その夜、平沢家

唯「憂ゲームやろ~」

憂「うんいいよ~」

……

憂「また負けたよー」

唯「あはははっ! ういよわ~!」

憂「じゃあ右手の封印解くね」

唯「ダメそれはダメ! 憂はフリーザなんだから!」

憂「でもこれは、片手用に作られてないんだよ」

唯「う~ん……じゃあ右足なら使って良し」

憂「えっ、それは遠慮するよ」

唯「どうして?」

憂「だってはしたないもん」

唯「はしたない?」


憂「私は紬さんみたいなレディになりたいから」

唯「ムギちゃんみたいに? 私もやる!」


憂「うん。上品にね」

唯「おほほほ、憂さん小腹が空きましてよ」

憂「仕方ありませんねお姉様、ご要望はございますか?」

唯「ホットケーキなんて、いいんじゃないのかしら」

憂「分かりました。今お作り致します」

唯「本当!? うわ~い!」

憂「お姉様?」

唯「ほっ、ほほほ。大変嬉しいざますわ」

憂「ざます?」


唯「もうやめよ? 私の負けだよ~」


……

憂「はい、出来ましたー」

唯「わぁ、生クリームまで乗ってるよ!」

憂「えへへっ、残ってたから。太っちゃうかもね」

唯「生クリームで太るなら本望です!」

憂「お姉ちゃん、あ~ん」

唯「あ~ん――いやっ、騙されないよっ!」

憂「騙さないよ~、ほら」

唯「――んぐんぐ……んまい! 世界で一番んまい!」

憂「お姉ちゃんがそう言ってくれると私も幸せだよ」

唯「ういー! 本当にいい子っ!」ガバッ

憂「ありがとうお姉ちゃん」ポー

唯「うーいー」ポワー


憂「あっ、ほっぺに生クリームついてるよ」ペロッ

唯「きゃっ! く、くすぐったいよ憂~!」


憂「気を付けてね」(私はいつでもチャンスを窺ってるから)

唯「あっ、そういう憂だってついてるよ! へへ!」ペロッ

憂「あはは、面目ないです」(気付くの遅すぎるお姉ちゃんかわいい!)




翌日、2年2組の教室

律「唯ー、さっきの授業中寝てただろー?」

唯「えへっ、ばれた?」

紬「眠気を必死に抑える唯ちゃんかわいかった」

律「おもしろいの間違いだろ」

唯「何を言うー!」バシッ

律「こらデコはやめい」

唯「だっていかにも叩いて下さいってデコなんだもん」

律「いや別に殴られ屋目指してないからね?」

唯「残念だね。世界チャンピオンだって夢じゃないのに」


律「意味分からんし。なあムギ?」

紬「いくらですか?」


律「買う気かよ!」バシッ

紬「やんっ!」

唯「りっちゃん! お客さんに手を出しちゃダメだよぉ!」

紬「うふふ……でもこれはこれで」

唯「ムギちゃんは本当に怒らないねえ」

律「ていうか喜んでない?」




昼休み、裏庭

紬「う~いちゃん♪」

憂「紬さん!」

紬「うふふ、来ちゃった」

憂「えへへっ、例の場所で一緒にお昼寝しますか?」

紬「うん!」

……

憂「良かった、誰もいません」

紬「やっぱりここは静かでいい所ね~」

憂「紬さん、この木陰がいいですよ」

紬「ちょっと待って憂ちゃん……はい座って」フワッ

憂「ハンカチ? 私の為に?」

紬「気にしないで。もう一枚あるから」

憂「待って下さい」フワッ

紬「あら? 私にかしら?」

憂「はい。どうぞ紬さん」

紬「うふふ、じゃあ遠慮なく」

憂(透き通る様な肌、綺麗でふわふわな髪、穏やかな表情)

紬「私もお庭のお花を、少し世話しているのだけれど」

憂(まるでルノワールの描く女性が、そのまま出てきたみたい)

紬「憂ちゃん?」(もう寝ちゃった?)

憂(紬さん……)トサッ

紬(あっ、憂ちゃんが私にもたれ掛かって)ドキッ

憂「……」

紬(かわいい寝顔だなぁ)ナデナデ

憂「あ……紬さん」

紬「ごめん起こしちゃった?」

憂「い、いえ、こちらこそ甘えてしまって」

紬「いいのよ。むしろいいのよ」

憂「えへへっ、紬さんあったかいなぁ」

紬「憂ちゃんもあったかいよ」

憂「じゃあもう少し、このままでいていいですか?」

紬「うふふ、もちろん」

憂(何か安心するなー、紬さんって)




掃除の時間、1年2組の教室

梓「誰かー、ゴミ捨てー!」

憂「私が行くよ梓ちゃん」

梓「良し授けよう」

純「憂、私も付き合うよ!」

憂「一人で大丈夫だよ純ちゃん」

純「いやいや、これは二人でやるミッションだよ!」

梓「諦めな憂、純はカレーうどんの汁みたいなもんだから」

純「意味は分からないけど、喧嘩売ってるの梓?」

……

純(揺れるポニーテール、チラチラ覗くうなじ)

憂「純に聞きたいんだけど」

純(実はゴミ捨ては、マイベストな憂の横顔が間近で見られるイベントなのだ)

憂「スーパーのお菓子コーナーに、アジの開きがあった時どうする?」

純「そりゃスルーよ」

憂「え~、気にならない?」

純「でも元ある場所に戻すのも、スーパーの人の仕事だろうし」

憂「ん~」

純「アジの開きを置いた犯人だって誤解されるのも癪だし」


憂「あっ、バランス取って鮮魚売り場にお菓子を置けば」

純「何のバランスよ」


紬「しゃらんらしゃらんら~♪」

憂「あれっ、紬さん!」

紬「あら憂ちゃん、それにお友達の方ね。こんにちは」

憂「こんにちは~」

純「どうも。改めまして鈴木純、鈴木純です」

紬「うふふ、私は琴吹紬、琴吹紬です」

憂「紬さんはゴミの持ち方も優雅ですね~」

紬「もう憂ちゃんたら。変な所褒めるんだから」

純「でも確かに軽やかというか、重い物を持ってる感がありませんね」

紬「ありがとう」


憂「紬さんは何をしても綺麗です」

純「デ~レデレしちゃって」


憂「デ、デレデレなんてしてないよ」

純「ふんっ、だ!」


憂「純ちゃん?」

紬「うふふ、私もう行くから」

憂「はい! じゃあまた、紬さん!」

純「――ちょっと意外」

憂「何が?」

純「憂がお姉さん以外の人にあんなに……」

憂「最近仲良しになったんだ~」

純「はいはい、良かったね!」

憂「? うん」

……

憂「ただいまー」

純「……まー」

梓「あれっ、喧嘩でもした?」


憂「あはは、してないよ~! ねっ、純ちゃん!」ギュッ

純「あ、あたっ、当たり前じゃない!」カァッ


梓「――ちょっと唯先輩に似て来たよね、憂」

憂「えへへっ、そう?」

純「似てないわよ!」



放課後、軽音部

唯「ねー、ねー、ムギちゃんあれやってあれ~」

紬「んっ!」キリリッ

唯「あははは、ムギちゃんすごい! やっぱりそっくりだよぉ~!」

律「正直マンボウの真似より分からんでしょう?」

澪「ああ……」(何か怖い)

梓「はい」(すっごい睨んでる)


さわ子「ハシビロコウね」

紬「正解です」


律「ウソォ!?」


……

紬「ねぇ、りっちゃん」

律「ほいほい、どうしたムギ~」

紬「実は新曲出来たんだけど」

律「おぉー、本当か!」

唯「おめでただね!」

紬「責任……取ってくれるよね?」

律「ああ! 幸せな演奏を約束するぞっ!」

梓「ニャッハー! 練習ですー!」

澪「どれどれ譜面を見せてくれ」

紬「澪ちゃん、また歌詞お願いするね♪」

澪「う、うん。頑張る……」カァッ

梓「早くやるです」

律「うおぃ、梓もうスタンバイか!」

唯「張り切るあずにゃんかわいいよぅ」ソー

梓「何猫耳装着させようとしてるんですかぁ!」

唯「やる気モードあずにゃんにしてあげようと思って」

梓「どう見てもおふざけモードにしかなりませんから!」

さわ子「それじゃ頑張ってね、みんな」

律「おい! 新曲のお披露目だってのに行っちゃうのかよう!」

さわ子「仕方ないでしょ。吹奏楽部と掛け持ちなんだから」

紬「残念です……」

律「この無責任ー!」

さわ子「まっ、しっかりやんなさい」ポンッ

律「あぅ」

唯「あはは! さわちゃん先生お茶飲みに来ただけだったね~!」


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最終更新:2010年02月12日 00:20