いつもの帰り道

律「そうだ、唯!ちょっと話したい事があったんだ!」

律はできるだけ明るく話しかけた。

律「すぐ終わるから。いいかな?」

唯「・・・」


律「・・・」



澪「律から・・・珍しいな。唯行ってきなよ!」

澪は事態を察したのか、助け舟を出してくれた。

唯「また今度じゃ駄目?そんな気分じゃないし・・・憂にもまっすぐ帰るって言ってあるし。」

律「そこを何とか!一生のお願いここで使うよ!」

澪「唯・・・私からもお願いするよ。行ってあげて。」

この幼馴染にはさっきから感謝しっぱなしだ。

唯「そこまで言うんなら・・・」

律「・・・ありがと」


みんなと別れ、律は唯を連れて約束の公園までを歩く。
約束とは言っても、ただ律が勝手に待ってる二人にそれを押し付けたのだが。


その角を曲がると目的地、
そこで唯の足が止まる。

唯「私、そっちに行きたくない。」

無理もない。そこは一夜にして失ってしまった思い出の墓場なのだから。

律「唯、今は辛いとは思うけど今日を逃したらこのまま一生辛いままだぞ。」

唯「律ちゃんが何を言っているのかわからないよ!私がどれだけ傷ついたか知ってるでしょ!?それとも何!?私をもっと傷つけたいわけ?」

唯は息を荒げる。

唯「だいたいさ・・・」

律はその場に土下座した。唯の言葉は律の驚くべき行動でさえぎられてしまった。

律「頼む!少しの間だけ付き合ってくれ!少しで良いから!」

律は自分がなぜそこまで必死になるのか自分自身も分らなくなっていた。
唯の笑顔がまた見たいから?二人への償い?ケジメ?恐らくすべて当てはまる。

唯「分ったよ。そこまで言うなら。」

律「あ、ありがとう!!」


公園内に入ってからは唯が先頭に立ち、いつもと違うベンチに腰掛けた。
同じベンチを選ばなかったのは
楽しかった思い出が自信を傷つけるだろうという恐怖からであった。


唯と律はひたすら無言。気まずい沈黙が永遠のようにづづく。

律(そういえばあいつらホントに来るのか!?それ考えてなかった!
  このままあいつらが来なかったら唯、絶対怒るな・・・、)

っち!

自分自身に舌打ちをする。

それにも唯は反応を示さない。


何時間待っただろう。


いや何分も経っていないのかも。

しかし辺りはすっかり暗くなり虫の声がにぎやかになり始めた。

唯は突然立ち上がる。

唯「もう帰るね。」

先ほどより柔らかだが、曲がることがない意思が込められている。そんな口調で唯は言った。

律「ぁ、あぁ。」

もう充分待った。来なかったなら来なかったで、あいつらはそこまでの人間。私がすべてを唯に話そう。唯が納得のいくように。
そんな甘えた思考追い抱きながら、律は唯に無言でついていく。


歩いてる間にも律は何度も振り返る。

律(ホントに行っちゃうからな!帰っちゃうからな!)

一歩一歩出口に近づくたびに、焦りと失望感が膨れ上がっていく。


律「唯、やっぱりもうちょっと待・・・」


唯「もういい加減にしてよ!!」

唯は珍しく怒鳴った。振り返らず。

律は思った。唯ももしかして何かに期待していたのではないだろうか。また他愛もない話で一緒に笑いあえることを。

律はそれを裏切った二人に怒りを感じ始めていた。



公園の柵を出て、敷地外に一歩踏み出し、それらの感情が頂点に達した瞬間に、遠くの方で自分達を呼ぶ声がした。


その声は紛れもなく・・・


「待ってくれ!すまん!遅くなった!」ハァハァ


咲と茜であった。

唯は振り返らず立ちどまる。肩が震えているのが分った。



律「ば、バッカヤロウ!どんだけ待たせんだよ!」

律の中には数え切れないほどの感情が入り乱れてもうわけがわからなくなっていた。


咲「昨日今日といろいろあったからな。親が外出させてくれなかったんだ。」

茜「出し抜くのに苦労したよ。」

律「もう帰ろうかと思ってたんだぞ・・・なn」


咲「唯!」

咲は律の話など聞かずに唯を呼ぶ。


唯「何か用?」

唯は振り返らない。

咲「私達、唯に言いたいことがあって・・・その・・・・昨日は・・・」


唯「私、すっごい辛かった!!あんな思いしたの初めて!!」

唯は胸をギュッと押さえる。目を見開いていたがそこに光は宿っていなかった。

唯「ずっと友達だと思ってた。いや、思ってる。でもそれって私だけなんだよね。あはは。馬鹿みたい。あはははは」

律はその姿を見ていたたまれなくなる。唯は笑っているのか、それとも・・・


律「あのな、こいつらは、おm」

茜は手を挙げて律の言葉を制す。

茜「私達だって唯を友達と思っているよ。」

唯「うそ・・・」

振り返った唯は声を荒げる。

咲「ほんとうだ。」

それに対して咲はとても穏やかな声で応じる。


咲「しんじてk」

唯「うそ!じゃあ何であんなことしたの?すっごい怖かった・・」

唯が感じた恐怖とは大切な友達を失う恐怖だろう





咲「・・・守りたかったんだ。」


唯「え!?」

唯「えっ・・・意味が」


茜「私、唯の笑顔見るのすっごい好きなんだ。なんか癒されるって言うか。元気になるって言うか。特に軽音部の話をする時なんかめちゃめちゃ可愛いし。」

唯「・・・」

茜「センコーが唯を退部にするって言ったとき、思ったんだ。もう唯が笑わなくなるんじゃないかなって。笑顔が見れなくなるんじゃないかって思って。 そしたら怖くなって。大切なものがなくなる気がして。私ら馬鹿だからあんな方法しか思いつかなかったけど、それを守ろうと必死だった。へへ、良く考えたらエゴ?かなり自己中かな。」ハハハ

茜は笑っているつもりなのだろうか。目には涙を溜めている。




唯「それなら・・・じゃあ・・・」

唯は言葉を続けなかった。

一瞬だが永遠とも思える沈黙が流れた。


咲「信じてくれとは言わない。それは唯次第だからな。ただ私達は勘違いのまま終らせたくなっかたから・・・」

沈黙を破ったのは咲だった。

二人「そういうことだから・・・じゃあ、ね」

その場から立ち去る咲と茜。


唯「待って!」

唯は二人を呼び止める。

唯「私も謝りたい。」


唯「ううん、謝らせてください。
  茜ちゃんだって作り涙が出来るほど起用じゃないし。
  良く考えたら嘘つくために、わざわざこんな時間にこんなとこ来ないよね。そもそもそ
  んな話を作る必要もない。私どうかしてた。」


二人「・・・」

唯「だから」



唯「だから・・・」ポロポロ


唯「一度でも友情を・・・・友達を疑ったことを・・・ゆるじでくだざい!!」ポロポロ


咲「唯・・・信じてくれるのか?」ポロ

唯「」コクリ

唯は何も言わずにうなずく。

咲「こんな私達でも・・・友達でいてくれるのか?」

唯「」コクリ

そして唯は咲と茜に抱きついた。

茜「唯・・・ごめんなぁ・・・」ポロ

唯「あだじもぉ・・」

律「唯・・・」

その場にいる全員が泣いていた。


全員は落ち着きを取り戻し、いつものベンチに腰掛けていた。

幸せそうな顔をした唯は息苦しい程に咲と茜に寄り添っていた。それでも二人も唯と同じくらいに幸せそうだ。

唯「じゃあさ、これからもお昼ご飯とか一緒に食べたりしよう?」

咲「そいつは出来ない。」

唯「え・・・」

茜「今日、私達正式に退学手続きを済ませたんだ。つまり部外者。」

唯「え・・・そうなの・・・」

唯はなんといって言いか分らず黙り込む。

唯「じゃ、じゃあ時々こうやってここでお話しよ?前みたいに・・・」

咲「それも来月までだな、あと二週間ちょっと。」

唯「それって・・・どういうこと?」

咲「私さ、来月に引っ越すんだよ。北海道の方に。」

茜「私は東京の親戚の家で暮らすことになったんだ。」

二人の突然の告白に唯の頭は真っ白になる。

唯「そんなのってないよぅ。せっかく仲直りしたのに。」


またもや沈黙が流れる。


茜「私達さ、夢があるんだ。」

突然茜が切り出した。

茜「女優になりたいってい夢が。」

唯「じょ、女優!?ふふ」

茜「やっぱり笑った!だから言いたくなかったんだけど・・・」

唯「わ、笑ってないよ!」

必死に真顔を取り繕う

茜「咲の引越しは前から決まってたんだ。私は学校辞めちゃったけどさ、本気で女優目指そうかな、なんて」
「唯のオカゲだよ。軽音を頑張ってる唯にさ、感化されたって言うか」

唯「私に!?」

思いがけない茜の発言に素っ頓狂な声を上げる

咲「何事も半端ばっかなうちらにとっちゃ、唯はまぶしかったよ。私達も夢中になれるが欲しかった。」

茜「だから今回の退学は失敗じゃない、新たなる一歩さ!」

唯「・・・」


それから暫らくの時間、いつものような他愛もない話で盛り上がった。

そして・・・

茜「あ、やべ!親父が探しに来てる!もう行かなきゃ!ごめん今日は帰るね。」


咲「そうだな、今日の所はここで。」

私「毎日会いに来るね。」

茜「毎日話そう!約束だ。」

咲「律。」

律「っふぁ!?」

律は急に声をかけられ唯にも負けないくらいの奇声を発する。

咲「今日はありがとう。なんてお礼をして良いか・・・」

律「私は当たり前のことをしたまでさ。」スリスリ

照れ隠しに鼻の下を指でこする。


律「それより・・・」



咲「?」


律「なれると良いな!女優にさ。あの演技力なかなかだったぜ。まぁ二人の美貌なら確実だな。」

咲は朧な月明かりでも確認できるくらい赤くなった。

咲「///!」

茜「唯から聞いたぜ!お前らもできると良いな。武道館ライブ!!」


二人が帰った後、唯と律は幸せと寂しさが溶け合った不思議な感情の余韻に浸っていた。




律「唯、さびしくなるな。」

唯「・・・」

律「・・・」

唯「茜ちゃんが言ってた。 大切なのは『何回会うか』じゃなくて『何回想うか』なんだって。」

律「へぇ~!」

唯「私達、出会ってから日は浅いけど・・・私、沢山二人のことを想ってる!二人がその分私を想ってくれるなら・・・寂しく・・・ない。」

律には唯が精一杯の強がりをしてるのが分った。

そして唯は、先ほどとは別人に思えるくらい元気に立ち上がり律を振り返る。


唯「りっちゃん!そろそろ帰ろう?」

律「おう!」


唯はまだブレザーのポケットの中に入っているタバコの感触を手で確かめた。

もう二度と吸う事はないであろうタバコを。

唯はこのタバコを宝物にすることに決めた。

それは、このタバコが褪せる事の無い友情と、素敵な思い出をくれたのだから。





おしまい



最終更新:2010年02月03日 23:39