唯「おまたせーついでにお菓子持って来たよ~」
律「なあ唯……これエロ本だよな?」
唯「へ?」
唯「……っ」
唯(なああっ!?)
唯(どうして私のお宝本をりっちゃんが持ってるの!?)
唯(昨日の夜にあれを読んで確か……そうだ! そのまま疲れて眠くなってテーブルの下に置いといたんだった)
唯(うかつだった……今日りっちゃんがうちに来るとわかっていればちゃんと隠しておいたのに……すっかり忘れてた)
唯(ど、どうする? ……そもそも何をどうするの?)
唯(りっちゃんがこの後やるリアクションと言ったら……からかう、かな)
唯(おいおい唯ってばいつもふわふわしてるくせに実はこんなにエグい本買って読んでたのかよーwwww)
唯(こりゃあみんなに報告だな! ……唯先輩不潔ですもう触らないで下さい! 唯……こういうのは何歳になってもだめだよぉっ!)
唯(そしていつまでもこの事をネタにされちゃう……い、いやだよそんなの!)
唯(そうだよね、ここはなんとか誤魔化すしかない)
唯(……)
唯(な、なにこれー絶対お父さんのだよー! あーもーサイアクー何でこんなものが私の部屋に!?)
唯(……)
唯(実はお父さんに買って来いって頼まれちゃってさー。あーもーサイアクー!)
唯(……)
唯(お宝本を誤魔化す上でこれらは愚策にも程がある)
唯(そんな男子小学生並みの愚行……)
唯(そう、あれは私が小学6年生の頃。憂と一緒にコンビニへ行って初めてのお宝本をゲットしようとした時の事だったよね)
唯(店内であやしい動きをしたりいつまでも居座っていたら不審に思われちゃうから買う時はスムーズに動こうと思っていた)
唯(だけどあの頃は初めてだったし小学生だったしで私も不安だったから憂にも見せるという条件で一緒について来てもらったんだ)
唯(店内で会話はしない事、良さそうな本を見つけた時はアイコンタクトで私に確認する等をあらかじめ話し合っていた)
唯(そうして本を選んでいざレジに持っていく)
唯(レジの人も普通にお宝本を会計してくれて全てが順調にいくかのように見えた)
唯(だけど)
唯(何度もイメージトレーニングしてた私と違って憂はものすごく動揺してた、いや、羞恥していた)
唯(そこで憂は言ってはいけない一言を言ってしまったんだ……)
憂(小5)「ま、まったくもーお父さんもひどいよね! 娘にこんな本買わせようとするなんて」
唯(羞恥に耐えられなくなった憂から漏れたこの一言は私を戦慄させた)
唯(私から見ても台詞口調なのがバレバレな上に小学生の私達が何かを言ったところでお宝本を買う正当な理由になんてなりはしないのに)
唯(その時の憂はそんな簡単な事すら見えていなかった)
唯(店員さんは何も言わないで会計してくれたけど、私の初陣は憂の自爆によって深い傷跡を残してしまった)
唯(だからお父さんネタは絶対ダメ。恥の上乗せとはまさにこの事だよ!)
唯(じゃあどうする……りっちゃんを誤魔化すには)
唯(……いや、あの事件以来お宝本自体を誤魔化すのは無理ってわかってるじゃん)
唯(そうだよ、中学生になった私が単独でお宝本を買う時はそう、無心だった)
唯(ねえ、あの頃の私……店員が男でも女でも何食わぬ顔で買ってたよね)
唯(りっちゃんにばれた事実はかわらない。けどその後の被害は何食わぬ顔で平然を装う事によって最小限に抑えられる!)
唯(プランはこう)
唯(エロ本だけどそれがどうかした? ……いやこれじゃだめだ)
唯(それ最近買ったんだけど結構よかったよ。りっちゃんも読んでみる? って平然と言うんだ。そしたらりっちゃんは)
唯(えっ!? いや、あたしは……って口ごもってくれれば私の勝ち)
唯(そうしたらまくしたてるように、そういえばクラスの人達とはたまにこういう会話するけどりっちゃんとはした事ないね)
唯(もしかしてりっちゃんってこういうの苦手なの? って言えば、そんな事ないやい! って……いや待てよ)
唯(それでもりっちゃんが同調してくれなかったらまずいな……私の印象がお宝本ハンターになっちゃう)
唯(そうだ外堀を埋めよう!)
唯(りっちゃんはこういうの苦手なのかと思って隠してたけど実は軽音部でもお宝本の話とかしてるんだよねー)
唯(って言えばりっちゃんは墜ちる!)
唯(墜ちた所で私のお宝本を見せてりっちゃんもお宝本ハンターにさせれば私の楽しみも2倍じゃん!)
唯(そうだ既に憂達がいるから3倍、いや4倍か)
唯(最悪りっちゃんがお宝本に夢中になっている所を写メしちゃえばりっちゃんがどう出ようと私の勝ちは確定だよ! やった!)
唯(よ、ようし……まだ笑っちゃだめだよ私)
唯(まずは「それ最近買ったんだけど結構よかったよ」だね)
唯(うあ……上手くいくとわかっていてもやっぱり恥ずかしいな)
唯(いや)
唯(この羞恥、この肌触りはまさにお宝本を買う時の空気そのもの)
唯(そう考えればむしろこの羞恥が心地いい……)
唯(よーしいくぞ)
唯「そ、それ最き――」
コンコン ガチャ
澪「よ」
唯「!?」
律「おー遅かったじゃん」
唯(そんな!? なんで!?)
澪「ああ、いくつかあったから悩んじゃって」
律「参考書なんてどれも一緒だろ?」
澪「内容とか分かりやすさが違うんだよ。今度律にも見せてあげる」
律「サンキュ」
唯(こんな時に澪ちゃんが!)
唯(しまったぁぁ……今日家に来るのはりっちゃんだけじゃないってことくらいわかってたはずなのに)
唯(はは、私ってば相当動揺してるみたいだね)
唯(落ち着け……落ち着け私)
唯(……方や受験の参考書選び。方やお宝本のいいわけ選び……)
唯(だめだめっ! 今は雑念を振り払って打開策を考え直さなきゃ!)
唯(澪ちゃんが現れた事で軽音部のメンバーがお宝本に精通しているっていうネタはもう使えない)
唯(同様に写メ作戦もおじゃん……)
唯(ああん! この場にいるのが1人なら誤魔化せたのに!)
唯(そうだ、りっちゃんは澪ちゃんが現れたことによってどう動くんだろう)
唯(澪ちゃんがお宝本を見たら顔を赤らめて動揺するはず)
唯(そんな澪ちゃんをからかうためにりっちゃんは「おい澪これ見てみろよー唯がこんなもん持ってたんだぜー!」……ありうる)
唯(そう言えば澪ちゃんと私の恥ずかしがってる所が見れて面白いなんて思いそう。けどその後澪ちゃんは……)
唯(「唯……こういうのは何歳になってもだめだよぉっ!」って言われて真面目に説教? それはまずい!)
唯(もうすぐ家に来るであろうムギちゃんやあずにゃんが来ても説教は続いて)
唯(当然説教されている理由をりっちゃんが面白おかしくばらしちゃうんだっ……!)
唯(そうして軽蔑と好奇の目に晒されて、言い訳をする暇もなくお宝本ハンターのレッテルを張られて……そんなのやだよ!)
唯(打開策……まずお宝本を澪ちゃんから隠して被害を最小限に抑える事)
唯(りっちゃんには根回しするか……高くついちゃうな)
唯(あれ? その肝心なお宝本はどこに行ったんだっけ……げ!!?)
唯(りっちゃんの右手に収まってるうううぅぅうぅ!!)
唯(根回し作戦はダメッ……!)
唯(どうしようどうしよう……あっそうだ! あの本はまだ私の物だって事がばれてないんだった! これいけるかも!)
唯(大まかな作戦は二通りかな)
唯(一つはお父さんのお宝本という事にしてしまって私も被害者を演じる)
唯(最初は3人ともキャーキャー言い合って騒ぐ事になるけど少し落ち着いてきたころを見計らって)
唯(私が「ちょっと見てみない?」って打診してみる)
唯(特に澪ちゃんが拒否しそうだけどりっちゃんが思い切り拒否はしないと思うんだよね)
唯(りっちゃんが陥落すれば自然と澪ちゃんも後から仲間に入りたがるはず!)
唯(もう一つの作戦は私が先手必勝でりっちゃんに罪をなすりつける……)
唯(「澪ちゃんりっちゃんがお宝本持ってきてる!」って言えばうやむやに出来るか)
唯(私のお宝本を見てしまったのがいけないんだよ……りっちゃんごめん)
唯(……やっぱり最初の作戦にしよう。リスクが大きすぎるよ)
唯(よしまずはりっちゃんが「おい澪これ見てみろよー唯がこんなもん持ってたんだぜー!」って言う)
唯(その後すかさず私が「違うよそれ私のじゃないよ!? あ! もしかしておとーさんのかも!」って言えば乱戦に出来る!)
唯(よ、ようし……なんとか打開できそう。ふぅ、心にゆとりが出てきた)
唯(……あれ? 私結構考え込んでたけど……しまった! どのくらい時間たったんだろう!)
唯(い、いやいや、大して時間立ってないでしょ)
唯(いくら考え事してたからってりっちゃんと澪ちゃんがお宝本で騒ぎ出したら私だって気付くよ)
唯(まずは落ち着いて様子を窺おう)
憂「お茶持ってきましたよ」
律「サンキュ」
澪「ありがとな」
梓「ありがと」
唯(ふえてるぅうううううううう!!!?!?)
唯(いつから!? その前にりっちゃんの「い澪これ見てみろよー唯がこんなもん持ってたんだぜー!」からの乱戦は無かったの!?)
唯(ていうか一番見られたくなかったあずにゃんがいらっしゃるううぅうぅ!!)
唯(う、ううぅぅう……ああぁぁぁあ……)
唯(なんでみんな普通にお茶飲んでるんだろう……)
唯(もしかして一通り騒ぎ終わった後の祭? でもそれならあずにゃんと澪ちゃんの落ち着きが不自然)
唯(となると……まさかお宝本がばれてない!? そんな事が……?)
唯(そうだ今のお宝本の所在地は!?)
唯(りっちゃんの近くのはず……どこ……え?)
律「……」
唯(りっちゃんが私にアイコンタクトしてる……?)
唯(アイコンタクト……ま、まさかりっちゃん……)
唯(お宝本ハンターにとってアイコンタクトは戦友の証であり戦場の歩き方でもある……これは一番最初のお宝本ハントで憂と一緒に学んだこと)
唯(つまりりっちゃんは私や澪ちゃんを冷やかす事も無くあずにゃんからもお宝本を隠しておいてくれてるって事……?)
唯(本当にそう言う事なの……?)
律「……」
唯(うそ……ありがとう、ごめんなさいりっちゃん……いや律ちゃん。私は律ちゃんを踏み台にする事まで考えていたのに……)
唯(私は……私は素晴らしい戦友に出会えたんだね……!)
唯(は、はは、何だか今まで真剣に考えてたのがバカみたい)
憂「お姉ちゃん?」
唯(私もお茶飲もう)
憂「そっか。もうダメだよお姉ちゃん部屋ちらかしてたら座る場所なくなっちゃうよ」
唯「えへへごめんごめ――ッ!!」
律「あ、う、憂ちゃんそっちは私が――」
唯「あ、憂、そっちはいいから――」
憂「え? あれ、これって……」
澪梓「?」
唯(そんな! せっかく上手くいきそうだったのにあずにゃん達にばれちゃう!)
唯(う、ういっ! アイコンタクト! アイコンタクト! 目を、私の目を見てっ!)
唯(かつての戦友なら一目見てわかってくれる!)
憂「もーこういうのはちゃんと片付けないとダメだよ? ……あっこれ新しい、私まだ見てない」
唯(こっちを見てええええええええええ!!)
唯(……まさか、そう言う事だというの?)
唯(私は大きな勘違いをして今まで生きてきた?)
唯(あの日、憂と初めてのお宝本ハントを行った日、憂は確かに恥ずかしがっていた)
唯(じゃあ2度目のハンティングではどうだった? ……私より羞恥があったとは思えない)
唯(そもそも憂は昔からしっかりしていた。いくら羞恥で判断能力が鈍っていたからってあんな……)
唯(……だったら考えられることは一つしかない)
唯(憂は……羞恥するフリをしていた? 何故?)
唯(……かつてそういう人達を見た事がある。それはオタクの話を堂々と公の場で言ったりする人や、お宝本を隠さず堂々と教室で見る人)
唯(そういう人達はそれらの行動を自慢するかのようだった。教室でお宝本を堂々と読む私かっこいい、みたいな)
唯(憂がお宝本に対してそういう認識だったら……)
唯(教科書に載っていそうなベタな台詞をわざとらしく言うのがステータスだと思っていたとしたら)
唯(お宝本を隠しもせずにおおっぴらにする事に何のためらいもなかったとしか考えられない)
唯(まさか憂がそんな考えだったなんて……本当に羞恥で判断能力が鈍っていたのは私だったなんて……!)
唯(くっ……だけどまだ諦めるわけにはいかない! りっちゃんという戦友の為にも最後まで諦めない!)
唯(何か……まだ何か策はあるはずなんだ……!)
コンコン ガチャ
母「唯ーお友達来たわよ」
唯(いやああああああああああああああ!!!!?)
紬「おじゃましま~す」
憂「こんにちは」
母「あら、憂の持ってるのって……?」
母「ははぁん、そう言う事ね! うふふ、みんな好きね~」
唯「な、いや」
母「お宝本鑑賞会私も今度混ぜてね。今は真鍋さんが来てるから遠慮するけどいい話のネタが出来たわぁ」
母「じゃあごゆっくり~」
ガチャン……
律「……」
澪「え、何? お宝鑑賞って……?」
梓「ちょっ! 憂の持ってる本って……!?」
唯「……」
唯(お母さんは、私が必死に消そうとした導火線の火とか関係なく、全てを壊して行きました)
憂「あちゃーばれちゃったかーあははー」
澪「その本がどうかしたのか? ……え、ちょ、これって!」
律「うわあ……」
澪「おい律!! なんで律の傍からそんな本が……まさかお前っ!」
律「ええんっ!? ちがっ違う! これは私のじゃない! た、多分唯のお父さんが――」
梓「そんな訳ないでしょ!! 律先輩が――」
憂「お姉ちゃんこのお宝本借りてもいい?」
梓「用意し……え?」
澪「ゆいのなの……?」
唯(終わった……けど、まだ終わってない)
唯(これ以上被害を増やす前に……やるべき事は一つ。みんなで一つになるしかない)
唯(その為には)
唯「……り、りっちゃんが持って来てました!」
律「おいいいいいいいい!?」
唯(まず乱戦を起こすしかない!!)
唯(火種が争いを呼び、私達は一通り騒いだ)
唯(その中でみんなのお宝本適正を確認した。問題なかった)
唯(そうしてみんなが落ち着いてきた頃を見計らって)
唯「……ちょっと見てみない?」
唯(やっぱりみんな食いついてきた。澪ちゃんも、あずにゃんも、ムギちゃんも)
唯(そうして一通り罪を共有し終えてから改めて本題に入る)
唯「……でさ、このままだと私達のお宝本鑑賞会が奥様方に広がっちゃいそうなんだよね。だからこの状況を打開する方法をみんなで考えよう」
唯(今度は1人じゃないし、いつの間にか時が過ぎる事もない。こんなに心強い事はないよ)
唯(1度お宝本を見せ合えば私達は戦友。今度の困難もなんとかなるよね!)
律「とりあえずこの事は誰にも言わないで下さいって頭下げに行こうぜ」
澪「うう……なんでこんな事に」
梓「最悪です……」
紬「な、なんだか緊張するね……!」
唯「あ、はじめからそうすればよかったのかぁ」
END
最終更新:2012年07月09日 20:55