :ヽ、   つ    / : : :|: : : 人ノ       /::.::.::.¨' ーr:.'.丶   /ト、 _
        /イ : : : : : > __ ,. r<__|.: : : :|: : :| : :>    /::.::.::.::.::.::.::.::.|::.::',\/ _レ'´`'¬‐、
      / |: : : : : : : : _.-|_. イ  |: : : 人.:リ ヽ、    !::.::.::.::.::.::.::.::.::!::.::.:ヽイy'´     ,、_ト、
        ヽ : : : :.ト | .<´   /|: :/:::::::\__     ∨::.::.::.::.::.::.::.::\:./::.`ヽ、__ . -'´' /::.!
         ヽi ̄//介V ./:::::::|/:::::::::::::::::::::::::`.,   |::.::.::.::.::.::.::.::.::|::/::.::.::.::.::.::',  . -'´.::.:|
        . -‐´ ::〃//| |./::::::::::/::::::::::::::::::::::::::::::::|  l::.::.::.::.::.::.::.::.::レ::.::.::.::.::.::.::ノ フ!}::.::.::.::.|
        /:::::::::::{{_////.レ:::::::::::i:::::::::::::::::::::::::::::::::::|  ’::.::.::.::.::.:二イ::.::.::.::.::.::.ィ'ー'/::∨::.::./
        唯・純「ありがとうございましたー!またのご来店、お待ちしておりまーす!」



第一八三話「バイトやろーよ!~Let's WORK!~」‐完‐



 ‐ お し ま い ‐





最終更新:2012年06月03日 00:02