ザーザーザー

紬「……」タッ

紬「……」タッ

紬「……」タッ

紬「……」タッ

紬「……」タッ

紬「……」タッ

ニャーン

紬「…?」

子猫「……」

紬「……あら、子猫さん」

子猫「……」

紬「雨の中うずくまってる……怪我でもしちゃったのかな」

子猫「……」

紬「…………連れて帰りましょうか」

紬「菫、いる?」トントン

菫「……お姉ちゃん? 入っていいよー」

紬「うん。お邪魔するね」


子猫「……」

菫「わっ、真っ黒な子猫」

紬「うん。道端にうずくまってたから連れてきたの」

菫「震えてるね」

紬「ちょっとホットミルクと毛布を用意して欲しいと思って」

菫「わかったよ」

紬「あ、ホットミルクは牛乳を水で薄めてから作ってね」

菫「うん」

紬「あっ、それと、猫舌だから」


菫「はい、毛布」

紬「ありがとう、ほら」グルグル

子猫「……ニャッ」

菫「あとこれ」

紬「ミルク……飲めるかな?」

子猫「……」

子猫「……」ペロッ

紬「飲んだね」

菫「うん」

子猫「……」ペロッ

子猫「……」ペロッ

子猫「……」ペロッ

子猫「……」zzz

紬「寝たね」

菫「うん」

子猫「……」zzz

菫「幸せそうに寝てるね」

紬「ええ」

菫「……ねぇ、お姉ちゃん、友だちのお見舞いはどうだった?」

紬「…………まだ意識が戻らないって」

菫「大変だね」

紬「ええ」

菫「……ねぇ! この子に名前をつけない?」

紬「……やめておきましょう」

菫「なんで?」

紬「逃がしてあげるとき、寂しくなるから」

菫「……そう」



紬「……梓ちゃん」



子猫(…………ここはどこ?)

子猫(これは…毛布?)

子猫(うぅ…なんだか体が変だ)

子猫(手が黒い? というか……えっ!)

子猫「ニャーッ!!」(どういうことなの?)

紬「…! なにごとっ!!」バッ

子猫「ニャッ…ニャニャ」(ム…ムギ先輩?)

紬「あら、起きてたの」

子猫「ニャ…ニャニャニャッ」(え、ムギ先輩が大きくなった)

紬「ほら、抱きしめてあげるから落ち着いて」

子猫「ニャー……ニャー……」(捕まっちゃった…あっ、あれは鏡)

紬「ほら、よしよし」

子猫「ニャーン…………」(私、猫になっちゃったの?)


子猫(思い出した)

子猫(部室で練習が終わって、一息いれようってときにコードにつまずいちゃって)

子猫(机の上に置いてあったショートケーキの角に頭ぶつけて……)

子猫(……私、死んだ?)

子猫(死んじゃったの?)

子猫(だから猫に生まれ変わったの?)

子猫(なんとかムギ先輩に自分のこと伝えなきゃ)


子猫「ニャ! ニャニャン!! ニャンニャン!!」(私です! 梓です!! 中野梓です!!!)

紬「もう、怖い夢でも見たの? 抱きしめていてあげるから落ち着いて」ギュ

子猫「ニャ……ニャンニャン///」(お、おっぱいがもろにあたってるです///)

紬「こら、静かにしなきゃ怒られちゃうよ。もう夜遅いんだから」

子猫「ニャン……」(ごめんなさい…)

紬「わかってくれたの? 賢いんだね」

子猫「ニャン!」(当然です!)

紬「一緒のお布団で寝る?」

子猫「ニャン」

紬「ほら、今日は眠りましょ」

子猫「ニャン……」

紬「よしよし」

子猫「ニャ……ニャン」


子猫(明日起きてから考えよう……)

子猫(明日起きてから……)

子猫「……」zzz

紬「……」zzz


菫「おはよう」

紬「菫、おはよう」

菫「今日もお見舞いに行くの?」

紬「うん。だから」

菫「その間この子を見てればいいんだね」

子猫「……」(誰?)

紬「ええ、お願いするわ」

子猫「……ニャ…」

紬「よしよし……待っててね」

子猫「ニャン!」(わかりました!)

菫「ほら、子猫ちゃん、こっちにおいで」

紬「じゃあ、行ってくるわ」

菫「いってらっしゃい」

菫「お姉ちゃん大丈夫かな……」

子猫「……ニャ?」

菫「子猫ちゃん、お話を聞いてくれるのかな?」

子猫「ニャニャ」(任せるです)

菫「お姉ちゃんね、責任感じてるんだ」

子猫「ニャ?」

菫「自分が持っていったショートケーキの角に頭をぶつけて大切な後輩が意識不明になっちゃったから」

子猫「……」

菫「お姉ちゃんが責任感じる必要ないのにね…どう考えてもその子がドジ…」

子猫「……」(返す言葉もないです)

菫「ううん……こんなこと言ってたらお姉ちゃんに怒られちゃう」

子猫「ニャ……」(元気を出すです)

菫「子猫ちゃん。お姉ちゃんを元気づけてくれない」

子猫「ニャニャン!」(任せるです!)

菫「って、わかるわけないよね……はぁ…」


子猫(彼女の名前は斎藤菫、ムギ先輩の妹同然に育ったらしい)

子猫(ムギ先輩のことをとても慕っているようだ)

子猫(菫ちゃんは私に向かっていろいろ話してくれた)

子猫(どうやら私は死んでないみたい)

子猫(私の体は意識不明の重体……)

子猫(その責任を感じてしまっているムギ先輩……)

子猫(はぁ……どうしてこうなってしまったんだろう)

子猫(どうすれば戻れるんだろう)


子猫(それと、どうやら私は精神まで猫化しているらしい)

子猫(どういうことかというと……)


菫「ほら子猫ちゃん、猫じゃらしでちゅよ」

子猫「ニャッ……ニャニャン」(ね、ねこじゃらしっ!)

菫「ほらほら、こっちでちゅよ」

子猫「ニャン! ニャン! ニャン!」(こっちですか! あっちですか!)

菫「ほら、今度は上でちゅよ」

子猫「ニャン! ニャン!」(このっ! やってやるです!)

菫「本当に猫じゃらしの好きな子猫ちゃんでちゅね」

子猫「ニャァオ……」(く、悔しい……でも追いかけちゃう)

菫「ほらほらよくできまちたねー」

子猫「ニャ……ニャン」(赤ちゃん言葉……馬鹿にして!)

紬「……」

菫「ほら、次はこっちでちゅよー」

子猫「ニャ」(このっ!)

紬「……菫? どうしちゃったの?」

菫「ハッ! ……お姉ちゃん!? ……こ、これは」

紬「随分なついてるみたいだけど……赤ちゃん言葉のせい?」

菫「そ、そうかもしれないね」

紬「子猫ちゃん。こっちでちゅよ」

子猫「……」(ムギ先輩まで……ここは無視するです)

紬「こっちを向くんでちゅよ」

子猫「……」(無視です。徹底的に無視です)

紬「駄目ね…」

子猫「ニャァオ」(普通に喋ってください)

菫「お姉ちゃん。私はそろそろ部屋に戻るから」

紬「ええ、今までありがとう」

紬「子猫ちゃん。こっちにきて」

子猫「ニャア」

紬「今度はきてくれた」

子猫「ニャアニャア」(ムギ先輩!)

紬「ねぇ、子猫ちゃん。後輩の容態が安定してきたの」

子猫「ニャッ」(本当ですか?)

紬「順調にいけば数日で意識が戻るかもしれないって」

子猫「……」(体に戻れるかもしれない)

紬「子猫ちゃんのおかげかな。黒猫なのに幸福を呼んでくれるなんて」

子猫「ニャア」(照れるです)

紬「照れてるの? ……そんなわけないか…このままよくなるといいな」

子猫「ニャン」

紬「はい、ミルクよ」

子猫「ニャア…ニャア」ペロペロ

紬「それ飲み終わったらお風呂に入りましょうか」

子猫「ニャニャ?」(にゃんだと)

紬「体の隅々まで洗ってあげるから」

子猫「ニャア……」(私どうなっちゃうんだろう)


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最終更新:2012年07月02日 20:07