ある日、放課後の軽音部。

いつものように部活でお茶をしていた時、唯、律、澪の三人が紬に言ってきた。

澪「ああ。
ムギの誕生日って、確か来月だったよな?」

律「ムギの都合が良ければ、その日の部活の後か……
何ならいっそ、部活無しにしてパーティーしよっかなって話になってさ」

唯「どうかな?」

紬(お誕生日パーティー。
同級生の皆が開いてくれる、私の……)

紬は顔を綻ばせた。

紬(まるで夢みたい!
……でも)

しかし、彼女は申し訳なさそうに言う。

紬「そんな。私の為に悪いわ」

律「ははっ、何言ってんだ。
まだ出会ってちょっとしか経ってないとは言え、私たちはもう仲間で友達じゃん!」

澪「うん」

唯「そそそ。
そうだよ~♪」

紬「仲間で……友達……」

唯達からの暖かい言葉に紬は一瞬呆気にとられた様子だったが、すぐに笑顔に戻った。

ただ、今度は綻ぶと言うのを越えて満開の笑顔だ。

紬(嬉しいな! 嬉しいなっ!
皆がそんな風に思っていてくれたなんて!
嬉しいなっ!!)

律(う、うわ……やべっ!
ムギの笑顔ハンパねえ!///)

澪(か、か、可愛いすぎるっ!///)

唯(ほえ~……
天使さんだっ///)

紬「皆っ、ありがとうっ!」

幸せな興奮のあまり、紬は椅子から立ち上がった。

律「はははっ、まだお礼を言われるような事は何もしてないって」

唯「そだよ~」

澪(むしろこんな素敵な笑顔を見せて貰ってるんだ。
こっちがお礼を言わないといけない位だよ)

律(全人類がお前に同意するぞ、澪)

唯(まったくでっす!)

澪「──それで、どうかな?」

紬「うん、あまり遅くならなければ大丈夫よ」

椅子に座り直しながら答えた紬に、唯と律は大きく頷いた。

律「よっしゃ! ならドドーンと盛り上がる豪華なパーティーにしようぜ~!」

唯「おーっ!」

紬「…………」

澪「ん? ムギ、どうかした?」

紬「……うん、えっとね……」

澪の問いに紬はしばし考え、やがて決意したように口を開いた。

紬「あ、あのねっ!」


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それから時は経ち、紬の誕生日当日──


軽音部の四人は、いつも通り放課後の部活でティータイムをしていた。

紬「うふふ♪」

律「……なあ、本当にこれで良かったのか?」

紬「もちろんよ~♪」

苦笑しながら視線を向ける律に、紬は歌うように答えた。

紬「私ね、こうやってお友達といつも通りに過ごすパーティーがしたかったの!
だから、今とっても幸せなのよ♪」

律「うーん、そもそもこれはパーティーって言っても良いのかな……?」

澪「それに、ムギの誕生日なのに今日もお菓子とか用意して貰ったし……」

唯「悪いよぅ……」

申し訳なさそうな唯達だが、

紬「ううん、それも含めて『いつも通り』だもん!
本当に皆ありがとうっ!」

紬は心から嬉しそうで。

澪「……まあ、ムギがそう言うなら」

律「……あははっ、そうだな!」

そんな紬につられてか、三人も笑顔になった。

唯「あっ、でもねムギちゃん。プレゼントは持ってきたんだよ♪」

と、唯が鞄から可愛らしくラッピングされた包みを取り出した。

紬「プレゼント?」

唯「うんっ!」

澪「ああそうそう、私たちもだ」

律「これ位はさせてくれるよな?」

澪と律も、唯に続く。

澪「友達の誕生日なんだ。プレゼント位するのは普通だろ?」

律「いつも通りのお茶会でさ、ちょっとしたイベントだよ。
ちょっとした、大切なイベント」

紬「唯ちゃん、澪ちゃん、りっちゃん……!
うんっ、ありがとう!」

紬は皆にお礼を言いながら、大事に大事にプレゼントを受け取った。

唯「ムギちゃん、お誕生日おめでとうっ!」

澪「おめでとう」

律「おめでとーっ!」

紬「うん、うん……本当にありがとう!」

澪「……あ、ところで律。これはお茶会じゃないぞ。
ぶ・か・つ・だ!」

澪のツッコミに律は大げさに驚き、

律「えーっ!?」

澪「えーっ!? じゃないっ」

律「まったく、澪しゃんたら頭の固い事っ!
『あた固澪しゃん』って呼ぶわよ!?」

澪「意味がわからんっ!」

唯「あはははははっ♪」

紬「うふふふっ♪」

大切な人達と笑いあいながら、紬は思う。

紬(いつも通りの幸せな空間……私が欲しいものがこうして手に入ったなんて、嬉しいな。
……でもね、神様。もしも願えれば……)

…………………………………………………………………………

梓「よし、これで進路も完璧に決まった!
……でも何だろう、この気持ち。
高揚感って言うのかな。
ここに入学出来たら、とっても良い事が起きる気がする。
楽しみだな……」

……………………

梓「──うん、物思いに耽っていても仕方ないよね。
頑張ろう!」

…………………………………………………………………………

紬(もし願えれば、来年はとっても可愛い後輩の子が入ってきて、皆と過ごす毎日がもっともっと楽しくなりたいです。
……それは欲張りかな。そもそも、今年お願いする事じゃないかしら?
うふふっ、ごめんなさい神様)

紬はこっそり苦笑した。

紬(……でも)

唯「あっ、そうだ!
実は今日私、ポッキーを持って来ているのですっ!」フンス

紬「ポッキー?」

律「おおっ、唯でかした!」

澪「それも皆で食べようか」

唯「うむ、そうしよーっ」

唯がポッキーの袋を開け、皿に出した。

律「おおっ、美味そうじゃん!」

唯「ねねね、ムギちゃん。私とポッキーゲームしよ?」

紬「ポッキーゲーム?」

律「何だムギ、ポッキーゲームしらないのか?」

紬「う、うん……」

唯「よしよし、ならばお姉さんが教えてしんぜよう!
まずね、このポッキーちゃんを咥えてっ」

紬「うん」


パクッ。


唯「それで、私が反対側を咥えますっ!」


パクゥッ。


紬「んふふっ?///」
(顔が近いわっ///)

律「はははっ、良いぞー!」

澪「よし、じゃあそれから……」


紬(──でも、こんな日々は続けたいな。
出来ればずっと……
唯ちゃん、澪ちゃん、りっちゃんと、まだお顔も知らない後輩の子。皆で……
例え卒業しても)


唯「んふふ~♪」


サクサクサク。


紬「んむ……///」

律「どっちも負けんなー!」

澪「ふふふっ」


紬(……ううん、『続けたい』じゃなくて『続ける』んだ。
私たちなら絶対出来る。
何でかな? そう言い切れるわ)


おしまい。






最終更新:2012年07月03日 23:30