紬「梓ちゃん!」
梓母「ほら、紬さんが呼んでるわ」
梓「ムギ…先輩!」
紬「梓ちゃん!」
梓「えっ…どうしちゃったんですか。突然抱きついて」
紬「思ったより寂しかったの…」
紬「一日ぐらいあわなくても平気だって思ってたけど」
紬「すっごく寂しかった」
梓「私もです」
梓「お父さんやお母さんと一緒の時間も楽しかったけど」
梓「やっぱりムギ先輩に会えなくて寂しかったです」
紬「これからはずっと一緒ね、梓ちゃん
梓「はい」
梓父「ふたりとも幸せそうだね、母さん」
梓母「ええ、とっても」
紬父「はじめまして。紬の父親です」
紬父「あなたがたが、梓さんの御両親でしょうか?」
梓父「これはどうもご丁寧に。梓の父親です」
紬父「やはりそうでしたか…」
梓父「娘同士が結婚とは…お互い変わった経験をすることになりましたね」
紬父「ですが、悪いことではないと思うませんか」
梓父「はい。あの二人を見ていれば…」
紬母「本当に」
梓母「ええ、本当に幸せそう」
梓父「若いころを思い出すね、母さん」
梓母「そうかしら?」
―――
紬「みんな! そろそろ集まって!!」
紬「ドレスに着替えるから」
唯「じゃあね、和ちゃん」
和「ええ。唯達の晴れ姿、楽しみにしてるわ」
律「私達も行くか」
澪「……うん」
菫「ちょっと待って、お姉ちゃん」
紬「どうしたの?」
菫「…幸せになってね」
紬「……ええ、もちろんよ」
菫「それ以上はないから」
唯「凄い豪華なドレス! これ着てもいいの!?」
紬「ええ」
澪「凄くきれいだ…」
律「うん」
梓「ムギ先輩…これ」
紬「えぇ、梓ちゃんのドレスよ」
梓「…私達結婚できるんですね」
紬「もうしてるけどね」
梓「…そうでした」
梓「でもやっと実感がわいてきました」
梓「自分はムギ先輩のお嫁さんになるんだって」
梓「ムギ先輩が自分のお嫁さんになるんだって」
紬「そうね」
梓「ありがとうございます」
紬「なんでお礼を言うの?」
梓「私の願いを叶えてくれたから」
紬「じゃあ私もお礼を言わないとね」
紬「梓ちゃんと結婚できたことに、ありがとうって」
―――
斎藤「それでは誓いの言葉を」
梓「わたくし琴吹梓は」
梓「良き時も悪しき時も」
梓「富める時も貧しき時も」
梓「辞めるときも健やかなる時も」
梓「共に歩み」
梓「他の者に依らず」
梓「死が二人を分かつまで」
梓「愛を誓い」
梓「妻を想い」
梓「妻のみに添うことを」
梓「神聖なる婚姻の契約のもとに誓います」
紬「わたくし琴吹紬は」
紬「この女琴吹梓を妻とし」
紬「良き時も悪しき時も」
紬「富める時も貧しき時も」
紬「辞めるときも健やかなる時も」
紬「共に歩み」
紬「他の者に依らず」
紬「死が二人を分かつまで」
紬「愛を誓い」
紬「妻を想い」
紬「妻のみに添うことを」
紬「神聖なる婚姻の契約のもとに誓います」
斎藤「それでは誓のくちづけを」
紬(ねぇ、梓ちゃん)
梓(こんなときにどうしたんですか、ムギ先輩)
紬(死が二人を分かつまで…ってあったよね)
梓(誓いの言葉ですね)
紬(二人一緒に死んでも、二人は分かれちゃうのかな)
梓(どうでしょう)
紬(私ね、人が死んだら、ただの灰になると思ってるの)
梓(…私もです)
紬(一緒のところで一緒に死ねば、二人の灰のほんの一粒ぐらいは一緒にいられるかもしれない)
紬(そんなことを考えてしまったの)
梓(ムギ先輩って意外とロマンチストですね)
紬(そうだよ)
梓(…誓いのキスにその願いを乗せましょうか)
紬(たとえ灰になろうとも、二人が一緒にいられますように)
梓「…」
紬「結婚式終わっちゃったね」
梓「義父さんと義母さんもフィンランドに行ってしまいましたね」
紬「ええ」
梓「何かしたいことありますか、ムギ先輩」
紬「自転車…」
梓「そういえばお父さんが結婚祝いだって言ってくれましたね」
紬「ええ、乗ってみたいな」
梓「でも外に出るのはちょっと危ないそうです」
紬「じゃあ、敷地内を走りましょ」
梓「ええ」
紬「すごいね、この自転車、ぐんぐん加速する」
梓「ええ、お父さんの自慢の自転車でしたから」
紬「そんなものをもらってよかったのかしら?」
梓「いいと思います」
梓「どうせもう使わなかったでしょうから」
紬「そう」
紬「ねぇ」
梓「はい?」
紬「自転車、二人乗りやってみない?」
梓「はい」
紬「風がきもちいいね」
梓「はい」
紬「地球が終わっちゃうなんて信じられない」
梓「はい」
紬「結婚式よかったね」
紬「唯ちゃんに憂いちゃん」
紬「りっちゃんに澪ちゃん」
紬「みんなとっても幸せそうだった」
紬「菫や和ちゃんもいつの間にか貰い泣きしちゃって」
紬「幸せな涙にあふれた結婚式だったね」
梓「はい。純はドーナツ貪ってましたけど」
紬「ねぇ、梓ちゃん」
梓「どうしました?」
梓「突然どうしたんですか?」
紬「古い歌かな」
紬「突然思い出したの」
紬「でいじ」
紬「でいじ」
紬「はいといってよ」
紬「きがちがうくらいきみがすき」
紬「ちゃんとりっぱなはなよめみたいに」
紬「ばしゃのぱれーどはむりだけど」
紬「けれどかわりにきっとすてき」
紬「きみとじてんしゃふたりのり」
梓「いい歌ですね」
紬「そうでしょ」
梓「けっこう立派な結婚式やってしまいましたが」
紬「そうね」
紬「馬車のパレードなんて普通やらないものね」
梓「でも、ちょっとやってみたい気もします」
紬「そう?」
梓「はい」
紬「ねぇ、梓ちゃん」
紬「2次元3次元っていうけど」
紬「何次元まであると思う?」
梓「四次元じゃないんですか?」
紬「超弦理論では11次元ぐらいまで扱うそうなの」
梓「そんなに……線、平面、立体、時間くらいだと思ってました」
紬「ええ、私も詳しくはないわ」
紬「でも私達に想像もつかないような真実があってもおかしくないとは思わない?」
紬「並行世界のひとつやふたつあってもおかしくないと思わない?」
梓「パラレルワールドですか?」
紬「ええ」
梓「やっぱりムギ先輩って意外とロマンチストですね」
紬「ええ、そうなの」
紬「きっと並行世界でも私と梓ちゃんは出会うの」
紬「でも、いろんな困難にぶつかっちゃって」
紬「もうどうしようもないって所まで追い詰められちゃうんだけど」
紬「ご都合主義としかいいようのない展開で救われるの」
梓「私は…」
梓「私は、最初からハッピーエンドがいいです」
紬「そういう世界もあるかもしれないね
紬「私と梓ちゃんがいちゃいちゃしてるだけの」
梓「ずっといちゃいちゃですか」
紬「飽きそう?」
梓「ムギ先輩は見てて楽しいですから」
紬「もうっ…」
梓「でも、本当にあるといいですね。並行世界」
紬「もし、全く違う世界で、全く違う出会い方をしたとして」
梓「…」
紬「それでも梓ちゃんは私と付き合ってくれる?」
梓「はい」
梓「ムギ先輩はどうなんですか?」
梓「全く違う世界でも、ちゃんと私を見つけてくれますか?」
紬「はい」
梓「では、私達の夢を託しましょうか。別世界に」
紬「馬車のパレードで結婚式する夢」
梓「はい」
紬「うふふふ。素敵ね」
梓「はい。きっと素敵です」
梓「でも、仮に別のがあったとしても」
梓「今の私達も負けてないと思うんです」
紬「そう?」
梓「はい」
梓「私、思うんです」
梓「たとえ私達が灰に還ったとしても」
梓「誰からも忘れられ塵に還ったとしても」
梓「ムギ先輩と過ごした日々の価値はなくならないと思うんです」
梓「この恋には確かに価値があるんだって」
梓「私達の恋は確かにあったんだって」
梓「うまく言葉にはできませんが、そう思うんです」
紬「梓ちゃんは刹那主義ね」
梓「えっ」
紬「つまり、もっと恋したいってことでしょ」
紬「私も同じなの!」
紬「たとえもうすぐ灰に還るとしても」
紬「刹那でも多く、梓ちゃんと一緒にいたい」
紬「こうやって梓ちゃんの体温を感じていたい」
梓「私もです」
紬「ねぇ、梓ちゃん」
梓「なんですか?」
紬「きがちがうくらいきみがすき」
梓「私はもっと好きです」
紬「そうなの?」
The End !
最終更新:2012年07月26日 21:58