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紬「ただいまー」
憂「あ、紬さん」
梓「ムギ先輩おじゃましてます」ペコリ
紬「梓ちゃんいらっしゃい。今紅茶をいれるから待っててくれる?」
梓「いえ、家に姪がきてるのでもう帰ります?」
紬「梓ちゃんひょっとして忙しかった?」
梓「いえ、むしろちょうどいい息抜きになりました。子供の相手ってなんであんなに大変なんだろう…」
憂「じゃあまたね、梓ちゃん」
紬「この埋め合わせは必ずするから」
梓「別に気にしなくても……と言いたいところですが、今度の部活のときモンブランを持ってきてください」
紬「え、ええ。分かったわ。それじゃあ、さようなら」
紬「なんでモンブランなのかしら…。別に旬じゃないのに」
憂「あ、実は……」
紬「何かあったの?」
憂「さっきメイドさんがモンブランとシフォンケーキを持ってきてくれたんです」
憂「それで、どちらがモンブランを食べるか喧嘩になっちゃって」
紬「憂ちゃんがモンブランを勝ち取ったんだ」
憂「はい!」
紬(梓ちゃんを呼んだのは正解だったみたい)
紬(喧嘩できたお陰でだいぶ元気になったみたいだ。喧嘩といってもじゃれ合いなんだろうけど)
紬(たぶん梓ちゃんなりに気を遣ったのね)
紬「ねぇ、憂ちゃん。今から唯ちゃんのお見舞いに行かない?」
憂「え? でも午前中に行ってきましたよ」
紬「一日に二度いっちゃいけないって決まりもないし、面会時間終了までまだ余裕もあるし」
憂「でもそんなに何から何まで悪いです」
紬「じゃあ憂ちゃんは家で待ってる? それなら私一人で行ってくるけど」
憂「えっ…わ、私も行きます」
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唯「あ、憂! ムギちゃん!」
唯「憂ったら朝も来たのに、また来ちゃったんだ。憂は甘えん坊だなー」
憂「ち、違うよー。私は…」
紬「ごめんなさい唯ちゃん。私のお見舞いに憂ちゃんに付き添ってもらったの」
唯「ふぅん。ムギちゃん朝はいなかったもんね」
紬「はい、これお菓子。お医者さんに食べてもいいか確認してあるから、遠慮無く食べてね」
唯「ムギちゃ~ん、ありがとね」
紬「そうだ。昨日は憂ちゃんにお掃除手伝ってもらっちゃったの!」
紬「すごく手際が良くてびっくりしちゃったわ!」
唯「えへへー。すごかったでしょ。憂は自慢の妹だもん」
憂「えへへ」
紬「うんうん。いつも憂ちゃんに家事任せっぱなしなのがよくわかったわ」
唯「ムギちゃんさり気なく酷いよ」
紬「唯ちゃん飲み物とか大丈夫?」
唯「うーん。ちょっとだけ喉が乾いてるかな」
紬「何がいい?」
唯「ポカリがいい」
紬「ねぇ憂ちゃん。ちょっとポカリ買ってきてくれる?」
憂「あ、はい」
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紬「ねぇ、朝きたとき憂ちゃんの様子はどうだった?」
唯「元気だったよ。でも少しだけ作り笑いしてたみたい」
紬「うーん。大丈夫かな…」
唯「何かあった?」
紬「うん。ちょっとね」
唯「ふーむ。まぁ、ムギちゃんが一緒なら大丈夫だと思うけど」
紬「それは…どうかな…」
唯「ムギちゃんがそんなこと言うと私も自信なくなっちゃうよ」
紬「ねぇ、憂ちゃんが戻ってきたら私は病室から出ていくから、憂ちゃんを抱きしめてあげてくれる?」
唯「抱きしめる?」
紬「うん。何も言わずに抱きしめてあげて」
唯「それだけでいいの?」
紬「うん。それだけでいいの」
唯「わかった」
紬「手術跡に障らないようにね気をつけてね」
唯「うん」
憂「お姉ちゃん、ポカリ買ってきたよ」
唯「憂ありがとう」
紬「ねぇ、憂ちゃん。この病院に私の母方の叔父が入院しているから、ちょっと挨拶してこようと思うの」
紬「しばらく唯ちゃんとお話しててくれる?」
憂「はい、わかりました」
唯「ムギちゃん行ったね」
憂「さっきは紬さんと何話してたの?」
唯「ムギちゃんは憂をぎゅっと抱きしめろって言ってた」
憂「へ?」
唯「憂、おいで」
憂「へ? でも」
唯「おいで」
憂「……うん」
唯「心配書けてごめんね」ギュッ
憂「お姉ちゃん」グス
唯「憂…………よしよし」
憂「おねぇちゃあぁぁん」
唯「よしよし」
紬(良かった……これで憂ちゃんはもう大丈夫なはず)
紬(結局私はあまり役にも立てなかったな……)
紬(でも憂ちゃんが元気になってくれるなら、それでいいっか)
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憂「…お姉ちゃん。そろそろ紬さんが戻ってくる頃だと思うよ」
唯「だーめっ。もうしばらく抱きしめてるの」
憂「……うん」
唯「うい。たまにはお姉ちゃんに甘えてもいいんだよ」
憂「ううん。私はいつもお姉ちゃんに甘えてるよ」
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唯「……ねぇ憂、ムギちゃんのことどう思う?」
憂「とっても優しくて綺麗な人」
唯「うんうん」
憂「でも凄くおせっかいで心配性」
唯「ありゃりゃ」
唯「ねぇ、憂。ムギちゃんはとっても甘えさせ上手なんだよ」
憂「甘えさせ上手?」
唯「そう。ちょっとだけ憂や和ちゃんに似てるかもしれないね~」
唯「とっても甘えたくなる雰囲気を持ってるんだ。そして甘えると凄く喜んでくれるの」
唯「だから私もついつい甘え過ぎちゃうんだ」
唯「だから憂もムギちゃんにちょっと甘えてごらん」
唯「きっとムギちゃんも喜んでくれるから」
憂(それから紬さんが戻ってきて、屋敷に戻って、御飯を食べて、お風呂に入った)
憂(紬さんは元気そうだった。それはたぶん私が元気そうにしていたからだと思う)
憂(お姉ちゃんの前で泣いたおかげか、私の心は随分軽くなってしまった)
憂(もちろん不安が全部消えたわけじゃないけど、なぜだかとっても安心してしまった)
憂「紬さん?」トントン
紬「憂ちゃん? 入っていいわよ」
憂「夜遅くごめんなさい」
紬「なぁに? 憂ちゃん。もしかして眠れないの?」
憂「そういうわけじゃないんです」
憂「実はお姉ちゃんに、紬さんに甘えろって言われました」
紬「唯ちゃんが?」
憂「はい」
紬「そうね……。それじゃあ私をだき枕にして寝てみる?」
憂「はい」
紬「え?」
紬「こんな夏の日に私なんてだき枕にしても熱いだけよ」
憂「ベッドの中にお邪魔します」
紬「もう憂ちゃんったら…まぁいいわ。一緒に寝ましょ」
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憂「もう寝てしまいましたか?」
紬「起きてるわ」
憂「ねぇ、紬さん。紬さんはなんで私に色々してくれるんですか?」
紬「別にそんなに色々したつもりはないんだけどね」
憂「紬さんにとって私はお姉ちゃんの妹でしかないじゃないですか」
紬「そうかもしれないね」
憂「それなのになんでこんなに優しくしてくれるんですか?」
紬「ねぇ、憂ちゃん。私は憂ちゃんのことを友達だとは思ってはいないの」
紬「年齢が違うからかな。どうしても友達って感じがしないの」
紬「だからといって梓ちゃんとの関係のように先輩後輩って呼ぶのもちょっと違う気がするかな」
紬「だから憂ちゃんのいうとおり、私にとって憂ちゃんは『友達の妹』」
憂「だったらなんで? お姉ちゃんが大切だからですか?」
紬「それももちろんあるわ。でも憂ちゃんのことも大切に思ってる」
紬「こんなこと言うと憂ちゃんは怒るかもしれないけど、友達の妹って、私にとっても妹って感じがするの」
紬「特に憂ちゃんは今度のことで、すっごく『妹みたい』って感じちゃう」
紬「不快に感じたらごめんなさい」
憂「不快だなんてそんな……嬉しいです」
紬「そう…ありがとう。だから憂ちゃんが私に甘えてくれると嬉しいんだ」
憂「じゃあ紬………さん。一つお願いしていいですか」
紬「いいわよ」
憂「じゃあ……」
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憂「という話をしたんだ」
唯「憂ばっかりズルいよ。私もムギちゃんの妹になる」
憂「え?」
紬「唯ちゃんは私の妹になってお菓子を食べたいだけでしょ」
唯「バレちゃったか」
憂「ぷっ…あはははははは」
紬「あ、憂ちゃんが笑った」
唯「憂が馬鹿笑いするなんて珍しいねぇ」
紬「話は変わるんだけど、唯ちゃん。入院が終わってしばらくしたら私の家で働かない?」
唯「え? いいの」
紬「うん。斎藤が帰ってくるまでまだしばらくあるから」
紬「さっきお医者さんに聞いてみたんだけど、退院後安静にする必要はないらしいから」
唯「じゃあ、お願いしちゃおうかな」
紬「あ、住み込みでもいいのよ。そうすれば三食付きだし」
唯「ムギちゃん家のゴハン……でも憂が」
憂「私のこと心配しなくていいよお姉ちゃん。だって私も紬お姉ちゃんの家で働いてるし」
>10 days after
菫「ふぅ……やっと帰国できたよ。でももうこんな時間。お姉ちゃん寝てるかな…」
菫「そうだ。お姉ちゃんのベッドに潜りこんじゃおう。久しぶりだしいいよね?」
菫「そーっと…そーっと…」
菫「毛布をめくって……え?」
菫「お姉ちゃんが女の子二人に抱き付かれながら寝てる!?」
おしまいっ!
最終更新:2012年06月12日 20:24