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唯「りっちゃん、おはよう」

律「」

唯「りっちゃんはさ、今どんな夢を見てるのかな?」

唯「楽しい夢?怖い夢?」

律「」

唯「…夢はね、いつか覚めちゃうんだよ」

唯「だから…だから……おきてよ……りっちゃん……」ポロポロ

唯「私まだ、ちゃんと謝ってないもん…」

唯「りっちゃん…」ギュッ


紬「唯ちゃん、りっちゃん、おはよう」ガラッ

唯「…ムギちゃん…おはよう」
紬「随分早く来たのね」

唯「うん…心配で、あんま寝れなくて…」

紬「私もよ」

唯「ムギちゃんも…?」

紬「当たり前じゃない…」

紬「りっちゃんの姿を思い出す度に、ぎゅううって胸が苦しくなるの…」

紬「…りっちゃん…」ギュッ


梓「皆さん、おはようございます」ガラッ

澪「……おはよう…」

唯「あずにゃんに澪ちゃん、おはよう」

紬「おはよう二人とも。一緒に来たの?」

澪「いや…、さっき会ったんだ」

梓「律先輩…まだ寝てますね…」

紬「きっと、今はまだ充電中なのよ」


澪「…律…」ギュッ

梓「律先輩…」ギュッ


律「」ポロポロ


唯「りっちゃん!?」

澪「律!!」

梓「律先輩…?泣いてるんですか…?」

紬「りっちゃん…大丈夫よ…」ナデナデ

律「」ポロポロ

唯「りっちゃん」ギュー

梓「先輩」ギュッ

澪「……待ってるから…大丈夫だよ」ギュッ

唯澪紬梓「「「「律(ちゃん)(先輩)」」」」


―――――



痛みに飲まれながら、私は確かに声を聞いた。

何人かが、私を呼ぶ声。

私は……律。

そうだ……………私は。

私は――――――田井中律


桜丘女子高等学校3年2組、軽音部部長の、田井中律だ。


今、思い出した。

そうだ、私は澪と登校してて、途中で唯と憂ちゃんに会って、憂ちゃんが先に行ったから、3人で行こうとして。

それで―――――。


とりあえず、早く、起きよう。

家族はもちろん、唯に澪、それにムギや梓が待っている。

だから、早く。

皆に心配かけるわけにはいかないから。

だって、私は長女であり、姉であり、軽音部を率いていかなければいけない“部長”だから。

早く起きて、皆に向かって笑おう。

心配かけたことを謝ったりするのは後にして、とにかく笑っていよう。


律「みんな……!!!」


―――――



律「…………みん…な……」ボソッ


唯澪紬梓「!!!」

唯「りっちゃん…!?」

澪「律!!!」

紬「りっちゃん…!」

梓「律、先輩…?」



律「…………」ウッスラ


紬「……お医者さん呼んでくる!」タタッ

梓「はい、お願いします!」


―――――



“みんな…!!!”


そう叫んだ瞬間、体が一回転したかのような感覚に陥った。

頭の痛みも、それと共にすぅーっとひいていく。


元に、戻れるんだな…。


本能的に、私はそう悟った。

おそらく間違ってはいないだろう。


急に体が重く感じ、前から強い光を感じたので、反射的に目を開ける。


律「…………」


見たことのない明かり、見たことのない天井。

真っ白でいかにも清潔そうな部屋は、病室に違いなかった。


次に目に入って来たのは、4人の女の子の顔。

思い出した今となっては、わからないわけがない。

右から順番に、唯、ムギ、梓、澪だ。

ムギは何かを言ってから、綺麗な金髪をなびかせながらどこか私の視界の端から消えていった。

梓はムギが行った方に視線を移し、唯と澪は、今にも泣きそうな顔をしてる。

泣くなよ、私は起きたんだからさ。


律「…………おはよ…」


唯「…りっちゃん…!ホントに、ホントに起きたんだね…!!」ウルウル

澪「……りつぅぅ!!」ギュッ


澪が私に抱きついてくる。

今となってはレアだな、この光景。

梓が入ってから、澪が妙に先輩風吹かしたがってたから、こんなことしなくなったし。

まあ、澪にとって梓は初めての後輩だからな。

って、そんな思い出話してる場合じゃないよな。


律「…ゆい…、…みお…」ソッ


澪の横腹のあたりに、そっと左手をそえる。

澪の体勢、結構辛いはずだぞ。

それでもずっと抱きついているから、余程私が心配かけたってことか。

ごめんな、澪…。


唯は泣きそうなのを必死に耐えようとしてるのか、目に大粒の涙をためながら、私の右手をしっかりと握っていた。

だから、私もそれに応えるように、今出せる限りの力で、唯の手をしっかり握った。

ごめん、唯…。



律「……あずさ…」

梓「………」ウルウル

律「……ほら…」スッ


梓を呼ぶと、澪はそっと私から離れた。

澪の隣にいた梓の顔は、唯に負けないくらい大粒の涙をためていて、歩いたらころんとこぼれ落ちてしまいそうなほどだった。

そんな顔しないでくれよ、って言いたいけど、まだ頭がぼうっとしてて、単語しか喋れそうにない。

だから、代わりに空いた左手を梓に差し出し、伸びてきた手をしっかりと繋いだ。

ごめんな、梓…。


今はいないけど、ムギもごめん。

唯と澪は多分ショックが大きかっただろうから、学年的にも、きっと頼りになったのがムギしかいなかっただろう。

ムギ自身も不安とか悩みとかあっただろうけど、きっとそれ以上にみんなを支えてくれたんだよな?

ごめん、ムギ…。


何か疲れたから、もう少しだけ寝かせてな。

今度は絶対、笑うからさ。


唯「りっちゃ――――


意識が落ちる集合、唯の声が聞こえた気がした…。

大丈夫、ちょっと寝るだけだから。


―――――



紬「りっちゃん!」ゼエゼエ

唯「………」

澪「………」

紬「……え…りっちゃんは…?」

梓「……また、眠っちゃったみたいです……」

紬「…そんな…」ヘナヘナ


医者「…1度は起きたんだね?」

唯「……」コクン

医者「そうか。…ちょっと診察するから、向こうにいてくれるかな?」

紬「はい……」


―――――



律「ん…」パチッ


あれから、どのくらい経ったのか?

次起きた時は、誰もいなかった。

でも、まだ日は落ちていないから、少なくとも夕方と夜ではないことはわかった。

誰も………。

ふいに、孤独を思い出した。

再び枕に頭をおさめると、寝ていた時の記憶と、リンクする。

何故か感じる、胸の痛み。


急に苦しくなった。

苦しくて、辛い。

周りに、誰もいない。


夢と同じだった。

涙がボロボロこぼれた。


なんで私はこんなに弱くなっただろう。

家で普通に一人でいるだろ?

場所が変わっただけだろ?

何も、問題ないはずなのに。

なんでこんなに悲しい?

なんでこんなに苦しい?

時間が経てば、絶対誰かに会えるとわかってるのに。

起きてるんだから、連絡とろうと思えばとれるのに。

バカみたいに一人で泣いてるのはなんでだよ…。

涙が止まらない。


律「……っ………うぅ…………っ…」ポロポロ

律「………っ……」ポロポロ


ガラッ


唯「やっほ~りっちゃ……」

唯「!!りっちゃん!!」ダッ

澪「どうした唯?……律!」ダッ

紬「りっちゃん…?」

梓「律先輩…?」


律「!………っ……みん…な……っ………」グスグス

梓「律先輩、どっか痛いんですか?」

律「……っ……ちが……」フルフル

紬「梓ちゃん」ソッ

梓「……!」


唯「……りっちゃん…」ダキッ
澪「………律」ナデナデ

律「…っ…唯……澪……っ……」ポロポロ

唯「大丈夫だよりっちゃん」

澪「ずっと律のこと、待ってたんだよ」


紬「そうよ、りっちゃん」

紬「りっちゃんのこと、ずっと考えてたもの」

梓「そうですよ」

梓「私達だけじゃなくて、憂も、純も心配してましたよ」


唯「りっちゃんは一人じゃないよ」ニコッ

律「…!……ゆい…」


澪「一人ぼっちで、ちょっと寂しくなっちゃったんだよな」ニコッ

律「……みお…」


紬「私達がいるよ」ニコッ

律「……ムギ…」


梓「おかえりなさい、律先輩」

律「……ただいま…梓…」


みんなの暖かさが、優しさが、言葉と一緒に伝わってくる。

側にいなくても、ずっと“絆”は繋がってるって、嫌でもわかるくらいに。


そうだよ。


みんながいる。


律「……みんな、たくさん心配かけて悪かった!!」ガバッ

唯「おっ、りっちゃん元気になったー!」

澪「本当だよ、律」クスッ

梓「もう…」クス

紬「りっちゃん、早く一緒に部活しましょうね」ニコッ

律「おう!こんなのすぐ治すから、待ってろよ!」

梓「律先輩ならやりかねませんね」クスッ

澪「律だからな」

唯紬「ふふふ」

律「…それと、ありがとな!」

律「私、みんなが大好きだ!!」ニカッ


私はもう大丈夫。

こんな風に心配かけたけど、この事故があったから、再確認できた。

“絆”の強さを。

出会ってから、梓とはまだ2年目、唯とムギとは3年目、澪とは…もう9年くらいになる。

一緒にいる年数は違くても、みんな同じくらい大切に思ってるし、大切に思ってくれてた。

絆は目に見えないから、不安になったりするけど、私はもう平気。


律「改めて!夢は武道館ライブ!!」

唯紬「おおー!!」グッ

澪梓「お、おー!」


姿なんかなくても、いつでもすぐ側に、私の中に、

みんながいるから。


終わり。



最終更新:2012年07月01日 01:14