私はずっとムギ先輩のことが好きでした。
おっとりぽわぽわという形容がとっても似合う優しい先輩。
彼女と2人で話をする機会がなかなか訪れないまま彼女は3年生となり
私は気がつけば2年生の折り返し地点を迎えようとしていました。
そのころになると、澪先輩、律先輩そして、
唯先輩は部室に姿を現すことが少なくなってしまい
私は少しさみしい思いをしていましたが、
ムギ先輩だけは必ず毎日部室にきてくれていました。
「ギターを弾いてみたい」と私に言ってきた先輩は、
いつものムギ先輩からは想像もできないくらい子供っぽくて、
私はむったんをぎこちない手つきで弾く先輩を
とても優しい気持ちになりながら見ていたのを覚えています。
かわりに私がお茶の淹れ方を教えてほしいとお願いすると
嫌な顔ひとつせずに、先輩はいつものようににっこりと私にほほえんでくれました。
ティーカップを片手に、偶然を装って触れた手と手の感触を
私は今でも昨日のことのように覚えているし
私よりも顔も耳も一瞬にして赤らめて、動揺を隠しながらそれでも笑うムギ先輩を見て
私は私のなかのムギ先輩に対する「好き」という気持ちを
これまで以上に自分の中でどうしようも抑えることができなくなるのを感じました。
だから、本当に告白は衝動的なものでした。
先輩にこの気持ちを打ち明ける予定はなかったし、
まして、自分自身ですら用意なんてこれっぽっちもしていなかったんです。
ただ一言「好きです」という手榴弾のような言葉が
自分の口からぽろっと出てしまったことを人事のように感じている私の目に、
口をぽかんと開けたムギ先輩が映っている、というそういうあっけない状況での告白でした。
結果的に、ムギ先輩から「私もよ」という予想外の言葉をいただいて
私の放った手榴弾は、その後の私の日々とけいおん部での立場をこっぱみじんにすることもなく、
不発のままゴロンと床に横たわるという偉業を成し遂げただけにとどまりました。
付き合い当初は手さぐり状態の私とムギ先輩だったけど、
いったん身体のつながりを覚えてしまった後は、
子供の頃、自転車の乗り方を覚えたときのように
自然と彼女の存在が私の身体の一部のようになっていく、そんな毎日でした。
今日は久しぶりに私の家に先輩が遊びにきています。
紬「はぁ・・・はぁ・・・あ、・・・あず・・・さちゃ・・・ん・・・」
梓「どうしました?そんな切なそうな声をあげちゃって」
紬「おねが・・・い・・・も、もう・・・あっ!」
梓「ふふっ・・・あいかわらず、ここ弱いなぁ~」
先輩が私へのお土産として持ってきてくれた大きなイチゴの一粒を
私はゆっくりと先輩のそこに当てていました。
先輩の大きくなったところに、触れるか触れないかのギリギリのところで
イチゴ先端を当てたり離したりを繰り返しています。
ベッドの淵に座り、私の肩へ両手をつき、
私のほうへ足をかわいらしく広げている先輩の腰を左手で支えながら、
右手ではイチゴをゆっくりと上下へ這わせます。
ムギ先輩の切なそうな、でも、はずかしそうにしている顔がとても好きです。
こういう行為をしている今、この瞬間だけは、
先輩の幸せを確実に私が操作している、そんな気分に浸ることができます。
いつもは見上げなければならないムギ先輩が
私を上目づかいで見てくるという構図もなかなか私の胸をくすぐる要因の1つです。
紬「あずさ・・・ちゃん・・・」
はぁはぁ、という息遣いの合間に私の名前を呼んでくれる先輩を尻目に
私はそれまで割れ目に沿わせていたイチゴを自分の口に含みました。
でも、食べるわけではありません。
ほんのりとイチゴの表面についた彼女の汁の味を見ているのです。
ちゅばっ、という音をわざとらしくだして、先輩に聴こえるようにします。
先輩の耳が一段と赤みをました気がしました。
あ、先輩は私の趣向もあいまって、この行為の間はポニテです。かわいいでしょ?
まだ酸味が強いことから彼女が気持ちよさよりも恥ずかしさを感じていることがわかりました。
次の私の行動を無言で待っているムギ先輩の期待に応えるべく
私はそのまま先輩の足と足の間に中腰になりました。
紬「?」
私の行動の先が予測できないのか、先輩はやや不安げな顔をして私を見ています。
梓「そんな顔しなくても大丈夫ですよ、痛いことはしませんから」
紬「う、うん・・・」
梓「ふふっ・・・いいこいいこ・・・・さ~足を開きましょうねぇ~・・・」
紬「ふぇ!?あ、あずさちゃん!?」
先輩の悲鳴なんておかましなしに私は彼女の太もものあたりを押して足を広げました。
梓「大丈夫・・・。私の存在は先輩には無害ですから・・・」
そう言いながら、私はゆっくりとイチゴを彼女の中へとあざなっていきました。
紬「ちょっと・・・あずさちゃん・・・?」
心配そうな声を出す先輩は、頬っぺたを真っ赤にしてとても可愛いです。
今この部屋で、私は、私だけがムギ先輩の全てを牛耳っている。
そんな慢心のような思いに私はクラクラしました。
梓「大丈夫・・・大丈夫・・・ですから」
口から思わずして出た言葉は
どのように先輩に届いているのかだなんて私には想像もつきません。
こうやって2人でちょっと背徳心を交えながら他人の前では気軽に話せないようなことを、
子どもの頃、押入れの布団にくるまって今か今かと母親に見つかるのを待ち焦がれて
クスクスと笑っていたようにしていても、
かたや、澪先輩、律先輩、そして唯先輩が来なくなった部室で、
2人で新しいおもちゃでも見つけた子犬のようにじゃれ合いながら、
むったんを囲い笑いあって、
放って置いた食べかけのケーキにいつの間にかカビが表面上に出てきちゃいそうな、焦燥感も。
すべては私の中でだけのもので、それをたとえ言葉に出したとしても、
まるごとそのままムギ先輩にぶちまけたとしても、
私とムギ先輩は永遠に分かり合えることなんてないなのかもしれません。
身体が邪魔。皮膚が邪魔。
私を作る全てが邪魔。
ムギ先輩をムギ先輩たらしめる全てが邪魔。
でも、それがなくちゃ、私はムギ先輩と触れ合うことができない。
もどかしいジレンマに、私は身体を少し浮かし空いた左腕でムギ先輩の頭をぎゅっと抱きしめて、
自分の身体に引き寄せました。
あごのしたに感じるその柔らかい髪質はなんともムギ先輩らしい。
シャンプーの香りがとても心地よいです。
私のこの心臓の音、きこえてるんだろうな。
私のこの無い胸のせいで、でも、この無い胸のおかげで、
私の心臓の音は否が応でもムギ先輩に聞こえています。
でも、きっと、それを先輩は喜んで聞いているのでしょう。
『私のせいで、梓ちゃんはこんなにも緊張してるんだ』とかなんとかいった具合に。
梓「大事にしたいなぁ・・・」
紬「なにを?」
私の言葉にすぐ返事をくれます。
なにを?といわれてそのまま返事を返すのも恥ずかしい。
でも、なんだか嬉しくなってしまって、もっと左腕に強く、
くるしくはないような程度に力を込めてムギ先輩の頭をぎゅっと抱きしめます。
紬「ふふっ」
梓「なに笑ってるんですか?」
紬「いや、ちょっと」
梓「気になるから、言ってくださいよぉ」
紬「えぇ、でも、大したことじゃないし・・・」
梓「なんでもいいです。先輩の話ならなんでも聞きますから」
さっき私が聞いても言ってくれなかったのに、と胸の辺りで響きます。
胸の辺りがさっきから暖かいのは、きっとムギ先輩の吐息のせいです。
えー、はずかしい、と言ったあと、
ムギ先輩はそれでも私のためにクスクスと笑って言ってくれるのです。
紬「梓ちゃんの心臓の音、速いなぁって思って」
それはまるで、もっと面白いオモチャを見つけたから一緒に遊ぼ
うと誘ってくれる子犬のような、
でもケーキはまだカビてないから一緒に美味しく食べましょう
というような言葉のニュアンスを含んでいました。
あぁ、本当にこの人のこと、大事にしたいと心から思い、
返事のかわりに私は右手の平に包み込んだイチゴを
もっともっとムギ先輩の中に詰め込みました。
途端に、部屋の中がイチゴの香りと、ムギ先輩の呼吸音で埋め尽くされました。
その甘酸っぱいものたちを五感で感じながら私は徐々に
手の中のものの存在が小さくなっていくことを悲しく感じていました。
しばらくして、それは完全に形を無くし、私はただ途方にくれるしかありませんでした。
あぁ、なくなっちゃった・・・さっきまで・・・ここにあったのに・・・ちゃんと手の中にあったのに・・・。
紬「あずさちゃん・・・あずさちゃん・・・」
それでも、ムギ先輩は、ムギ先輩だけは消えないで私の名前をよんでくれます。
私が左腕の力を緩めると、身体を少し浮かすと、ムギ先輩の心細そうに顔を歪めました
。
梓「大丈夫・・・。ちゃんと私はここにいますから」
優しくそう言うと、ムギ先輩は
紬「本当・・・?」
と返してきます。
それが無性にかわいらしくて。
私はゆっくりとムギ先輩の股の間に顔を寄せました。
梓「大丈夫・・・大事にしますから」
あの日、ひとりぼっちの私に気づいてくれたから。
ギターを教えてと話しかけてきてくれたから。
そして、いつも私の気持ちを受け入れてほほ笑んでくれるから。
もう2人とも悲しくならないように、2人でずっと一緒に居られる、そんな未来を願いながら、私は出来たばかりの新鮮なイチゴジュースを舐め始めました。
おわり
最終更新:2012年06月23日 23:30