『今日は唯と律が進路指導で呼び出しをくらったから部活中止!!』
澪先輩からのメールを見たのは部活に行こうとした瞬間。
梓(最近、この手のメールが多いなぁ~)
梓(でも、澪先輩とムギ先輩は部室にいるはずだから…)
…
澪「こんな感じはどうかな?」
紬「うーん~」
紬「私は大丈夫だけど、澪ちゃんは?」
紬「ちょっと背伸びしすぎじゃない?」
澪「やっぱり?」
澪「でも、ちょっと挑戦したい気もするんだ」
紬「これは保留にしない?」
…
梓(あっ、ドアが開いてるってことは澪先輩とムギ先輩はいるんだ…)
梓「失礼します」
澪「あっ、梓!!」
紬「今日はこなくても良かったのに…梓ちゃんって本当に真面目よね!!」
梓「いえっ!!逆に澪先輩とムギ先輩は来てると思ってましたから…」
紬「梓ちゃんって健気!!ギューッとしたくなるくらい!!」
梓(それはうれしいけど…ムギ先輩ファンに怒られそう)
梓(澪先輩はほぼ公式だけど、ムギ先輩ファンも凄いから…)
…
紬「梓ちゃんにもお茶を入れるわね。」
梓「あっ、すいません…」
澪「今日は練習もできないから自主練でもしたらいいよ。」
澪「私とムギは勉強でもしてるから」
梓「いえいえ、お邪魔はできませんから今日はゆっくりお茶でも飲んでます。」
梓「それにムギ先輩の入れてくれるお茶は美味しいですし、リラックスするには最高です。」
紬「梓ちゃんは優しいね。」
澪「今日は部活じゃないから、好きにしていいよ。」
梓「ありがとうございます。」
…
澪「でもさぁ~」
紬「ううん!!これでいいと思うわ!!」
澪「でも、ちょっと…」
紬「澪ちゃんはもっと自信を持っていいのよ!!」
…
梓(なんの話をしてるんだろ?)
梓「あの~なんの話をしてるんですか?」
澪「ん?」
梓「なんだかお二人で真剣な顔をしているから心配になって…」
紬「そんなに真剣だった?」
梓「ハイ!!今まで見た事がないくらい真剣でした。」
紬「そうよね~。澪ちゃんとこんな話をすること自体珍しいもんね。」
澪「そうだな!!律も唯も知らないと思うよ」
梓「えっ?」
梓「そんな大事な話だったんですか?」
梓「すいませんでした!!そんな大事な話に水を差すようなことを言って!!」
澪「そんな大それたことじゃないよ」
紬「そうそう。」
澪「実は曲作りの打ち合わせなんだよ」
梓「えっ?」
紬「ごめんなさい。そんなに難しい顔してた?」
梓「ハイっ!!とてもじゃないけど横から口をだせるような感じじゃありませんでした。」
澪「まぁ、滅多にないことだからな」
紬「そうねぇ~」
梓「あの~」
梓「お二人が曲を作るときって、いつもこんな感じで打ち合わせをするんですか?」
澪・紬「うーん」
澪「そんなに無いかな?」
紬「そうねぇ~。あんまりないわね」
梓「えっ?」
梓「じゃあ、いつもどうやって曲を作ってるんですか?」
澪「うーん…私が詩を作ったらムギが曲をつけてくれるし」
紬「私が曲を作る時は、澪ちゃんならたぶんこんな詩を付けてくれるかな?って思うし」
澪・紬「以心伝心かな?」
梓「…」
梓「心配とかはないんですか?」
澪・紬「全然!!」
澪「ムギなら」
紬「澪ちゃんなら」
澪・紬「大丈夫!!」
梓(凄いなぁ~)
…
梓「あの~一つだけお願いしてもいいですか?」
澪「ん?なんだ?」
梓「今の曲に全く不満はないんですけど…」
梓「あえて言うとすれば…」
梓「もっとロックっぽいものってできないんでしょうか?」
梓「ハードというか重いというか…」
梓「演奏はシンプルだけど、歌詞が深いとか…」
梓「歌詞はシンプルだけど、展開に緊張感があるというか…」
…
澪「…」
澪「やっぱり…」
澪「私の歌詞が軽いからだよね…」
澪「…」
紬「ううん!!澪ちゃんのせいじゃない!!」
紬「私の曲展開が単純だから…」
梓(あれっ?)
梓(地雷を踏んだの?)
澪・紬(うつむいたまま…)
梓「すいませんでした!!」
梓「私は今の曲に不満はありません!!。」
梓「だから、さっきの言葉は忘れてください!!」
澪・紬「フフッ」
澪「アハハwww」
紬「うふふwww]
梓「えっ?えっ?」
梓「なんですか?どういうことですか?」
澪「いや~ごめんごめん」
紬「まさか、梓ちゃんからこんな言葉がでてくるとは」
梓「えっ?えっ?」
紬「律ちゃんが言ったこととおんなじ!!」
澪「ほんと!!ビックリするくらいだよ」
梓(困惑)
紬「実は律ちゃんも同じようなことを言ったのよ」
澪「そうそう!!たしか1年生の3学期あたり」
…回想…
律「せっかくオリジナルやるんだから、もっと恰好良い曲をやろうぜ!!」
澪「でも、私達じゃこれ以上無理だよ」
唯「よくわからないけど、私は今でいっぱいいっぱいだから…」
律「せめて、聞いてる人が耳をふさぐくらいの大音量とかでさぁ~」
澪「Death Devil 路線か?」
紬「それは私には無理だわ」
…
澪「そんなことがあったんだよ」
梓「そうなんですか」
紬「まさか梓ちゃんと律ちゃんが同じことをいうなんて」
澪「ちょっとびっくりだな」
紬「案外、二人は似ているのかもね」ウフフ
梓「ちっ、違います。」
梓「でも…」
梓「アクセント的にも、『クール』な感じの曲があってもいいかなって思っただけです。」
澪「じゃあ『カレーのちライス』の誕生秘話を話そうか?」
紬「いいんじゃない?」
澪「あの曲って、最初は甘ったるい曲だったんだ。」
紬「そうそう!!辛いカレーを甘くして『初恋は辛いけど、恋愛まで進めば甘い』ってコンセプトだったよね」
澪「でも、律が『もっとロックな曲も欲しい』って言いだしてさぁ~」
紬「急遽、できあがったのが今の『カレーのちライス』なの」
梓「へ~っ!!」
紬「だから珍しくコードも簡単でしょ?」
澪「でも演奏力がないからムギのキーボードをメインにしたんだよなぁ~」
紬「そうそう!!私はクラシックの自信はあったけど、ロックキーボードって未知数だったからいろいろ勉強したわ」
梓「そうなんですか!!」
梓「でもとんでもなく恰好良い曲でしたよ。」
梓「できれば、もう1曲くらいあんな感じの曲が欲しいなぁって思います。」
澪「そっか~」
紬「でも、私たちには要らないのよね~」
紬「だって、私たちは高校生なんだし。」
紬「人生経験も少ないから、せいぜい『甘酸っぱい初恋とか片思いとか』くらいしか曲にできないもの」
澪「だよなぁ~」
紬「私達は品行方正な桜高の生徒なんだし」
紬「特に奥手な澪ちゃんが背伸びした詩を書けるわけないじゃない!!」
紬「梓ちゃんはギタリストとして格好いい曲を演奏したいんだと思うけど」
紬「今の私たちの生活ではそんなドラマティックな展開は望めないのよ。」
澪「そうだな」
澪「梓には悪いけど、そこは我慢してほしいな…」
梓「はいっ!!」
梓「さっきも言ったように今の曲に不満はありませんから、我慢もなにもありません。」
梓「単なる我儘だと思って忘れてください。」
澪「できるかどうかはわからないけど、梓が演奏してて気持ちいい曲も考えてみるよ。」
紬「そうそう。」
紬「澪ちゃん!!頑張ろう!!」
梓(…)
梓(…なんだろ?期待してしてもいいのかな…)
梓(…いや!!期待しよう!!…)
梓(…だって、信頼しあっている二人が頑張るって言ってるんだもん…)
―――
澪は『明日は始業前に集合!!』って短いメールを律、紬、唯に出した。
律「なんだよ急に召集なんて」
澪「うん、ちょっと大事な話があってな」
…顛末を話す澪…
律「そっかぁ~」
唯「意外だよ~」
唯「だってあずにゃんと律ちゃんが同じ属性だったなんて」
澪「唯はちょっと黙っててくれ」
紬「やっぱり、新入部員が居なかったことが響いてるんじゃないかしか?」
律「だなぁ~」
澪「ともかく、梓のためにできることをやっていこう」
律「そうだな!!」
律「まずは新曲のギターソロは梓メインにしよう」
唯「え~っ?」
澪「遅いくらいだよ。梓なら1年生からメインでも良かったくらいだし」
唯「…そうだよね…」
唯「私があずにゃんに残せることって、今はそれくらいしかないもんね。」
紬「唯ちゃんだけじゃなくて、私たちが梓ちゃんに残せるものって…」
律「なんにもないかもなぁ~」
澪「ともかく、私とムギは曲の方で頑張るからさ」
澪「律と唯は気持ちの面で残せることを考えてくれないか?」
律「何気にハードル高くないか?」
唯「でも、何か残そうよ!!あずにゃんのために!!」
唯「さわちゃんたちが残してきたものを私たちは受け取ったんだから、きっとなにか残せるよ!!」
…学園祭も終わって…
律「結局、梓にはソロパート以外は残せなかったなぁ~」
唯「そうだね…」
澪「でもまだ半年残ってる!!」
紬「そうそう!!まだ残ってる!!」
澪「実は今になってからなんだけどさ」
紬「ようやく新曲ができたのよ」
律「今更だな~」
澪「人前で演奏する機会はないかもしれないけど…」
紬「私と澪ちゃんが梓ちゃんのために作った目いっぱい背伸びした曲なのよ」
紬「みんなには悪いけど、アレンジは私がもう考えてるのよ。」
澪「私もムギにお願いしたんだ!!1年生の時を思い出してさ!!」
唯「澪ちゃんとムギちゃんがそこまで気合を入れてるんなら私は良いよ。」
律「そうだな。」
律「で?どんな曲なんだ?」
…
梓「今更新曲ですか?」
梓「演奏する機会なんてないですよ!!」
律「まぁまぁ」
唯「できたものは仕方ないからさぁ。」
紬「ちょっと聴いてもらえる?」
…
澪「Raindrop♪降り出す雨♪なんてきれいなの♪ソーダ水みたいにね♪まちのあくびを止める♪」
…
梓「…」
澪「どうだ?」
紬「私と澪ちゃんが精一杯背伸びをした曲」
澪「そして今の私とムギが梓に残せる精一杯の曲」
律「この曲のギターは梓にしか弾けないんだよ」
唯「そうそう!!私じゃだめなんだ。」
唯「あずにゃんにしか弾けないギターだよ!!しかも格好いいんだよ!!」
紬「うふふっ!!梓ちゃん!!私達を信頼して!!」
澪「そうだよ。『HTTのギタリスト
中野梓ここにあり』なんだ」
唯「本当はライブで演奏したかったんだけど、学祭に間に合わなかったや…」
梓「…」
梓「ありがとうございます!!」
梓「本当にありがとうございます!!」
梓「こんなに格好いい曲ができるなんて!!」
梓(…涙…)
律「泣くほどでもないだろ!!」
唯「そうそう!!だいいちライブもできないんだから…涙」
梓「いえっ!!」
梓「私は軽音部に入って良かったです。」
梓「でも…」
梓「悔しいです!!」
梓「とってもとっても悔しいです!!」
梓「なんで、先輩達と一緒じゃないんだろ?」
梓「…」
律「梓…」
律「ウチらは卒業するし、梓に残せるものは少なかったけど」
律「ウチら4人がこの曲に託したのは『信頼』なんだよ」
律「来年は一人から始まる部長だけど、ウチらは梓が頑張ってくれるって信じてる。」
律「たった一曲だけど梓の想いもウチらの想いも詰まった曲なんだよ。」
律「伝わったかな?」
梓「…」
梓「はい!!受け取りました。」
梓「澪先輩とムギ先輩が精一杯の背伸びをしたら、とんでもない世界に行くって事も」
梓「律先輩の今の言葉も」
梓「全部受け取りました!!」
梓「私は頑張れます!!」
梓「絶対先輩達を追い越します。」
梓「澪先輩の詞も、ムギ先輩の曲も追い越します!!」
梓「…」
梓「…ありがとうございます…」
梓「私って、こんなに想われたんだ…」
唯「あの~」
唯「あずにゃん?」
唯「さっきから律ちゃんと澪ちゃんとムギちゃんには感謝の言葉があったけど…」
唯「私にはないの?」
梓「…」
梓「唯先輩には言葉がいらないと思ってたんですが…」
唯「あずにゃん…」
梓「言葉が欲しいですか?」
唯「うーん…できれば…」
梓「…」
梓「唯先輩がもっと練習してくれていたら、学祭でこの曲を演奏できてたはずです!!」
梓「もっともっと練習してくれてたら…」
梓「もっともっと良い曲を澪先輩もムギ先輩も作ってくれてたはずです!!」
梓「それだけが悔しいです!!」
梓「唯先輩がもっと…」
唯「あずにゃん…」
…
唯「それって馬耳東風ってやつだよ!!」
律「ここでぶち壊すのかよ!!」
…
終わり
最終更新:2012年07月28日 23:22