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唯「――っていう事があってね、今日があずにゃんとの対決の日なんだよ」
律「そ、そうなのか」
ガチャ
梓「お疲れ様です」
律「あ、梓……この前はごめんな」
梓「いえ私こそすみませんでした。日本で言うコロッケとは違うという点では一理あるかもしれませんしね」
律「あ、へ、うん?」
澪「なんだか今日の梓……」
紬「自信に満ち溢れている表情ね」
唯「あずにゃん……CCCについて調べてきたようだね」
梓「はい! 私の考えを聞いてください!」
律「一体何が始まるんです?」
澪「さあ……」
梓「では行きます!」
梓「カニクリームコロッケ、いえ、そもそも日本のコロッケの起源には諸説あって定かにはなっていません」
梓「ですが大元はフランス料理のクロケットというコロッケに似た料理でそれが日本に伝わってコロッケになったという点は同じです」
梓「クロケットは具をパン粉で包んで油で揚げるのでほとんどコロッケの様なものですがクロケットの具はホワイトソースがベースになっている事が多いんです」
梓「ですから起源を辿ればコロッケの中身はクリームなんです。そういった意味ではクリームコロッケが邪道とは言えないでしょう」
律「あ、そ、そうなんだ……なんかごめん」
唯「でもそれはクロケットっていう料理の話でしょ?」
梓「ルーツを辿ればクリームコロッケの方が正道とも言えます」
唯「でも日本でコロッケと言ったらジャガイモコロッケだと思うな」
梓「確かにクロケットが日本に伝わってそれがコロッケという料理にアレンジされたわけですからコロッケのスタンダードはジャガイモであると言えるでしょう」
梓「ですが――」
唯「日本でコロッケが浸透した後で西洋風のコロッケが登場します。それがクリームコロッケ。つまりその時点でクリームコロッケは後発なんだよ。日本ではコロッケ=ジャガイモは揺るがないよ」
梓「くっ……!」
紬「唯ちゃんすごい……」
澪「その頑張りをもう少し他に回して欲しい……」
梓「だからってクリームコロッケが邪道というほどのものでは――」
唯「ストップ。あずにゃんがコロッケについてよく調べてきたのはわかったよ。でもね、それはカニクリームコロッケとは直結しないんじゃないかな」
唯「さらに言うとスタンダードコロッケのバリエーションなんだよね、クリームコロッケは。そのバリエーションのさらに亜種のカニクリームコロッケには明確な起源なんてないよね」
梓「うっ……でも、私はカニクリームコロッケは一つの独立した料理として考えています!」
唯「それと同じようにカニクリームコロッケを邪道って考える人もいるよね」
梓「そ、それは……」
唯「食べ物の感覚はどこまでいっても主観だと思うんだ。あずにゃんだってカリフォルニアロールがお寿司だって言われたら戸惑うでしょ?」
律「なあ澪カリフォルニアロールって何?」
澪「アメリカの寿司屋で定番のアボカドとキュウリとカニ足を巻いた寿司の事」
紬「そんなお寿司が……!?」
唯「何となくカニクリームコロッケは邪道。その人がそう思ってしまえばそれまでなんだよ」
梓「そんな……それじゃただの感情論じゃないですか……」
唯「そういうものなんじゃないかな」
梓「うっ……っ……」
唯「あずにゃんはすごいね。この短期間で私と同じくらいの知識を身につけてるよ」
梓「それでも邪道って言われて言い返せなかったら意味ないです……」
唯「そんな事ないよ」
梓「あの、唯先輩は見つけたんですよね? カニクリームコロッケは邪道じゃないって証明できるんですよね?」
唯「カニクリームコロッケは邪道」
唯「それでいいんじゃないかな」
梓「えっ……?」
唯「さっきあずにゃん言ってたよね。カニクリームコロッケは一つの独立した料理として考えているって」
唯「そう考える人もいれば邪道だって考える人もいる。私はそれでいいと思う」
梓「でもそれじゃ――」
唯「ただし! 私は何と言われようとカニクリームコロッケが好きだって叫び続けるよ」
唯「必ず批判する人はいるんだよ。真っ向から対立してもそれ自体が目的の、ただ荒らすだけが目的の人だっている」
唯「そうやってカニクリームコロッケを火種にして、カニクリームコロッケを踏み潰して楽しむような人がいるかもしれない」
唯「でもね、まわりがどんな人であろうとどんな困難があろうと私がカニクリームコロッケを好きな事は変わらない。カニクリームコロッケが潰されてクリームがはみ出しても私はそのクリームを舐めるよ。だって美味しいもん」
唯「カニクリームコロッケを潰したい人が何をしようとも私がカニクリームコロッケを嫌いになる事なんてないんだよ。ていうかあんなにおいしい物を嫌いになれるはずないからね!」
唯「好きも嫌いも邪道も受け入れて、その上で自分の信じる道を行く。私はそうする事に決めたんだ」
梓「唯先輩……」
唯「……なんて、自分でも何言ってるかわかんないや。てへ」
梓「いえ……私もそうありたいと思いました」
唯「そっかあ。なんか嬉しいかも」
梓「そうですよね。私はカニクリームコロッケの事が好き。それが一番大事な事ですもんね」
唯「そうそう! 同じカニコロなら食べなきゃ損だよ!」
梓「はいっ!」
律「あのー、もう終わりました?」
唯「終わったよ~」
梓「やっぱり唯先輩はすごいですね。これからも色々教えて下さい」
唯「私が教えられる事なんて何にもないよ。それよりも一緒に頑張っていこうよ、カニコラーとして!」
梓「先輩……」
澪「なんだかコロッケの話ばっかり聞いてたらお腹が空いてきたな……」
紬「そんな澪ちゃんや唯ちゃん達の為に今日のおやつはカニクリームコロッケにしてみました~」
唯梓「ふおおおーーーー!?」
律「さっすがムギ! じゅるり!」
澪「おいしそう……」
紬「今日に合わせて持ってこようって思ってたの」
唯「すごいよムギちゃん! なんていうかっ、うんっ、ほんとすごいよ!」
梓「はいっ!」
澪「おちつけ」
律「私も腹減っちゃったよー早く食べよーぜ!」
唯「そっそうだね!」
梓「そっそうですね!」
唯梓澪律紬「いただきまーす!」
ガチャ
「ちょっといいかしら」
澪「おお和。どうしたんだ?」
和「今度の部長会議の事なんだけど……あら、コロッケ?」
紬「カニクリームコロッケなの~。よかったら和ちゃんも一緒に――」
唯「だめだよっ!!!」
梓澪律紬「!?」
唯「和ちゃんがCCCを食べるのは……CCCを認めてからじゃなきゃダメだよっ!!」
和「またその話? それならもう――」
唯「ここで会ったが百年目だよ和ちゃん! 今日こそCCCを認めさせてあげる!!」
和「何よそのシーシーシーって」
唯「カニクリームコロッケの略だよっ! 最初のCは――」
和「ああ、Crab Cream Croquetteってことね」
唯「Caniの略――えっ!? ……そ、そう! そうとも読めるんだよ! 二つの読み方が出来るんだよ!」
律「ああ、唯が昔似たような事を言われたってのは」
澪「和だったのか……」
紬「なるほど強敵ね」
唯「あずにゃん!!」
梓「はっはい!?」
唯「さっきはあんなエラそうな事言っちゃったけど私もまだまだ未熟なんだ。だから身近な人にCCCを馬鹿にされたら黙っていられない」
唯「それに和ちゃんは私が今まで出会った人の中で一番手強いんだ」
唯「だから力を貸してあずにゃん! あずにゃんの力が必要なの!!」
梓「私が唯先輩の力に……?」
唯「うんっ! お願いあずにゃん!」
梓「……わかりました。こうなったら私もやってやるです!」
梓「どこまでお役に立てるかわかりませんが頑張ります!」
唯「あずにゃんがいれば心強いよ! 同じカニコラーとしてこれからよろしくね!」
梓「はいっ!」
和「はぁ……澪、ちょっと悪いんだけど唯の事を……澪?」
澪「もしゃもしゃもしゃ……ほんとにうまいな!」
和「律? ムギ?」
律「っかーうめえ!」
紬「んん~クリーミィ♪」
和「……」
唯「和ちゃんにカニクリームコロッケの良さを一から教え直してあげるよ!」
梓「やってやるですっ!」
和「えぇ、ちょっ……」
梓(カニクリームコロッケを分かち合える人が出来た)
梓(こんなに嬉しいことないよ)
梓(それでも、まだまだこれから)
梓(私達は進み始めたばかりなんだ)
梓(この険しく曲がりくねった”ジャ”の道を……)
END
最終更新:2012年08月10日 10:43