19.5 Born Slippy Nuxx
Drive boy dog boy ♪
Dirty numb angel boy♪
In the doorway boy♪
She was a lipstick boy ♪
She was a beautiful boy ……♪
どっちにしろ、こんなことはもう終わり。
足を洗って真っ当に生きる。そして今度こそ人生を選ぶんだ。
もう楽しみでしょうがないよね! だってこれを見ている皆と同じ人生だよ?
仕事、家族、高級なステレオ、洗濯機、カスタネット、MP3プレイヤー、
電動こけし、健康、低コレステロール、歯の保険、美容院、
住宅ローン、マイホーム、よそ行きの服、新しいバッグ、健康食品、
サプリメント、スイーツ、隠れ家的なお店、テレビドラマ、美味しいハーブティー、
死ぬまでの寿命をせっせと勘定して、なんとか生きていくんだ。
そうだ。クズの仲間のことなんか全て忘れて。
澪『ありがとう! これから一緒に頑張ろう!』
全て忘れて。
紬『そうだ! せっかくだから入部と同時にギターを始めてみたらどうかしら?』
忘れる……?
梓『新歓ライヴの皆さんの演奏を聞いて感動しました!』
忘れるの……?
澪『みんな唯のことが大好きなんだよ?』
本当に……忘れるの?
唯『これからもずーっとこうしてみんなでバンドできるといいねぇ』
それで本当に……
唯『もうさ、放課後ティータイム、解散しようか……』
本 当 に い い の ! ?
私は立ち止まってしまった。
どうしてなんだろう。
このまままっすぐに駅に行き、ずーっと北の方へ電車を乗り継ぎ、
バッグの中のお金で小さな部屋を借り、履歴書を買い、身なりを整え、
求人雑誌を買い、誰も自分を知らない土地で新しく生活を始めればいいだけなのに。
唯「……なんで?」
自分の意思とは、別に、私の足はとある方向へ。
20 Don’t Look Back In Anger by 澪
律「うがぁあああああああッ!! 唯のクソ野郎!!
fuck!! piss!! cunt!! あの腐れマ○コが調子に乗りやがってーーーーーーーッ!!!!」
翌朝。ホテルの部屋では案の定、怒り狂って大魔神と化した律が暴れ、ベッドをただの木くずへと変貌させている最中であった。
紬「唯ちゃんがまさか裏切るなんて……。盲点だったわ……」
梓「ゆ…い…先輩が……うら……ぎった?」
ムギと梓も動揺が隠せない。
唯……なんであの時、私と目があったのに、起きていた私と目が会ったのに行ってしまったんだ……。
え? 唯についていけばよかったって? そんな勇気なんて私は元から持ち合わせていないし、何よりも、
律「殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!! 唯は絶対に殺す!!」
目の前で完全にイッちゃってる幼馴染を放っておけない。
澪「律!! やめとけ!! となりの部屋の客に警察に通報されたらまずいだろ!?
律「うるせえ!! このクソビッチが!! テメエも道連れか!?」
澪「ばか! お前、警察に追われてたんだろ? 騒ぎを起こすのはまずいだろ!!」
律「かんけえねえええええええええええ!!!!」
澪「くっ!! ムギ! 梓! 律を押さえるの、手伝ってくれ!」
幸い二日酔いでフラフラだった律はすぐに押さえつけられ、私たちは逃げるように地元に戻った。
落ち着きを取り戻した律は恐喝犯の容疑でどのみち地元には帰れない。
この街の近くでしばらく潜伏し、ほとぼりが冷めたら戻ってくるらしい。
律「唯のヤツ……なんで裏切りやがった!」
そう捨て台詞を吐いた律の顔は心なしか、少しだけ寂しそうだった。
そして数カ月後。
私たちは相変わらず、あのフラットに溜まる日々を続けていた。
ただ前と違うのは、唯がいないと誰もヘロインをやろうとは言い出さないことだった。
職を探すでもなく、音楽を聴くでもなく、女を漁るでもなく、
ただ何をするでもなく一日中ぼーっと過ぎ去った日々に思いをはせながら日が沈むのを待つ毎日。
その内、律が帰ってきてこの無為な毎日の一員となる。
なんと、あの暴力の権化だった律は、不思議と酒も飲まず、誰にもケンカを売ることがなくなっていた。
そんなある日、朝方に私が何気なしにフラットに足を踏み入れると、
律「み、澪!!」
紬「澪ちゃん!!」
梓「み、澪先輩!!」
澪「ど、どうしたんだみんな……?」
律「とにかくこっち来てくれ!」
手を引かれるまま、居間に入る。すると、
澪「――え」
私たちがこれまで幾度となく、ヘロインをキメ、ぶっ倒れていたこの居間に
律「私が使ってた……ヤマハのドラムセット……」
紬「私が手放したはずの……KORG TRITON……」
梓「私が中絶手術費用にするために売り払った……フェンダー・ムスタング……」
澪「私がラリって壊しちゃったはずの……フェンダー・ジャズベース……」
高校時代に戻ったかのような4人の楽器が、堂々と鎮座していたのだ。
そして、私の背後には、
唯「みんな……ただいま」
澪律紬梓「ゆ、唯!!??(ちゃん!?)(先輩!?)」
唯「結局私は……みんなのいない人生を選ぶことなんてできなかったよ」
そう言って、笑う唯の姿があった。
律はあれだけ「殺す」と言っていた唯に殴りかかることを忘れていた。
ムギはあまりの驚きで久しぶりに眉毛が反転していた。
梓もあまりの驚きで語尾が「……にゃあ」になっていた。
そんでもって私は、
澪「唯……どこ行ってたんだよぉ……」
泣いていた。いや、みんな、泣いていた。
あれから唯がぽつぽつと話すことには、
一度は金を持ち逃げし、一人で新たな生活を始めることを考えた。
しかし寸でのところで私たち4人の顔が浮かび、足が止まった。
そして引き返し、気がつくと街の楽器屋の前に立っていたと。
澪「……ってことはもしかして」
唯「うん。皆の楽器、あのお金を使って、買っちゃったんだ」
そう言う唯は抱えていたソフトケースからあのギブソン・レスポール・スタンダード、ギー太を取り出した。
どうやら唯だけは、楽器を手放さずに大切に保管していたらしい。
唯「裏切っておいて今更だけど……自分からバンドを解散させておいて今更だけど……やっぱり私にはこの道しか選べないと思う」
おずおずと涙を浮かべる唯のその言葉に、反論を投げかけられる人間なんて誰もいなかった。
澪「でもさ……あれだけの金、楽器を買ってもまだ余ってるはずだろ?
唯「あ……」
紬「まさかまたヘロインに……」
唯「うん…・・・それはね」
そして唯は、一枚の書類を取り出して見せた。
唯「スタジオ、3週間押さえたんだ。このあたりじゃ有名な、プロも使ってるレコーディングスタジオ」
梓「それって……!」
律「レコーディング……またバンドをやるのか!?」
唯「うん……みんなさえよければ……だけど。放課後ティータイムもう一回……」
何度も言ってるだろう?
その提案を退けるような言葉を言えるような舌、私たちのうち、誰も持ってるわけがないよ。
だいぶ遠回りしたけど、より道もしたけど、落とし穴にもハマったけど、私たちはまた軽音部の仲間に戻ったんだ。
『とれすぽ!』 Happy End
キャラの配役は
唯=レントン
澪=スパッド
律=ベグビー
ムギ=シック・ボーイ
梓=なんか子供が死んじゃう女(アリソン)
和=トミー
聡=ダイアン
さわ子=修道院長
最終更新:2010年02月08日 03:36