電車を降り、私は改札口へ向かう。

今日もこの駅を抜けて学校に行くのだ。

紬(うふふ、今日はどんな事があるかな~?)

桜が丘に入って、私は毎日が充実している。

時間が経つのは早いもので、入学からもう一年の月日が流れてしまったけれど……それはずっと変わらない。

唯「あっ、ムギちゃんだ~っ!」

丁度駅から出た所で、私を呼ぶ声がした。

そちらを向くと、思った通りの……いつも優しい雰囲気を纏っている、可愛くて素敵な女の子が立っていた。

平沢唯ちゃんだ。

紬「あら、唯ちゃん。
おはよう♪」

唯「おはよ~♪」

唯ちゃんは、手を振りながら私の方へと走ってきた。

唯「いやはや、奇遇ですなぁ」

紬「うふふっ。本当ね~」

お喋りをしながら、二人並んで歩く。

紬「……でね、凄いなぁって思ったのっ」

唯「そっかぁ。
……あっ、それならさ、こっちとか……」


テクテクテク……


紬「うふふっ、そうね~♪」

唯「…………」

……お喋りの途中、唯ちゃんはふと黙り込んだ。

紬「唯ちゃん?」


気が付いたら、彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべていて……

唯「ムーギちゃんっ!」


ダキッ。


唐突に抱き付いてきた。

紬「あらあら、どうしたの?」

唯「んふふ~、やっぱりムギちゃんはあったかいねえ♪」

などと言いながら、彼女は私を抱く腕の力を強める。

紬「うふふ、ありがとう♪
でもこんな所でダメよ」

唯「えーっ?」

私も唯ちゃんと同じくらいスキンシップが好きだから、もっとやっていたいのだけど……

それだといつまでも抱き合い続けてしまいそう。

紬「ね? 遅刻しちゃうから」

それは良くないので、泣く泣く唯ちゃんを説得する私。

唯「ちぇーっ」

残念そうながらも彼女は手を離し……

唯「じゃあ最後にちゅ~っ!」


ちゅっ。


私にキスをしてきた。


紬「!!?///」

先程抱き付かれたのとは比べ物にならない不意打ち。

私は思わず顔を真っ赤にしてしまう。

唯「えへへ~、ムギちゃんとちゅーしちゃった!」

紬「も、もうっ、唯ちゃんたら///」

唯「じゃ、行こっか!」

紬「あ……」

唯ちゃんが私の手を優しく取り、歩き出した。

紬(うふふ。これからまた、『今日』が始まるのね)

私の手を引く彼女と、この道を行った先に皆がいる。

りっちゃん澪ちゃん梓ちゃん。和ちゃんに、クラスメートの皆やさわ子先生。

紬(私、桜が丘に入って良かったな)

本来私は別の高校に行く予定だった。

……ううん。決められていた。

それを、わがままを言って変えて貰ったのだ。

それまで私は、私が覚えていない頃からわがままと言うのを言った事が無かったらしく、お父様もお母様も驚いていたけど……

精一杯説得したら私の本気が伝わったのか、ありがたい事に二人共快諾してくれた。

紬(あの時勇気を出して話して良かった。
過去の私、頑張ってくれてありがとう)

私たちの横を風が穏やかに通り過ぎ、空で雲が流れて行く。

見慣れた、いつもの落ち着く情景。

紬(大切なこの場所、大切な今、大切な皆……
ありがとう。
大好きです)

ふと、唯ちゃんが歩きながらこちらを向いた。

唯「ねえねえムギちゃんっ」

紬「なあに?」

唯「私ね、ムギちゃんの事だいすきだよ♪」

紬「!」

私の心を読まれたのかな。

ううん、それとも心が繋がっているのかな。

だったら嬉しいな。

唯「それと多分……
……ううんっ、絶対!
皆も同じ気持ちだよっ♪」

紬「うんっ! 私も……
唯ちゃんや、皆がだいすきっ!」

こんな風に嬉しさを感じられるのも、生きているからだね。

引かれる手に感じる唯ちゃんのぬくもりに、私はそれを実感する。

唯「えへへっ♪」


ニコッ。


朝の穏やかな日の下、ほがらかに笑う唯ちゃんはまさに太陽そのもので……



お父様、お母様。

私を産んでくれてありがとう。

おかげで私は、沢山の幸せを知って行く事が出来ます。

誰よりも何よりも大好きな、沢山の幸せたちと一緒に……



おしまい。






最終更新:2012年07月04日 00:32