紬「唯ちゃん。お口の周りにクリームがついてるわ」

唯「ほんと?」

紬「うん。今拭いてあげるから」フキフキ

唯「取れた?」

紬「ええ。綺麗になったわ」

唯「ムギちゃん。ありがとー」

律「まったく。唯は仕方ないなー」

澪「そういう律も口の周りにクリームつけてるぞ」

律「うえ”っ」

澪「いま拭いてやるから、大人しくしてろ」フキフキ

唯「…‥」

紬「……? 唯ちゃん、どうかしたの?」

唯「ムギちゃんってお婆ちゃんみたいだよね」

紬「え”っ」









___
__

唯「今日もこなかったね」

紬「ええ」

唯「きてくれるかなー」

紬「きっと大丈夫。部活紹介のためのライブもやるんだから、ねっ!」

唯「うーん。そうだといいんだけどね」

紬「唯ちゃんが歌うんだから絶対大丈夫。私だったらぜったい、ぜ?ったい入部したくなるから」

唯「それは流石におおげさだよ」

紬「そんなことないわ」

唯「力説しますねー」

紬「ふふっ」

唯「……あのっ」

紬「なぁに、唯ちゃん?」

唯「今日もいいかな?」

紬「うんっ!」

唯「やっぱり枕はムギちゃんの膝に限りますなー」

紬「お褒めに与り光栄です」ナデナデ

唯「やっぱりムギちゃんってお婆ちゃんみたい」

紬「え”っ」

唯「……ん? なにかおかしいこと言っちゃった?」

紬「ううん」

唯「……嘘。なんだかムギちゃん落ち込んでるみたいだし」

紬「そんなことないわ」

唯「むーっ。顔を隠してそんなこと言われても信じられないよ」

紬「あのね、唯ちゃん」

唯「うん」

紬「私ってお婆ちゃんみたい?」

唯「うん」

紬「……」シュン

唯「えっ、えっ、なんでムギちゃん落ち込んじゃうの?」

紬「だって今、お婆ちゃんみたいだって」

唯「だってムギちゃんお婆ちゃんみたいだし」

紬「やっぱり」シュン

唯「わっわっ、落ち込んじゃ嫌だよ。ムギちゃん」

紬「……私、皺くちゃ?」
紬「……私の髪、白髪みたい?」
紬「……加齢臭とか、しちゃってる?」

唯「む、むぎちゃん。そんな意味じゃないよ!!」

紬「えっ」

唯「ムギちゃんはとっても綺麗な肌だし」
唯「髪は金色でとっても綺麗だし」
唯「とってもやさしくていい匂いだよ」

紬「それじゃあ、どうしてお婆ちゃんみたいだなんて……」

唯「だってムギちゃん優しいじゃん」

紬「えっ」

唯「えっ」

紬「……」

唯「……」

紬「私が優しいからお婆ちゃんみたいって言ったの?」

唯「うん。いつも私の面倒みてくれるし」
唯「こうやって膝枕してくれるし」

紬「……」

唯「ムギちゃん?」

紬「ごめんなさい唯ちゃん」

唯「どうしてムギちゃんが謝るの?」

紬「だって……唯ちゃんは私のことを褒めてくれていたんでしょ」

唯「うん」

紬「それなのに私は自分が貶されてると思っちゃったんだもの」
紬「唯ちゃんがそんなことするはずないのに……」

唯「そんなこと気にしなくていいよ」

紬「ううん。ごめんなさい」

唯「謝るのは私の方だよー」

紬「あのね、唯ちゃん。私のお祖母様はとても厳しい人だったの」

唯「へっ」

紬「礼儀作法をとても大切にする人でね」
紬「挨拶をいい加減にするときつく叱られたわ」

唯「うへぇ~」

紬「だから唯ちゃんの言葉をそういう風に受け止めちゃったの」
紬「本当にごめんなさい」

唯「そうなんだ」

紬「ええ」

唯「もういないんだね」

紬「ええ」

唯「ムギちゃん、お婆ちゃんのこと好きだった?」

紬「どうなんだろう」

唯「わからないの?」

紬「お祖母様生きてた頃は正直、いい印象がなかったの」
紬「私も幼かったし」
紬「でも今になって考えてみると、あの厳しさは私のためだったのかなって」
紬「お祖母様なりの優しさだったのかな、って思うの」

唯「ふぅん」

紬「唯ちゃんのお祖母様は?」

唯「私のお婆ちゃんはまだまだ元気だよー」

紬「どんな人?」

唯「うーん。一言でいうと」

紬「いうと?」

唯「ムギちゃんみたいな人かな」

紬「えっ」

唯「お婆ちゃんのところに行くと、いつも膝枕してくれるの」
唯「私が左の膝、憂が右の膝に陣取ってね」
唯「暑い夜はね、私が眠るまでずーっとうちわで扇いでくれるんだ」

紬「素敵なお祖母様ね」

唯「うん! でもそれだけじゃないんだ」

紬「他にも?」

唯「うん。私達が来るのに合わせて美味しいお菓子を用意してくれたり」
唯「お菓子を食べた後口元を優しく拭ってくれたり」

紬「ふふっ、私と同じね」

唯「うん。そうなんだ」

紬「私、唯ちゃんのお祖母様のかわりになれてるのかな?」

唯「それは無理だよー」
唯「だってムギちゃんはムギちゃんだもん」

紬「……!」

唯「お婆ちゃんのことは大好きだけど」
唯「一緒に音楽をやりたいと思うのはムギちゃんだけだよ」

紬「……りっちゃんと澪ちゃんは?」

唯「……忘れてた」テヘヘ

紬「もう……」

唯「あれっ、ムギちゃん」
唯(泣いてる……?)

紬「ごめんね、唯ちゃん」

唯「な、なんで泣いてるの?」
唯「私、また、おかしいこと言っちゃった?」」

紬「ううん。嬉しくって」

唯「嬉しい?」

紬「うん」

唯「もうっ! ムギちゃんは大袈裟なんだから」

紬「そうだね」

唯「ねぇ、ムギちゃん」

紬「なぁに?」

唯「私ね、ずっとずっとみんなで音楽やりたいと思うんだ」

紬「ずっとずっと?」

唯「うん。澪ちゃんとりっちゃんと……ムギちゃんと」

紬「……さっきは二人のこと忘れてたのに?」

唯「……うぅ。さっきのは言葉のアヤというか何というか」

紬「ふふっ、わかってるわ」

唯「話を戻すね」
唯「それこそ皺くちゃのお婆ちゃんになっても」
唯「白髪だらけのお婆ちゃんになっても」
唯「ずっとずーっと一緒に音楽をやりたいなって」
唯「そう思ってるんだ」

紬「音楽だけ?」

唯「えっ」

紬「ティータイムはいいの?」

唯「……! もちろんティータイムも!」

紬「私もね、思うんだ」

唯「なにを?」

紬「ずっとずっと唯ちゃんにお茶をいれてあげたいなって」

唯「私にだけ?」

紬「それは、どうだろうね?」

唯「えっ」

紬「ふふっ。もちろん澪ちゃんとりっちゃんにも、ね」

唯「そ、そうだよね」

紬「ええ」

唯「ムギちゃんならきっと優しいお婆ちゃんになると思うよ」

紬「私はお祖母様の血をひいてるから」
紬「意外と厳しいお婆ちゃんになったりして」

唯「それは嫌だなー。あっ、でも私にだけ優しくしてくれればいいかな」

紬「じゃあ唯ちゃんにだけはずっとずっと優しくするね」

唯「うんっ!」

紬「ねぇ、唯ちゃん」

唯「なぁに?」

紬「いつか唯ちゃんのお祖母様に会わせてくれる?」

唯「もちろんいいよ。きっと気が合うと思うよ」

紬「そうね。唯ちゃんの昔話を聞かせてもらわなきゃ」

唯「そんなこと聞いて楽しいかな」

紬「ええ!」

唯「ふぅん」

紬「……」

唯「……」

紬「あれっ、唯ちゃん?」

唯「ちょっと眠くなってきちゃった」

紬「すこし、寝る?」

唯「うん。少しだけ」

___
__

唯「ぐーぐー」

紬「ふふっ。よく寝てる」
紬「……」
紬「……」
紬「私ね、おもうの」
紬「ずっとずっと唯ちゃんの横に立っていたいって」
紬「お婆ちゃんになっても、ずっとずっといっしょにいたいって」
紬「だから、唯ちゃんに貶められてるって勘違いして、とても悲しかったの」
紬「ごめんね」
紬「勘違いしてごめんね」

唯「ぐーぐー」

紬「それからね」
紬「とっても嬉しかったんだ」
紬「ずっといっしょに音楽やりたいって言ってくれて」
紬「ずっとティータイムをやりたいって言ってくれて」
紬「本当に」
紬「本当に嬉しかったの!」

唯「ぐーぐー」

紬「私がお婆ちゃんになっても」
紬「本当に皺くちゃなお婆ちゃんになって」
紬「髪も眉毛も全部白くなっちゃって」
紬「まっすぐ歩くのが難しいぐらい腰が曲がっちゃっても」
紬「ずっとずっと唯ちゃんの傍に居たいって想ってるの」

唯「ぐーぐー」

紬「……やっぱり無理かな」
紬「でも、やってみないとわからないよね」
紬「唯ちゃんはどう思う?」

唯「ぐーぐー……もう食べられないよ~」ムニャムニャ

紬「もうっ!」

おしまいっ!



最終更新:2012年09月18日 21:45