梓(しまった、つい口走っちゃった)

梓(大好きですなんて言ったら引かれるよね、嫌われるよね)

梓(和先輩にとって私は妹みたいな存在なだけ、それだけなんだから)

梓(女同士で付き合うなんてできるわけない)

梓(好きなんて言うべきじゃない、諦めるしかないんだ)

梓(私はこんなにも和先輩を好きなのに)

梓(好きって言えないなんて悔しすぎるよ)

梓(諦めたくないよう)ポロポロ


梓「うっうっ・・・ヒックヒック」

和「ど、どうしたの?梓ちゃん」

梓「な・・・なんでもないでず」

和「何でも話し───」

梓「いいんです!気にしないで下さい!」

和「・・・ごめんね、何も言いたくない時ってあるものね」

梓「違うんですヒック・・・そういうことじゃヒック・・・ないんです」

梓「私は・・・私は本当は・・・」

和「いいのよ、今無理して話さなくても」

和「落ち着いたときにでも話してくれればいいわ」

梓「うわぁぁぁぁぁん」


梓(・・・あれ、私いつの間にか寝ちゃってたんだ)

梓(外が明るくなってる。もう朝か)

梓(・・・結局和先輩に言えなかった)

梓(和先輩──)

梓「あれ、和先輩がいない」

梓(どこいったんだろ?トイレじゃなさそうだし)

梓(ひょっとして・・・ちょっと行ってみよう)

梓(一つだけ脱衣かごに浴衣が入ってる、やっぱりここにいたんだ)

梓(このチャンスを逃したらきっともう二人きりになることはないだろうな)

梓(嫌われたっていい、言えないで後悔するくらいなら)

梓(言って後悔したほうがいい)

梓(今の関係はくずれてしまうかもしれないけど)

梓(それでも可能性が少しでもあるのなら)

梓(私は前に進もう、そして伝えるんだこの気持ちを)


梓「おはようございます、和先輩」

和「おはよう、梓ちゃん」

梓「昨日はご迷惑おかけしました」

和「いいのよ、気にしなくて。気持ちは落ち着いた?」

梓「はい、おかげさまで」

梓「そのことを・・・昨日言えなかったことを言おうと思います」

梓「私は・・・和先輩のことが好きです、大好きです」

和「それは先輩としてってことじゃ・・・ないわよね」

梓「違います。一人の女性として好きなんです」

梓「自分でも女の人を好きになるなんておかしいと思います」

梓「それでも好きになってしまったんです」

梓「・・・和先輩の気持ちも教えてもらえませんか?」

梓「私の事どう思ってますか?」

梓「やっぱり妹みたいにしか思ってないですか?」

和「・・・確かに私は妹みたいって言ったけど」

和「本当は違う、そう言って自分の気持ちを曖昧にしていただけ」

和「妹じゃない・・・あなたを一人の女の子としてみてたわ」

和「それでも言えなかった・・・きっと嫌われると思ったから」

和「だから、せめて恋人みたいな気分だけでも味わいたくて色々しちゃった」

和「本当は、私も梓ちゃんのことがずっと好きだったの」

和「軽音部の部室で初めて見かけたときからずっとね」

梓「え・・・そ、それじゃあ」

和「改めて言わせてもらうわ」


和「私は梓ちゃんが好き、だからこれからはずっと一緒にいてもらえる?」

梓「はい・・・もちろんです・・・」ポロポロ


和「ほらほら泣かないの」

梓「うっうっ・・・だって・・・だって嬉しくて」

和「ふふ、梓ちゃんは泣き虫ね」

梓「泣き虫なんがじゃヒック・・・ないでず」

和「ほら笑って、私は梓ちゃんの笑った顔が一番好きなんだから」

梓「グズッ・・・はい!」

和「そういえば昨日寝てるときに顔を近づけてきてたけど、あれってもしかして・・・」

梓「え!見てたんですか!?」

和「見てたわけじゃないけど、気配でなんとなくわかったわ」

和「実はキスしようと・・・してた?」

梓「だって・・・和先輩の寝顔がかわいかったんですもん」

和「ふふ、それじゃあ今・・・しましょうか」

梓「・・・昨日の分もきっちり返してもらいますから」

和「なら・・・私の目を見て・・・好きって言って・・・?」


梓「好きです・・・大好きです、和先輩」

和「私も・・・私も大好きよ・・・梓ちゃん───」



律「あれー、どこ行ってたんだよ二人とも」

和「朝風呂よ、昨日一回しか入れなかったからね」

梓「朝日がきれいでしたよ、皆さんも入ってきたらどうですか?」

澪「そうだな、まだ朝食まで時間あるし」

紬「先生と唯ちゃんも起こしていきましょうか」

澪「後で文句言われても困るし、そうしよう」

憂「お姉ちゃん起きてー、お風呂行こう」

唯「はうわっ」

唯「ゆ、夢かぁ。あ~、怖かったぁ、チーズちくわになる夢みてたよ~」

律「そりゃあ、そんなちくわみたいに敷布団にくるまって寝てればな」

和「ねえ、先生寝ながら泣いてるけど大丈夫かしら」

さわ子「早くしてくれよ・・・こいつ死んじまうよ・・・」

梓「こっちはこっちでどんな夢見てるんですかね」

律「ほら、さわちゃん起きて、風呂行こう」

さわ子「ん・・・もう朝・・・?」

紬「はい。せっかくですからもう一回お風呂に入りに行きませんか?」

さわ子「朝風呂ね、よーし、行きましょう」

唯「それじゃあ、お風呂へれっつご~」

澪「すぐ戻るから、待っててくれ」

和「私達のことは気にしなくていいから」

梓「ごゆっくりどうぞ」

和「また二人っきりになっちゃたわね」

梓「・・・和先輩」

和「ん?」

梓「もう一回キスしても・・・いいですか?」

和「しょうがないわね・・・でも・・・私もそうしたかった」

和「大好きよ・・・梓ちゃん」

梓「梓って呼んで下さい、もう、恋人なんですから・・・」

和「うふふ、今さらながら信じられないわ、梓ちゃんと付き合えるなんて」

梓「だから梓って───んうっ」


和「大好きよ、私の・・・私だけの梓」

梓「えへへ・・・」



澪「朝食も豪華だな、朝からこんなに食べれるかな」

さわ子「でもこういう所だと不思議と食が進むのよねぇ」

紬「うふふ、たーんと召し上がれ」

梓「あ、このだし巻きすごくおいしい」

和「じゃあ、私の一つあげる。はい、あーん」

梓「あーん」

律「なあ、お前らやっぱり付き合ってるだろ」

和「ええ、付き合ってるわよ」


一同「なん・・・だと・・・」紬「キマシタワー」


ざわ・・・ ざわ・・・

澪「だ・・・だって昨日は否定してたろ」

和「そりゃそうよ、今日から付き合い始めたんだもの」

唯「あれ?二人とも女の子だよね?え?どういうこと?」

梓「性別は関係ないです、大事なのは二人の気持ちですから」

さわ子「まあ、女子高だからこういうこともあるわよね」

憂「そうですね、私は問題ないと思います。ちょっとびっくりですけど」

律「あはは・・・冗談だよな、おい、ムギも何とか言ってやれよ」

紬「ごっはんがごっはんがススム君♪」

澪「ムギはもうだめだ」

律「そ、そうだ。ならキスしてみせてくれよ」

律「付き合ってんならできるだろ?そしたら信じるよ」


和「別にいいわよ」

和・梓「んっ・・・」


和「これでいい?」

唯「おお~、何かドキドキするよお~」

律「嘘だろ・・・」

紬「うまいやややや!うますぎてふりかけが欲しいやあ!おかわりはやく持ってこい!」

澪「落ち着けムギ!限界点超えすぎだ」

さわ子「いいじゃない、りっちゃん。こういう愛の形もあるのよ」


律「違うんだよ・・・うらやましいんだ・・・私だって・・・」

澪「ん?何だよ、何か言ったか?」


律「・・・べっつにー」

律「いやー、やるねえお二人さん。眩しすぎて直視できねー」

律「さあみんな、この二人の門出を祝おうじゃないか」

澪「それじゃあ結婚式みたいだな」

律「いいじゃん、似たようなもんだし。さあ、皆様各自グラスを手にとって───」


律「二人の幸せに・・・カンパニーレ!」

一同「カンパニーレ!」


和「引かれるの覚悟で言ったのに・・・ここまで受け入れられるとは思わなかったわ」

梓「皆さんはそんな人たちじゃないですよ」

澪「そうだぞ和、私たちは友達だろ」

律「そーそー、それくらいで引くわけないじゃん」

唯「まだよくわからないけど、おめでとう和ちゃん」

憂「梓ちゃんもおめでとう、二人で仲良くね」

紬「たまには私の前でキスしてくれても構わないから」

さわ子「世間の風当たりは強いかもしれないけど、がんばりなさい」

和「みんな・・・ありがとう」

和「私・・・みんなと出会えてほんとうに・・・よかっ・・・た」ポロポロ

梓「和先輩・・・」

律「おいおい、泣くなよー」

律「泣くくらいならもう一回キスしろキス」

律「はい、キッス、キッス、キッス」

唯「きっす、きっす、きっす」

紬「キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!」

和「グスッ・・・もう、泣いてる暇も与えてくれないのね」

和「梓、これからよろしくね」

梓「はい、こちらこそよろしくです和先輩」


……

ごじつだん!

律「おーす、あれ、梓はまだ来てないのか」

唯「うん、まだ来てないよ」

紬「また和ちゃんと一緒にいるのかしら」

澪「だろうな、さっきうちのクラスに来てたし」

律「まったく、恋人と過ごすのはいいけど部活をないがしろにするなっつの」

紬「でも、前以上に楽しそうに演奏するようになったと思わない?」

唯「たしかに~。一緒に演奏してると幸せさが伝わってくるもん」

律「まあーったく、ごちそうさまですってか」


和「それじゃあ私そろそろ生徒会にいかなきゃ」

梓「えー・・・もうちょっと、もうちょっとだけ一緒にいましょうよ」

和「ダーメ、梓も軽音部のみんなが待ってるでしょ?」

梓「そうですけど・・・離れたくないです」

和「じゃあ帰りに一緒にケーキ屋に連れて行ってあげるから」

梓「ひょっとしてこないだのデートのときに見つけたところですか?」

和「そう、ずっと行きたがってたでしょ?」

梓「やったあ、和先輩大好きです」

和「もう、梓ったら。それじゃあ帰りまでがんばれるわね?」

梓「やってやるです」

梓「それじゃあ、はい」

和「何?」


梓「行ってきますのちゅーですよ、ほらほら」

和「もう」


和「・・・ほら、これでいいでしょ」

梓「えへへ、じゃあ行ってきます!」

和「ええ、それじゃあまた後でね」


……

梓「それじゃあ皆さん、お先に失礼します」

唯「和ちゃんによろしくねえ」

澪「あんまりはめ外し過ぎるなよ」

梓「わかってます、それじゃあまた明日」

紬「うふふ、恋人ができるって素敵ね」

律「・・・」

唯「りっちゃんどうしたの?」

律「ん?ああごめん、ちょっと考え事してた」

律「よーしそれじゃあ、私たちも帰ろうぜ!」


唯「それじゃありっちゃん澪ちゃんばいばい」

澪「ああ、それじゃあまた明日」

律「おつかれー」

澪「それにしても和と梓のラブラブっぷりは何かうらやましくなるよな」

律「・・・」

澪「おい律、話聞いてるのか?」

律「ねえ、澪」

澪「ん?」

律「あのさあ・・・」

澪「なんだよ、まじめな顔して」

律「その・・・」

律「・・・」

澪「律?」

律「・・・何でもない!ほら餃子!」

澪「また懐かしいことをするな」

律「お腹すいちゃったー、コンビニで何か買って帰ろうぜー」

澪「そうだな、よし、行くか」



おしまい



最終更新:2010年02月16日 00:20