唯「ういー、チビあずー、ただいまー」
トタトタ
憂「お、お姉ちゃんお帰りー」
梓(小)「お帰りー!」
唯「うい、どうしたの?顔色悪いよ?」
憂「……なんでもないよお姉ちゃん」
唯「バッグ部屋に置いてくるねー」
ドタドタ
『うぉあ!?キモ可愛いぬいぐるみがッ!?足が頭に付いてるぅ!!』
ドタドタ
唯「うい!キモかわぬいぐるみがトランスフォームしてるよ!」
梓(小)「……」ピクッ
唯「チビあずー?どしたの?」
家の外
梓「……」
…
唯「なんだー、てっきりトランスフォームしたものだと思ったよー」
憂「ごめんねお姉ちゃん……一瞬の早業解体だったから……」
梓(小)「……ごめんなさい」シュン
唯「ううん!これはこれで可愛いよー!ういセンスあるね!」
憂「やっぱり!?やっぱりセンスあると思ったよ、私」
唯「憂、調子に乗るな」
憂「……ごめんなさい」
梓(小)「ぷくくくく!」
唯&憂「笑うとこ!?」
窓の外
梓「……」ギリギリ
…
唯「それで、チビあずどうしようか?」モシャモシャ
憂「お姉ちゃん、食事中に喋るの行儀悪いよ」モシャモシャ
唯「ういの子供って事にするとして……」モシャモシャ
憂「するとしてじゃないよ」
梓(小)「お母さん……お母さん!」
憂「!?」キュン
憂「いいかも、それ」
唯「だよねー!」
ピンポーン
トタトタ
憂「はーい!」
ガチャ
憂「あれ?誰もいない」
……
ギンコ「今、蟲の方に愛情が偏ってる状態ならば、宿主は存在が稀薄になってるだろうな……うぉっ!フルフル強ッ!」
聡「ちょっと待ってください、今大タル爆弾仕掛けますから……稀薄ですか?」
律「どういうこと?……よっしゃ!狙撃!」
聡「ちょ!まだ俺の退避……んなっ!?」
ギンコ「認識出来ない状態になってる可能性がある……太刀最高!!」
律「切り払いやめろって言ってんだろ!……見えないって事か?」
ギンコ「多分な」
…
憂「誰も居なかったよ」
唯「イタズラかな?」
憂「多分、ピンポンダッシュだと思うよ」
唯「あれ?チビあずは?」
憂「?さっきまで居たんだけど?」
唯の部屋
梓「あんたなんか死ねばいいのよ……」
ギリギリギリギリ
梓(小)「かっ……かっ!?」
梓「死んでよ」
ギリギリギリギリ
梓(小)「は……」
梓「唯先輩は私だけのものだ!」
ギリギリギリギリギリギリギリギリ!
梓(小)「」
梓「……やった」
梓(小)「死ぬわけないのになんで殺すの?」ムクッ
梓「!?」
梓(小)「あの時の自分は死なないよ?」
梓「……なんで?」
梓(小)「私は悪くないよ?」
梓「私も悪くない!」
梓(小)「これは自分が望んだ結果だから」ムクムク
梓「ひっ!?」
梓(中)「……ごめんなさい」ムクムク
梓「あ……あぁ……」ガタガタ
梓(大)「さようなら」
梓「いやぁ!!」
ギンコ「……陰と陽が逆転しちまったようだ」
聡「え?」
ギンコ「こっちの話だ」
…
唯「というわけで、チビあずが失踪したんだよ……」
梓?「唯先輩、きっと自分の家に帰ったんじゃないですか?だからそんな心配しないでください」ニコッ
ギュッ
唯「ふぉぉ……あずにゃん!心の友よー!」
ダキッ
梓?「先輩ったら……しょうがないですねぇ……今まで通りになっただけじゃないですか」
唯「まぁそうなんだけどね……」
梓?「はい、先輩紅茶のおかわりどうぞ」ニコッ
唯「ありがとあずにゃん!」
唯「あずにゃんがいれば他に何もいらないよ~」
ギュッ
梓?「ちょ、先輩抱きつかないでください!」
ドクドクドク
唯「あれ?」
梓?「?先輩?」
唯「いや、なんでもないよあずにゃん!」
唯(あずにゃんの鼓動やけに早いような……気のせいかな……)
…
ギンコ「体内時計と脈拍の関係って知ってるか?」
聡「体内時計と脈拍の関係ですか?師匠」
ギンコ「うん、人間も動物も、その生涯で脈打つ回数はほぼ同じなんだ」
聡「へぇ」
ギンコ「蟲においてもそれは例外じゃないらしい、体内に流れる密度は皆違う、2万年生きる蟲もいれば1日しか生きられない蟲もいる」
聡「つまり?」
ギンコ「早く脈打つ者ほど早く死ぬって事だ」
生きるうえで選択に迫られているのは人間だけではない、動物も、蟲も同じなのだ。
…
ガチャ
唯「あずにゃんおつー」
梓?「~~~~♪」
ジャカジャカジャカ
唯「おぉー、あずにゃん美声だねぇー弾き語り最高だよ!」
梓?「ありがとうございます、唯先輩」ニコッ
唯「なんて歌なの?」
梓?「あぁ、これは……
律「うぃーす!」
梓?「お疲れ様です」ニコッ
律「笑顔に惚れた!」
梓?「それはお断わりします」キッパリ
一同「ははははは!」
物事に永遠など
無い
律「……」ジーッ
梓?「どうしたんですか?」
律「いや、なんでもないよ……」
ギンコ『いいか?絶対に刺激はするな、何が起こるかわからん』
律『刺激するなって……本物の梓は?』
ギンコ『……勘違いするな、『アレ』も本物だ、違いなど些細な事に過ぎないのだから』
律『じゃあ宿主だった梓は今どこに?』
ギンコ『記憶の海の中だよ、多分……全身が痣に浸食された状態でいるはずだ……人の形が残っていれば
律『じゃあどうやって助けるんだよ!?』
ギンコ『助けるも助けないもない、俺たちができることは無い』
律『そんな……』
ギンコ『ただ一つ……』
律『ただ一つ?』
ギンコ『今まで通りの日常を送れ』
ギンコ『抑圧された負の感情から生まれ出でた蟲だ、だが……話を聞くかぎり、進化しようとしているのかもしれない』
律『だから?』
ギンコ『だから普通通りの生活を送れと言っている』
梓?「唯先輩、今日お家にお邪魔してもいいですか?」
唯「え?いいけどどうしたの?急に」
梓?「いやー、なんとなくです」テヘッ
律「いい!今の『テヘッ』の表情凄くいい!」
紬「以下同文!もう一度、さんはい!」
梓?「え?……えへっ」テヘッ
……
唯「どうぞーあずにゃん」
梓?「失礼します」
スタスタ
唯「あずにゃん先に部屋に行っててー」
梓?「はい」
スタスタ
梓?「……うっ!?」ドク
梓?「……もうすぐ限界なのね」
梓?「……種を蒔かないと」
ガチャ
唯「ん~どうしたの?あずにゃん、そんな不細工なぬいぐるみ持って」
梓?「え、えぇ、ちょっと変わったぬいぐるみだと思って」
唯「あー、前ここに居候してたチビあずがやったんだよ、あずにゃんもチビあず見たよね?」
梓?「え、えぇ……あ、そうだ、針と糸ありますか?直しますよ」
…
種を蒔かなきゃ死滅する。
ギンコ「通常は宿主が死んだら口から胞子をばらまいて風に乗って飛んでいくんだよ」
聡「へぇ~、じゃあ僕の頭に寄生してるのかもしれないわけですか?」
ギンコ「あぁ、そうかもしれんし、そうじゃないかもしれん」
ギンコ「森が無くなり、住みかが無くなった蟲が選んだ繁殖方法としては、上等の部類に入る」
ギンコ「だが誰でも発芽するわけじゃない、発芽には一定条件があるみたいだが未だはっきりしてないしな」
聡「今回みたいな場合、蟲が先に死んだら宿主はどうなるんです」
ギンコ「宿主も蟲も一心同体である以上、『死』も二人平等だ、宿主も当然死ぬさ」
…
チクチク
梓?「……」
唯「うわー、あずにゃん裁縫上手だねー」
梓?「えぇ、これでも裁縫には自信が……痛ッ!」チクッ
唯「うわわ、絆創膏絆創膏~無いな、えーい、あずにゃん指出して!」
梓?「え?はい」スッ
チュゥゥゥウウウレロレロ
梓?「!?///」
唯「はい、終了だよー」
梓?「き、汚いですよ?私の指なんて……」
唯「えー?あずにゃんの指だから汚くないよ、大丈夫大丈夫!」
梓?「そうか……多分……これが……」
唯「?」
梓?「いえ、なんでもありません」ニコッ
梓?「……」
梓?「……多分、これで間違ってはいないと思う」
梓?「残された時間は後僅かしか無い……」
梓?「同じ仲間で私と同じやり方を選んだ仲間はいるのだろうか?」
梓?「いや、居ないと思う……こんな非生産的なやり方をする仲間は居ない」
梓?「でも、私は種を蒔く事にする」
バシャーン!
ガラッ
梓?「お疲れ様でーす」
唯「あずにゃんお疲れー!」
律「お?どうしたんだ梓、そんなご機嫌な顔をして」
梓?「あ、分かっちゃいますか?」
澪「分かるだろーそんなニコニコした顔してれば」
梓?「じゃあニコニコついでに一曲歌っていいですか?」
律「お!いいねぇ!一曲やっとくれ!」
澪「お前は飲み屋のおっさんか!」
梓?「ふふ、じゃあいきますよー」
ギンコ「……やられた、まさかこう来るとはな……」
ギンコ「蟲がこんな自分で自分の首を締める真似するわけないんだが……進化ってやつなのか?」
どれだけ見上げたら空が見えるの?
いくつの耳を持ったら人々の泣き声が聞こえるの?
どれだけ人が死んだらもうたくさんだと分かるの?
友よ
その答えは風に吹かれている
答えが風に吹かれている
海に洗い流されてしまう前にどれだけの年月山はあるの?
自由になれるまでにどれくらいの時間、人々は存在するの?
友よ
その答えは風に吹かれている
答えが風に吹かれている
梓?「以上でーす!」
ジャカジャカジャーン
唯「すごーい!凄いよあずにゃん!」
澪「ボブディランだよな!?」
梓?「はい!」ニコッ
唯「もう一曲やってよあずにゃん!……あずにゃん?」
梓?「」
ギンコ「まったく驚いた……蟲が自分の生存本能よりも、宿主の生存を優先するなんて、後にも先にも例が無い」
ギンコ「……蟲もヒトと同じように自我を持つ事が可能なのは昔からチラホラあったが……今回みたいなものは非常に珍しいな」
ギンコ「思えばこういうやり方は出来たんだな……」
『そのお湯に入るな!』
ギンコ「記憶の本流から呼び戻す事……さて、大騒ぎになる前においとましますかね……」
ギンコ「もうそろそろ誰か気付くだろ」
ギンコ「この緑色に染まったプールと……」
梓「プァッ!?……なんでプールに……」
ギンコ「プールのど真ん中で溺れかけてる生徒に……しかし、まぁ……」
ギンコ「あれが種とは……蟲の中にも洒落た奴はいるもんだな……」
ギンコ「……誰か歌ってんのか?いい歌だな……さて、次の町に行くか」
友よ
答えは風に吹かれている
答えが風に吹かれている
ギンコ「まったくその通り、答えは風に吹かれている」
その時、一陣の風が吹いた。
完
最終更新:2010年02月05日 01:43