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一日を頭の中で振り返ってみる
今日は色んな人に気遣われた日だ
ムギや梓、クラスのみんな…

唯だけは殆ど変わりなかったように見えたが
あれも気遣ってくれてのことだろう

律「みんな心配し過ぎだよな」

律「元通り元気なりっちゃんになったってのに」

律「…」

元通り…?

律「そう、元通り…」

唯が居て、ムギがいて、梓が居て、私が居て…
全部元通りの軽音部に…

律「…違う」

足りない
元通りなんかじゃない

だって

律「澪が居ない」

居ないんだ、澪が

朝の通学路に

昼の学校に

放課後の部室に

夕暮れの帰り道に

澪が居ない

律「…なんで?」

律「なんで澪が居ないの?」

ベッドから起き上がる

私に足りない欠片
澪がどこにも居ない

律「なんで…」

律「!!!」

脳裏に映像がフラッシュバックする
そうだ…澪は…

律「う…」

律「おえええぇ…!」

胃の中が逆流し
つん、とした臭いが鼻をかすめる

律「~!」

私は急いで階段を駆け下り、洗面所へ向かう
この不快感を止めたいからだ

律「おえっ…!けほっ…」

律「かほっ…!」

しばらく俯いたのち、水道の蛇口を捻る
水の音だけが周りに響いた

律「はぁ…はぁ…」

律「…」

三十分はこうしていただろうか
水道を止め、顔を上げる

律「…」

ふと、鏡の中の自分と目が合う
私はそっとカチューシャを外す

律「…!」

そこには、鏡の中には澪が居た

律「澪…?」

…そっと鏡に手を触れる
鏡の中の澪も同じように返す

律「澪…澪!」

律「私だ!律だ!」

割れるんじゃないかという勢いで鏡を叩く
鏡の中の澪は困ったように笑っているように見えた

律「なぁ、なんか喋ってくれよ!」

律「聞こえてるんだろ!?」

律「澪!」

律「なぁ澪!」

何度も何度も鏡を叩く
たかが鏡のくせに私と澪を遮るこの鏡が憎かった

律「みお!」

パリン!

律「痛っ!」

とうとう鏡は白旗を上げ、その破片を撒き散らす
その一部が私の頬を切り裂いた

律「つぅ…」

痛みに顔をしかめつつ顔を上げる
残された鏡の破片に映っていたのは、なんてことはない


ただの自分の顔だった


律「は…あはは…何やってんだろ私」

律「バッカみてぇ…」

律「…」

…散らばったガラスの一つを手に取る
…まるでナイフみたいだ

律「も、いいや…」

律「要らない」

律「澪の居ない世界なんて要らない」

律「要らない」

律「澪の居ない世界に私は要らない」

そっとソレを首に向ける
…きっと一瞬だ

律「ごめん」

何に対しての「ごめん」かは分からない
でも…

律「ごめん…」

手に力を込める


「律!」

律「ん…?」

澪「いつまで寝てる気だ!遅刻したいのか」

律「あれ…私…」

澪「寝ぼけてるのか?」

澪「さっさと顔を洗え」

律「う、うん…」

ベッドから起き上がる
澪は眉間に皺を作って仁王立ちしていた

律「カチューシャどこやったっけ…」

寝起きの頭で机の上を探すけど見つからない
あれー?

澪「カチューシャならココ、はい」

澪がカチューシャを差し出す
おお、澪が持ってたのか

律「サンキュー」

律「流石、みおしゃん」

澪「お前のお母さんじゃないんだぞ」

澪「私が居なかったらどうする気だ」

律「そんなの考えられないね」

律「だってずっと一緒だろ私達!」

澪「…」

律「澪?」

澪「…それは無理だよ」

澪が悲しげに笑う

律「澪…?」

澪「お別れだ律」

律「…なんでそんなこと言うんだよ」

澪「気付いてるだろ」

澪「…気付かなくちゃ」

律「何…を…?」

嫌だ、聞きたくない

澪「律」

澪「私はもう居ないんだ」

何を言ってるのか分からない
分かりたくない

澪「…受け入れなきゃ」

律「嫌だよ…」

律「嫌だよそんなの…」

澪「私は死んだんだ」

律「違う!澪は…!」

澪「違わない」

澪「死んだんだ」

律「嫌…!」

澪の体が透けていく
待って、置いていかないで

澪「きっと大丈夫」

澪「私が居なくても律はやっていけるよ」

無理だ
私には澪がいなきゃ駄目なんだ。怖いんだ

律「そんなの無理だ!」

律「もっと澪と一緒に居たいよ!」

律「一緒に笑って居たいよ!」

律「澪と…一緒に…あぁ…」

頬を涙が伝う

澪「律…」

律「み…お…」

澪が私の肩を抱き寄せる
懐かしい…澪の匂いだ

律「お願いだから行かないで…」

律「一緒に居てよぉ…」

澪「…ワガママを言うな」

澪「お前がそんなんじゃ安心して行けないだろ」

律「だって…」

澪「大丈夫だよ、見えなくても私は一緒に居る」

律「…そんなの気休めだ」

澪「嘘じゃない、本当だ」

澪「律、人は二回死ぬ…って話を知ってる?」

律「…何?」

澪「一つ目の死はその身が朽ちた時」

澪「そして二つ目の死は…」

澪「人に忘れられた時だ」

律「忘れられた…時…」

澪「…私は凄い恐がりなんだぞ」

澪「お前は私を二回も死なせたいのか?」

律「…どういう意味だよ」

澪「…律には生きて欲しい、『私は要らない』なんて言わないで」

澪「生きて…私のことずっと覚えていて」

律「…」

澪「私が居なくても笑っていてね」

澪「律は律だけに笑っていて」

澪「お願い…」

澪の体がより透けていく
きっともう…

律「うん…!笑うから…覚えてるから…!」

澪「約束だぞ?」

律「約束する…!」

澪「ありがとう」

澪「私の大好きな…」

澪「 」

聞こえない
ねぇ、なんて言ったの?

もう一度聞かせてよ
ねぇ…澪…

律「澪!!!」


律「う…」


紬「…りっちゃん?」

唯「…起きた?」

梓「…律センパイ!?」


律「ここは…?」


唯「りっぢゃああああああああん!!!」

律「ぐえっ!」

あれ、デジャブ…

唯「起ぎだあああ!りっちゃんが起ぎだあああ!」

紬「良かった…本当に良かった…!」

梓「り…りづセンパイまで居なくなったら…私…!」

みんな顔がグシャグシャだ
どうしたんだよ

律「唯…苦しい…」

唯「バカ!りっちゃんのバカ!バカバカバカ!」

紬「バカ!」

梓「バカです!」

バカ…?

唯「なんで相談してくれなかったのさ!」

梓「後追い自殺なんてバカのすることです!」

紬「そうよ…!」

後追い…ああ…そっか私…


律「…」

唯「りっちゃん!」

紬「せ、先生を呼んで!」


あの時、私はどうやら首を切って倒れていたのを
帰ってきた聡に発見されて病院に運ばれたらしい

出血がかなり酷く、一時は死の危険性もあったものの
なんの奇跡か、ギリギリ一命を取り留めた

医者は本人の生きたいという願いが命を繋ぎ留めたと言うけど…
私は澪が助けてくれたんだと思う

だって約束したから…生きるって


1ヶ月後

紬「りっちゃん、病院の庭を散歩してみない?」

紬「お医者様から外出許可は貰ってるんでしょ?」

律「んー…そうだな、そうするか」

唯「一緒にサンドイッチ食べようよ!」

梓「駄目ですよ…病院食があるんですから」

唯「そっかー、残念だねりっちゃん」

律「ムカつくな…」

紬「ふふ、ほら行きましょ?」


律「…」

律「気持ちいい風だな」

紬「そうね…」

唯「ねぇねぇ、あそこに蝶が飛んでるよ!」

梓「本当だ…もう冬になるのに」

唯「ようし、捕まえよう!」

唯「行くよあずにゃん隊員!」

梓「こ、子供ですか!?ちょ、引っ張らないでくだ…」


律「何やってんだか」

紬「楽しそうね~」

紬「よし、私も捕まえに行く!」

律「ムギまで…」

紬「二人共待って~!」


律「…」

律「普通、病人置いていくか?」

律「ま、アイツららしいけど」


律「…なぁ澪、聞いてる?」

律「あたしさ…」

律「!」

ヒュウウウウ…!

風が私を襲う。まるで喋るなと言わんばかりだ

律「…言わなくても分かるって?」

律「流石みおしゃん」

律「でもさ、これだけは言わせてよ」


律「私、生きるよ。澪の分まで」

そう 僕らは旅立つんだ

律「忘れたくないから…忘れさせたくないから」

キレイな淋しさのひとつを抱いて

律「だからさ」

僕は僕だけに笑えればいい


律「…さよなら」

今は君に手を振ろう



おしまひ






最終更新:2012年09月26日 19:43