玄関前

陽介「あー腹減ったー!なんか買って帰っかなー…って」

陽介「あれ、澪ちゃん?」

陽介「下駄箱で何やってんだ?」

陽介「…」

陽介「声掛けてみっか」

陽介「うーす!今帰りか?」

澪「…陽介君か」

陽介「なーにやってん…なんだソレ」

澪「…たぶん、ラブレターだと思う」

澪「…3年生は卒業が近いから、その前に想いを伝えようと考える子が最近多いんだ」

陽介「へぇ、女子校でもそんなんあんのか」

澪「…正直困るんだよな、こういうの」

澪「こういうのに構ってる場合じゃないのに」

陽介「そう言ってやるなよ、手紙出した本人は本気なんだからさ」

澪「だから余計困るんだ」

澪「…女同士なんだから、その想いに答えられる筈無いのにさ」

陽介「…」

陽介「男からなら良いってことか?」

陽介「なら俺とかどーよ!今度二人っきりで遊びいこーぜ!」

澪「そういう問題じゃない!///」

陽介「うっへ、バッサリ…」

澪「…」

澪「なんでフラれると分かってるのに私にラブレターなんて出すかな…」

澪「…お互い傷つくだけなのに」

澪「…だったら最初から好きになんてならなきゃ良いのに」

陽介「…」

陽介「ソレ、自分に向かって言ってんのか?」

澪「…そんな訳無い」

陽介「俺にはそんな風に聞こえたけどな」

陽介「…人様の恋愛にどーこー言う気はねーけどよ」

陽介「自分から壁作ってたら意味ねーと思う」

澪「…」

陽介「どっかで自分の気持ちにフタしたまんまじゃ、いつかボン!だ」

陽介「…自分の気持ちから逃げんな」

陽介「澪が手を伸ばせばさ、きっと欲しいものは掴める!絶対に掴める!」

澪「…陽介」

陽介「手ぇ届かなくなってからじゃ…遅いんだからさ」

陽介「澪はまだ間に合うはずだぜ?」

陽介「俺が保証してやる!」

澪「…ありがとう」

澪「こんな話したの、陽介が初めてだ」

澪「私の悩み…今まで誰にも気づいて貰えなかったし」

澪「気づいて貰おうとも思わなかったから…」

陽介「俺から言わせりゃバレバレだっつの」

陽介「澪が書いた歌詞見りゃ一目瞭然だ」

澪「…そうかな?」

陽介「自覚無しかよ!あり得ねーだろ!」

澪「そこまで言わなくても良いだろ!」

陽介「…」

陽介「ははっ、顔真っ赤にしてやんの」

澪「うう…///」

陽介「(うわなにこの子超キャワイイ!)」

陽介「(そういや…)」

陽介「(こんな可愛い子を悩ませる、罪深い相手は一体誰なんだ?)」



クマ「っくしょいクマ!」

クマ「誰かクマの噂してるクマね…」

悠「お前じゃない」

クマ「センセイ?」

悠「お前じゃない」



澪「陽介…私、このラブレター書いた子に会ってくる」

澪「結局、相手の想いに答えられないことには変わりないけど…」

澪「なんとなく、今までと違う一歩が踏み出せそうなんだ」

陽介「…そっか」

澪「行ってくるよ!」たたっ

陽介「なぁー!?励ましてやったんだから、お礼にデートしてくれても良いんじゃねー!?」

澪「駄目ー!私、好きな人いるからー!」にこっ

たたた…

陽介「うっへ、バッサリ…」

陽介「…」

陽介「へへっ」

陽介「じゃっ!帰りますか!」

陽介「…って、あー!?もうこんな時間かよ!」

陽介「夜からシフト入ってたんだった!」

陽介「長居しすぎたー!」


自室

陽介「あー疲れた…いくら遅れたからってビールケース300箱も運ばせなくても良いだろちくしょう…」

陽介「俺の足腰は限界だ…!」

陽介「はぁー…」

陽介「…そういえば明日から二日間合宿だっけ」

陽介「アニメのパターンだとムギちゃんが海沿いの別荘だかに連れてってくれるんだよな」

陽介「ってことは…」

陽介「これは期待しても良いんだよなーははっ!」

陽介「明日に備えてさっさと寝るか!」


翌日 屋久島行き渡航船 船上

唯「やー!」

律「くー!」

澪「し、しー!」

陽介「まーーーーー!!!」

梓「ちょっ!なんで叫ぶんですか!」

紬「潮風が気持ち良いわ~…」

陽介「テンション上げるなって方が無理だぜ梓!」

陽介「高い空!白い砂浜!青い海!そんで…」

陽介「(水着だろやっぱ!)」

ごん!

陽介「あ痛っ!」

陽介「澪か!?何しやがんだよ!」

澪「ご、ごめん陽介!なんとなく…」

陽介「訳分かんねーぞ!(こ、声出てたか俺?)」

澪「だからごめんって!」



唯「澪ちゃんと陽介君、いつの間に仲良くなったんだろ?」

律「む…」

紬「(二人とも呼び捨てになってる…)」

梓「…ちょっと酔ったかも」

紬「大丈夫、梓ちゃん?中に入ろっか」

梓「そうします…」

唯「ムギちゃん…」

紬「唯ちゃん?どうかした?」

唯「貰い酔いした…うぷっ」

紬「大変!唯ちゃんも中に行きましょう!」

唯梓「「うー…」」



陽介「いきなり二名脱落か?だらしねーなーはは」

澪「脱落って、何と戦ってるんだお前は…」

律「はいはいお二人さん!お熱いとこすんませーん!」

澪「あ、熱いって…そんなんじゃないぞ!///」

陽介「お、やっぱりそう見えちゃう?」

澪「調子に乗るな!」

陽介「げんこつは勘弁!」

律「むむ…」

澪「全く…付き合ってられるか」

澪「私も中で休んでくる」すたすた

陽介「た、助かった…」

律「…」

律「…あのさ」

陽介「あんま、澪にちょっかい出すなってか?」

律「!」

陽介「安心しろ、そんなんじゃねーから」

律「まだ何も言ってないんだけど」

陽介「分かるっつーの」

陽介「澪とは幼馴染なんだろ?今までずっと一緒だったのに離れて行くのが気に入らない訳だ」

律「…」

陽介「…友達ってさ、すっげー良いもんだよな」

陽介「嬉しい時は一緒に喜んでさ、悲しいときは一緒に泣いてくれる」

陽介「…でもさ、常に一緒に居るのが友達じゃねーだろ」

陽介「…お前は澪を常に目の届くとこに置きたがってるように見える」

律「っ!あたしは!」

陽介「それは澪を信頼してないからだ、そんなん友達じゃない…ただの依存だ」

律「…」

律「だって…澪はあたしより綺麗で可愛くて…」

律「なんであたしなんかと一緒に居てくれるんだろって思うくらい良い子で…」

律「澪が居なくなったら…あたし何も残らないもん…」ぽろっ

陽介「…」

陽介「あーもう!この鈍感女!」

律「」びくっ

陽介「もっと澪を信頼してやれよ!お前ん中の澪はそんな奴なのかよ!」

陽介「お前が澪と過ごしたこれまでの時間はそんなに信用出来ねーかよ!」

律「…」

陽介「澪の気持ちにちゃんと気づいてやれよ!向き合ってやれよ!」

陽介「なんで俺が先に気づいてんだ馬鹿!」

陽介「お前が気づいてやれ馬鹿!」

律「ば、馬鹿…」

陽介「…心から互いが互いを信頼してやればさ」

陽介「それは『依存』から『大切』に変わる」

律「大切…」

陽介「自分と澪、二人に向き合って来いよ」

陽介「お前の気持ちを素直にぶつければ、澪はお前の望む答えをくれるさ」

陽介「俺が保証してやる」

陽介「なっ澪」

澪「…」

律「みお…」

陽介「おら、行ってこい!じゃないと俺が美味しいトコ持ってくぞ!」

律「…うん!」

律「ありがとう、陽介!」

澪「律!」たたっ

律「澪!」たたっ

ぎゅっ

澪「馬鹿律…!」

律「ごめん…ごめん澪…!」


陽介「…ずっと遠回りしてたんだ」

陽介「…その手、離すんじゃねーぞ」

陽介「へへっ」

陽介「…」

陽介「…おえっ!気持ち悪っ!大声出したせいで酔った…!」

陽介「」



屋久島

唯「着いたー!」

梓「もう大丈夫なんですか唯センパイ…」

唯「乗り物さえ降りちゃえば平気だよ~」

律「澪、そこ段差あるから」

澪「ん」

紬「(りっちゃんと澪ちゃん…手を繋いでる…私が居ない間に一体何が?)」



陽介「もう吐くもんねーのに…空っぽなのに…おえぇ」

陽介「ちっくしょう…うぷ」


紬「…とりあえず荷物を置きに行きましょうか」

紬「別荘はこっちよ~」

唯「ほーい」

澪「梓、私の背中に乗って」

梓「すみません澪センパイ…」

律「荷物はあたしが持つから」

陽介「あの~俺も助けて欲しいんだけど…」

一同「「「「男の子でしょ」」」」

陽介「…」

陽介「ちくしょう…良いことなんて一個も無い人生…!」

陽介「…」

陽介「アイツらもう見えなくなってんな…」

陽介「ひでー…ひでーよ…!」

陽介「俺ここで死ぬのかなぁ…」

陽介「調子こいて、おっとっと段ボール一箱も持ってくんじゃなかったな」

陽介「…」

陽介「ん?…誰かこっちに戻ってきた?」

陽介「あれは…」

陽介「ムギだ!」

陽介「ムギー!」

紬「やっぱり陽介君が心配で戻って来ちゃった」

陽介「女神だ…女神がココにいる!」

紬「それ重いでしょ?持ってあげる」

陽介「いやそれ、色々突っ込んでっから軽く20kgあ…」

紬「よっと」ふわっ ひょい

陽介「る…」

紬「早く行きましょ?みんな待ってるわ」にこっ

陽介「…マジで?」

すたすた

陽介「わりーなムギ、色々持たせちまって」

紬「ううん、なんてことないわ~」

陽介「おまけに合宿先の手配やらなにやら全部ムギに任せちまってさ」

陽介「あ、あとこれはいつか言おうと思ってたんだけど」

紬「?」

陽介「いつも美味しいお茶とかお菓子とかありがとな!いつもすげーウメーよ」

紬「良いのよ、私が好きでやってるんだから///」

紬「それに…これくらいでしか役に立てないし」

陽介「…」

陽介「それは違うと思うぜムギ」

紬「え?」

陽介「何も誰かの為に尽くすことだけが役立つってことじゃない」

陽介「そこに居てくれるだけで安心出来る人が居る」

陽介「そこに居てくれるだけで優しい気持ちになれる人が居る」

陽介「ムギはそんな力を持ってるんだよ」

紬「私が…?」

陽介「ああ」

陽介「みんなムギを必要としてる」

陽介「それってさ…信頼されてるからじゃねーの?」

陽介「そう自分を卑下する必要なんてないさ」

陽介「みんなはちゃんと『ムギ』を見てくれてる」



唯「ムギちゃーん!陽介くーん!」

律「早くしないと置いてくぞー!」

澪「おーい!二人ともー!」

梓「…セ、センパーイ」」


陽介「はは、なんやかんやで待っててくれたみてーだな」

陽介「…行こうぜ!」

紬「…うん」

紬「うん!」

たたたっ

陽介「ちょ!おっとっと!俺のおっとっとが段ボールから落ちてる!」

陽介「わー!おっとっとが波にさらわれてくー!」

紬「えっ!ごっ、ごめんなさ~い」

陽介「俺の潜水艦…」


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最終更新:2012年08月07日 23:20