ガチャ

梓「こんにちはー」

梓「あれ?誰もいないや…」

梓「まだ来てないのかな…」

梓「あ、でもカバンは置かれてる」

梓「どっかにいったのかな」

梓「…来るまで待っておこう」


梓「…あのカバンは…」

梓「多分、唯先輩のカバン」

梓「……!」ゾクゾク

梓「……ダメだ、抑えなきゃ!」

梓「でも…ちょっとだけなら…」

梓「いや、もし先輩たちが戻ってきたら…」

梓「でも、今しかチャンスは…」

梓「ああ、ダメダメ!耐えるのよ梓!」

梓「ここでやっちゃったら確実に変態って思われちゃう…」

梓「……でも、唯先輩の…」

梓「ちょっとだけなら…いいか」

梓「これが、唯先輩のカバン…」

梓「…クンクン」

梓「すごい…唯先輩の匂いがする…」

梓「もうダメ!舐めたい!」

梓「ぺろぺろ」

梓「はあ…唯先輩…」ポー


梓「…どうしよう、カバン開けてもいいよね」

梓「よし!」ジー…

梓「あっ!これは…」

梓「唯先輩の飲みかけのペットボトル…」

梓「いいよね?やっちゃっていいよね?」

梓「まずは…フタをとる…」

梓「次に、フタを舐める…」

梓「ぺろぺろ」

梓「ああ、ヤバいよこれ…」ポー


梓「じゃあ…いこうかな…メインディッシュ…」

梓「いただきます!」

ガチャ

唯「ふう、つかれたあ!」

律「まったくさわちゃんめ、こき使いやがって…」

澪「まあいいじゃないか、たまには手伝わないとな」

紬「うふふ、そうだね」

梓「!!!」


唯「おお!あずにゃん来てたの!?」

梓「あわわわ…」

律「ん?何飲んでんだ?」

梓「こ、これはその…」

唯「ああっ!それ私のだよ!」

澪「えっ」

梓(終わった…今日死のう…)

唯「もうあずにゃんったら!飲みたいなら言えばいいのに」

梓「えっ」

唯「それ飲みたかったんでしょ?いいよ、飲んで!」

梓「え、え、え」


梓(何だか知らないけど、助かったのか?)

律「まったく、ティータイムもあるのに我慢できなかったのか?」

澪「ごめんな梓、ちょっと用事があったもんだからさ」

紬「すぐに淹れるからね!」

唯「く~!待ちきれないあずにゃんかわいい!」ダキッ

梓「あうっ!///」

梓(よかった、ばれてないみたいだ…)ホッ



私、中野梓にはある癖がある
それは、何かを舐めたくなってしまうこと
鉛筆、シャーペン、消しゴム、カバン、靴、机、お箸、人でもいい……
物を見ると無性に舐めたくなってしまう
そして、何かを舐めると、言葉じゃ言い表せることが出来ない気持ちになるのだ
いつもは自分の指を舐めることで抑えているが、この衝動は抑えきれないものなのだ

もし、その人や持ち物に対して何だかモヤモヤした気分になってしまうと、舐めたいと思ってしまう
この衝動は軽音部に入ってからはさらに強くなり……
私は自分の欲求といつも戦っているのだ


梓(はあ…さっきの唯先輩のペットボトル、もうちょいだったな)

梓(飲んでいいよと言われたけど、みなさんの前じゃぺろぺろ出来ないよ…)



律「でさあ、澪のやつがさあ…」

梓(ああ、律先輩のフォーク…すごい色だ)

梓(力強くてたくましくて…舐めてみたい)

澪「お、おい!それは言うなよ!」

梓(ああ、澪先輩のスプーン…とてもきれいだ)

梓(柄は細長いけど、先は大きいなんて…舐めてみたい)

紬「うふふ、おもしろいね」

梓(ああ、ムギ先輩のティーカップ…とても上品だ)

梓(高級さを出しておきながら、かわいらしいなんて…舐めてみたい)


唯「ん~!このケーキ美味しい!」

梓(ああ、唯先輩の持ってるお皿…かわいい)

梓(かわいい、かわいい、なめたい、なめたい、なめたい…)チュパ

律「お、おい梓」

梓「は、はい!?」

律「さっきから指舐めて…どうしたんだ?」

澪「唯の方を見てたぞ」

梓(はっ!思わず禁断症状が…!)

梓「こ、これは違うんです!あの、その…」

唯「おっわかった!あずにゃん、このケーキ食べたかったんでしょ!」

梓「えっ?あ、ああ、はいそうです」

紬「そうなの?じゃあはい。梓ちゃんの分!」

梓「あ、ありがとうございます」


梓(ほっ、またばれずにすんだや)パク

梓(でも、いつばれるか分かんないよ)モグ

梓(抑えなきゃ!そうしないとこの軽音部にはいられなくなる!)ゴクン

唯「おいしいでしょ?あずにゃん!」

梓「はい!とっても美味しいです!」

澪「さて、それじゃあ練習するか」

梓「!」

律「えー、もうちょっとゆっくりしたいよー」

澪「わがまま言わないの!さっ早く!」

唯「あははは、澪ちゃん、りっちゃんのお母さんみたい!」

紬「ママって感じね」

梓(どうしよう…一番つらい時間が来てしまった…)

梓(私は無事に帰ることが出来るだろうか…?)


唯「あずにゃあん!このコードはどうやって弾くの?」

梓「えっ?また忘れたんですか!?」

唯「面目ない…」

梓「もう…これはこうです」

唯「こう?」ジャラーン

梓(あっ、唯先輩のギター、今日もかわいいな)

梓(あの色、あの形、そして音色…なんて素晴らしいんだ)

唯「あ、あずにゃん?おーい」

梓「は、はい!?」

唯「どうしたの?さっきからボーっとしてるよ?」

梓「な、なんでもないです!」

唯「そう?」


律「ふぁ~あ」

澪「律、そろそろみんなで合わせないか?」

律「ふぇ?そうだな。やるか」

律「じゃあみんな!準備はいいか!?」

唯「おおっ!」

紬「はいっ!」

澪「いいぞ」

梓「いけます!」


律「よし!いくぞ!1、2、3、4…」カンカン

律「…」タンタンカン

梓(ああ、律先輩のドラム…)

梓(かっこよくてパワフル…舐めたい…)ジュル

澪「…」ベンベン

梓(澪先輩のベース…)

梓(すっごいクールで美しい…舐めたい…)ゴクン

紬「…」ポロポロ

梓(ムギ先輩のキーボード…)

梓(上品で優雅な音色…舐めたい…)ハアハア

唯「~~♪」ジャジャジャン

梓(そして唯先輩のギター…)

梓(なんであんなに舐めたくなるの…!?ヤバい…)ダラダラ

梓(なめたいなめたいなめたいなめたいなめたい…)チュパ

律「…! ストーップ!」

澪「どうしたんだ?」

律「おい梓!どうしたんだ指なんか舐めて!」

梓「あっ…」

澪「梓?」

梓「す、すみませ…ん。今日は帰ります!」ダッ


唯「あずにゃん!」

紬「どうしたんだろう?」

律「今日の梓、おかしかったな」

澪「ああ、なんだか身が入ってないっていうか」

紬「心配ね…」

唯「あずにゃん……」



――梓の家

バタン!

梓「……」バフン

梓「やってしまった…なんてことを…」

梓「最近、舐めたい衝動がひどくなってる…」

梓「抑えたくても、抑えきれない」

梓「こんなときは…」ゴソゴソ

梓「このバトンを…」

梓「ぺろぺろ」

梓「ぺろぺろ」

梓「ぺろぺろ」

梓「……ダメだ、全然おさまらない…」

梓「軽音部に入ってからだ…何かを舐めても落ち着かないのは」

梓「でも、先輩たちのを舐めるとすごい気持ちいい…」

梓「なんで…なんでだろう」

梓「もう…抑えきれない…」



――翌日

梓「はあ…結局あんまり眠れなかったな…」

梓「なんとか舐めたい衝動は落ち着いたけど…」

梓「今日も何とか抑えないと…」

ガラッ

梓「おはよう…」

純「おはよう、梓」

憂「梓ちゃん!昨日は大丈夫だった?お姉ちゃんがすっごく心配してたよ!」

梓「うん、昨日は気分が悪かったんだ…」

憂「そうだったんだ」

純「あんまり無理しちゃダメだよ?」

梓「うん、ありがと、純」

梓(この二人にはあの衝動は起きない…)

梓(安心できるな…)

憂「梓ちゃん、今日の家庭科の時間、どうする?」

梓「どうするって?」

純「今日は自由に作っていいってさ」

梓「そうなんだ…憂は何を作るの?」

憂「私はお姉ちゃんのために、プチケーキでも作ろうかなって」

純「お姉ちゃんっ子だなあ」

梓「そういう純は?」

純「私はクッキー!」

梓「ふつう」

純「なっ!?別にいいでしょ!じゃあ梓は何作るの?」

梓「私?私は…何か長い棒的なものを…」

純「えっ」

憂「えっ」

梓「あっ!いや、違うの!えーと…チュロス!チュロスだよ!」

憂「チュロス?どうやって作るの?」

梓「それは…わかんない」

純「どんだけ食べたいんだよ!」

梓(無意識に細長いものを連想してしまった…)

梓(まずい…せっかく先輩たちがいないのにこんなんじゃダメだ)

梓(なんとか抑えなきゃ…!)


――家庭科の時間

憂「……よし!これでオーケイ!」

純「すごい!さすがは憂だ、テキパキしてる」

憂「も、もう、あんまりほめないでよ~///」

純「いやあ、だって早いもん!ねえ梓」

梓「……」チュパ

憂「あ、梓ちゃん!?」

梓「ふえっ!?お、おいしいなあ。あはは」

純「な~んだつまみ食いか」

梓(ダメ…!こんなんじゃばれちゃう…!)

憂「梓ちゃん、チュロス作りはどう?」

梓「作り方がわからないんだ…難しくて」

憂「じゃあ、私も手伝うよ!私の分は終わったし」

梓「本当?じゃあお願いします!」

梓(憂はやさしいな。唯先輩がうらやましいよ)

憂「えーっと…まずは…」

梓(ああ、憂のエプロン、かわいい…)

梓(いつもこれつけて料理してるんだろうな…)

梓(家庭的な憂…舐めたいなあ…)

憂「こうして…こう!」グイン

純「うわっ!何が起こったの!?」

憂「出来たよ!梓ちゃん」

梓「はっ!?いつの間にチュロスが…」

純「早すぎて見えなかったや」

憂「意外と簡単なんだね。今度作ってみようかな」

梓(今さっき、憂に舐めたいって思ってた…)

梓(憂にまで…私はなんてことを…)

梓(抑えよう…うん、冷静になるんだ…)

純「うん!クッキーうまい!」

梓「ふつうだけどおいしいね」サクサク

純「ふつうって言うなあ!」

梓「あっ、憂のプチケーキ、おいしい!」

純「本当だ!ふんわりしてて、甘くて、おいしい!」

憂「えへへ、お姉ちゃんがテーマなんだ」

梓(ああ、憂の作ったケーキ…)

梓「ぺろぺろ」

純「あ、梓…?」

梓「あっ、てへへ、つい…」

憂「……?」

梓「で、これがチュロス」

純「ほとんど憂が作ったけどね」

憂「じゃあいただきます」

純「…うん、うまいね!」

梓「……」

梓「ぺろぺろ」

憂「…梓ちゃん?」

梓「…な、なにっ?」

憂「いやあ独特な食べ方するんだなあって」

梓「あ、あはははっ…」

梓(舐めてたのか…気付かなかった)

梓(でもチュロス…病みつきになりそう)

梓「ぺろぺろ」


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最終更新:2010年02月08日 00:33