>通学路
唯(強引にムギちゃんに押し切られて家に帰ることになってしまった)

唯(ムギちゃんはとってもにこやか)

唯(今なら……)

唯「ねぇ、ムギちゃん」

紬「なぁに?」

唯「手、繋ごう」

紬「……」

唯「いや?」

紬「どうして、手を繋ぎたいの?」

唯「ムギちゃんと手を繋いでると、優しい気持ちになれるんだ」

紬「優しい気持ち?」

唯「そう。暖かくて、ふんわりした気持ち」

紬「でも今は夏だよ」

唯「そんなの関係ないよ」ガシッ

紬「あっ……」

唯(無理やり手をとっちゃった……)

紬「……」ギュ

唯(握り返してくれた!)

紬「……行きましょ」

唯「うんっ!」

紬「……」タッ


紬「……」タッ

唯「……」タッ

紬「……」タッ

唯「……」タッ

紬「……ねぇ、唯ちゃん」

唯「なぁにー?」

紬「私の手、熱くない?」

唯「暖かいよー」

紬「私、手に汗、かいてない?」

唯「うーん。ほんのちょっとだけ湿っぽいかな」

紬「……っ」

唯「でも暖かくて柔らかくて優しい手だよー」

紬「……」

唯「ねぇ、ムギちゃん」

紬「なぁに?」

唯「月がきれいですね」

紬「……月なんて出てないよ」

唯「ぷっ、あはははははははは」

紬「ゆ、唯ちゃん?」

唯「あはははははははははははは」

紬「大変!! 唯ちゃんが壊れちゃった!」

唯「ごめんごめん。ちょっとおかしくてさ」

紬「えっと……なにが?」

唯「秘密」

紬「えっ」

唯「秘密なんだ」

紬「そう」


唯(ムギちゃんは『月が綺麗ですね』の意味を知らなかったんだね)

唯(私が一人で空回りしてただけなんだ)

唯(馬鹿馬鹿しくて笑っちゃったよ)

唯(……)

唯(はぁ……)


___
紬「着いたね」

唯(もうお別れかぁ)

紬「それじゃあバイバイ」

唯「うん。また明日--」

ガラッ
憂「あっ、お姉ちゃん帰ってきたんだ。それに紬さん」

紬「憂ちゃん、こんばんは」

憂「こんばんは。紬さん」

紬「じゃあ私は帰るね」

憂「あのっ」

唯「うい?」

紬「どうかしたの?」

憂「昨日はお姉ちゃんがとってもお世話になってみたいで、ありがとうございました」

紬「いいの。私もとっても楽しかったから」

憂「それで、よかったら今晩は家で夕飯食べていきませんか? あの……都合が良かったらでいいんですが」

紬「……いいの? 迷惑じゃないかしら」

唯「憂もこう言ってるんだしさー、食べていきなよ」

憂「はいっ、全然迷惑じゃないです」

紬「それじゃあお邪魔しちゃおうかしら」


_____
____ 
___
__
>帰宅

唯(ムギちゃんと憂が一緒に料理を作って)

唯(一緒に御飯を食べて)

唯(しばらくお話して)

唯(今日は私がムギちゃんを送って行く事になりました)

唯(なんだかよくわからないけど、さっきからムギちゃんがすっごいニコニコです)

唯(放課後と比べ物にならないぐらい……)

唯(どうしたんだろう……)


紬「ねぇ、唯ちゃん」

唯「なぁに?」

紬「月がきれいですね」


唯「……」

紬「……」

唯「……ねぇ、ムギちゃん」

紬「なぁに?」

唯「その言葉、勘違いされるからやめたほうがいいよ」

紬「勘違い?」

唯「『月がきれいですね』には別の意味があるんだよ」

紬「そうなんだね」

唯「えっ」

紬「唯ちゃん、空を見て」

唯「月が……出てない」


唯(えっ、どういうこと?)

唯(月は出てないのに、月はきれいですねって言ったムギちゃん

唯(当のムギちゃんがいたずらっぽい笑みを浮かべてる……)


紬「ごめんね、唯ちゃん。さっき読んじゃったの」

唯「えっと、何を?」

紬「クロスワードパズル」

唯「へっ」

紬「よく考えてみれば、あの言葉から唯ちゃんの調子がおかしくなったんだよね。勘違いさせてごめん」

唯「えっと……」

紬「でも、勘違いしてくれていいの。だって、月がとっても綺麗に見たのは唯ちゃんと一緒だったからだもの」

唯「……ムギちゃん」

紬「コホン。ちゃんと言葉にするね」

唯「……」ゴクリ

紬「あい・らぶ・ゆー」

唯「……プッ」

紬「唯ちゃん?」

唯「プッ、アハハハハハハハハハハ」

紬「唯ちゃん、ひどい」

唯「だって、プッ、アハハハ、だめっ、笑いがとまらない」

紬「もうっ、唯ちゃんなんて知らないっ!」

唯「プッ……ゴホッゴホッ、ごめんごめん」

紬「ぷんす」

唯「ねぇ、ムギちゃん」

紬「……」

唯「手、繋ご」

紬「……うん」

唯「ムギちゃんの手、暖かい」

紬「唯ちゃんの手、ちょっと湿っぽいね」

唯「え”っ、放して」

紬「だーめっ」

唯「ムギちゃんの意地悪」

紬「ふっふっふっ、仕返しよー」

唯「まぁいっか」

紬「あら、諦めたの?」

唯「でも、ちょっとだけ放してくれない? 握り直したいから」

紬「はい」

唯「そしてこうする」

紬「これは?」

唯「恋人繋ぎって言うんだ」

紬「こいびとつなぎ……」

唯「ねぇ、ムギちゃん。どんな感じがする?」

紬「うん。とってもしっかり繋がってる感じ。きっと月がとっても綺麗に見えるわ」

唯「出てないのが惜しいね」

紬「機会はいくらでもあるわよ」

唯「うんっ!」

紬「こうやって繋がったまま、いろんなものを見てみたいわー」

唯「手を繋いで、いろんなところへ行こうね」

紬「うんっ!」

唯「手始めに、明日は手を繋いで登校しよっか」

紬「ねぇ、唯ちゃん」

唯「なぁに?」

紬「わたし、死んでもいいわわ」

唯「死んだら一緒に学校に行けないよ」

おしまいっ!



最終更新:2012年09月02日 22:27