紬「焼きそば!? うん。行く行く。」

紬(ライブが終わった後、唯ちゃんが誘ってくれました)

紬(しかも、やきそば!!)

紬(やきそばは私にとって思い出の食べ物です)

紬(今となっては懐かしくさえある高校時代の想い出……)

紬(今日は唯ちゃんの行きつけの店に連れて行ってくれるらしい)

紬(普段ならワクワクが止まらないんだけど……)


紬(でも、今日の私はちょっと違う)

紬(晶ちゃんの告白を見てしまったから)

紬(告白して、振られて、それでもまた頑張ろうと決意する彼女の姿に私は感銘を受けました)

紬(今までの私は唯ちゃんとの心地良い関係を壊したくないと思っていた。だから前に進めなかった)

紬(でもきっとそれは間違った考えなんだ。唯ちゃんに告白しても、この関係はきっと壊れない)

紬(また前に向かって進んでいける。晶ちゃんの告白は私にそう思わせてくれた)

紬(だから……)

紬(私は今日、唯ちゃんに告白します)


唯「ここだよー」

紬「しずる?」

唯「うん。お好み焼きとやきそばの店なんだ。さ、入ろー」

紬「ふぅん。いい雰囲気のお店ね」

唯「でしょでしょ。ちょっと閑古鳥が鳴いてるけどね」

紬「貸切だね。この張り紙は‥…モチ、チーズ、天カス……」

唯「あ、それはお好み焼きのトッピングメニューだよ」

紬「お好み焼きってモチや天カスも入れるの?」

唯「うん。好きな人はいれるよ。私はチーズと餅を入れるのが好きかなー」

紬「へー。すごいわ」

唯「ひょっとしてムギちゃん、お好み焼き食べたくなった?」

紬「うん!!」

紬「だけど、焼きそばも食べたいから……」

唯「ねぇムギちゃん、やきそばとお好み焼き一個ずつ頼んで半分こしない?」

紬「いいの!?」

唯「もちろん。じゃあやきそばは……豚でいいかな」

紬「じゃあお好み焼きはイカ玉で、チーズとお餅をトッピングしましょう」


店員「はい。お冷置いとくよ。決まったかい?」

紬「あ、はい。やきそばの豚と、イカ玉をチーズと餅トッピングで」

店員「はいよー」

唯「ライブも終わっちゃったね」

紬「そうだね」

唯「大学生活もこれで1/8以上終わっちゃったねー。長いように思える4年間だけどあっという間だね…」

紬「そうだね。でもだからこそ」

紬「今を大切にしないとね」

唯「うん。ムギちゃんは冬休み、なにか予定ある?」

紬「うーん。フィンランドに一緒に帰らないかって親に誘われてるんだけど」

唯「迷ってる?」

紬「うん。唯ちゃんたちと一緒の時間のほうが大切だし、菫も今回は帰らないみたいだし」

唯「菫ちゃん…ムギちゃんの妹分だっけ」

紬「うん。桜ヶ丘のけいおん部にいるから、今度の文化祭で会えると思うわ」

唯「ちょっと楽しみだよー」

紬「そうね」

唯「ねぇ、ムギちゃん。一緒にフィンランドに行かない?」

紬「え?」

唯「バイトしてお金を貯めたのはいいけどちょっと余っちゃったんだー
  冬休みに旅行にでも行こうと思ったんだけど、特に行く場所も決めてないし」

紬「でもフィンランドだなんて…」

唯「だってフィンランドにムギちゃんの実家があるんでしょ?」

紬「ええ、お祖父様の家があるわ」

唯「一回行ってみたいなーって思ってたの。駄目かなー?」

紬「唯ちゃんがそう言ってくれるなら大歓迎だわ!」

唯「そう? じゃあ今度日程を教えてよ。チケットとらなきゃ」

紬「プライベートジェットで行くからチケットは要らないわ」

唯「え?」


紬(唯ちゃんがフィンランドに来たいって言うなんて…)

紬(でも嬉しい。フォンランドなら私も土地勘があるから、唯ちゃんをいろんなところに連れていける)

紬(唯ちゃんの楽しそうにしてる顔が目に浮かぶ……今から楽しみ)


店員「はい、イカ玉チーズ餅とやきそばの豚だよ」

紬「へぇ~丸い器で出てくるんだ。これを私達で作るの?」

唯「そうだよー。お好み焼きは、こうやってスプーンで…」

紬「……」キラキラ

唯「ムギちゃん、やってみる?」

紬「いいの?」

唯「もちろん。こぼれないように、でもしっかりと混ぜるんだよー」

紬「こんな感じ?」

唯「うん。上手上手」

唯「うん。じゃあ油を塗ってから」ペタペタ

唯「はい、ここに丸くなるようにひいてねー」

紬「えいっ。あっ……変な形になっちゃった」シュン

唯「大丈夫。スプーンで形を整えればいいから」ペチペチ

紬「唯ちゃん上手!」

唯「えへへー」

唯「じゃあ次はやきそば作ろうか」

紬「やきそばっ!!」キラキラ

唯「ムギちゃんは本当にやきそば大好きだね~」

紬「うん! 大好き!」

唯「先に豚さんを炒めるんだよ」

紬「このお肉だね」

唯「次にキャベツを軽く炒めて……」

紬「この2本のへらを使うんだね」

唯「そうそう」

紬「これぐらいでいいかな」

唯「そして麺をダバーっと投入~。野菜やお肉と混ぜてくれる?」

紬「うん」ワシワシ

唯「ムギちゃんがんばって!」

紬「うん」ワシワシ

唯「それくらいでいいかな。ちょっとだけ水を注すね」

紬「凄い蒸気」

唯「後はソー……って、忘れてたっ!!!」

紬「…なにを?」

唯「お好み焼き!!!」

紬「…!!」

唯「ムギちゃん、ヘラかして!!」

紬「はいっ!」

唯「ほっ」クルン

紬「…………焦げちゃったね」

唯「……うん。でも大丈夫。お好み焼きはちょっと焦げたぐらいのほうが美味しいから」

紬「本当?」キラキラ

唯「あーっ、うん……たぶんね」

紬「あ、唯ちゃん、今度はやきそばが」

唯「大変っ! 下のほうがくっつき始めてる。ムギちゃん、ヘラで混ぜて」

紬「わかったわ。この…このっ!」ワシワシ

唯「うん。なんとかなったみたいね。じゃあ最後にソースをかけて」

紬「これね。……なかなか出ない……あっ」ダバッ

唯「ムギちゃん、かけすぎだよ……」

唯「うん。お好み焼きもこれくらいでいいかな」

唯「ムギちゃん。火、止めてくれる」

紬「うん」ポチ

唯「さて食べてみようか」

紬「うん!」

唯「じゃあお好み焼きから……」パクッ

紬「私も」パクッ

唯「うん。表面が苦いね」

紬「……うん。でも食べれないほどじゃないかな。お餅とチーズの相性も抜群だし」

唯「そうだね……」

唯「じゃあ気を取り直してやきそば」パクッ

紬「今度こそ」パクッ

唯「うーん」

紬「味が濃すぎるね……ごめんなさい」

唯「ムギちゃんが謝ることないよ。こっちも食べられないことないし」


紬「……」パクパク

唯「……」パクパク

紬「……」パクパク

唯「……」パクパク

紬「……」パクパク

唯「……」パクパク

紬「ふぅ……」

唯「やっと完食できたね」

紬「お好み焼きとやきそばがこんなに難しいなんて……」

唯「あはは、本当は簡単なんだけどね~今回は運がなかったみたい」

紬「研究が必要ね!」

唯「うん。リベンジにこなくっちゃ!」


店員「はい、クリームソーダ」

唯・紬「…?」


紬「あの……クリームソーダは頼んでないと思いますが」

店員「サービスだよ」

唯「タダなの! おばちゃんありがとう」

紬「ありがとうございます」

店員「実はね、この店も今週末で閉店なんだ」

唯・紬「…え?」

紬「お客が少ないからですか?」

店員「爺さんが腰をやられちゃってねぇ、息子夫婦の世話になることにしたんだ」

唯「そういえば今日はおじちゃんいないね」

店員「そういうわけで、店じまいってわけだ。リベンジする機会をやれなくて済まないねぇ……」

紬「いえ、そういうことでしたら…」

唯「うんうん。仕方ないよ」

店員「それじゃあゆっくりしていってね」

唯「……潰れちゃうんだ」

紬「……うん」

唯「……」

紬「……」

唯「……」チューッ

紬「……」チューッ

唯「……」

紬「…甘いね」

唯「…クリームソーダだもん」

紬「なんだかしんみりしちゃったね」

唯「うん」

紬(唯ちゃんはすっかり落ち込んでしまった)

紬(私も軽くへこんでしまった)

紬(変わらないものなんてない。わかっていたはずなのに)

紬(告白……するつもりだったけど…)

紬(そんな雰囲気じゃなくなっちゃったな)



唯「そろそろ出ようか」

紬「うん」


唯「ねぇムギちゃん、ちょっと歩こう」

紬「いいよ」

唯「……」

紬「……」

唯「手繋ごう」

紬「うん」ギュ

唯「……」

紬「……」

唯「……ねぇ、ムギちゃん」

紬「うん」

唯「変わらないものなんてないんだね」

紬「そうだね」

唯「高校生活だって終わったし、大学だって……」

紬「いつかは終わっちゃうね」

唯「うん」

紬「……」

唯「私さ、晶ちゃんの告白見て思ったんだ。何があっても変わらないものもあるって」

紬「唯ちゃんも?」

唯「えっ?」

紬「私も思ったんだ。あの告白を見て」

紬「強い想いされば変わらずにいられるのかなって」

唯「でも…」

紬「そうじゃないよね」

唯「時間とか病気とか、どうしようもないものも一杯あるんだね」

紬「そうだね」

唯「変わっちゃうから、いつかは終わっちゃうから」

紬「……」

唯「だからこそ強い想いで立ち向かっていかなきゃならないと思うの」

紬「唯ちゃん……」

唯「それでね、ムギちゃん」

唯「私は、もっとムギちゃんと一緒にいたいって思うの」

唯「こうやって一緒に御飯を食べたり」

唯「どこかに遊びにいったり」

唯「二人で手を繋いだりして」

唯「色んなことをしたいと思うんだ」

唯「色んなムギちゃんを見たいと思うんだ」

唯「だからムギちゃん…」

唯「私と付き合ってください」

紬「……嬉しい」

唯「えっ、今、嬉しいって」

紬「うん。とっても嬉しい。唯ちゃんに告白してもらえて。一緒にいたいっていってもらえて」

唯「ムギちゃん…」

紬「実は私も今日、唯ちゃんに告白するつもりだったの」

唯「ムギちゃんも?」

紬「うん。でもやっぱりやめようかと思ってた」

唯「なんで?」

紬「なんだかしんみりしちゃったから」

紬「でも、それは間違ってたんだなって思うの」

紬「たとえ何があっても一緒にいたいと思うなら」

紬「唯ちゃんみたいに前に進まなきゃいけない」

紬「自分の気持ちを伝えなきゃならない」

紬「後出しになっちゃったけど、私からも言わせて」

紬「私は唯ちゃんのことが好き」

紬「私と一緒にいて笑ってくれる唯ちゃんが好き」

紬「私を喜ばせようとしてくれる唯ちゃんが好き」

紬「私に甘えてくれる唯ちゃんも好き」

紬「ちょっとダラけた唯ちゃんも好き」

紬「やるときはやる唯ちゃんが好き」

紬「こうやって、私の手を握ってくれる唯ちゃんが大好き」ギュ

紬「だから……」

紬「唯ちゃん! 私と付き合ってください」

唯「うん!」

紬「唯ちゃん!!!」


唯「ムギちゃんの手、あったかいね」ギュ

紬「唯ちゃんの心もあったかいよ」ギュ


唯「ねぇ、ムギちゃん」

紬「なぁに?」

唯「ずっと手を繋いでいこうね」

紬「うん」

唯「休みの日は思いっきり遊ぼうね」

紬「うん」

唯「あ、フィンランドもね」

紬「ええ、忘れずに家族に言っておくわ」

唯「恋人になってすぐに海外旅行か~」

紬「…どうかした?」

唯「恋人同士が海外旅行って、ちょっと大胆すぎるかなーって」

紬「もう、唯ちゃんのエッチ!」

おしまいっ!



最終更新:2012年07月03日 00:54