唯「え…?え…?どういうこと…?」
紬「父の仕事の都合でね…フィンランドに引っ越すの」
澪「なんだよ…それ!高校生活も残り僅かだっていうのに…」
律「ムギががいなくなっちゃうなんて…」
紬「ごめんね…私もみんなと一緒に…卒業したかったけど…」
唯「そんな…」
梓「あの…いつなんですか?」
律「いつ?」
梓「ムギ先輩の引っ越しの日…です…」
紬「2ヶ月後よ」
澪「そんな…すぐじゃないか!」
紬「そうなの…急に決まっちゃって」
唯「どっ、どれくらい…?」
紬「どれくらいって?」
唯「どれくらい向こうにいるの?いつ帰ってくる?」
澪「唯…」
紬「はっきりとは分からないの…少なくとも2、3年は向こうにいるわ」
梓「そんなに…」
唯「やだ…っ」
紬「唯ちゃん…」
唯「ムギちゃんに何年間も会えないなんて…やだよ…!」
律「唯…私だってやだよ…!」
澪「私だって同じだ…でも、もう決まったことなんだろ?」
紬「ええ…」
梓「私も嫌で…寂しいですけど…残りの2ヶ月でめいっぱい思い出作りましょうよ!」
紬「梓ちゃん…ありがとう」
澪「そうだな…!」
律「よーし!ムギのやりたいことをたっくさんやるぞー!」
澪「な?唯…何も一生会えなくなるわけじゃないんだ」
梓「寂しいですけど…ムギ先輩を笑顔で送りましょうよ!」
唯「う…うん…でも…寂しいものは寂しいよ…」
紬「唯ちゃん…そうだ、そろそろお茶にしない?今日はチーズケーキを持ってきてるのよ」
律「やったー!お茶お茶おっちゃー!」
梓「唯先輩も座りましょうよ!」
澪「お茶が終わったら練習だからな!」
唯「うん…お茶だー!」
――
憂「おかえりお姉ちゃん!…なんか元気ないね…?」
唯「ムギちゃんが…フィンランドに引っ越しちゃうんだって…」
憂「えっ!」
唯「だ、だから今日ね!お茶飲みながら色々計画立てたんだー!」
唯「みんなでお泊り会することにしたし、遊園地も温泉も行くんだよ!」
憂「そうなんだー。お泊りならうちでしなよ、ご飯の用意とか手伝うよ!」
唯「ありがとう憂~!」スリスリ
唯「それとねみんなでムギちゃんのための曲を作ることにしたし、」
唯「みんなで…たくさんお茶して…」
憂「お姉ちゃん…寂しいなら無理しないで…」
唯「…大丈夫だよー!えへへ、お泊り楽しみだなー!」
憂「お姉ちゃん…」
――
唯「総合学習?」
律「ああ…そういや去年もあったなあ~」
さわ子「はい私語はダメよ~。昨年の総合学習は『職業』をテーマに各個人でレポートを提出してもらったけど、」
さわ子「今年は2人組を組んで『自然』をテーマにしたプレゼンをしてもらいます」
さわ子「組む相手、詳しいテーマは各自で決めてくださいね。発表はこの教室の壇上で1組ずつ行います」
澪「おい、この発表の日…」
律「ムギの最後の日だ」
紬「ホントだわ~。がんばらなくっちゃ!」
唯「ムギちゃん…そうだね!がんばろー!」
澪「どういう組み合わせにしようか。せっかくなら4人でやりたかったな」
律「よし!ここは定番の…」
唯「グーとパーだね律ちゃん!」
紬「??チョキはいらないの?」
唯「グーとパーのどっちかを出して同じのを出した人と組むんだよ~」
紬「へええ。じゃんけんって便利なのね~」
律「じゃあ行くぞ!せーの!」
澪「わかれなかったな…もう一回!」
律「テーマ何にしようか?」
澪「そうだなあ…」
唯「ムギちゃん!がんばろうね!」
紬「ええ!テーマは何にしましょうか~」
唯「うーん…『自然』かあ…なんか浮かばないね。食べられるお花とかかな~」
紬「うふふ、唯ちゃんらしくていいわね。あっ唯ちゃん、私もひとつ思いついたわ」
唯「なになにー?」
紬「『自然』っていう大きなテーマに沿うのか分からないけど…」
紬「『夜空』について調べてみたいわ」
唯「夜空かあ…星とか月とか?楽しそうだね!」
紬「ロックフェスに行ったとき、すごく星が綺麗だったじゃない?忘れられなくて」
唯「そっかあ。じゃあ、テーマはそれにしようよ!」
紬「いいの?唯ちゃんのやりたいのでも」
唯「私もそれがいいよ!星、綺麗だもんね!」
紬「ありがとう!まず何から調べましょうか?」
唯「そうだなあ…星…月…あっ」
紬「何か思いついた?唯ちゃん」
唯「今度の休み、プラネタリウムに行ってみようよ!」
紬「プラネタリウムかあ、すてきね!私行ったことないの」
唯「じゃあ決まりだねえー。午前中に行って、それからテーマについて話そうよ」
紬「そうね。すっごく楽しみだわ~」
――プラネタリウム
唯「小さい子がいっぱいだね」
紬「団体さんかしらね?土曜なのにね~」
紬「唯ちゃん、あの真ん中の丸いのは何?」
唯「あれでこのドームみたいな天井に星を映すんだよ~」
ブ―――
唯「あっ始まるよ!」
紬「映画みたいね!」
職員「西の空がだんだん暗くなって…夜になりました」
職員「東の空には、見たことのあるお友達も多いんじゃないかな?オリオン座が現れました」
職員「このオリオンというのは、ギリシャ神話に登場する狩人の名前なんです」
職員「そして西の空に見えるこの星座は…はくちょう座でーす」
職員「この星座は、ギリシャ神話のゼウスという神様が白鳥に変身した姿だと言われています」
唯「面白かったねえ~」
紬「ええ!星座のひとつひとつに物語があるなんて知らなかったわ」
唯「テーマなんだけどさ、それにしようよ!」
紬「星座にまつわる神話?私もそう思ってたの!」
唯「じゃあ決まりだね」
紬「発表は2ヶ月後だから、冬の星座をメインにしましょうよ」
唯「そうだね!冬の星座って何があるんだろ~」
紬「まずはそこから調べなきゃね」
――図書館
唯「プラネタリウムで見た秋の星座と似てるね」
紬「でも位置が違うわ」
唯「これ見て見て!かみのけ座だって!」
紬「なにそれ!ふふ」
唯「全然髪の毛っぽくないのにね!」
紬「それだったらこのかに座だって全然かにっぽくないわ」
唯「ホントだ!星座って面白いねえ」
紬「調べると色々出てくるのね。今日だけじゃ時間が足りなそう」
唯「休みの度に来て調べようよ!2ヶ月もあるし!」
紬「そうね!」
――次の休日
唯「ゼウスって神様、本当に女の人が好きだったんだね…」
紬「そうね…でも、少し羨ましいわ」
唯「えー!それってどういう意味?」
紬「だって何のしがらみにも囚われず、好きな相手に好きって言えるのよ?羨ましいじゃない」
唯「えっ……ムギちゃん好きな人いるの…?」
紬「そういう…わけじゃ…例えばの話よ~」
唯「そっかあ…」
唯「…よかった」ボソッ
紬「え?何か言った?」
唯「ううん!何も!」
唯「ねえムギちゃん見て、このおおぐま座とこぐま座の神話」
紬「……すごく悲しい話ね…」
唯「これ、発表のメインにしようよ!」
紬「そうね!」
唯「あとは何の星座がいいかな~…」
紬「そうね~…ねえ唯ちゃん、今日このあと星を見に行かない?」
唯「うん!私も誘おうと思って小学校のとき使ってた星座盤持ってきたんだよ!」
紬「見せて見せて!」
唯「あれがオリオン座かな?」
紬「オリオン座は見つけやすいわね~」
唯「じゃああれがおうし座かなー」
紬「それなら…あの星の集まりがプレアデス星団かしら」
唯「こうやって見てみると面白いねえ」
紬「ホントね!」
唯「…フィンランドの秋の空もこんなふうに綺麗なのかな?」
紬「…うん、きっと綺麗ね」
唯「………」
紬「ねえ唯ちゃん、さっき図書館で読んだんだけどね、」
紬「スピカって星、知ってる?」
唯「スピカ…?」
紬「おとめ座の星のひとつ。春の大三角形の一部よ」
唯「へえー。でも、どうして?」
紬「スピカはね、同じ春の大三角形のひとつのアルクトゥールスとペアで夫婦星って呼ばれてるらしいの」
唯「そうなんだ…でも位置が遠いね。少しかわいそう…」
紬「うん…でもね!アルクトゥールスは少しずつ、少しずつスピカの方に近づいていってるんですって!」
唯「星が動いてるってこと…?」
紬「うん!素敵だと思わない?」
唯「本当に素敵だねえ!ずっとずっと未来の夜空では、スピカとアルクトゥールスが隣り合って光ってるのかな」
紬「星だって時間をかけてでも距離を超えようとしてるんですもの、私も絶対に帰ってきてみんなと音楽をするわ」
唯「…ずっと待ってるからね」
紬「ありがとう!じゃあ…帰ろうか」
唯「うんっ。スピカの話さ、発表に入れるんだよね?」
紬「ううん…この話は私たちふたりだけのものにしておかない?」
唯「えっ…」
紬「ダメかな…」
唯「…ううん!私も賛成だよ!」
紬「ふふ。発表が楽しみね!」
――1ヶ月半後、発表の前日夜
唯「ふい~。やっと発表用の資料作成終わったよー…」
紬「こっちも原稿書き終わったわ~」
唯「これで明日はバッチリだね!」
紬「ええ!」
唯「そうだ、今日…本当に泊まっちゃっていいの?」
紬「いいに決まってるじゃない!この間みんなでやったお泊り会を思い出すわね」
唯「遊園地も楽しかったね~」
紬「温泉もアイススケートも!」
唯「映画も…みんなでやった最後のライブも…」
唯「わたし…やっぱりやだよ…」
唯「ムギちゃんがいなくなるなんて…」ジワッ
紬「唯ちゃん…」
唯「一緒に高校卒業したかったし…もっとたくさん音楽もやりたかったよ…ぐすっ」ボロボロ
紬「…ねえ唯ちゃん、」
唯「……?」
紬「星を見に行かない?」
紬「近くの坂を上ると高台があるの。家族の自転車があるからそれに乗って行きましょうよ!」
唯「…うん……ぐすっ」
紬「早く早く!」
唯「この坂結構キツいー!」
紬「もうすぐよ唯ちゃん!がんばろー!」
唯「おー!」
紬「この急な坂を超えたら…」
唯「わあ…!」
唯「すごい!こんなに眺めがいい場所があったんだねー!」
紬「私も最近見つけたのよ。なんだか空が近い気がしない?」
唯「うん!星が明るく見えるよ!」
紬「唯ちゃんほら、あそこにオリオン座!」
唯「ホントだ!ねえムギちゃん、あの星とあの星をこういう風に繋いだら…」
紬「…ギー太!」
唯「私のオリジナル星座だよっ!」
紬「じゃあ私は…あの星をからあの星までをこうやって…」
唯「ティーポットだー!」
紬「あたり♪」
唯「ムギちゃんが行っちゃっても…毎日夜空を見上げてティーポット座を探すね」
紬「私も…毎日ギー太座を探すわ」
唯「ねえムギちゃん…手、繋いでもいいかな?」
紬「いいに決まってるじゃない!」ギュッ
唯「えへへ…なんだか照れるねえ」ギュッ
紬「何年先になるのか分からないけど…こっちに帰ってくるのが楽しみでたまらないわ」
唯「私もだよ!ムギちゃん、帰ってきたら最初に何をしたい?」
紬「え…?」
唯「そのときは私が一緒にいるんだ!もう決めてるんだよ」
紬「ふふ。ありがとう、唯ちゃん」
唯「えへへっ」
紬「そうね…帰ってきたら…」
紬「唯ちゃんと一緒に、夜空を見たいわ」
唯「……うん!絶対、一緒に夜空を見にここへ来ようよ!」
紬「約束よ!」
唯「うん、約束!」
唯「あれ見て、ムギちゃん」
紬「あ…今まで月にかかってた雲は…?」
唯「風で流れてったみたい。ねえムギちゃん、月が綺麗だねえ」
紬「……そうね………私、死んでもいいわ」
唯「え…どういうこと?」
唯「そんな…死ぬなんて言わないでよ…!寂しいよ…」
紬「ふふ。本当に死んだりしないわ。でも…」
唯「でも?」
紬「今私が言った言葉、ずっと覚えていてね?」
唯「死んでもいい、って言葉?」
紬「うん!次に会うときまでの約束よ!」
唯「わかった…絶対忘れないよ!」
――2年後
律「ふえー!疲れたー!」
澪「まだ講義が1コマ残ってるんだぞ!しっかりしないと!」
唯「大変だねえー。私は今日は終わりだよ」
律「ずるいぞー唯ー!」
唯「へっへーん♪」
澪「こら律!そろそろ行くぞ!じゃあ唯、気をつけて帰るんだぞ」
唯「了解であります!」
律「じゃーなー!また明日!」
唯「じゃーねー!」
唯「…日が落ちるのが早くなったな~。今日も星が綺麗!」
――唯ちゃん、
唯「……えっ…?」クル
紬「――月が綺麗ね、唯ちゃん」
唯「あ…わ、私……死んでもいいよ!」
紬「ふふ。ねえ唯ちゃん、」
「――夜空を見に行かない?」
おわり
読んでくださってありがとうございました
最後少し分かりにくくなってしまってすみません
気が向いたらこの総合学習話の律澪サイドも書きたいと思ってるので見かけたらぜひ読んでください
それでは
最終更新:2012年08月26日 07:19