エリ「伊勢神宮の正式名称は『神宮』って言ってね、内宮、外宮を中心に125社の宮舎の総称なんだよ」

唯「125! すごいねえ・・・」

憂「とても、一日じゃ見てまわれないですね」

エリ「うん。伊勢神宮は古くから日本人の心のふるさとと言われて、各地から人が集まってくるんだ」

エリ「落語のネタでも『日本人なら死ぬまでに一度は行きたいお伊勢さん』ってよく使われるね」

唯「へえ~。今のディズニーランドみたいな存在だったのかな?」

エリ「あははっ。でも、確かにそうかもしれないね」

エリ「江戸時代から、今で言うツアコンみたいな人たちが全国で『お伊勢参り』を企画して、人を集めてたって」

憂「単なる信仰の対象っていう訳じゃなかったんですね」

エリ「そう!この歴史のある神宮杉の森に包まれた厳かな雰囲気の参道は、それだけで日本一のパワースポットだし」

エリ「お伊勢さん周辺の約800mの町並みは、キレイな石畳やノスタルジックな建物が並んでるんだよ」

澪「昔から変わらない町並みって、不思議だよね。知らないはずの昔を懐かしく感じられる気がするよ」

唯「この辺りだとおかげ横町だよね、私たちもあとで行くよ! 美味しいものがいっぱいあるんだよね~」

澪「おいおい唯、今日は参拝に来てるんだ。目的は食べ物じゃないぞ?」

エリ「あはは、でも、美味しいものもたくさんあるよ」

エリ「昔は、何日もかけて一生に一度のお伊勢参りを楽しむ人も多かったみたいだよ」

憂「お伊勢参りは庶民の夢、って言われてたんですよね」

エリ「そういうこと!『おかげ』って言うのはね、伊勢神宮への参詣そのものを指してるの」

唯「なんでお参りが『おかげ』なの?」

エリ「昔は住民の移動には厳しい制限があって、今みたいに自由に旅行は出来なかったの」

エリ「ましてや何十日もかかる旅行だもの、莫大なお金も必要だったから」

エリ「地区の人たちがお金を出し合ったり、旅先の人のお世話になって何とかやりくりしてた」

憂「だから、『おかげ』なんですね」

唯「へえぇ。自由に好きなところへ行けるのって、贅沢なことだったんだね」

エリ「うん。だから、支えてくれる人や、物事、神様への感謝が、『おかげさま』の意味なんだろうね」

---

エリ「さて、ここからは撮影禁止だよ」

澪「やっと参拝できるな」

憂「エリさん、参拝の正しい作法ってあるんですか?」

エリ「うーん、そうだね」

エリ「まず神前に進んで、賽銭を賽銭箱へ入れる」

唯「5の付く金額を入れるんだよね? 5円、50円、500円とか」

エリ「んー、特に決まってないから、いくらでもかまわないよ」

澪「唯、5が付くお金を入れるのは、ご縁がありますように、っていう語呂合わせなんだよ」

唯「そうなんだ。じゃあ、お金が多いほどいいのかな?」

エリ「神様はそんなケチじゃないよ。金額の多寡で差別したりしないよ」

唯「そっかぁ。それなら安心だ」

エリ「賽銭を入れたら、二拝二拍手一礼だよ」

唯「何回拍手するのか、いつも悩んでたよ」

エリ「神社での拝礼は二拝二拍手一礼だけど、お寺では合掌するだけでいいからね」

エリ「もうひとつ、大事なことがあるよ。神様への祈りは感謝の気持ちだよ」

憂「感謝の気持ち・・・」

唯「お願い事じゃないの?」

エリ「うん。神様は生まれた日からずっとその人を見てるからね」

エリ「だから、目の前の願いよりも、まずは感謝の気持ちだよ」

澪「そうだな。感謝の気持ちを忘れて、願い事もなにもないよな」

唯「むーん、深いねエリちゃん」

エリ「ははっ、難しく考えないでいいよ。さ、行っといで」

憂「ありがとうございました、瀧さん」



唯「澪ちゃん、憂、行くよ~」

憂「うん、この先が本殿だね」

澪「ようやく、お参り、って感じになってきたな」シャリシャリ

憂「玉砂利を踏むと、厳かな気持ちになりますね」シャリシャリ

唯「・・・」ブツブツ

憂「お姉ちゃん?」

澪「唯、どうかした?」

澪「唯、どうかした?」

唯「・・・なにをお願いするか、忘れないようにね」ブツブツ

憂「ふふ、その前にまずは感謝の気持ち、だよ?」

唯「おお!? それを忘れてたよ~」

澪「おいおい・・・さっき瀧さんに教わったばかりだろ」

唯「えへへ~、感謝はいつもしてるんだよ」

澪「あ、私たちの番だぞ」

唯憂澪(二拝・・・)

唯憂澪(一拍手・・・)パン!

唯憂澪(一礼・・・)


唯「(神様、みんなと出会わせてくれてありがとう!)」

唯「(みんなが居てくれたから、毎日がとても楽しいよ)」

唯「(こんな毎日が、ずっと続くといいなぁ)」


憂「(お姉ちゃんと、軽音部の皆さんの大学合格・・・)」

憂「(願いを叶えていただいて、ありがとうございます)」

憂「(これからも、みんなが笑顔でいられますように)」


澪「(パパ、ママ、軽音部のみんな、和、憂ちゃん・・・。みんなありがとう)」

澪「(大人になってもこの気持ちはぜったいに忘れない)」

澪「(将来のことはまだわからないけど、みんなと一緒なら、きっと・・・)」


澪「ふふっ」

憂「?」

唯「澪ちゃんどうしたのー?」

澪「・・・いろいろと願い事考えてたんだけど、結局感謝ばかりになっちゃったよ」

唯「おぉ! 実は私もそうだよ!」

憂「感謝することが、たくさんあるから」

唯「そうなんだよねぇ」

澪「憂ちゃんも、願い事しなかったの?」

憂「いえ、私はちゃんと願い事しましたよ」

唯「え~、ずるい、憂ばっか!」

憂「ん~、お姉ちゃんも、願い事はしたんじゃないかな?」

唯「んん?」

唯「うーん・・・そうかも?」

澪「そうだな・・・私も」

澪「感謝の気持ちと一番の願いは、きっとつながってるんだよな」

憂「あっ・・・!」

唯「憂、どうかした?」

憂「見て、ミニゆいちゃんたちが・・・」

ミニゆいうい「・・・」ポワァァアアア

澪「羽が、金色に光ってる!」

唯「うわぁ・・・きれい!」

澪「そっか。この子たちは、唯たちの幸せを感じてるんだ」

憂「ふふ、幸せが伝わったんだね」

唯「・・・ほんとに、妖精さんなんだねぇ、この子たち」


―――

唯「エリちゃん、ただいまぁ!」

澪「待たせちゃって悪いね」

ミニゆいうい「」ポワポワ

エリ「おかえり。おぉ、ミニゆいういちゃんが光ってる・・・!」

憂「さっき、参拝の後で光り始めたんです」

エリ「へえ・・・。ちゃんとお参りできたんだね」

憂「はい!」

澪「うん。しっかり感謝の気持ちを伝えたよ」

唯「私もだよー。お願いは何度もしてるのに、初めてちゃんとお礼言ったよ」

エリ「そう!神様だって、感謝もされずに願い事ばかり聞かされたら疲れちゃうよ」

唯「そっかぁ・・・」

エリ「だから、神様にお礼の気持ちを伝えることは、すごく大切だよ」

唯「お礼に気を取られて、願い事は殆どできなかったけどねー」

エリ「だけど、いちばん大切なお願いはできた、でしょ?」

唯「うん!(ずっとこんな毎日が続きますように、ってお願いしたもんね!)」

エリ「よかったね、みんな」

澪「そうだな。瀧さん、ありがとう」

エリ「いいって。でも、瀧さんじゃなくて、エリって呼んでよ。私も澪って呼ぶからさ」

澪「エ、エリ・・・」//

憂「わ、私も。ありがとうございました、エリさん」

エリ「あらためてよろしくね、澪、憂ちゃん!」

ミニゆい「ヨロシクネー」チュ

ミニうい「オネガイシマス!」チュ

エリ「ほわわ!?」//

唯「おお、ミニゆいういちゃんが積極的!」

エリ「そ、それじゃ私は時間だから。後はみんなで楽しんで」

唯「ありがとねー、エリちゃん」

澪「ほんとにありがと・・・エリ」

憂「いろいろと勉強になりました!」

エリ「こっちこそ、楽しかったよ!またね、唯、澪、憂ちゃん」

ミニゆいうい「マタネー!」フリフリ

エリ「ふふ、ミニゆいちゃんたちも、またね♪」フリフリ

憂「かっこいい人だったね、エリさん」

唯「ふふーん。エリちゃん高校の頃は、バレー部だったのです」

澪「なぜ唯がいばってるんだ?」

憂「エリさんのおかげで、きちんとお参りできたね、お姉ちゃん」

澪「ほんと。お参りの作法もわかったし」

唯「エリちゃんのおかげ・・・ん? おかげと言えば」

澪「おかげ横丁?」

唯「それだよ澪ちゃん! この後はいよいよおかげ横丁!」

憂「お姉ちゃん、昨日から楽しみにしてたもんね」

澪「おはらい町も見たいな」

澪「名物がたくさんあるからなぁ。なにから食べようかな~、迷っちゃうよ」

唯「なに言ってるの~澪ちゃん。ぜんぶ食べるよ!」

澪「なっ!? ぜんぶなんて、そんなに食べられる訳ないだろ」

澪「それに・・・フトッチャウシ」ボソッ

唯「だいじょうぶだよ澪ちゃん、みんなで分けて食べるから」

澪「え?」

唯「うちではいつも、憂と半分こしてるからね!」

憂「お、お姉ちゃん。恥ずかしいよ」

澪「そ、そっか。でも私まで混ぜてもらうのは悪いな」

憂「私はかまいませんよ、澪さん」

唯「そだよ、遠慮はいらないよ~」

澪「うーん。ちょっとお行儀悪いけど、それならいろいろ食べれていいかも」

唯「わーい! まずはなに食べようかな・・・あ、あそこ!」タタッ

澪「相変わらずこういうときは素早いな・・・って松坂牛?」

唯「見てみて、このステーキ丼、顔より大きいよ!」

澪「肉厚だな・・・」ゴクリ

憂「お姉ちゃん、それ食べたら、ほかのもの食べられなくなっちゃうよ?」

唯「う・・・じゃあ、ほら、あれあれ!」

澪「ステーキ串?」

憂「これなら、一口ずつ食べられるね」

唯「おじさん、これひとつください!」

ハムハム

唯「おいひ~! 熱々でジューシーだよぉ。はい、澪ちゃん」

澪「ほんとだ。肉厚なのに柔らかい! 憂ちゃんも、ほら」

憂「ありがとうございます。ふわ・・・おいしい!」

ミニゆい「」ジィ

憂「ミニゆいちゃんも食べる? ちょっと待ってね」

憂「・・・このくらいの大きさなら食べられるかな。はい♪」

パクッ

ミニゆい「ンマーーイ!」モキュモキュ

ミニうい「オネエチャン、ソースツイテルヨ」フキフキ




唯「えぇと、次はぁ・・・あそこ!」

澪「黒蜜団子?」

憂「お団子に黒蜜、すごく甘そう」

澪「うぅ、カロリー大丈夫かな」

憂「黒蜜たっぷりですね」

ミニゆい「アマイミツ!」フラフラ

ミニうい「オネエチャーン!」

澪「妖精も、甘いものには目がないんだな」

憂「お姉ちゃんの妖精ですから・・・」

澪「・・・だね」

唯「そして次は、有名な豚捨コロッケ♪」

澪「ここは有名なお店なんだよな。いつも行列ができてるらしいぞ」

憂「コロッケのほかに、ミンチカツも人気みたいですよ」

澪「憂ちゃん調べてきたの? さすがしっかりしてるなぁ」

憂「わ、私も食べたかったから・・・」

澪「で、どっちにするんだ?」

唯「両方食べてみればいいんだよ!」

澪「だと思った!」

唯「あむっ・・・うーん、衣がサクサクだよ。アチッ」

憂「お姉ちゃん、揚げ立てだから、気をつけて!」

唯「はふはふう・・・舌が溶け出す美味しさだよ」

澪「し、舌がとけだす!?」ガクガク

唯「澪ちゃん、ほんとに溶けた訳じゃないから平気だよ、ほら?」アーン

憂「でも、気をつけてね。火傷しちゃったら大変だよ」

唯「はーい」

憂「フウフウ・・・これくらいなら、ミニゆいちゃんたちも食べられるかな?」

ミニゆい「アーン」

憂「ふふっ。はい、どうぞ♪」

ミニゆい「ハフハフ・・・ウンマーイ!」

唯「えへへ、ミニういちゃーん」

ミニうい「・・・」テレテレ

澪「照れてる・・・か、可愛いな」

唯「ほら! アーンだよ、アーン」

ミニうい「・・・アーン」

唯「もっと大きくお口開けて」

ミニうい「アーン」//

唯「はい、どーぞ!」ヒョイ

ミニうい「!」ング

憂「お、お姉ちゃん大きすぎだよ」

澪「お、お茶。ほら、ミニういちゃん、お茶飲んで」

ミニうい「ゴクゴク・・・ケホッ」

唯「お、おぉ・・・ごめんね、ミニういちゃん」

澪「気をつけなきゃ駄目だよ、唯」

澪「美味しかったけど、ちょっと口の中が油っぽくなっちゃったな」

憂「はい、なにかさっぱりしたものがほしいですね」

唯「あ、あの人見て! ほら」

澪「え? あれってきゅうり?」

憂「あ、あのお店ですね。・・・きゅうりスティック?」

唯「これくださーい!」バシュ

澪「あ、唯! はやい・・・」

憂「お姉ちゃんって、やっぱりすごい!」ホワホワ

澪「感心するところ!?・・・いや、まあその・・・すごいけど」

唯「んー、さっぱりしておいしー」モキュモキュ

憂「キュウリの一本漬けだね。確かに、こういうところではいいかも」

澪「うん、浸かり具合もちょうどいいよ」ポリポリ

憂「はい、どうぞ♪」

ミニゆい「♪」ポリポリ

唯「ふふっ・・・」

澪「ゆ、唯っ・・・私も、食べさせたい」

唯「あ、そっか。いいよ澪ちゃん」

澪「ありがと・・・これくらいかな」ポキ

澪「はい・・・ミニういちゃん」

ミニうい「・・・ハム」

唯「おぉ、これは2人とも、ういういしいですな」

憂「ふふ、照れちゃってるね。可愛い!」

澪「う、憂ちゃんまで!?」

憂「あ、ご、ごめんなさい、澪さん。可愛くてつい」

澪「いや・・・その、ありがと」//

唯「おやおやぁ? おふたりさん、妬けますなぁ」

ミニゆい「ヤケマスナァ」

澪「うん、おいしかった」

憂「お口もさっぱりしたね」

唯「これでまだまだ食べられるよ!」

澪「私はもう、これくらいで・・・」

唯「えぇ~、澪ちゃん食べないの?」

ミニゆい「タベナイノ?」

澪「・・・もうちょっとだけなら」

唯「おぉ、それでこそ澪ちゃんだよ!」

澪「どういう意味だ」





最終更新:2012年08月11日 22:57