―音楽室―


鵺野(君のお姉さんは今保健室で安静にしている。よっぽど君のことを心配していたようだ)

憂「お姉ちゃん…私がこんなことになったばかりに…」

鵺野(君のせいじゃないさ…とりあえず、君の肉体を探さないとな…)

憂「お願いします!このご恩は忘れません!」

鵺野(しかし…なぜこの子は霊子体なしで霊体となりえるんだ…?)

鵺野(それに、あの悪霊といい、周囲の人間の記憶喪失…全くわからん…)

憂(霊体)「お願いします!私の肉体を探して下さい!」

鵺野(しかし、なぜこの子は霊体でいられるんだ?)

鵺野(あの悪霊と関係があることには違いないが…)



―保健室―

いずな「だいぶ良くなった?唯ちゃん?」

唯「はい…もう大丈夫ですよ…」

いずな「まだ休んでなって…憂ちゃんは知らない所に行ったりはしないからさ…」

唯「でも…!憂のために何かしたいんです…私…」

いずな「霊的な現象だし、仕方ないさ…」

唯「………」

いずな「だからね、憂ちゃんの身体を捜す手伝いぐらいなら…」

唯「憂に私たちの演奏を聞いてもらいたい…」

いずな「えっ?」

唯「憂は悲しそうだった。かわいそうだよ。励まして…あげたい…」ヒック

いずな「………」



―音楽室―

鵺野(君は自分がこのようになっていたと気づいたのはいつからなんだい?)

憂「昨日…目が覚めてからです…」

鵺野(それまでの異変は?)

憂「いえ、全くです…」

鵺野(手がかりなしか…)

憂「あっ、そういえば、その前日に下校途中で知らない人から身体について言われたんです…」

鵺野(!?何て言われたんだ?その人はどんな感じだった?)

憂「『身体を大切にしないとね…』と。あと、その人は綺麗な女性でした…」


鵺野(やはり、あの悪霊なのか…?)


鵺野(悪霊の仕業なら…夜まで待つしかないな…)

ガラッ

いずな「戻ったよー」

唯「!!ぬ、ぬ~べ~さん…その手…!?」

いずな「そういえば、唯ちゃんには鬼の手は初めてだよね」

唯「鬼の手…?」

いずな「まぁ、あの鬼の手で悪霊や妖怪を倒せたりできたのよ…」

いずな「そして今は霊体状態の憂ちゃんと話しているの」

唯「すごい……」

鵺野「君はもう大丈夫なのか?」

唯「はい!寝ていたらすっかり!あの…ぬ~べ~さん?」

鵺野「ん、何だ?」

唯「憂と話しってできます?私、憂と話がしたいです!」

唯の要望に応え鬼の手を唯から憂を通す。

鵺野「念じながら話してごらん?」

唯(憂、私の声、聞こえる?)

憂「聞こえるよ!お姉ちゃん!」

唯(ごめんね~憂~、憂を見つけ出すことが出来なくて…ダメな姉でごめんね~)

憂「そんなこと言わないで!お姉ちゃん!お姉ちゃんだけ私を覚えていたんだから…」グスッ

唯(憂…ごめんね…憂がいなくてとっても寂しかったよ…)

憂「グスッ…私もよ…お姉ちゃん…」

唯(憂の励ましのために演奏を放課後に聞いてくれるかな…)

憂「グスッ…うっ…うっ…お姉ちゃん…ありがとう…」



―放課後・音楽室―

唯「皆~!今日はリハみたいに全曲通そ~よ~!」

律「唯もたまには良いことを言うもんだな」

唯「律っちゃん、たまには余計だよ~!」ぶー

澪「それも良いかもな。気合い入れにもなるし…よし、やってみよう」

梓(唯先輩のやる気が上がっている!?)


唯(憂…聞いてね…)



―演奏中―

鵺野「ふむ…楽しそうに演奏をしているな…」

鵺野(どうだい?君のお姉さんが一番気合い入っている。君をよっぽど励ましたかったんだよ)

憂「お姉ちゃん……」

唯・澪「あぁ、カミサマお願い二人だけのDream Time♪」



いずな「くっ…泣けるじゃないか…」

鵺野「兄弟ってそういうもんかもな…」


全曲通し終える頃だった。


ブツッ

唯「あれ?照明が落ちたよ?」

紬「停電かしら?」

律「何だよー今日はミスなかったのにー」

澪(怖い…怖い…)ブルブル


ガタガタガタガタッ

澪「!!ヒィィィ!!」



いずな「ねっ…これ、ヤバくない…?」

鵺野「くそっ、結界がこんなに早く破られるとは…!!」


鵺野「南無大慈大悲救苦救難広大霊感…ここにいる霊よ!姿を現せ!」

霊「………」

いずな「昨日見た幽霊…!」

鵺野「ふむ、やはりな…いずな、あの子達の守りを頼む!」


ガシャンッパリンッ

窓の破片がぬ~べ~の頬をかすめる。

鵺野「やってくれたな…!南無!!」

ズバッ

霊「グギャアアア!!!グゴウウゥゥ!!!」


鵺野「はぁ…はぁ…(なぜあれほど攻撃を受けても効かない)」?

霊「………」にたにた


鵺野「万事休すか…?」

霊「………」にたにた

―「もうよい…」


鵺野「!?」


声の主は大猿であった。しかし、風格がある。


―「もう…良い…いけにえはもういらん…」

鵺野「貴様がこの事件の張本人か?」

―「いかにも…ワシは猿神じゃ…」

鵺野「猿神だと…太陽神の使者である猿神がなぜ…」

猿神「それは昔の話じゃ…今は何の力のない老いぼれ妖怪じゃよ…」

猿神「ワシらは太陽神の使者であるが、所詮猿と違いはない。猿神信仰の時はまさに神として振る舞っておった…」

猿神「今はどうじゃ…田畑に太陽の力を与えても感謝されることもない」



猿神「お供え物を人間から貰えた時はさも喜んだものじゃ。人間に何かをすれば感謝されたからな…」

猿神「しかしな…段々、人間は横柄になりよった…豊作にしてもお供え一つもよこそうとしない!」

猿神「挙げ句の果てにワシらの住まう神社まで潰しよる…」

猿神「ワシらは荒れた…人間に裏切られたんじゃ…ある者は凶作の神になり、ある者は人間をいけにえに災いをもたらした…」

猿神「しかしな…ワシらは行き過ぎたんじゃ…太陽神の怒りに触れ…今はこの有り様じゃ…」

鵺野「しかし、なぜこのようなことを…?」


猿神「人間に気づいて欲しかったんじゃ…今自分達がいるのは誰かのお陰であり…」

猿神「その存在がまた誰かのためになるということをな…」

鵺野「………」

猿神「今回は大層な計画じゃった…他の妖怪にも協力して貰ったしな…」

猿神「フフ…皮肉にも、人間にではなく、ワシら妖怪のほうが伝えたいことを実感してしまったわ…」

猿神「すまんな、そこの人間よ。お主の肉体はまだ保存しておる」

憂「ほ…本当ですか…?」

猿神「本当じゃ…」にこっ


鵺野「しかし、この子の霊子線が切れている…戻すことは出来るのか?」

猿神「あぁ…それか…人間の霊にも心ない奴がおろう…」

猿神「そんな輩に感ずかれないように工夫しておったんじゃ…戻ることは出来る…」

唯「あ…あの…お猿さん…」

猿神「何じゃ…」


唯「私…お猿さんの伝えたかったこと、伝わったよ…」

猿神「ん?」

唯「私…憂がいなかったら私ってどうだったかな…なんて考えてしまったの…」

唯「だって、私…勉強とか料理とか苦手だし…憂にいつも優劣つけられていたの…」

唯「でもね!そんな考えは間違っていたよ!憂がいない世界なんてやだ…」


唯「世界でたった一人しかいない私の妹なんだもん!」



憂「お姉ちゃん…私だってお姉ちゃんがいなかったら嫌だ!」

唯「憂……」

憂「お姉ちゃんは人を幸せにできる暖かい心を持っているんだよ!」

憂「私が一人で悩んでいた時も励ましてくれたし…私もお姉ちゃんの存在が必要なの!」

猿神「フフ…フハハハ…!」

唯・憂「!?」

猿神「どうやら、ワシらの計画は骨折り損じゃなかったようじゃな…」

猿神「人間は確かに醜い…が、同時に美しいものを持っておる…」

猿神「それはワシら妖怪にはなく、ワシらにとっては恐怖に近い…だが、同時に引き寄せられる…」


猿神「妖怪が人間にいたずらをするのはそうしたものを覗こうとしているかもしれん…」

唯(お猿さん…)


猿神「さぁ、ついて来い!元に戻すぞ…」

唯「憂~行こう!」

憂「うん!」





律「………」

梓「………」

紬「………」

梓「な、何だったんですか…今の?」

律「う~ん…わかんね!」

澪(怖い怖い怖い怖い…)ガクブル




―某神社―

唯「あ~!こんな所にお猿さんがたくさんいる~!」

鵺野「ここは猿神を奉る神社なのか…」

猿神「さよう…ここは数少ない猿神の神社じゃ…もうすぐ取り壊される…」

鵺野「そうだったのか…」

猿神「フフ…気にすることはない…ワシらはまたどこかへ移動すれば良いのだ…」


猿神「おお、着いた。ここじゃ…」

キイィィ

唯「あっ!憂の身体だよ!」

憂「でも、どうやって戻ったら…」

鵺野「鬼の手でくっつけるさ…」


自分の身体に合わせる憂。
ぬ~べ~は鬼の手と経文で離れないようにした。


憂「ん…あ…私……」

唯「憂~!憂~!」ガバッ

憂「お姉ちゃん苦しいよ~」

唯「ごめんね…本当にごめんね!グスッ…うえーん……」

いずな「ふふ…」

鵺野「おーい、お前ももらい泣きか~?」

いずな「ち…違う!!目にゴミが入ったんだよ!!///」カァー

猿神「フハハハ…」


鵺野「だが、周囲の人間のこの子に関する記憶は……」

猿神「そんなもん、神通力でもう治しとる…もう、これで元に戻ったじゃろ…」

唯「お猿さん!」

猿神「ん…?まだやり残しておったか…?」

唯「ううん。ありがとう!お猿さん!」

猿神「フフ…久しぶりに人間に感謝されおったわ…フハハハ…」


こうして事件は終幕を迎えた。
唯たちは今までの日常に戻ったのである。



―朝―

憂「お姉ちゃーん!早く起きないと遅刻するよー!」

唯「うーん…あとちょっと~」

憂「お姉ちゃんってば!」ガバッ

唯「憂~おはよ~」にこ

憂「も~!お姉ちゃん起きてたの~!」

唯「エヘヘ…いつもありがと~憂~」

憂「ふふ…さてご飯食べましょ!」

唯「いずなお姉さんとぬ~べ~さん今なにしているかな~?」パクパク

憂「今も幽霊や妖怪と戦っていると思うよ~」



いつもの日常は誰かの存在があって成り立っている。
その人の存在はまた誰かの存在によって成り立っている。

それを実感した平沢姉妹だった。





おわり



最終更新:2010年02月08日 04:43