夜。
私は芝生の上で寝転がり、空を見上げる。
空にはびっしりと星が敷き詰められていた。

あれがデネブ、アルタイル、ベガ。

こんなやり取りをしたのはもう何年前のことだろうか。

私は空を見上げる。
それは二人の約束だから。

私の隣にもうお姉ちゃんはいない。

夜空はあの頃のままなのに、
私達があの頃のままでいることは出来なかった。

憂「行ってきます」

私は誰もいない玄関に向かって声を掛ける。

今日も一人で夜の散歩だ。

散歩を始めてからだいぶ経つが、
初めてお姉ちゃんと一緒に散歩した時からコースは変わっていない。

歩いて10分程のところにある大きな公園が目的地。

公園に着いたら芝生の上に寝転び、星を眺める。

これが私とお姉ちゃんの日課だった。

いつも通りのある日のこと。
君は突然立ち上がり行った。

唯「今夜星を見に行こう!」

憂「急にどうしたの?」

唯「へ?そのままの意味だけど?」

憂「それはわかるんだけど、晩御飯食べながら急にそんなこと言い出すからどうしたのかなって」

唯「実は今日ね~ムギちゃんに星座のことを色々教えてもらったんだ~!ムギちゃんははくちょう座が好きなんだって!」

憂「へー。お姉ちゃん、まずはご飯食べよう?」

明かりもない道を、バカみたいにはしゃいで歩いた。

唯「うい~夏の大三角って知ってる!?」

憂「えっと…デネブ、アルタイル、ベガを繋ぐと三角形だから夏の大三角って言うんだっけ?」

唯「なんだ…知ってるのか…」シュン

憂「あっ、でも詳しくは知らないよ。教えてお姉ちゃん」

唯「うん!デネブ、アルタイル、ベガを繋ぐと三角形だから夏の大三角なんだよ!」

憂「そ、そっかぁ!すごいなー!」

それはさっき私が言ったんだけど…
でもお姉ちゃんのションボリした顔は見たくないから。
それはそれで可愛いけれど。

唯「えへへ、ムギちゃんに教えてもらったんだ」

憂「ところで懐中電灯がなくて本当に大丈夫?」

唯「うん!月明かりと星の明かりで充分だよ!」

憂「そっか」

唯「今日は星がすごいね、うい~」

憂「本当だ。でもずっと上を向いてると首が痛くなっちゃう」

唯「そうだね。そうだ!ちょっと先の公園に行こうよ!あそこなら首が痛くならないよ!」

憂「?」


唯「うい!こっちこっち」

憂「公園なら首が痛くならないってどういうこと?」

唯「こういうこと!ごろごろ~」

憂「お、お姉ちゃん!?」

唯「憂も寝転がってみて。気持ちいいよ」

憂「でも服が汚れちゃうよ~。お洗濯大変だよ?」

唯「いいからいいから、ほら」

憂「う、うん。じゃあちょっとだけ」

服の汚れを気にしつつ、遠慮がちに寝転んでみる。

真っ暗な世界から見上げた夜空は星が降るようだった。

憂「綺麗だね、お姉ちゃん」

「…」

私は虚空に向かって話しかける。
無論、返答が返ってくることはない。

一人で散歩をしているとどうしても昔のことを思い出す。
お姉ちゃんとの楽しい思い出を。

「ういー」

憂「お姉ちゃん?」


梓「私だよ」

憂「なんだ、梓ちゃんか」

梓「なんだとは随分だね」

憂「ごめんごめん。今仕事の帰り?」

梓「うん、隣いい?」

憂「いいよ。梓ちゃんも寝転んでみる?」

梓「スーツだけど…まあ、いいか!」

そう言うと、梓ちゃんは私の隣に寝転んだ。

梓「唯先輩のこと考えてた?」

憂「うん」

梓「そう…」

憂「懐かしいね。よく3人でこの公園に来てたよね」

梓「うん、あの頃は楽しかった。今みたいに余計な気を使ったり、損得で人と付き合うなんてことはなかった」

憂「私達ももう大人だもん。高校生の時のように行かないよ」

憂「仕事は順調?」

梓「ぼちぼちかな。やっと慣れてきたって感じ」

憂「ふふ」

梓「どうしたの?」

憂「梓ちゃんが楽しそうで良かったなって」

梓「憂は楽しくないの?」

憂「私は…」

楽しいわけがない。
いつも私の隣にいたお姉ちゃんが、今はもういないのだから。


いつからだろう。
私はお姉ちゃんのことを追いかけてばかりいた。

唯「ういー、今日も公園行こうよ~」

憂「もー、今食器洗ってるでしょ。それにお風呂掃除もまだだし」

唯「じゃあ、ダメなの…?」ウルウル

お姉ちゃんはずるい。
私がその目に弱いことを知ってるくせに。

憂「仕方ないなぁ…それじゃあお姉ちゃんはお風呂掃除してきて」

唯「やったー!憂大好き!」

私も大好きだよ。



そして私達はいつもの公園に着く。

唯「今日もムギちゃんに星座を教えてもらったんだー」

憂「紬さんは天文学が好きなんだね」

唯「てんも…?よくわかんないや」

憂「天文学っていうのは天体とかてんも」

唯「うい!あれがフォーマルハウトだよ!」

憂「す、すごいねー!」

梓「唯先輩、一時期毎日天文学の本読んでたな。ムギ先輩に教わりながら。澪先輩はすぐに断念したのに唯先輩はずっと熱心に勉強してた」

憂「お姉ちゃんは一つのことに熱中するタイプだから」

梓「そのせいでギターのコードを忘れちゃうんだけど」

憂「ふふ、お姉ちゃんらしいね」

梓「憂が甘やかして育てるから…」

憂「だってお姉ちゃん可愛いんだもん」

梓「元気出た?」

憂「うん、少し」

梓「少し、か。やっぱり唯先輩じゃないとダメ?」

憂「ふふ、わかってるくせに」

梓「まったく、シスコンなんだから…」

憂「そんなこと言われても痛くも痒くもないもん」

だって、私はお姉ちゃんのことが本当に大好きだから。


抱え込んだ孤独や不安に押し潰されないように。

憂「お姉ちゃん、私をおいてどこかに行ったら嫌だからね?」

唯「急にどうしたの?」

憂「ううん、なんとなく」

唯「もー、私が憂をおいてどこかに行くわけないじゃーん!」

憂「そうだよね。信じてるよお姉ちゃん」

梓「もう一年か」

憂「時間が経つのは早いね」

梓「うん」

憂「お姉ちゃん、星になれるかな」

梓「唯先輩なら…きっと一番星だよ」

憂「一番星か。うん、お姉ちゃんらしいかも」

お姉ちゃん、どうか私を照らす一番星になって下さい。




唯「あー!こんなところにいた!」

憂「お姉ちゃん!」

唯「もー、今日帰るって言ったじゃん。家に行ったら明かり消えてるし鍵もかかってるし」ぷんぷん

憂「ごめんね。でもお姉ちゃんならここに来ると思ってたから。それより一年ぶりだね。会いたかった…」

唯「私もだよ憂~…ずっと会えなくて寂しかったよ…」


唯「おお、あずにゃん!スーツ姿がビシッと決まってますなぁ」

梓「先輩こそ、アーティストの雰囲気が出てきましたね」

唯「ふっふっふ、この一年はメジャーデビューのために特訓してたからね。芸能人オーラってやつだよ」

憂「さすがお姉ちゃんだね!」

梓「よくわかりませんが…」

唯「ところで憂達はここで何してたの?」

梓「憂と一緒に星を眺めてました」

唯「お!いいねー。私も高校生の時ハマったなぁ。えーとあれが…なんだっけ?」

憂「あれは北極星だよお姉ちゃん」

唯「おお!それそれ」

梓「北極星くらい普通わかるでしょ…」

憂「お姉ちゃん、ご飯できてるよ。そろそろ帰ろうっか」

唯「らじゃあ!」

憂「梓ちゃんも来てくれる?今日はお姉ちゃんが帰ってくるから、張り切りすぎちゃってオカズがいっぱいなの」

梓「もちろん!唯先輩のギターの腕前も見たいし」

唯「あずにゃん!?それプロに言う!?」

梓「アハハ、気にしない気にしない。早く帰って憂の料理を頂きましょう」

唯「まったく…あずにゃんじゃなかったら右ストレートが炸裂していたところだよ…!」ぷんぷん

憂「ほらほら、いいから帰るよお姉ちゃん」








補足
眠くて最後急いでしまったけど終わりです
ここまで読んで頂きありがとうございました

唯早死にフラグっぽいこと書いてたけど、初めから死なせるつもりはなかったです
最後はほとんど遊びですねw
一応、死に直結するようなセリフや文は書いてないつもりです



最終更新:2010年06月03日 23:12